声劇×ボカロ_vol.31 『 アイのシナリオ 』
Steady memory,Arise justice ( 揺るぎない記憶、芽生える正義 )
【テーマ】
繰り返される運命
【登場人物】 ※各一人二役 ( 同色のもの )
≪ before ≫
レオン・バッカス(18)
メルヴィス家の庭師の息子。シャルロットとは幼なじみ。
彼女を“シャル”と呼ぶほど、仲がいい。
《 after 》
白石 翔琉(17) -Kakeru Shiraishi-
不良っぽい見た目と違って、実は間違いを許せないタイプ。
普段はヤル気のない言動が多い。
≪ before ≫
シャルロット・ロズウェル(旧姓:メルヴィス)(18)
家の事情でフィードと結婚したが、暴力の日々に心はボロボロ。
手を差し伸べてくれたレオンと共に生きる決意をし、脱走する。
《 after 》
梶浦 亜衣(17) -Ai Kajiura-
泰雅と付き合っている。翔琉とはクラスメイト。
不良っぽい見た目の翔琉を少し苦手に感じている。
≪ before ≫
フィード・ロズウェル(22)
シャルロットの夫。表向きは良識人。
彼女を愛しつつも、暴力をふるってしまう。
《 after 》
市来 泰雅(17) -Taiga Ichiki-
亜衣の彼氏。あどけない表情が残る少年。
見た目は草食系だが、実は腹黒い。
【キーワード】
・身分の違い
・略奪と執念
・芽生えた記憶
・約束
【展開】
・レオンとシャルの日常。そんな中、突然フィードと結婚したシャル。
・フィードからシャルを奪うレオン。その涙を笑顔に変えるため。
二人をいつか不幸にすると誓うフィード。そして時代は変わり…。
・泰雅と亜衣のいちゃつきを目にする翔琉。芽生えた記憶を元に、泰雅に問い詰める。
・真実を知り、再び彼女を守ると決意する翔琉。亜衣の手をひき、泰雅の元へ向かう。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
レオン N:いつだって君は笑顔で、本当に楽しそうにしていて。
君が笑っていてくれるならって、そう思ってた。
シャル「(呼びかけ)レオン!」
レオン N:いつの頃からか、僕は君を好きになっていたし、きっと君も…。なんて思ってた。
シャル「(怒った感じで)レ~オ~ン」
レオン N:でも君はお嬢様で、僕はその使用人みたいなもの。
いくら幼なじみで両想いだからって、越えられない、許されない身分の違い。
シャル「(嬉しそうに)レオン」
レオン N:それでも幸せだった日々に、突然の終止符(ピリオド)。
彼女の親が決めた結婚。現れた見知らぬ男。
抗えない現実に、僕は――。
* * * * *
フィード「シャルロット。ずっと貴女とともに…」
シャル「……」
フィード「大丈夫ですよ。さ、お手を」
シャル N:そう言って、彼は跪(ひざまず)き、手を差し出す。
私には選ぶことなんてできなかった。
両親が決めた突然の結婚話。
家柄重視のこのご時世、良家の娘として生まれた以上、断ることなんてできなかった。
たとえ想い人がいたとしても――。
フィード「ありがとう。必ず貴女を幸せにしますよ」
シャル N:私は彼の手を取り、。瞬く間に式を挙げ…。
そんなことを知らないあの人は、いつもの時間に私の前に姿を見せる。
レオン「どうした?なんかあったのか?」
シャル「え…?どう、して…?」
レオン「そう顔に書いてある」
シャル「そう…。あのね」
フィード「シャルロット、誰かいるんですか?」
レオン N:扉をたたく音と男の声。それを聞いた彼女は、急に慌てだした。
シャル「い、いえ…。独り言です」
フィード「……そうですか」
レオン N:足音は遠のき、彼女は安堵(あんど)した表情を見せる。
彼女が慌てた理由。実は知っている。
でも彼女の口から聞くまでは、って。
そう思ってはいても、僕の好きなあの笑顔が、最近少なくなっていた。
シャル「ごめんね、またあの人が来るかもしれないから、今日はもう…」
レオン「わかった」
レオン N:“あの人”。
その言葉だけで、扉の向こうにいた男が、ただの使用人ではないことを告げる。
僕はその場はおとなしく引き下がり、真実を、彼女の笑顔を奪った理由を解き明かすことにした。
たとえ今、伸ばしたその手に触れることができなくても――。
* * * * *
フィード「あいつと話すなと言っただろ!」
シャル「う…っ」
レオン N:真実を目(ま)の当たりにする。
こっそりと様子を窺(うかが)うため、いつも彼女に会いに行っていた木の上から見えた光景。
怒りにまかせたそいつの手が、彼女の頬を捉える。
うずくまる彼女。窓越しで聞こえなくても、きっと泣いている。
レオン「あのやろ…っ」
シャル「う…っ、う…っ」
フィード「二度とあいつに近づくな!」
レオン N:きっとアレは普段からされているんだろう。
彼女はすっかり怯えきっていて、抵抗もできないみたいだった。
これが真実――。
同時に感じた彼女の心。
なぜここまでされて、黙っているのか。
いっそのこと助けを求めてくれれば…。
ただ一言、つらいと言ってくれたら…。
レオン「くそ…っ、こんなのただの…っ」
レオン N:己の不甲斐なさと、こみ上げる怒り。
ちゃんと祝福してあげたかった。好きだったからこそ、ちゃんと…。
+ + + +
フィード「……ふん」
フィード N:視線を感じ振り返ると、そこには憎き男。
やつの存在は知っていた。彼女の心に、やつがいることも。
しかし俺も、ようやく彼女と一緒になれたからこそ、やつの存在が許せなかった。
長い片想い。普通にやっては振り向かれないとわかった矢先の結婚の話。
どんなに悪く言われようが、俺はどうしても彼女を自分の物にしたかった。
シャル「う…っ、う…っ」
フィード N:それが叶った今、俺が彼女に何をしても、やつには何もできない。
少し時間がかかったところで、いつかは彼女の心も自分に向けられる。
……はずだった。
レオン N:君が隠していた世界。
フィード N:いつになっても自分の物にならない彼女。
レオン N:許せない真実。曲げたくない正義。
フィード N:そのために邪魔な存在。
レオン N:僕にできることは――。
フィード N:ならばいっそ――。殺してやる。
* * * * *
泰雅 「あの、さ。僕、君のこと好きだ」
亜衣 「え…?うそ…。わ、私も…」
亜衣 N:ずっと気になってた。この人いいな、って。
でも遠くで見ているしかできなくて、諦めかけてた時のことだった。
そんな私たちは今日もラブラブ。
泰雅 「僕たち、運命だと思うんだ」
亜衣 「えー!何ソレ」
亜衣 N:その言葉が嬉しくて、ついニヤけてしまう。
今は学校だし、人目だって気になるんだけど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
翔琉 「おい、そこ立入禁止だろ」
* * * * *
シャル「レオン、どうし…」
レオン「(被せて)しーっ」
レオン N:俺は答えを決めた。
たとえそれが世界を欺くことだとしても、じっとしてはいられなかった。
真夜中、僕は彼女の元を訪れる。
シャル「(小声で)どうしたの?」
レオン「(小声で)シャル。僕と一緒に行こう」
シャル「え…?」
レオン「僕を信じて」
レオン N:それだけ言って、僕は手を差し出した。
シャル N:彼の行動で、すべてを理解した。
この人は、私がずっと隠してきたことを知っている。
あの人のことも、私の想いでさえも。
知っていて、手を伸ばしてきてくれている。
もうずっとこのままだと思っていた。
真実が世界そのもので、それに背(そむ)くことは許されないと。
シャル「……ん」
シャル N:彼に触れると、途端に涙が零れてきた。
ずっと彼に触れたいと思っていた。
彼が私のことを考えて、わざとそうしなかったことをわかっていながら。
レオン N:自分のしていることが、どれほどのものかぐらいわかってる。
でも逃げないと決めた。怖くもない。
このまま彼女を、僕の知ってる彼女を失うことの方がもっと怖い。
シャル「レ…」
レオン「ずっと一緒だよ。僕が守るから」
レオン N:ようやく触れることのできた彼女を抱き寄せ、僕はそう言った。
そして――。
+ + + +
フィード N:扉を開けると、そこに彼女はいなかった。
無理強いしてもしょうがないからと、寝室を別にしていたことが仇(あだ)となった。
どこに行ったかなんてわかってる。
きっと今も、あいつといるに決まってる。
彼女を想っていた愛しさが憎しみに変わっていく。
この俺を裏切ったあの女、俺の物を奪っていったあの男。
治まることのない怒りが、俺の心を支配する。
フィード「いつか必ず…貴様らを不幸にしてやる!!」
* * * * *
翔琉 「おい、そこ立入禁止だろ」
泰雅 「あっ、ごめん…」
翔琉 N:通りすがりに声をかける。
校内でもたまに見る光景。カップルが人目を気にせず、イチャつくワンシーン。
その二人は、立入禁止の場所で堂々と寝転んでいた。
でも俺が二人に声をかけたのは、それだけじゃなかった。
亜衣 「き、聞かれてたのかな?」
泰雅 「大丈夫、大丈夫。きっと聞かれてないよ」
翔琉 N:最近芽生えた遠い昔の記憶。
君と、君を傷つけるあの男。
俺には、今君の隣にいる男がそいつなんじゃないかと、嫌な予感があった。
泰雅 「(怯えた感じで)な、なに…?」
翔琉 N:俺は彼女を守りたい想いだけで、その男を問い詰めた。
予感も外れてくれるなら、それはそれでって。
泰雅 「あー、あいつ?別に。好きじゃないけど?」
翔琉 「なっ…。ふざけんな!騙してたのか!!」
泰雅 「(笑って)だったらどうだって言うんだよ?騙される方が悪いんだろ」
翔琉 N:見た目おとなしそうな男が、さも当然のように自供する。
そいつの言葉に、態度にムカついた俺は、男を壁に思いきりぶつけてやった。
翔琉 「…っ。今後彼女に近づくな!!」
泰雅 「…いって!」
亜衣 「ちょっと!暴力ふるうなんてサイッテー!!」
翔琉 N:彼女に見られた。
俺らの間に勢いよく割って入ってきた彼女。
俺はすっかり悪者扱い。
でもこれで彼女は、真実を――。
亜衣 「泰雅くん、大丈夫…?」
泰雅 「う、うん」
翔琉 N:そいつに見せた心配した顔から一変、俺を見る彼女の顔の表情は険しい。
亜衣 「ね、もう行こ」
翔琉 M:……おいおい、ちょっと待て。
泰雅 「うん。ありがと」
翔琉 M:そうじゃないだろ。
泰雅 「それにしても、君はいつも大胆だね」
翔琉 N:真実を知ったと思っていたはずの彼女は、ただ俺がそいつに暴力をふるっただけと思ったらしい。
偽りの笑み。解(ほど)けない絆。隠された真実。
それでも、たとえ世界を敵に回したとしても、俺の想いは変わらない。
何度だって助ける。逃げない。迷いはない。
二人が立ち去った後、俺は壁を思いきり殴った。
翔琉 「くっそ!!」
* * * * *
泰雅 「くっくっく、シナリオ通り過ぎて、笑えてくるわ」
亜衣 N:大丈夫と言ってはいたけど、やっぱり気になって、私は彼を捜していた。
姿が見えなかったから、人づてに聞いて、やっと彼の声がしたと思ったら…。
泰雅 「『好き』って言ったら、マジな顔で『私も』って言ってやんの」
亜衣 「……え?」
泰雅 「(嘲笑って)はっ、ざまぁみろ」
亜衣 N:部屋の中から聞こえてきた《真実》。
私は急いでその場から逃げた。そしてつい先ほどの出来事を思い出す。
あの人は全部知っていて、彼に立ち向かっていったんだ。
翔琉 N:彼女が泣いている。きっと《真実》を知ったのだろう。
あいつのシナリオなんてくそくらえ。どれだけ悪者になっても、必ず君を…。
亜衣 「…っく、ひっく」
翔琉 「っと」
亜衣 「あ…っ」
翔琉 「だいじょう…」
亜衣 「(被せて)本当のこと知ってたんだね。ヒドイこと言ってごめんね…」
翔琉 N:零れ続ける涙。その拭い方を俺は知っている。
俺は彼女に手を差し出した。
翔琉 「ずっと守るって、約束しただろ?」
亜衣 「(笑って)はは、何それー」
翔琉 N:君が気づかない繰り返される運命。あいつが俺に用意したシナリオ。
信じてほしい――。その想いを込めた掌。
絶対に離さない、この手だけは。
届いた答えもまた、繰り返されるものだったとしても。
翔琉 「じゃあ行くよ」
亜衣 「え?」
翔琉 N:俺は彼女の手を引いて、あいつの所へ向かう。
真実を知ったばかりの彼女。でもどうしても、あいつに言いたいことがあった。
泰雅 「…やぁ」
翔琉 N:俺らが手を繋いできたことにも動じず、こいつは余裕の笑みさえ浮かべてる。
だからなんだ。俺はお前と同じように、ずっと前から決めていることがある。
逃げない。怖いことなんてない。
泰雅 「その様子だと、本当のこと知ったみたいだね」
翔琉 「こいつは俺がもらうから」
亜衣 「えっ…!?何言って…」
翔琉 N:直接やつの口から真実を聞いて、また動揺するかと思った彼女は、意外にも俺の言葉に反応した。
泰雅 「…ふっ、くっくっく」
亜衣 「ちょ、そんないきなり…っ」
翔琉 「……」
泰雅 「あーはっはっは!!……待ちくたびれたよ」
翔琉 N:記憶に眠る見覚えのある石。
怪しく光って見えるそれがある限り、きっとこの先も運命は繰り返される。
でもやつがいて、彼女がいるということは、そこには俺もいる。
何度繰り返したとしても、必ず俺が助ける。だから――。
≪ タイトルコール ≫
レオン「 Steady memory,Arise justice 」
( ステディ メモリー ,アライズ ジャスティス)
シャル「私が忘れていたもの」
フィード「永久(とわ)に続く運命(さだめ)」
レオン「すべてはあの日から始まった」
亜衣 「今日一日の出来事が、巻き戻されていく」
泰雅 「この石を目にしたから」
翔琉 「きっと彼女の中に眠る記憶が、あの日に――」
fin...