声劇×ボカロ_vol.27 『 告白ライバル宣言 』
As a start To fall in Love
【テーマ】
好きになったから 少しでも
【登場人物】
綾瀬 恋雪(17) -Koyuki Ayase-
夏樹に恋している。引っ込み思案な眼鏡男子。
思い切って髪型を変え、イメチェンすることに成功。
榎本 夏樹(17) -Natsuki Enomoto-
恋雪が想いを寄せる相手。気さくな性格をしている。
夏樹は優のことが好き。
瀬戸口 優(17) -Yu Setoguchi-
恋雪がライバル視している男子。
【キーワード】
・恋をしたのは
・僕にできること
・宣戦布告
・失恋とエール
【展開】
・よく女の子に間違えられる恋雪。引っ込み思案な面もあり、自分に自信を持てない。
・夏樹を好きだと気づく恋雪。夏樹には想い人がいたが、それでも男と見て欲しくて髪型を変える。
・想いを告げないまま、夏樹の恋の行方を見守る。
・失恋した自分と恋を実らせた夏樹にエールを飛ばす恋雪。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
恋雪 「えっと、僕、こゆきです…」
恋雪 N:ゆきちゃん、女の子みたいだね。
そう言われるほど、僕は髪が長くて気弱で、いわゆる男の娘ってやつ。
コミュニケーションも苦手だから、気づかれる前に消えることもできちゃう。
存在感なんて、あってないようなもの。
だったんだけど――。
夏樹 「こゆきくん、おはよー!昨日はありがとう!」
恋雪 N:そんな僕をちゃんと見つけて呼んでくれた彼女。
夏樹 「あのマンガすっごくおもしろかったよー!」
恋雪 N:ちゃんと僕を僕として見てくれた彼女。
それが恋だと気づいたのは、まばたきくらい一瞬のことで。
恋に落ちたのはあなたのせいです…。
彼女に好きな人がいるのはわかってる。
でもね、可能性がゼロだとわかった上で、僕は――。
夏樹 「…なんつってー。本気と思った?」
優 「なっ…!?アホか」
夏樹 「ねぇねぇ、かわいい?ドキッとした?」
優 「あのなぁ、本気になるよ?」
夏樹 「……え」
恋雪 N:僕は、君に宣戦布告する。
* * * * *
恋雪 「とは言ったものの、具体的にどうしたらいいんだろう…」
恋雪 N:家に帰って、ベッドに横たわる。
テレビをつけて、近くにあった恋愛小説を見て考えるも、なかなかいい案が浮かばない。
心は決めた。覚悟も決めた。
まだ未完成な僕に、あと必要なことは…。
+ + + +
恋雪 「…あの、お願いします」
恋雪 N:苦手でなかなか行ったことのない美容室に、僕は足を運んだ。
たまたまテレビで目に入った、髪を切ってイメージが変わった芸能人。
この長い髪を切ったら、僕も…、なんて思ったのかもしれない。
どうせならと、眼鏡もコンタクトに変えてみる。
恋雪 「よしっと。一応君も持って行くけど、今日は大丈夫かな」
恋雪 N:学校に行って、どんな反応されるかドキドキして。
男の子みたいだね、って言われて、そりゃそうだけどって少しおかしくなってしまった。
悪くない。ちょっとくすぐったいけど、そんなこと初めて言われたから。
夏樹 「……それでね」
優 「おう」
恋雪 N:変わったからといっても、可能性はゼロのまま。
でもきっと僕に足りなかったのは自信で。
最初が肝心。
僕は教室の扉を開け、顔をあげて少し大きめな声で言った。
恋雪 「お…おはよう!」
恋雪 N:誰だろうといった声が聞こえてくる。
僕が自分の席に着くと、またどよめきが起こった。
当の彼女はというと――。
夏樹 「か、かっこいいじゃん」
恋雪 「そ、そう?」
夏樹 「うん。それに見た目だけじゃなくて、なんかいろいろ吹っ切れた感じするね」
恋雪 「そう、かな」
優 「お前、言ってること適当すぎ。頭悪いのバレるぞ」
夏樹 「う、うるさいなー。それにそんなに適当には言ってないじゃん!」
優 「はいはい」
恋雪 N:好きな人の、好きな人との会話。
少し前まで彼を見つめていた彼女。
恋に落ちたのは、僕が変わろうと思ったのは、あなたのせいです。
そう口に出したかった。
でも大事な人を想ってるのは、彼女も僕も同じだから。
たとえそれが矛盾していても、彼女が彼を好きな気持ちも含めて、きっと全部が好きなんだ。
だけど、やっぱり…。
* * * * *
夏樹 「…っ、嘘つきでごめんね。ずっと前から好きでした!」
優 「……」
夏樹 「ねぇ、優。これ以上、好きにさせないでよ」
恋雪 N:放課後の教室。
たまたま彼女を見つけ、外から様子を窺っていると、彼女がついに想いを伝えたのだと知った。
可能性がなくても、そんな顔をさせたいと思っていた。だから僕は僕なりの方法で、彼女を
見守ってきた。そのナイトはもう必要ない。
優 「(ため息)はぁ…。まったくお前は」
夏樹 「な、なに?」
優 「俺も好きだよ。よろしく」
恋雪 N:突きつけられる現実と純粋な祝福に、言葉が漏れる。
恋雪 「おめでとう、好きだった人」
恋雪 N:零れ落ちる涙が、僕の心の奥の鏡を映した。
恋だと気づいたのは、まばたきくらいほんの一瞬。それはまるで夢物語のような出来事。
でもきっと恋ってこんなものなんだろう。
今ならそう言える。
ダメだとわかってても、可能性がなくても、たとえ想いを伝えられない未完成な
恋愛だったとしても、僕は『 ありがとう 』と伝えたい。
零れた涙を拭い、僕は屋上へ。
改めて二人におめでとうと言うために。
僕が彼女を好きになった気持ちは嘘じゃないと、自分で自分の背中を押すために。
僕は思いきり背伸びした。
恋雪 「(笑って)はは、おめでとう。ありがとう…。よし!……せーのっ」
≪ タイトルコール ≫
恋雪 「 As a start To fall in Love 」
(アズ ア スタート トゥ フォーリン ラブ)
恋雪 「おわりっ」
fin...