声劇×ボカロ_vol.33 『 ホシアイ 』
the Relation between Two Stars
【テーマ】
離れていても心は傍に
【登場人物】
星野 悟(24) -Satoru Hoshino-
社会人2年目の青年。大学のあった地で就職。
彼女である柚希と久しぶりに会う約束を交わす。一途。
合田 柚希(23) -Yuzuki Aida-
就職のため、通っていた大学とは遠く離れた地へ。
悟のことを想い、別れることも考えたが、気持ちに嘘がつけなかった。
【キーワード】
・遠距離恋愛
・織姫(柚希)と彦星(悟)
・言葉のいらない関係
・何度でも会いに行く
【展開】
・遠距離の二人。最終電車に乗り、柚希の元へと向かう悟。
・電車に揺られながら、柚希との思い出を振り返る悟。
・久しぶりの再会。話したいことがたくさんあったはずなのに、言葉は不要だった。
・一日だけの幸せな時間。涙を見せる柚希を力強く抱きしめる悟。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
悟 「…うん、うん。今から電車乗るよ。…うん、それじゃ」
悟 N:電話を切った僕は、ふと手帳を開いた。今日の日付の欄には☆(ほし)マーク。
仕事終わりの終電。忙しくて、こんな時間にしか乗れなかった。
それでも君と僕を繋ぐそれは、二人だけの世界への入口みたいで。
見上げた夜空の星たちが、きっと君の街まで案内してくれる。
だって僕が見上げる空にも、君が見上げる空にも、同じ星が輝いている。
だから僕を連れてってくれるよね?
悟 「――って、なに言ってんだ、僕は」
柚希 『気をつけてきてね?』
悟 N:ファンタジーな頭を整理して、彼女の言葉を思い出す。
もうすぐ会える。やっと、やっと…。
+ + + +
柚希 「ねぇ、今度はいつ会えるかなぁ?」
悟 「すぐ会いに行くよ」
柚希 「……うん。待ってる」
悟 「ったく、そんな顔すんなって」
柚希 「し、してないもん」
悟 「はいはい」
悟 N:彼女とは遠距離恋愛中。
今日は彼女が僕のところへ来ていた。
本当は毎日でも会いたいくらい好きなのに、それは叶わない。
いっそ一緒に住もうか?
そう思うことはあっても、お互い仕事もある。急にできることじゃない。
だから思っても口にはできず、結局そのまま。
柚希 「ねぇ、今度はいつ会える?」
悟 「だーかーらー、それさっきも言っ…」
悟 N:どうして同じことを言うんだろう。
そう思い振り返る。
繋いだ手は離さずに、俯いて彼女は言った。
柚希 「…うん。きっとまたすぐ会えるよね」
悟 N:今度は僕が会いに行く。
その約束から、もうすぐ1年――。
+ + + +
悟 「もうすぐ12時、か…」
悟 N:気づけば、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
僕を乗せ走る電車。彼女の元へ続くレール。
何気なく眺めていた外の景色は、だんだんと見慣れないものになっていく。
胸騒ぎがした。
本当にこの電車であっているのか。ちゃんと彼女の元へとたどり着くのか。
知らない景色が僕を不安にさせていた。
会いたい気持ちはあっても、会えない現実。
指折り数えて待っていたこの日。それなのに――。
* * * * *
柚希 「え、今なんて?」
悟 「だ、だから。えっと、好き…です」
柚希 N:彼を待っている間、なんとなく彼と出会ってからのことを思い出していた。
悟 「え、今なんて?」
柚希 「(笑って)もー、それさっき私も言いましたよー」
悟 「そ、そう?」
柚希 「覚えてないんですかー?しょうがないなぁ。じゃあもう一回言いますよ?」
悟 「う、うん」
柚希 N:年上の彼はカッチカチに緊張して、私の返事に耳を傾けていた。
同じ大学だった私と彼。一目惚れ、だったんだよね?
私はそんなことなかったんだけど、いつの間にかただの先輩っていう風に見れなくなってて。
だから返事はもちろん…。
柚希 「私も先輩のこと好きです。えっと、よろしくお願いします?」
悟 「(力が抜けて)はは、はは…。ん、よろしく」
柚希 N:一気に緊張が解けた彼は『やったー』とか『よっしゃあ』とか、そんなことを口にすることなく、
ただ笑顔だった。
それから彼の就活だけじゃなく私もあって、なかなか会えない日が続いた。
無事に就職が決まってからも、ハードな研修や慣れない仕事にお互い疲労困憊。
最後に会ったのも、なんとか時間を作ってきてくれて、私の就職のお祝いをしてくれた。
悟 「そっか、ここ離れるんだな」
柚希 「…うん。どうしてもやりたかったことだし」
悟 「そう、だよな」
柚希 N:彼が何かを言いかけた。私はその言葉に、なんとなく気づいていた。
でもお互いまずは自分のこと。
そう約束していたから、ここまで頑張ってこれたのもある。
悟 「とにかく就職おめでとう!」
柚希 「ありがと」
悟 「さぁて、どこ行く?なんでも奢るぞ」
柚希 「うん!………ねぇ、今度はいつ会えるかなぁ?」
* * * * *
悟 N:今、会いに行くよ。
柚希 「…遅いなぁ」
悟 N:ずっと待たせてごめん。
柚希 「あっ、月!きれーい」
悟 N:話したいこと、たくさんあるんだ。
柚希 「聞いてた時間だと、そろそろなんだけど…」
悟 N:僕らは星たちに導かれるように、ようやく――。
柚希 「……やっと、会えるね」
悟 N:降り立ったホーム。風が吹き、香ってくるのは夏草の匂い。
僕はその匂いを思いきり吸い込み、小走りになって彼女を目指す。
柚希 N:彼だとすぐにわかった。
だって走ってくるんだもん。
悟 N:待合室にいた彼女。久しぶりに見た彼女は、はにかんだ笑顔。
はは、僕そんなに会いたそうにしてた?
彼女の目から涙が零れる。
やっと会えた。その気持ちは彼女も同じだったみたいで、それがすごく嬉しかった。
柚希 「来てくれてありがとう」
悟 「どういたしまして。久しぶり」
柚希 「うん、久しぶり」
悟 N:そう言って彼女の隣に座り、繋いだ手。伝わってくる彼女の体温。
話したいことが山ほどあったはずなのに、そんなこと今はどうでもよくて。
ただ彼女がそこにいる。僕の隣にいてくれる。
柚希 N:会って何を話そうか、少し不安になってる面もあった。
でも私たちに言葉なんていらなかった。
彼に会って、好きだなって気持ちが溢れてきて、胸の鼓動が響いて。
ずっと会ってなかったのに、気持ちは変わってないんだって、ちゃんとわかったから。
悟 N:でも――。
柚希 N:でも――。
悟 N:夜が明けたら、また――。
柚希 N:私たちは離れ離れになってしまう。
それがわかっていたから、その寂しさがわかってしまっていたから、多くを語らなかったのかも
しれない。
柚希 「行こ?」
悟 「うん…」
悟 N:手を引かれ、彼女の家に向かう僕ら。
その手はしっかり繋いで離さない。
ずっと静かだった彼女。
そんな彼女が、おもむろに笑顔で言った。
柚希 「ね、お腹すいたでしょ?」
* * * * *
悟 N:君と過ごす時間はあっという間で、残された時間に焦りと寂しさが募る。
柚希 N:貴方との一日は、久しぶりに充実した日。
でもそんな楽しい時間も、もうすぐ終わってしまう。
もっと一緒にいたい。また夜が明けても、何度朝を迎えても、ずっと一緒に。
悟 N:手は繋いでいるのに、君はどこにいる?
まるで世界が僕らを引き離そうとしてるみたいに、夜の闇が君を隠す。
柚希 「ねぇ、今度はいつ会えるかな?」
悟 「またすぐに会いにくるよ」
柚希 「…(笑って)ふふ、やっぱり変わらない」
悟 「なにが?」
柚希 「いつも同じこと言ってるよ?」
悟 「いや、だって…。まぁ」
悟 N:想いが重なる。君の元へと僕を導く。
夜空に輝く星たちが、きっと導いてくれる。
柚希 「(涙を堪えて)……うん。時間かかっても、ちゃんと来てくれるって信じてる」
悟 N:もちろん。
夏に出会う彼らのように、星の河を渡って何度でも、僕は君に会いに行く。だから――。
柚希 「(泣いて)うっ…うっ…ひっく…」
悟 「柚希…」
柚希 「っ、私…も、絶対…、会いに、行…くっ」
悟 「うん…」
悟 N:泣いてる君を抱きしめる。溢れ出る想いを必死に抑え、僕だけは泣かないように…。
泣か、ない…。あれ…?
柚希 「……悟?」
悟 「…なんだよ、これ。泣かないって、決めて…たのに」
柚希 N:貴方の想いが伝わってくる。
お互いに大切な存在。あの日抱(いだ)いた気持ちは変わらない。
ふと目に入った月が、私たちに語りかける。
『きっと大丈夫』って。
悟 「…それじゃ」
柚希 「うん…」
悟 N:手を離し、彼女の涙を拭いて、自分の涙を拭(ぬぐ)って、笑顔で――。
悟 「またな」
柚希 「……(ぐすっ)、うん」
悟 N:この後僕らがどうなったかは、ずっと見守ってくれた月に聞いてくれ。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
悟 「 the Relation between Two Stars 」
(ザ リレイション ビットイーン トゥー スターズ)
【日本語 ver.】
悟 「 二つの星が輝くとき 」
+ + + +
柚希 「ねぇ、今度はいつ会えるかなぁ?」
悟 「なんだよ、急に」
柚希 「いいじゃん。ね、いつ?」
悟 「いや、いつも何も――」
悟 N:窓から光が射しこむ。
やっと君を見つけた。
柚希 N:貴方に会えた。
悟 N:僕らはこれからはずっと――。
fin...