声劇×ボカロ_vol.50 『 心の手紙 』
Letter of mind ( 心の手紙 )
【テーマ】
紡ぎ合うメロディー
【登場人物】
木塚 瀬李(29) -Seri Kizuka-
年齢の割に子供っぽい面もある女性。
洋平の事故の報せを受け、途方に暮れる。
岩城 洋平(24) Youhei Iwaki-
明るくて親しみやすく、友人も多い青年。
不慮の事故で亡くなる。
警官:洋平の事故現場から瀬李に電話する。
【キーワード】
・声の一方通行
・思い出は過去
・新しい幸せ
・心の手紙
【展開】
・突然の報せ。何度声をかけても返事は来なく、途方に暮れる瀬李。
・思い出を振り返る瀬李。輝いていた日々は、もう戻らないのだと悟る。
・忘れないために、ちゃんと思い出にするために、洋平に手紙を贈ることにした瀬李。
・二人にしかわからない心のメロディー。明日からの笑顔と新しい幸せのために。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
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瀬李 N:それは本当に突然だった。つい先ほど顔を合わせて、いつも通り別れたばかりだった。
またね、って言っていたのに…。
瀬李 「もしもーし、早いね。どうした…」
警察 「すみません。木塚瀬李さんのお電話でよろしいでしょうか?」
瀬李 N:家に着いてすぐ彼から電話がかかってきた。
着いたら電話!なんて私が言っているとはいえ、いつもよりだいぶ早いから、どうしたものかと
思って出ると、電話の主は彼じゃなかった。
警察 「私、警察の者ですが、今この電話の持ち主の、履歴の一番上があなただったものですから」
瀬李 「…え、あっ。はい…。警察…?」
警察 「大変申し上げにくいのですが、岩城洋平さんは事故でお亡くなりになりました」
瀬李 「………へ?……じ、こ…?」
警察 「失礼ですが、岩城さんとのご関係は?」
瀬李 「え……あ。……恋人、です」
警察 「そうでしたか。お悔み申し上げます。こんな時に申し訳ありませんが…」
瀬李 N:その先の話は頭に入ってこなかった。
この人は何を言ってるんだろう。だってついさっきまで一緒にいて、それで…。
まるで自分だけが世界から取り残されたような感覚だった。
現実なのに、現実として受け入れられず、進み続ける時間の中で、私だけが歩みを止める。
彼を失ったことは、私にとってそれだけ大きなものだった。
わかっていたのに…。
喧嘩しても、また仲直りして、その度に大事にしたいって思える人だったのに…。
それなのに、こんなのってひどいよ…。神様…。
* * * * *
洋平 「あれ、瀬李?さっき別れたはずじゃ…」
洋平 N:話しかけても反応がない。それどころか彼女は泣いている。
洋平 「おい、どうした?なんで泣いてんだよ?」
洋平 N:何度も何度も声をかけるのに、声は届かない。
彼女が泣いてるのが嫌で、泣いてる理由を知りたくて手を伸ばそうとしても、何故かできない。
だから俺は必死に声をかける。かけ続ける。
洋平 「瀬李!おい、瀬李!!」
瀬李 「…(泣いて)ひっく、っく。洋平…」
洋平 「おう、なんだ。どうした?俺はここにいるぞ」
瀬李 「……よう、へい…」
洋平 N:この声が聴こえるのに、君には届かない。
瀬李 N:私の声聴こえてる?でも私にあなたの声は聴こえない。もう、聴こえ…っ。
+ + + +
洋平 N:俺たちの出会いは、一目惚れした俺がナンパ!
……なんて話だったらもっとインパクトあったのかな?
瀬李 N:実際は最近よくあるSNSで、私たちは知り合った。
最初はよく話す気が合う人。そんなイメージだったのに、次第に惹かれていって、会うことに。
洋平 N:会っても気持ちは変わらなくて、その日のうちに俺から思い切って告白。
瀬李 N:会うことになった時、そうなったらいいなって気持ちはあった。
何もないなら仕方ないかなってのもあった。
でもちゃんと伝えてきてくれて、本当に嬉しかった。
洋平 N:意外と会える距離にいた俺たちは、それから月に何度か会うようにしていた。
朝はおはよう。夜はおやすみ。
会えない時は、毎日欠かさずに連絡してってさ。ちょっと面倒だぞ、それ。
瀬李 N:一日の始まりは彼から始まり、寝る前も同じ。
強制したつもりはないのに、欠かさずに連絡してくれるのは嬉しかった。
洋平 「え、嘘?言ってない?」
瀬李 「うん。言ってないよ、そんなこと」
洋平 「なんだよ、もー。瀬李がしてほしいって言ったのかと思ってたわー」
瀬李 「じゃあ、もうしてくれないの?」
洋平 「毎日うざいとか思ってたんじゃないの?だから今言ったんでしょ?」
瀬李 「そんなこと一度も言ってないよね、私」
洋平 「あー、そ。じゃあ、送るわ。なんかもう、日課みたいになってるし」
瀬李 「はーい、待ってまーす」
瀬李 N:なんでもないことが幸せだった。
私の方が年上だけど、彼はしっかりしていて、むしろ私の方が子供扱いされるくらい。
いや、それはそれでダメなんだけど。
洋平 「よっし、じゃあ今日のデートプランは、っと」
瀬李 「何これー。かわいいー。あ、あっちにも何かあ……ぐえっ」
洋平 「はいはい、そっちじゃないからねー」
瀬李 「急に襟掴まないでよ。変な声出たじゃん」
洋平 「じゃあ、今度からは腕思いきり引っ張ってやるから」
瀬李 「やめて、肩外れる」
洋平 「むしろ腕取れちゃう?」
瀬李 「こっわ。もう、何言ってんの!」
洋平 「あはははは!!」
瀬李 N:幸せに大きさなんて関係ない。
ただ彼が隣にいて、笑っていてくれれば、それだけで十分。
洋平 N:一番近くにいた彼女。大事な大事な彼女。
泣いている彼女なんて見たくなくて、いつだって笑わせられるようにしてきた。
なのに、どうして今は――。
瀬李 N:苦しくてつらい、この気持ちの行き場はどこ?
変わらずにやってくる朝。通知のない携帯。違う日常。
私には眩しすぎる陽の光が、痛みだけを伝えてくる。
洋平 N:いつだって憧れていた、あの空に。
でも近くなってくる今は、何故だか怖い。
それはきっと、だんだんと遠くなる君の声と霞んでいく笑顔が、そうさせているんだろう。
空へと立ち昇る階段が、瞬く間に広がり青に溶け込む。
瀬李 N:今日あなたは。
洋平 N:俺は。
瀬李 N:空になりました。
* * * * *
瀬李 N:洋平の葬儀から三ヶ月が経った。
私は友人の協力もあり、徐々に落ち着いてきていた。
彼を見送ってすぐの頃は、階段を昇りきれば、空の向こうまで行けるなんて思っていて、
半ば自暴自棄に陥っていた私を救ってくれたのも、やはり友人たちだった。
思い出すのはいつだって、輝いていたあの日々。
もう戻れないのはわかっていた。私の知る、あの頃には――。
洋平 「瀬李!!」
瀬李 N:あれから半年が経った。
寂しさを埋めようと、それまで以上に仕事に熱を入れると、少しは笑えるようになってきた。
でもやっぱりまだどこか無理してるみたい。
何度も何度も思い出す、嬉しかったあの日々が溢れてくる。
だからちゃんと笑えるように、これ以上心配かけないように、私はあなたに手紙を贈ります。
最果てのあなたと紡ぐ、心で紡ぎあえる言葉を、メロディーを、いつの日までも。
きっと、ずっと…。
≪ タイトルコール ≫
洋平 「 Letter of mind 」 or 『 心の手紙 』
(レター オブ マインド)
瀬李___________________________________________
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洋平へ
あなたが死んでから、私はいっぱい泣きました。
あの日、もっと早く帰ってたら、私が我儘言って引き止めたりしなかったら、とか考えたりもしました。
でもどれだけ後悔しても、あなたはもう戻ってきません。
最初は受け入れることなんてできなかった。
あなたを一人になんてできない。寂しい想いはさせない。
そう思って、後を追おうとまで考えました。
全力で止められたけどね、周りに。
なんか堅苦しいね。
あのね、今はこうしてやっと前を向くことができるようになったよ。
あなたのこと、忘れたわけじゃない。忘れることなんて、きっとできない。
でも、でもね。
泣いてばかりいると、あなたはずっと私のこと心配しちゃうよね。
だからってわけじゃないんだけど…。
新しい幸せを望んでも、いいですか?
それでも今のあなたは、向こうでも笑っていますか?
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洋平 「当たり前だろ。望んでいいんだ」
瀬李 N:声が聴こえた気がした。いいんだよって。笑っていてって…。
そうだね、あなたならきっとそう言うって思ってた。
だからちゃんとお別れをしよう。
さよなら――。
fin...