声劇×ボカロ_vol.30 『 キミ想い、片想い 』
Cheer up a loved you
【テーマ】
いつか気づいてほしい想い
【登場人物】
後藤 智衣美(17) -Chiemi Goto-
雄吾に気持ちを伝えられないままいる。性格は少し男勝りな面も。
縮まったと思った雄吾との距離に戸惑う。
望月 雄吾(17) -Yugo Mochizuki-
智衣美を仲のいい友達とみている。
まっすぐな性格で、世話好き。
【キーワード】
・片想い
・相談と応援
・気持ちの整理
・微妙な距離感
【展開】
・仲のいい智衣美と雄吾。雄吾の突然の告白。
・雄吾を好きになったきっかけの出来事。
・諦められない恋。それでも気持ちに鍵をかける智衣美。
・いつか気づいてほしい自分の存在。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
雄吾 「わりぃ、お待たせ!」
智衣美「ホントだよ、まったく。そっちが話あるって言ったんじゃん」
雄吾 「だからわりぃって言ってるだろ」
智衣美「…もぉ。それで、話ってなに?」
雄吾 「あー、う~ん。いや、あのさ。今までそういう話したことなかったんだけど…」
智衣美 N:この溜めよう。そしてなかなか切り出せない雰囲気。私は一人でドキドキしていた。
もしそうなら、返事なんて決まってる。
雄吾 「実は好きな子がいるんだ」
智衣美「あ…。へ、へぇ…」
智衣美 N:それが私に向けられた言葉でないのは、すぐにわかった。
照れ隠しで、遠回しにそう言っただけだったなら、どれだけよかったことか…。
最近すごく仲良くなって、彼との距離が縮まったのかなって思ってたのに…。
雄吾 「いやぁ、お前にだったら言っといてもいいかなって」
智衣美「私、言いふらすかもよ?」
雄吾 「(笑って)ははっ、お前がそんなことしないやつだって、ちゃんと俺は知ってる」
智衣美 N:そんなこと笑顔で言わなくたって…。嬉しいけど、複雑…。
『実は好きなの、キミのことが』
そう言いたくても、その言葉も、その表情も悟られないようにして。
なんでもないようなフリをして。
今、伝えることもできたけど、そんなことして彼に嫌われたくないから。
彼の傍にいたいから…。
智衣美「(呟いて)…わかんないよ……」
雄吾 「ん?なにが?」
智衣美「なんでもなーい。こっちのはなしー」
雄吾 「そっか。あっ、なぁ、俺今日行きたい店あるんだけど」
智衣美「いいよ。どこどこ?」
智衣美 N:こんなやり取りが、彼氏彼女の関係だったら、なんて思ってた。
いつも私だけがドキドキして、なんかずるいなって思ってた。
隣を歩く彼は、きっとその子のことを考えてるんだろう。
ニヤついたそんな顔を見たくなくて、私は歩幅を縮める。
斜め後ろ、約30度。彼の表情が見えない位置。
そして彼に私の表情が見えない位置。そのポジションをキープして歩いた。
雄吾 「あ、そういやさ。って、あれ?智衣美?」
智衣美「あ、ごめんごめん。友達からメール来ててさ」
雄吾 「そか。あ、それでな」
智衣美 N:何気なく携帯を触り、もっともらしい言い訳。
ホントはそんなことないのに。嘘だって気づいてほしいと思うのは、私のわがまま?
* * * * *
智衣美 N:家に帰った私は、カバンをその辺に投げ捨て、倒れ込むようにベッドに横たわった。
智衣美「……っ。もう、どうしたらいいかわかんないよ…」
智衣美 N:好きなのに、彼は気づいてくれない。それどころか…。
雄吾 『もしもし、智衣美』
智衣美「なに?どうしたの、こんな時間に」
雄吾 『あのさぁ、今日言ったことなんだけど…』
智衣美「今日?……あー、はいはい。大丈夫、誰にも言わないってば」
雄吾 『それは信用してる。じゃなくてさ、俺どうしたらいいかな?なんかあの子のこと考えると、
あーっ!って』
智衣美 N:本当に嬉しそうに話す。聞こえてくる声は、ちゃんと恋してるんだなって、そう感じ取れる。
雄吾 『あ、いきなりごめんな。つまり…さ。相談に乗ってほしいんだ』
智衣美「(笑って)ふふ、うん。いいよ!私で参考になるかわかんないけど」
雄吾 『大丈夫。それは自信持って言える。お前はお前が思ってる以上に、ちゃんと女の子してるよ』
智衣美 N:そこまでわかっていて、どうして…?
どうして私じゃないの?
私の気も知らないで…。
雄吾 『なぁ、俺どうしたらいいかなぁ!?』
智衣美 N:もっと女心わかるようになったら、その恋も叶うかもね。
雄吾 『……なぁ、智衣美聞いてる?』
智衣美「…あ、うん。ごめん、何?」
智衣美 N:そんなこと言えるわけない。
私にできるのは、この気持ちに鍵をかけること。
そして――。
智衣美「応援してるよ、頑張ってね!」
雄吾 『おう!サンキュな!』
智衣美 N:届くことのない想い。永遠の片想い。
私は自分の気持ちをどこにやったらいいのかわからず、静かに電話を切った。
* * * * *
雄吾 「智衣美、来週の日曜なんだけどさ」
智衣美 N:彼がテスト前に勉強を教えてほしいと言ってきた。
雄吾 「じゃあ、昼の1時に駅前な!」
智衣美 N:駅前で待ち合わせして、二人で図書館に行くことに。
これって、見方によってはデートだよね?
そう思いながらも、近くて遠い私と彼の距離。
諦めなきゃ。届かない、報われない。
智衣美「……もう、好きでいるのやめようかな…」
雄吾 「ん?なんか言った?」
智衣美「なんでもないよー」
智衣美 N:聞こえちゃってるんじゃないかな、って思いつつ、私はまた誤魔化した。
諦めなきゃ。―――まだ諦めたくない。
どうしたらいいの?―――答えなんてない。
好きだってこと。―――抑えきれない。
気持ちの整理なんてつかない私。
笑顔で隣を歩く彼。手を伸ばせば届く彼の手。
縮まったと思ってたのは、私だけなのかな?
私は、その手に触れちゃ、ダメなの…?
* * * * *
雄吾 「智衣美!聞いてくれ!今度例の子と遊びに行くことになった!」
智衣美 N:このまま何の進展もしないでいてくれたら…。そう願っていた。
応援する、なんて言葉を今さらになって後悔する。
それでも私は――。
雄吾 「あー、やばい、どうしよう!すげー緊張してきた!」
智衣美 N:はしゃぐ彼を見て、私はどうしたらいいかわからなくなる。
この先、彼とすれ違ったり、話さなくなることだってあるかもしれない。
近い未来、彼がその子と上手くいって、並んで歩く姿だって見るかもしれない。
雄吾 「なぁ、何話そう!いや、そもそも上手く話せるかだよなぁ!」
智衣美 N:それでも私は、この気持ちが報われる日が来ると信じて…。
雄吾 「うーん、それよりも次に繋げられるようにしないとな!」
智衣美 N:今はキミの隣にいたい。つまんないことで嫌われたりしたくない。
こんなんじゃダメ。―――でも、これでいい。
好きなの。―――いつか気付いて?
だからね、私。―――もう一度…。
雄吾 「あーっ!どうなるかなー、もう!」
智衣美「大丈夫。雄吾なら上手くいくよ、きっと」
智衣美 N:私はもう一度、この気持ちに鍵をかけた。
≪ タイトルコール ≫
智衣美「 Cheer up a loved you 」
( チア アップ ア ラブドゥ ユー )
雄吾 「よし。考えても俺らしくないから、メシでも行こうぜ」
智衣美「え?いや、ちゃんと考えなさいよ」
雄吾 「うっ…。わかってる。わかってるけどさぁ」
智衣美「ちゃんと考えないと、その子にも失礼でしょ」
雄吾 「なぁ、お前は?いないの、好きなやつとか」
智衣美「…いない」
智衣美 N:本当は大声で言いたい。
あんただ、ばかやろー!って。
fin...