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声劇×ボカロ_vol.29  『 金曜日のおはよう 』

 

 

Friday of Fate

 

 

【テーマ】

 

おはようから始まる恋

 

 

【登場人物】

 

 濱中 翠(18) -Midori Hamanaka-

関西からの転校生。

聖奈のことが気になっている。

 

 

 成海 聖奈(18) -Sena Narumi- 

読者モデルをやっている。お嬢様系。

毎週金曜日に電車で見かける翠のことが気になってしまう。

 

 

 

【キーワード】

 

・おはよう

・芽生える恋心

・雨宿り

・頑張らなくちゃ

 

 

【展開】

 

・毎週金曜日に電車で顔を合わす翠と聖奈。なかなか挨拶できないでいる。

・「おはよう」のオーディションを繰り返す二人。お互いに気になる存在になっていく。

・雨宿りしている翠に傘を差しだす聖奈。ぎこちないながらも、言葉を交わす二人。

・傘を貸したことがきっかけで、きっと今日は「おはよう」と言えるよね?

 

 

 

 

《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)

 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)

 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。

 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。

 

 

 

 

【本編】

 

 

 翠 「(寝ぼけて)…う~ん。って、やっべ!」

 

 

 

聖奈 N:あの人は今起きたかな?

 

 

 

 翠 N:君はもう起きてるかな?

 

 

 

聖奈 「なーんて。さ、あかりも待ってるし、行こうっと」

 

 

 

 翠 N:今日は金曜日。気になるあの子とは月曜日まで会えない。

     だから今日こそ言おうと思って、俺は――。

 

 

 

聖奈 N:最近気になる彼。どうしても話しかける機会がなくて、私は――。

 

 

 

 翠 「おはよう!」

 

 

聖奈 「おはよう!……んー、なんか違うなぁ。お、おはよう…?」

 

 

 翠 「おはよう!!」

 

 

 

 翠 N:おはようのオーディションを、俺は繰り返す。

     彼女になかなか声をかけられないからこそ、何度も何度も。

 

     どうしてそんなに必死になるかって?

     バーカ、言わせんな。

 

 

 

 翠 「よっし、髪型もオッケ!今日こそ絶対…!!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 翠 N:いつもの電車。2車両目。俺のお気に入りの特等席。

     通勤・通学の時間帯で、眠そうな人がいる。そんな日常の風景。

 

     そして気になるあの子は、もうすぐ現れる。

 

 

 

聖奈 N:友達との待ち合わせは8時。駅の2番ホーム、いつもの場所。

     朝からおしゃべりなんてしていると、すぐに電車はやってきて…。

 

 

 

 翠 N:8時7分。電車は駅に止まり、向かいのドアが開く。

     俺は彼女の姿を見つけると、今日こそはという想いを再確認して息を呑んでタイミングを待つ。

 

 

 

 翠 「(ぼそっと)……あ、あのっ」

 

 

 

 翠 N:でもそれ以上言葉は出てこなくて、朝から練習してたはずのその言葉は、俺の前から逃げていった。

 

 

 

 

 + + + +

 

 

 

 

聖奈 「へー」

 

 

 

聖奈 N:電車に乗る前はいつもそう。友達の話を適当に聞き流す。

     別に悪気があってそうしてるわけじゃない。だってあの人といつも目が合うから…。

 

     いつもの2車両目の彼。何かを言いたそうにしてる。

     でも今まで私はそれを一度も聞けずにいる。

 

     同じ制服なのに…ね。

     わざわざ近寄って挨拶するのって、やっぱり変かなって。だから…。でも…。

 

 

 

 翠 N:きっかけなんてシンプルでいいはずなんだけどな。

     いざというとき言葉に出ないなんて、ホント意気地ないな、俺。

     乗り越えなきゃな、勇気出して。

 

     逃げるな、俺。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

聖奈 N:教室に入ると彼の姿はなかった。どこに行ったんだろうと気になりつつも、私は自分の席で

     ≪おはよう≫の練習をする。

 

 

 

聖奈 「おはよう。おはよう!」

 

 

 

聖奈 N:周りの目が気にならなくなるくらい、私は――。

 

 

 

 翠 N:さすがに教室には彼女がいるし。

     そう思ってやってきたトイレの中で、俺は≪おはよう≫の練習をする。

 

 

 

 翠 「おはよう。おはよう!」

 

 

 

聖奈 「おはようございます!オッス!グッモーニンッ!ごきげんよう」

 

 

 

 翠 「おはよう!!おはよう!!!」

 

 

 

聖奈 N:笑ってる彼を見てるだけで、それだけで元気出ちゃうの。

 

 

 

 翠 N:眠そうな彼女を見てるだけで、それだけで満足しちゃう。

     でも満足するだけじゃダメなんだって、そう思って思わず口から漏れた言葉。

 

 

 

 翠 「(呟いて)…頑張らなくちゃ」

 

 

 

聖奈 N:ただ気になるってだけじゃない。彼に恋してるんだって気づいて漏れた言葉。

 

 

 

聖奈 「(呟いて)…頑張らなくちゃ」

 

 

 

 

 + + + +

 

 

 

 

聖奈 N:私たちはお互いに、前向きになりたくて。

 

 

 

 翠 N:相手も同じことを考えていたなんてこと知らないまま。

 

 

 

聖奈 N:弱虫な、勇気を出せない自分がもどかしくて。

 

 

 

 翠 N:また2日会えない。そう思うだけで、胸が苦しくなる。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 翠 N:そうしてあっという間にまた一週間が過ぎた。

     顔を合わせることがあっても、やっぱりそれ以上にはならなくて。

     …となると、チャンスはまた金曜日――。

 

 

 

聖奈 N:いつもの2番ホーム。時間は8時。もうすぐ電車がやってくる。

     私は友達の話も耳に入らないくらいドキドキしていた。

 

 

 

 翠 N:お気に入りの特等席は、今日は座られていて。

     ついてないと思いつつ外を眺めると、空模様も泣きそうな感じで。

 

 

 

聖奈 N:8時7分。ドキドキしてるうちに扉が開いて、≪おはよう≫と口にするタイミングがわからなくて。

     挨拶って意識しすぎるとダメなのかも…?

 

 

 

 翠 N:扉が開いて彼女の顔を見たら、ドキドキが止(や)まなくて、また伝えたい言葉は消えていった。

 

     そうして凹んでいるうちに放課後に。

     泣きそうだった空模様も、ついに泣き出して。

     傘を持ってこなかった俺は、近くの店の前で雨宿りしていた。

 

 

 

聖奈 「傘をどうぞ…」

 

 

 

 翠 N:声をかけられ振り返ると、そこには彼女がいた。

     少し恥ずかしそうに下を向いている。

 

 

 

 翠 「あ、ありがとうっ」

 

 

 

聖奈 N:ぎこちない言葉だけど、初めて聞いた彼の言葉。

     勇気出して本当によかった。

 

 

 

 

 + + + +

 

 

 

 

 翠 「あぁー、どうすっかなー」

 

 

聖奈 「あ、あれって…」

 

 

 翠 「全然止みそうにねーし」

 

 

聖奈 「(呟いて)これって、チャンス…だよね」

 

 

 翠 「濡れて帰るしかねーかなぁ」

 

 

聖奈 「あのっ、傘をどうぞ…」

 

 

 

 

 + + + +

 

 

 

 

 翠 N:練習してない言葉だったけど、彼女と交わした初めての会話。

     それを言えたことが嬉しくて、たったそれだけのことがすごく嬉しくて、また頑張ろうって

     気持ちになった。

 

 

 

聖奈 N:きっかけなんて本当に突然やってくる。

     でもそれは勇気を出した私を褒めたいかな。

 

     これからはよろしく。なーんてね。

 

 

 

 翠 N:彼女の傘を借りた。真っ赤になって話かけてきてくれた彼女に、俺は胸が締め付けられた。

     去っていく彼女の後姿を見て、やっぱり好きだなって思ったんだ。

 

     月曜日、頑張らなくちゃ。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

聖奈 N:夢を見た。普段は全然見ないのに、そこには私と彼がいた。

     夢の途中で目が覚めたけど、二人で楽しそうにしてたから、私は安心してまた目を閉じた。

 

 

 

 翠 N:おはよう!

     夢の中では自然に彼女に挨拶する俺。他にもたくさん話をしていて。

     そんな二人の関係になりたい。あとは…。

     あとは俺が勇気のテストを乗り越えるだけ…!

 

     だからもう少しだけ待ってて…?

 

 

 

 

 + + + +

 

 

 

 

聖奈 「おはよう!」

 

 

 翠 「おはよう!!」

 

 

 

聖奈 N:いつの間にか日課になっていた朝のオーディション。

 

 

 

 翠 N:でも今日は、月曜日。

     金曜日に借りた傘を持って、俺は彼女を待つ。

     今日は特等席も扉の前。

 

 

 

聖奈 N:彼とはきっとすぐに目が合う。

     きっと今日は言えるよね?

 

 

 

 翠 N:大好きな言葉。

     朝から君に会えるその言葉。

 

 

 

聖奈 N:あなたと一緒にいたい。

     だから大好きになっても、いいかな?

 

 

 

 翠 N:俺は――。

 

 

 

聖奈 N:私は――。

 

 

 

 翠 N:あの日の君のように勇気を出して。

 

 

 

 翠 「お、おはよう!」

 

 

聖奈 「う、うん。おはよう」

 

 

 

聖奈 N:あなたの目を見て、しっかり返す。

     目を合わせるのは恥ずかしかったけど、やっぱり見ていたい大事な人。

 

     でも今日聞けるのはこれだけじゃないの。

 

 

 

 翠 「こ、これ、ありがとっ」

 

 

聖奈 「(微笑んで)ふふ、どういたしまして」

 

 

 

 翠 N:傘を返すその瞬間、近づく君との距離に、俺の心臓は爆発寸前だった。

 

 

 

聖奈 N:これで少しは前よりも――。

 

 

 

 

≪ タイトルコール ≫    ※英語・日本語から1つを選ぶ

【英語 ver.】

 翠 「 Friday of Fate 」

    (フライデー オブフェイト)

【日本語 ver.】

 翠 「 運命の金曜日 」

 + + + +

聖奈 「日曜日も会いたいなぁ。朝待ち合わせして、それで」

 

 翠 「おやすみも言いたい。君にそれを伝えたら、また明日おはようって言葉の意味が強くなる」

 

 

聖奈 「って、そんなことまだ恥ずかしいってば!」

 

 

 翠 「いや待て待て。それって彼女の携帯を教えてもらうってことで…。ハードル高っ…」

 

 

 

 

聖奈 N:私たちの恋は、まだ始まったばかり――。

 

 

 

 

fin...

 

 

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