声劇×ボカロ_Hello & Good-bye( vol.32 ) 『 さよならのかわりに 』
The days that have passed
【テーマ】
キミといた時間
【登場人物】
前田 寛美(23) -Hiromi Maeda-
社会人一年目で、忙しい日々に憂鬱になりがち。
愛猫のミケとの日常を思い出す。
ミケ(猫) ♂
寛美が生まれた時から20歳の時まで、ずっと一緒に過ごしていた猫。
一人っ子の寛美にとっては、兄弟のような存在。
【キーワード】
・心の支え
・胸の隙間を埋める確かな存在
・離れても感じる想い
・さよならとありがとう
【展開】
・就職が決まり、引っ越しの準備をしていた寛美。昔の写真を見つける。
・不安でいっぱいの寛美。写真に写る大切な家族との日常を思い出す。
・辛い時も楽しい時もいつだって傍にいた彼。会いたい気持ちを誓いに変えて。
・彼と過ごした時間が照らす未来。「さよなら」と「ありがとう」
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
※猫のセリフは鳴き声のみ。
【本編】
寛美 N:大学卒業後、無事に就職も決まり、引っ越しのため部屋を整理していたとき、
私は懐かしいものを見つけた。
机の引き出しの奥から出てきたもの。それは、あの子と撮った写真。
寛美 「…あ、こんなとこにあったんだぁ」
寛美 N:今ならちゃんと向き合える。
何度も彼の存在に救われてきたこと。彼がいてくれたから、今の私があること。
私はいつも思っていた。あの雲の向こうに《虹の橋》って場所があるなら、きっと君はそこで…。
寛美 「…(微笑んで)ふふ、今頃、お昼寝中かな?」
* * * * *
ミケ 「にゃーう」
寛美 「おかーさん!またミケが…っ!」
寛美 N:物心ついたときから一緒だった一匹の猫。それが君――“ミケ”だった。
一人っ子だった私にとって、君は兄弟のようなもので、傍にいて当たり前の存在だった。
写真の私を見てもわかる。本当に君が大好きだったんだって。
写真はたくさんあったけど、どれも笑顔な私。そしてそんな私と写る君。
まるであの頃の日常が幻だったんじゃないかと思うくらい、毎日が眩しくて…。
君と共に過ごした記憶が、時間が、私の心にぽっかりと穴を空ける。
カーテンが揺れては、振り向いて。そこに君がいるような気がして。
ただの風も、私の涙を誘うには十分で…。
寛美 「(泣きながら)……ねぇ、ミケ?起きてよ、ミケ…。ねぇ、お願いだからぁ…っ!!」
寛美 N:私が成長していくにつれて、だんだんと年老いていった君。
わかっていたのに。ずっとは一緒にいれないこと。
でもそれを認めたくなくて、長い間目を逸らしてきた。
その日が来て、ようやく君がいなくなることを実感して、泣き崩れる私。
逃げてきたことを受け入れざるをえない現実。
もう鳴いてくれないんだね、その声で。
もう包み込んではくれないんだね、その優しい心で。
もう同じ時間を過ごせないんだね、その小さな体と…。
あの雲の向こうに旅立った君に聞きたかったこと。それは…。
寛美 「(泣きながら)…ねぇ、ミケ?あなたは、私と過ごした時間、幸せだった…?」
寛美 N:“さよなら”も言えなかった。“ありがとう”も言えなかった。
あの頃の私は、泣くことしかできなかった。
寛美 「会いたいよ、ミケ…」
寛美 N:何度も願った。でも触れたいと思っても、君はもういない。
忘れようとしたこともあった。最初からなかったことにしようと思ったときだってあった。
そんなことできるはずもないのに…。
君は確かにここにいる。私の胸の中にしっかりと――。
ミケ 「にゃー?」
寛美 「大丈夫。首なんて傾げなくても、私は大丈夫だよ」
寛美 N:空にかかる雲が君に見えて、私は優しく答えた。
君はきっとあの雲の向こうでも、私のことをずっと見てる。見守ってくれている。
季節外れのにわか雨。光が射し、姿を見せた虹。その袂(たもと)にはきっと君が――。
ミケ 「にゃーう」
寛美 「(微笑んで)そんなに心配なら、夢に出ておいで。私はずっと待ってるよ?」
ミケ 「にゃう?」
寛美 「(涙ぐんで)もう、どうしてそんな困った顔するのよー」
寛美 N:関係ないフリして、傍にいてくれた君のことだから、どうせ全部わかってるんでしょ?
また零れる涙。でももう今日で終わり。
―――強く、ならなきゃ。
君と過ごした確かな時間。それが私の未来を明るく照らす。
あの日言えなかったこと。今ならちゃんと言える。
寛美 「ありがとう」
≪タイトルコール≫
寛美 「 The days that have passed 」
(ザ デイズ ザッツ ハブ パスド)
寛美 N:また会える日まで――。
fin...