声劇×ボカロ_vol.26 『 ReWire 』
relationship of Heart
【テーマ】
心の繋がり
【登場人物】
川埜 美幸(17) -Miyuki Kawano-
光太郎が好きなのに素直に言葉にできない。
自分から伝える勇気もなく、どうしたらと悩んでいる。
松葉 光太郎(16) -Kotaro Matsuba-
美幸の彼氏。付き合って間もない。
あまり態度や行動で気持ちを伝えないタイプ。
※ともに高2(クラスは違う)
【キーワード】
・気づいてほしい想い
・繋ぎとめておきたい関係
・現状の維持と打破
・この手を離さないで
【展開】
・何気ない二人の日常。一人ドキドキする美幸。
・強がる美幸。気にとめない光太郎。それでも「特別」を失うことが臆病で。
・ちゃんと言葉で伝えようとする美幸。しかし一緒にいるだけで幸せを感じ、言えぬままに。
・転んでしまう美幸に、手をのばす光太郎。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
光太郎「おーい、美幸。英和辞書って持ってる?」
美幸 「え、あー。うん。ちょっと待ってて」
光太郎「はは、わりぃな」
美幸 N:休み時間、廊下の窓越しに彼はそう言ってきた。
悪い、と口にしながらも、その顔は全然悪びれた様子はなくて、少し拍子抜け。
私は辞書を取り出して、彼に渡す。
美幸 「はい。珍しいね、忘れ物なんて」
光太郎「そうなんだよ。この間まで教室に置きっぱにしてたんだけどさ。先生が持って帰れって言うから」
美幸 「それはあんたが悪い」
光太郎「だからこうして来てんじゃん。お前まで口うるさく言うなよ」
美幸 「べ、別に口うるさく言ってないじゃん」
光太郎「だな。そんじゃ、借りるわ。授業終わったら返しに来るよ」
美幸 N:また来てくれる。その言葉だけで、きっと私の顔はニヤついてたと思う。
1年の頃、彼とは同じクラスで、一緒にバカなことやって、そのうち好きになって、
春休みに思い切って告白した私。
ダメもとだったのに、彼はOKしてくれた。
でも彼の≪特別≫になったはずなのに、私の心は不安でいっぱいだった。
だって彼は優しいから――。だから…。なんて考えてしまう。
光太郎「ほい、サンキュ」
美幸 「あ、ちゃんと覚えてたね」
光太郎「バーカ。ほんの1時間ぐらい前の話じゃん。そんぐらい覚えてるわ」
美幸 「えー?」
光太郎「いや、えーってなんだよ。確かに俺はバカだけどさ」
美幸 「よくわかってらっしゃる」
光太郎「うっせ。あ、そうだ。今日帰りなんだけどさ――」
美幸 N:1年の時はこんなやり取りが日常だった。よくある仲のいいグループの、ってやつかな。
一緒に帰ったりすることもあったから、彼がそのノリで誘ってるのか、私をちゃんと彼女として
見てくれているのか、わからなくなる。
私ね、ホントに大好きなんだよ、光太郎。ねぇ、ちゃんと気づいてる?
* * * * *
光太郎「お、美幸。コレ見てみろよ。ぶっさいくなヌイグルミ」
美幸 「えー、どれー?」
光太郎「あれだよ、あれ」
美幸 「え、あれ?なんで、可愛いじゃん!」
光太郎「マジ?うあー、なんか引くわー」
美幸 「え、引くの!?」
光太郎「(笑って)ははは、うそうそ」
美幸 N:私が一瞬しょんぼりした顔をしたのかもしれない。
笑って誤魔化したみたいになったけど…。
私たちは、好きな服も音楽も、全然合わない。
それでも一緒にいたのは、きっとお互いに安心してたのかなって思ってた。
私がいて、彼がいる。ただそれだけのことに。
光太郎「みゆきー、行くぞー」
美幸 「あ、うん」
光太郎「そういやこの間、和弘がさ――」
美幸 N:私は彼の少し後ろを歩く。もちろん話しかけられても答えられるような、ほんの少し後ろを。
それが今までの私たちの距離だったから。
だから彼も、それを気にしていなかった。
でも私の心は…。
ねぇ、気づいてる?あなたがちゃんと私の彼氏なんだって、周りに自慢したいの。
ねぇ、気づいてる?私、あなたと手を繋ぎたいんだよ?
傍にいたいって思っても、その手を伸ばせなくて、心だけが痛む。
その痛みも、あなたが見せる笑顔が、今この時だけはかき消していく。
光太郎「おーい、美幸。聞いてる?みーちゃーん」
美幸 「あ、うん。ごめん、何?」
光太郎「どうした?具合悪い?」
美幸 「ううん、大丈夫」
光太郎「そっか」
美幸 N:もし手を差し出されたとしても、私は繋げるのかな?
繋ぎたいって気持ちはあっても、自慢したいって気持ちがあっても、できるのかな?
≪好き≫を言葉にできないのに、態度に、行動に、できる……の…?
* * * * *
光太郎「……よっしゃ、送信っと」
光太郎 N:今日の彼女はどこか元気がないように見えた。
ただ具合が悪いだけならいいんだけど。
いや、それはそれで心配にはなるけどさ。
どうにかして元気づけたくて、俺はちょっとふざけた写真を添付してメールを送った。
光太郎「……俺が悪いのかな。不安に、させてたりすんのかな」
光太郎 N:仲がよくて、ずっと一緒にいた彼女。それが友達から恋人へと変わったことに、俺自身がまだ
変われていないのかもしれない。
彼女には言っていないけど、告白されたとき、ホントに嬉しかったんだ。
絶対大事にする、って自分に誓ったつもりだったのに…。
光太郎「あー、もう!わかんねぇよ!………くそ、俺のヘタレ」
+ + + +
美幸 N:家に着いてすぐ、携帯が鳴った。
美幸 「メール?……(微笑んで)はは、ほんっとバカなんだから」
美幸 N:彼からのメール。そしてそれと一緒に添付されてきた写真。
いつものように、おどけた彼が写っている。
メールの内容は…。
光太郎『今日あんまり元気なかったよな?大丈夫?(´・ω・`)
ひょっとして、俺いないと寂しい?(笑)』
美幸 「……ホントにバカ。当たり前じゃん」
美幸 N:そう思って、一人でいるときは口にできても、やっぱり素直にはなれなかった。
私は≪離れていても平気≫と返す。
せめて強がってるんだって、届けばいいのに…。
* * * * *
光太郎「なぁ、明日だけどさ。待ち合わせの場所、変えてもいい?」
美幸 「え……。や、やだ」
光太郎「はぁ?なんで、別にいいじゃん」
美幸 「ど、どうしても!」
光太郎「だからなんで?なんかあんの?」
美幸 N:いつものように学校からの帰り道。不機嫌そうに聞いてくる彼。
そういう態度を取られると、私の中でいろんな感情が渦巻いて…。
みんなと同じようにしたかった。
彼とのオススメの待ち合わせ場所、なんて記事も見つけたりして、私はちゃんとあなたの
彼女なんだって自信を持ちたかった。
ただ、それだけなのに…。
# # # #
光太郎「悪い、待った?」
美幸 「ううん。私も今来たとこ」
光太郎「そんなこと言って、結構前からそこ立ってたじゃん」
美幸 「え、なんで知ってるの?」
光太郎「あ、やべっ」
# # # #
美幸 N:そんなことばかり考えて、一人でにやけていた。
これが理想だなんて言わないけど、やっぱり他と比べてしまう。
友達から彼とのエピソードとか聞くと、いいなって思ってしまう。
美幸 「ねぇ」
光太郎「ん?」
美幸 「……あ、ううん。なんでもない」
光太郎「なんだよ、変なやつ」
美幸 N:ねぇ、私ね。ホントにあなたしか見えてないんだよ?
そう言ったら、あなたはどんな顔をするかな?
光太郎 N:また不安そうな顔してる。
俺から手を繋いでやるべきなのか?
美幸 N:独り占めしたい。あなたの笑顔。
ずっと同じ方を向いていたい。あなたの隣で。
切ない胸の痛みとは裏腹に、私はどんどん貪欲になっていく。
光太郎「な、なぁ……って、美幸!」
美幸 「え…?あっ――」
美幸 N:私は考え込み過ぎて、そこに階段があることに気づかず、躓いてしまった。
光太郎「大丈夫か?」
美幸 N:そう言って手を伸ばしてくる彼。
手を取り、私は立ち上がる。
繋いだ手から伝わる彼の体温は、やっぱりあったかい。
美幸 「(呟いて)好き…」
光太郎「え、なんか言った?」
美幸 「ううん、なんでもない」
美幸 N:立ち上がった後も、彼は手を繋いでいてくれた。
それについては、私も彼も特に何も言わないまま…。
ねぇ――。
≪ タイトルコール ≫
光太郎「少しは俺の気持ち、届いてんのかな」
美幸 「心もずっと繋がっていたい」
光太郎「ちゃんと、言わないとな」
美幸 「でも今は、どうか――」
光太郎「 relationship of Heart 」
(リレイションシップ オブ ハート)
美幸 「この手を離さないで…」
fin...