声劇×ボカロ_vol.28 『 今好きになる。-triangle story- 』
The thinking is One Way
【テーマ】
好きになったもどかしさ
【登場人物】
瀬戸口 雛(16) -Hina Setoguchi-
中学の頃、恋雪に恋をする。想いは高校まで持越し。
恋雪の変化を機に、想いを伝える覚悟を決める。
榎本 虎太郎(16) -Kotaro Enomoto-
幼なじみである雛にずっと想いを寄せている。
雛が恋雪を好きなことに気づいてるため、気持ちは伝えぬまま。
綾瀬 恋雪(17) -Koyuki Ayase-
虎太郎の姉、夏樹に恋をしている。
頼りない感じだが、優しい。
【キーワード】
・両片想い
・独り占めしたい想いと嫉妬
・互いの距離
・好きだからこその
【展開】
・雛と恋雪の出会い。恋雪を好きになってしまう予感がした雛。(中学期)
・ずっと雛を見てきた虎太郎。雛の気持ちに気づいているからこそ、自分の気持ちを口にできず。
・恋雪が変わるきっかけを知る雛。告白したら距離ができるんじゃないかと悩む。
・恋雪がフラれたことがわかり、手紙を渡せなかった雛。それを見守る虎太郎。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
雛 N:あの時、私が泣いてしまったのは、お兄ちゃんやなっちゃんに学校で会えなくなるから
だけじゃない。
先輩が卒業してしまうんだ、って思ったら――。
恋雪 「う、わっ!」
雛 「あー!!ちょっと何してんのよ!」
恋雪 「ご、ごめんなさーい!」
雛 N:ちょうど私が掃除していた場所。そこでつまずいてゴミ箱をひっくり返す男子がいた。
私は彼に駆け寄って、怒鳴り散らす。
雛 「ちょっと聞いてんの!?」
恋雪 「ききき、聞いてますよ!」
雛 「あんたみたいなどんくさい人、見てる方がイライラするんだけど!」
恋雪 「…あ、あのっ」
雛 N:彼の前に仁王立ちして、すごい剣幕で怒ってるはずなのに、その人ときたらなぜか目を
逸らしていて。
その理由はすぐにわかった。
雛 「え…?…あ…」
恋雪 「あわわわわ…」
雛 「きゃああああ」
恋雪 「えぇーっ!!」
雛 N:見下ろしていた私。見上げていた彼。
その状態で彼の目に映っていたものは…。
私はスカートを手で押さえ、悲鳴をあげる。
恋雪 「ごごご、ごめんなさ~い!!」
雛 「見たな!見たでしょー!!」
恋雪 「見てないです!パンダのパンツなんて見てないですー!!」
雛 「見てんじゃん!待て、コラァー!!」
雛 N:私は彼を追いかけ回した。
先輩だってわからず、ぶつけた言葉の数々。
今ではいい思い出だけど、出会いは本当に最悪で。
でもこれがきっかけ。
先輩が私を見つけ、目が合うと先に笑ってくれる。
そのことが私は――。
虎太郎「なんだよ、誰かいんのか?」
雛 「え、うん…。いや…別に…」
虎太郎「…なにニヤついてんだよ」
雛 「へ?ニヤついてなんかないし」
虎太郎「……ふーん」
虎太郎 N:お前が最近誰かを見てるのは気づいてた。
なんか頼りなさそうで、目立つ感じじゃなくて、逃げてばかりな印象の人。
それが先輩だと知っても、学年違うし…。なんて強がってた。
そんなの、お前の顔を見れば一目瞭然。
やめろよ、そんな顔すんなよ。
嬉しそうにしてんじゃねぇよ…。
雛 「ごめん、あとお願い!」
虎太郎 N:掃除を投げ出し、お前はどこかに走っていく。
その姿を見るだけで、心がはち切れそうで…。
俺の方がずっと前から――。
なのに…。なんで、こんな…。
雛 「…どうしよう」
虎太郎 N:お前が先輩をいつか好きになるって気づいた。
雛 N:先輩が好きだって認めたら、認めちゃったら、私はきっと――。
虎太郎 N:先輩のことを認めても、認めちゃっても、俺は諦められない。
それだけ俺はお前のことが――。
雛 「……あーっ、もう!」
恋雪 「雛ちゃん?どうしたの?」
雛 「せせせ、先輩!?」
恋雪 「そ、そんなに驚かなくても…」
雛 「ど、どうしたんですか?」
恋雪 「いや、こっちに走ってくの見えたから。なにかあった?」
雛 N:頼りなさそうに見えて、すごく優しい人。
私は自分がこの人に恋してるんだと気づいた。
* * * * *
雛 「お兄ちゃん、勉強教えて!」
雛 N:お兄ちゃんやなっちゃんと同じ高校に行きたくて、今まで以上に勉強した。
何より、先輩とまた同じ学校に行くために、だから、その…。
虎太郎「ダメだ、俺わかんね」
雛 「なんでよ!一緒にがんばろうって約束したじゃん!」
虎太郎「そりゃあ…な…」
雛 「だったら顔上げてがんばる!」
虎太郎 N:しぶしぶ顔をあげ、ペンを取る俺。
笑顔も、そうやって見つめてくる顔も全部が好きだから。
……でもさ。
雛 「あ!できた、できたー!!」
虎太郎 N:お前はあいつがいるから頑張るんだろ?
虎太郎「……好きだっつーの」
虎太郎 N:あと一歩、勇気を出して近づいていたら――。
* * * * *
雛 N:無事にお兄ちゃんたちと同じ高校に入ることができた。
先輩も同じ高校だったから、キョロキョロして探してたけど、中学の時みたいに目にすることは
あまりなくて。
そんなとある朝、なっちゃんと先輩を見かけた。
なっちゃんに声をかけられていた先輩は、私が知る先輩となんか違って見えて。
気づいてしまった、先輩の気持ち。
恋雪 「お、おはよう!」
雛 N:先輩が長かった髪を切ってかっこよくなったのは、それからすぐのこと。
1年の間でも騒がれていて、すっかり人気者。
先輩が変わるきっかけを知ってるのは仕方ないことだけど、でも悲しそうな先輩の顔、
見たくないよ。
近くになったはずなのに、遠い。先輩との距離は、私の一方通行。
虎太郎 N:それでお前もそんな顔してるんだよな。
近くになって、少しぐらいはあいつのこと認めるけど、譲ってやる気はない。
何より、ずっと一番に想ってきたんだ。だからこそ、二人きりなんてのは見たくない。
雛 「(ため息)はぁ…」
恋雪 「あっ」
雛 「(焦って)うわっ」
虎太郎 N:いつからかを境に、二人の関係が曖昧になったように思う。
おそらくお前が勝手に嫉妬してるだけなんだろうけど、この日もそう。
目が合って笑っていたはずなのに、先に逸らしてる。
でも見てて困るんだよ、その表情(かお)。恋してるって書いてある。
雛 「……お話したいな」
虎太郎 N:それでも俺は、昨日よりも“ 好き ”の気持ちが強くなっていく。
雛 「…先輩」
虎太郎 N:告白までのカウントダウンが聞こえる。進む。
前は止まれって思ってた。でも抱(いだ)いた気持ちなんて誰にも止められない。
雛 N:先輩が人気者になったから。どこか焦りがあって、とかそんなんじゃない。
私は今の先輩も、自信なさげだった前の先輩も好きで。
でも前からずっと想ってたって、そんなの偉くはなくて…。
思ってること、ちゃんと言葉にしないと伝わらない、って思って。だから…。
雛 「……恋雪先輩へ」
雛 N:私は大好きな恋雪先輩に、手紙を書いて渡すことにした。
先輩。私の気持ち、今届けます。
* * * * *
恋雪 「おめでとう、大好きだった人」
雛 N:書き上げた手紙を持って、私は先輩を探す。
でも見つけた先輩を見て、最悪のタイミングだとすぐにわかった。
恋雪 「…フラれちゃいました」
雛 N:“ 泣き跡 ”なんて見たくなかった。
せっかく書き上げた手紙も、渡さずに先輩に見えないように隠して。
雛 「私は好きです!」
雛 N:勢いで口から出た言葉。それでも先輩のそんな顔、ホントに見たくなかった。
私が想いを伝えたら、もしかしたらって。
思い出と想いを綴った手紙は、私の手の中でぐちゃぐちゃに。
恋雪 「あはは、なぐさめてくれなくて大丈夫ですよ」
雛 N:無理して笑顔を作る先輩。
冗談じゃないのに、本当のことなのに。
先輩に聞こえないように、俯(うつむ)き、漏れた言葉。
雛 「そういうつもりじゃ…ないです…」
+ + + +
虎太郎 N:なんとなく。待っていたのはただそれだけ。
泣いていた。その涙の理由なんてわかってる。
でも俺には、だいぶ前から決めていたことがあった。
お前の前では、俺だけはずっと変わらずに隣にいる。
本当は伝えたい言葉も、お前が幸せならって我慢して。
周りにどう思われたっていい。
距離ができて、ぎこちなくなるくらいなら、俺は…。
雛 「あれ?……なんで…っ」
虎太郎「帰るぞ」
虎太郎 N:全部わかってる。
ずっとお前のこと見てたから――。
≪ タイトルコール ≫
雛 「 The thinking is One Way 」
( ザ スィンキング イズ ワン ウェイ)
虎太郎「想いは一方通行」
雛 N:今は抑えても溢れちゃうから…。
こうなることは、初めからわかってたのに…。
ねぇ、先輩。
また声をかけますね。
fin...