声劇×ボカロ_vol.24 『 おおかみは赤ずきんに恋をした 』
Wolf fall in Love with Little red riding hood
【テーマ】
許されぬ恋心
【登場人物】
志狼(15) -Shiro-
とある山に棲む若い狼。
途中、出会った赤ずきんの少女に恋をする。
桜野 あかり(14) -Akari Sakurano-
赤い頭巾をかぶり、祖母の家へお使いに行く。
道中、志狼に出会い、不思議な気持ちに襲われる。
【キーワード】
・狼と赤ずきん
・許されぬ恋
・変わらない結末
・約束の木の先で
【展開】
・祖母の家に向かう途中、黒い影を見つけるあかり。
・赤ずきん(あかり)を狙って待ち伏せる狼(志狼)。
・あかりに恋をした志狼。しかしそれは報われない恋。
・変わらない現実。叶わない願い。
☆「赤ずきんの君」と「おおかみの僕」
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
あかり N:今日は森を抜けた先にある、おばあさんの家へお使いに行くことに。
一人で行ける、って言ったのに、心配だからとお母さんが、真っ赤な頭巾を被せてくれた。
なんかこの頭巾をしてれば、大丈夫なんだって。
森の入口に来ると、薄暗い道。静まり返った空気に、不気味さを感じる。
意気揚々とおウチを出てきたのに、やっぱり不安になって、心細くなって。
私はお守り代わりとなった赤い頭巾を握りしめ、おそるおそる奥へと歩き出す。
志狼 N:最近、すごくラッキーな情報を手に入れた。
この森の先に住む少女が、一人でここを通るという。
僕は待ち伏せて、彼女の気配を探る。
久しぶりの獲物。それもとても旨そうな人間の少女。
さぁ、おいで。
そう思った刹那、遠くで揺れる赤い何か。
来た!
僕は勢いよく、獲物に向かって走り出した。
あかり N:ガサガサと木々が揺れている。
ふと振り向いた先には、ものすごいスピードで近づく黒い影。
あかり「えっ、なに!?」
志狼 「……悪く思うなよ」
あかり「きゃあああああ」
志狼 「……っ!?」
あかり N:森の獣に襲われるんだと思い、目を瞑(つぶ)りしゃがみこむ。
しばらくして目を開けると、さっきの黒い影がじっとこちらを見ていた。
その影の主に、私は怯え、声を震わす。
あかり「ひっ…!…お、おかみ…」
あかり N:じっとこちらを見たまま動かないそれは、私の声に反応してか、一歩前に出てきた。
狼に襲われていること。今しか逃げられないこと。
咄嗟(とっさ)にそう頭に過ぎった私は、足をバタつかせながら、来た道を懸命に走って逃げた。
逃げても無駄だと思っていたのに、不思議と“彼”は追ってこなかった。
* * * * *
志狼 「…なん…でだ…?」
志狼 N:なぜ襲うことを止めたのか。彼女がいたその場所に座り込み、僕は考える。
考える必要なんてないのは、自分が一番わかっていたはずなのに。
志狼 「(ため息)はぁ…。マジかよ…」
志狼 N:赤い頭巾をかぶった彼女の顔を思い出す。
いやいや、あいつは人間だ。
それがわかっているのに、それでもこの気持ちは…。
君を見たこの日、僕は君に恋をした。
それは絶対に叶うことのない恋とわかっていながら。
+ + + +
あかり N:あの日、彼を見たあの日、私は何かが始まる予感がした。
その場から逃げたのは、そう感じた自分が怖かったこともあった。
この気持ちはいったい…。
あかり「また、会えるかな…?」
あかり N:思わず口から出た言葉に、自分でも驚く。
狡賢いと言われる狼。
きっとこんな気持ちにさせることも、私を食べるための何かなんだと思うのに…。
もしこの気持ちが偽りじゃなくても、越えられない壁がある。
私は人間で、あなたは狼。
そう、あなたは狼…。
* * * * *
志狼 N:きっと今日も、君はこの道を通る。
わかっているのに、僕は姿を見せず、少し離れた木の先に隠れて、君を見守っていた。
もし君に何かあったらって思うと…。
あかり N:それで隠れてるつもり?バレバレだよ?
私は彼に気付かない振りをして、通り過ぎていった。
行きも帰りも、彼はそこにいる。でも、ただそれだけ。
私の抱(いだ)いた想いと彼の行動が同じだとしても、運命は変わらない。
残酷だって罵っても、その声は誰にも届かない。
神様も願いを聞き入れてくれない。
志狼 N:会いたいなんて、触れたいなんて、話したいなんて思わない。
ただ君を見守っていられれば…。
志狼 「…くそっ、そんなことねーのに」
志狼 N:本心はすべて逆。でもそれをしてしまったら、僕は…。
狡い僕は、かよわい君に出会ってしまう。
そうしたら、僕と君の話は、終わりに続くシナリオに入る。
だからわざと、遠回り。
あかり N:気付かない振りをして、そっと彼のいるあの木の傍へ。
一歩進めば、振り返れば、あなたに会える。触れられる。話ができる。
でもそうしないのは、彼がそれを望んでいないことがわかるから。
一本の木を挟んだそこに彼がいるのに、私はため息をついてしまった。
同じタイミングで、彼もため息。虚しく重なり、途端に愛しさが湧きだす。
志狼 N:僕は狼。
あかり N:私は赤ずきん。
志狼 N:悲しいくらいの現実が、僕らを阻む。
だからこそ、これ以上は望まない。望めない。
会えなくたって、頼りない君がいれば…。
あかり N:どれだけ考えても、おおかみと赤ずきんのエンディングは変わらない。
触れられなくたって、ぎこちないあなたがいれば…。
そう思うとなんだか悲しくなって、目から涙が零れ落ちる。
志狼 N:今までこれほど自分が狼だったことを恨んだことがあっただろうか。
できることなら、人間としてかわいい君に出会いたかった。
あかり N:できることなら、ちゃんと優しいあなたに出会いたかった。
そして結ばれたかった。
いつものあの木の先で、私は座り込んで、静かに泣いていた。
すると…。
志狼 N:僕は君の手を握る。
伸ばした腕が、手が震えている。
泣いている君を、放っておけなかった。
でも、それだけ。声をかければ、振り返ってしまえば、僕らの物語は終わってしまう。
会いたかったよ。抱きしめたかったよ。話したかったよ。
伝えたい想いは、声は、届かない。
どれだけ足掻いても、どれだけ願っても、僕のこの“爪”も“牙”も消えない。
だから…。
あかり N:あなたの優しさが伝わってくる。その温かい手から。
涙が止まらない。
どうしてこんなにも、あなたを好きになってしまったんだろう。
ねぇ、あなたは私のこと、好きですか?
志狼 N:背中越しに、君が泣いているのがわかる。
僕は狼。
あかり N:私は赤ずきん。
志狼 N:神様、どうか今日だけは、この時だけは許してほしい。
彼女の涙が止まるまで。
いつか僕のことを忘れる日が来るまで…。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
あかり「 Wolf fall in Love with Little red riding hood 」
(ウォルフ フォーリン ラブ ウィズ リトル レッド ライディングフード)
【日本語 ver.】
あかり「 許されぬ恋に落ちて 」
+ + + +
志狼 「いつか僕のことを忘れる日が…」
あかり「ちょっと待って!!」
志狼 「え?」
あかり「あなたが私に恋したんでしょう?」
志狼 「…っ!?えっと、あー。(観念したように)…はい」
あかり「そうそう、素直でよろしい」
志狼 「最後くらいビシッと決めさせてくれよ…」
あかり「いつまでもあなたばかり狡いのは、ダメってことよ」
志狼 「いや、別に狡くは…」
あかり「はいっ、じゃあ終わり!」
志狼 「おい、最後まで聞けよ!」
fin...