声劇×ボカロ_vol.34 『 Dear... 』
Get a smile back Someday
【テーマ】
置き去りの気持ち
【登場人物】
守山 友香(16) -Yu-ka Moriyama-
幼い頃から悠に恋する女の子。少し人見知りな面あり。
秘めた想いは長年告げられずにいる。
四条 和花(16) -Nodoka Shijo-
友香のクラスメイトで親友。
男女問わず気さくに振る舞う性格。
広井 悠(16) -Yu Hiroi-
友香の幼なじみ。気のいい少年。
言動が天然モテ男。
【キーワード】
・秘めた想い
・嘘
・行き場のない心
・私と彼と彼女と
【展開】
・いつもの日常。悠を自然と目で追ってしまう友香とそれを見ている和花。
・とある日、悠と和花を見かける友香。悠の顔は自分の知らない顔をしていた。
・真実を知る友香。二人が隠していたことに、怒りよりも申し訳なさが募る。
・二人との関係を取り戻すのは遠い未来になる。でも今だけは偽りでも笑って。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
友香 N:たくさんの思い出も、少しずつ色褪せていく。
その中から欠片を集めて蘇る日々。楽しかったことも、辛かったことも。
あの日の私は立ち止まれない毎日を歩くため、記憶の欠片と嘘を繋ぎ合わせていた。
いつか思い出に。
そう信じる未来で、私は笑顔でいたいから…。
* * * * *
悠 「ばっか、お前らやめろって!」
和花 「はは、またやってるー」
友香 「ねー」
友香 N:昼休み。クラスの男子が、一人をいじくりまわしている。
笑顔と笑い声で教室を包むその彼は、私がずっと好きな人。
悠 「あー、もう!お前らしつこい!」
和花 「よっ、モテ男!」
悠 「うるせー!男にモテてもしょうがねーだろ!!」
和花 「またまたー、そんなこと言ってー。満更でもないくせにー」
悠 「おい、友香!そいつ黙らせろ!」
友香 「え、あっ。う、うん。……え?」
和花 「もー、そうやってウチらを巻き込まないでよねー」
悠 「四条、てめぇ…」
友香 N:戸惑う私。それを見て、私に抱きついてくる親友。
まるで小さい子をあやすように、頭を撫でてくる。
これも今ではすっかり日常になった。
気が弱めな私にとって大事な友達と、大好きな人。
妬けちゃうくらいのそのやり取りも、私の大切な時間の一つ。
友香 「まったく、もー」
和花 「(からかうように)……そんなに目で追っちゃってぇ。青春だねぇ」
友香 「ちょ、和花!なに言ってんの!?」
和花 「さっさと告白しちゃえばいいのにー」
友香 「(照れて)もー、それ今言うこと?」
悠 「お前ら何してんだよ!さっさと助け……。だーっ、もーうぜえ!!」
友香 N:まったくタイプの違う私たち。そんな私たちがいい関係でいられたのは、間違いなく悠と和花。
二人のお蔭だった。
それに、私にとって気が楽だったのは、和花に自分の気持ちを伝えていたから。
彼が好きだ、って。ずっとずっと想ってるんだ、って。
応援するよ、って言ってくれて本当に嬉しかったのを覚えている。
なのに――。
* * * * *
友香 「まったくもう。お母さん、相変わらずそそっかしいんだから」
友香 N:母が買い忘れた物があるからと、私は帰宅後すぐ、おつかいに行かされていた。
友香 「…えっと、人参とじゃがいもと、あと玉ねぎ?え、お母さん何を買いに行ったの?」
友香 N:それは明らかに夕飯の材料。カレーかシチューと予想できるのに、その肝心な物を買い忘れるって
どういうこと?
もう、ウチのお母さんってホント…。
友香 「(笑って)ドジ?いや、これってもう天然レベルだよね」
悠 「でさー」
和花 「ホントに?やった、うれしー」
友香 「え?」
友香 N:聞き覚えのある声。振り返ると、そこには私がよく知る二人。
今日は二人とも用事があるからと、帰りは一緒じゃなかった。
だからきっと偶然会って、二人一緒にいるんだろうなって思ってた。
友香 「悠、和花!今帰…り…」
友香 N:声をかけようとした。でも私は咄嗟に口を噤(つぐ)んだ。
和花 「約束だからね!予定なんて入れないでよ?」
悠 「わかってるって。目に力入りすぎだっつーの」
和花 「だってアンタ信用できないもん」
悠 「おいおい、それじゃ俺の気持ちも信じてないってのかよ」
和花 「…っ、それはっ!今持ち出すことじゃないでしょ!」
悠 「へいへい」
友香 N:二人の様子がいつもと違う気がして、しばらくやり取りを眺めていた。
二人とも私の知らない、見たことのない顔をしていた。
悠は終始笑顔で、でもその視線はしっかり和花を捉えていて。
和花はいつもと変わらない口ぶりながらも、頬を少し赤らめていて。
これは何?二人ってもしかして…。
一番考えたくないことが頭を過(よ)ぎる。
だって、だって和花は私の気持ち知ってて、応援するよって言ってくれて、それで――。
もう、訳わかんないよ…。
* * * * *
友香 「ふわぁ、眠い…」
友香 N:結局あまり眠れなかった。
昨日の出来事が頭から離れなくて、家に帰ってからも、二人に聞く勇気なんてなくて。
友香 「……学校、行きたくないな」
友香 N:そんなことが許されるはずもなく、私は重い足取りで学校へ。
和花 「友香、おっはよ!」
友香 「あ…。う、うん。おはよう…」
和花 「ん?どうかした?元気ないじゃん」
友香 「だ、大丈夫だよ。昨日ちょっと夜更かししちゃってさ」
和花 「あー、あるよねぇ、そういう時。私もね――」
友香 N:和花の話はそれ以上入ってこなかった。
昨日のことが気になって、どう接したらいいかわからない。
二人の口から聞いたわけじゃないのに、きっと私の予想は当たってる。そんな気がした。
悠 「おっす!」
友香 「あ…、悠…」
和花 「おはよっ、広井」
友香 N:今までと変わらない光景のはずなのに、私の中で渦巻くのは二人に対しての疑問ばかり。
偶然、だよね…?
悠 「なんだよ、友香。おはようぐらい言ってくれよなぁ」
友香 「あ…、お、おはよ。ごめん…」
悠 「いや別に謝んなくてもいいんだけどさ。なんかあった?」
友香 N:私が何を悩んでいるか知りもしないで…。
少しムッとしたけど、そんなこと悠も和花も知らないから当然のこと。
それにこうやって心配してくるのは、昔からちっとも変わらない。
和花 「友香、昨日夜更かししちゃったみたいで、眠いんだって」
悠 「あー、なるほど。体きつかったら、嘘ついてでもいいから保健室行けよ」
友香 N:ほら、またそうやって。
気にかけてくれるから特別なのかも、って昔は思ってた。
でも彼はそれが普通で、他の子にもそう言ってるのを見かけたことがある。
それでも他と違うって思いたいのは、私が彼と幼なじみだから。
他の人よりも彼のことを知ってて、私は一歩リードしてるって思ってた。
でも結局、言わずに想うだけだったことが、こんな結果を招くなんて…。
仲のいい関係を壊したくなかった。このままでいたかった。
好きの気持ちを押し殺したとしても、この関係が壊れるよりは、って。
和花 「だってさ。相変わらず友香には優しいねぇ」
友香 M:そんなことない。
悠 「おい、友香。聞いてる?」
友香 M:確かめたい。でも確かめてどうするの?
和花 「やっぱりきつい?保健室行く?」
友香 M:どうして?
悠 「……四条、お前連れてってやれ」
友香 M:どうして二人ともあんな…。
和花 「うん。ほら、友香。保健室行こ?」
友香 M:あんな顔して笑ってたの…?
和花 「…友香?」
友香 「……いい。大丈夫」
友香 N:私は心配してきた二人の気持ちを振り払い、そして――。
友香 「……あのね、二人に聞きたいことがあるの。放課後、少し時間いい?」
* * * * *
悠 「わりぃ、遅くなった!」
和花 「ほら、友香。広井来たよ」
友香 「……うん」
友香 N:放課後。部活の先輩に呼び出されていた悠が、用事を済ませて教室に戻ってきた。
教室じゃ誰かいるから、悠が来たら移動しようと思っていたけど、ちょうど誰もいなかったし、
そんなに長く時間もかけたくなかったから、そのまま教室で話すことにした。
悠 「それで、聞きたいことって何?」
友香 「……昨日、悠何してた?学校帰り」
悠 「帰り?…えっと。あー、部活が少し長引いて、腹へったから友達とコンビニ寄ってたかな」
友香 「そっか。和花は?」
和花 「私?私は先生に提出物あって、それ渡したらすぐに帰ったよ」
友香 「…そう。じゃあさ、昨日二人で一緒にカフェとか行ってないんだね?」
悠 「なっ!?」
友香 N:咄嗟に声が出た悠を睨み付ける和花。
でも私にはもう、そのやり取りだけで十分だった。
二人とも、今言ったことは嘘。
ううん。和花は100%嘘じゃないだろうけど、悠は完全に…。
それも和花の目配せで、すべてが繋がったんだけど。
和花 「友香…」
友香 「やっぱり、そうなんだ…」
悠 「そう、ってなんのこ…」
和花 「(遮って)広井。もうバレてる」
悠 「(深いため息)はぁ……。だ、黙ってて悪かったよ。俺、四条と付き合ってる」
友香 「……いつから?」
悠 「夏休み前。もうすぐ3ヶ月になる」
友香 N:それを聞いて、なんて私はバカなんだろうって思った。
そんなことも気づかずに、彼をずっと目で追って、好きな気持ちを閉じ込めて。
悠 「いつかこうなるってわかってた。でもなかなか言いだせなくて」
友香 「……わかった。私、もう帰るね」
和花 「友香!」
友香 「……また、明日ね」
友香 N:その日の夜、私は布団の中で一晩中泣いていた。
* * * * *
友香 N:一晩中泣いて、具合が悪いと嘘をついて、私は学校を休んだ。
窓を開ける。
ひんやりとした朝の空気。でも冷たい秋の空は澄んだ青色をしていた。
何もない。すっきりした空。
それに比べて私は――。
部屋に一人。浮かぶのはたくさんの思い出。
和花とは高校で知り合い、彼女の気さくな性格もあって仲良くなった子。
そして幼なじみの悠。
色褪せてしまった記憶でさえ、昔の、あの頃の私を、私が責めている。
どうしてもっと早く告白しなかったの、って。
+ + + +
和花 「…あ、あのね、友香」
悠 「ずっと言わなきゃって思ってて」
+ + + +
友香 N:でも結局言ってこなかったじゃん!
親友に好きな人を取られて、嘘までつかれてて、じゃあ!………じゃあ…。
この気持ち、どこにぶつければいいって言うの!
そんなことばかりぐるぐると考えていて、私は現実から逃げるように目を閉じた。
昨夜(ゆうべ)眠れなかったから、私はすぐに眠ってしまって…。
友香 「…ふわ…んっ。あれ、寝ちゃってたんだ…」
和花 「……おはよう、友香」
友香 「へ!?…の、和花?なんでウチに…」
和花 「様子を聞きに来ただけだったんだけど、おばさんが上がってって言って、それで…」
友香 N:直に起きると母は言ったらしい。何を根拠にそんな…。
ただ母は、お見舞いに来てくれたという和花の行為が嬉しかったんだと思う。
そう。和花はそういう子。それは私が一番知っている。
だから今彼女がこうして目の前にいることに、正直あまり違和感はなかった。
でも彼女の顔が、昨日のことを話しに来たんだと言っている。
和花 「……えっと、ね…」
友香 「いいよ。話して」
和花 「……うん。最初はあいつが私に告白してきたの。でも私は友香の気持ちを知ってたから、
断るつもりだった。でも諦めきれないって言ってきて、少しずつ二人で帰るようになって、
それで…」
友香 「付き合うことにしたんだ?」
和花 「…うん。でもあいつには友香が好きだってことは言ってない!お願い、信じて…」
友香 「うん、信じるよ。和花はそういうこと言う子じゃない」
和花 「私、友香にひどいことしたってわかってる。でも友香を失うことが怖くて、また仲良くしたくて」
友香 「でもね、和花。いつか戻れるとは思うけど、今すぐっていうのは無理」
和花 「(泣いて)…っ、ごめん。ごめんね、友香…」
友香 「もういいから。こればっかりは誰も悪くないよ。だから、ほら。今日はもう帰って」
和花 「…でもっ!」
友香 「帰って!!」
友香 N:限界だった。こうでも言わないと、今度は私が彼女を傷つけるって。
自分が親友にされたことだから、言いすぎなんてことはないのかもしれない。
でもさっき、母が彼女を部屋に入れたこと。その時の気持ち。
それを考えた時に、私に嘘をついていた二人の気持ちが少しだけわかった気がしたから。
私も優しすぎるって、誰かに怒られそうだけどね。
でもこれで、私の楽しかった日々は終わり。
またあの頃のように戻るにはどれだけの時間がかかるんだろう。
いつか笑顔で、また――。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
友香 「 Get a smile back Someday 」
(ゲット ア スマイル バック サムデイ)
【日本語 ver.】
友香 「 いつか笑顔を取り戻すまで 」
+ + + +
悠 「ごめんな、いろいろ…」
友香 「もういいよ。済んだことだし」
悠 「俺たちが出会わなきゃ、こんなに苦しまなかったのかもな」
友香 「それ言ったらキリないでしょ」
友香 N:そんなこと言わないで。
あなたを好きだったこと。たくさんの思い出。それを否定しないで。
悠 「あ、でも!俺とお前は幼なじみだ。だからいつでも俺を頼ってこいよ」
友香 「うん、ありがと」
友香 N:今はそれだけで十分。
いつか、また三人で、笑って――。
fin...