声劇×ボカロ_vol.23 『 しわ 』
Last piece of Life
【テーマ】
君との思い出
【登場人物】
小山 勇次(78) -Yuji Koyama-
大好きな妻に看取られながら逝った。
笑顔の素敵な男性。
《小山 勇次(18)》
だらしない面もありながら、思い切りのいい性格。
早苗と会うたびにドキドキしている。
小山 早苗(77) -Sanae Koyama-
最高の笑顔で夫を見送る。
連れ添った勇次との思い出を振り返る。
《赤城 早苗(17)》
勇次といることが楽しくてしょうがない。
毎日が幸せだと感じる。
【キーワード】
・アルバムから見える思い出
・二人の出会いとこれまでの軌跡
・「永遠の誓い」をもう一度
・約束の最高の笑顔でさよなら
【展開】
・夫との思い出を懐かしむ早苗。
・高校時代の話。二人の出会いとその後の結婚まで。
・勇次の定年を機に、再度誓いを立てる二人。
・早苗に看取られ逝く勇次。約束の笑顔で別れる。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
早苗 N:ホント懐かしい。今でも鮮明に思い出すわ。貴方と出会った日のこと。
私は古いアルバムをめくる。そこにはあの人と、幸せそうに笑う私。
あの日は、こんな気持ちになる時が来るなんて思いもしなかった。
今までも、そしてきっとこれからも、いつだって届いてほしい想い。
貴方がいたから、私は本当に幸せでした――。
* * * * *
勇次 「あー、もう!今日雨なんて予報出てたっけか!?」
勇次 N:転校初日。まさかの急な雨。んで、ずぶ濡れ。
前の学校でいろいろあったことと、親が離婚してしまったことが重なり、僕は今日から心機一転、
新しい土地で一から頑張ろうと思っていたそんな朝。
勇次 「もうサボるかなぁ。どうせこのままじゃ遅刻だし…」
勇次 N:カバンを傘代わりに走る僕。そんな時、彼女と出会った。
急に雨が止んだ。いや、これは…。
早苗 「傘忘れちゃったの?」
勇次 N:声のした方を振り返ると、そこには自分と同じくらいの年の女の子。
真っ赤な傘に僕も入れて、一緒に走る。
勇次 「えっと、そう…だけど」
早苗 「じゃあ、このまま一緒に行こう!ほら、きっとまだ間に合うし!」
勇次 「いや、でも…っ」
早苗 「……あ、ひょっとして、私と一緒だと嫌かな?」
勇次 N:立ち止まり、申し訳なさそうに僕を見る彼女。
それはない、と口にしそうになったが、言葉が出てこなかった。
好きだとか嫌いだとか、そんなことで僕は家族が離れ離れになった。
思ったことを口にしていただけなのに、友達は離れていった。
好きになった人はみんな、僕から遠のいていった。
きっと僕は、人を愛せないんだ。そんなことまで思っていたのが、少し前の僕。
だから一から、って思ってたけど、そう簡単には行かないね、やっぱり。
早苗 「よかったね、間に合って。じゃあね!」
勇次 「あ、うん。…あ、ありがと」
勇次 N:さっきは適当に誤魔化して、結局僕は彼女の傘に入れてもらい、今に至る。
とんだ転校初日だ。同じ学校といっても、そう会うことなんてないだろう。
……なんて思ったのに、どうしてだろう。
閉ざしていた僕の心のドアを誰かがノックする。
早苗 「あ、どうも」
勇次 N:移動教室。その時廊下で彼女と再会した。
勇次 「……や、やぁ」
早苗 「先輩だったんですね。次なんの授業なんです?」
勇次 N:あ、まただ…。また誰かがノックしてる。誰…か…?
あの時はわからなかった。でも今ははっきりとその理由がわかる。
きっとドアの向こうには、彼女がいるんだと。
僕の中に、失くしたと思っていた感情が蘇る。
そんな資格はないのだと、決めつけていた自分が消えてゆく。
早苗 「それじゃあ、また!」
勇次 N:彼女の笑顔が僕のドアをこじ開けた。
同時に、彼女のことを知りたい。彼女ともっと仲良くなりたい。そう思った。
なぜだかわからないけど、この時僕は、彼女とは長い付き合いになりそうな気がしたんだ。
* * * * *
早苗 N:貴方に告白されてからは、毎日がとても楽しくて。
学校に行くことがとても楽しみで。連絡がとても待ち遠しくて。
いつか言ってたよね?私とは長い付き合いになりそうだって。
うん。私もね。なぜかそんな気がしたんだ。
何回も言葉を交わすうちに、顔を合わせるうちに、いつの間にか貴方が大切な人になってた。
勇次 「じゃあお先に」
早苗 「…やだ。私も一緒に卒業する」
勇次 「(笑って)無茶言うなよ」
早苗 「わかってるけど。でもさぁ」
勇次 「それだけ僕を好きだってのは、ちゃんとわかったから」
早苗 「う、うるさいなー、もーっ」
早苗 N:ちょっぴり意地悪を言われて、真っ赤になる私。
それから何年経ったろう。お互い進学して、社会人になって。
その間もずっと、私たちは一緒だった。
笑いあって、時にはケンカして。それでもあの日の気持ちのまま。
私にとって貴方が、貴方にとって私が、一番大切な人だった。
そんな時、何気ない会話のなか、私たちはある約束をした。
勇次 「あのさぁ」
早苗 「なに?」
勇次 「もし、の話だけど、僕らのどっちかが死ぬなんてことになっても、その時は笑顔でいようよ」
早苗 「もーっ、変な冗談言うのやめてよー」
勇次 「(笑って)ははっ、悪かったって」
早苗 N:冗談だからすぐに忘れると思っていたのに、なぜだかずっと頭の片隅に残る。
勇次 「あー、それとさ…」
早苗 「ん?」
勇次 「えーっと」
早苗 「どうしたの?畏(かしこ)まっちゃって」
勇次 「結婚しよう!」
早苗 「ふぇ!?」
勇次 「結婚。しよう?」
早苗 N:貴方はそう言って私に指輪を差し出す。
嬉しくて感極まってる私に、貴方はそっと指輪をはめてくれた。
勇次 「うん、似合ってる」
早苗 N:そして『ずっと傍にいてください』と言ってくれた。
真っ赤になって、緊張した顔で。でも優しい声で。
結婚式当日。
私はこの日を迎えられたことが、本当に嬉しくて、
貴方の顔をちゃんと見られないくらい泣いちゃって。
勇次 「誓います」
早苗 N:真剣な顔で誓いをたてた貴方。私もそれに応える。
早苗 「(泣きながら)…あのね、勇次」
勇次 「ん?」
早苗 「私、いますごい幸せだよ!」
早苗 N:永遠の誓いをたてた私たち。
テイクでもギブでもない。二人で一緒に歩いていく未来。
有効期限なんてない。あるとしたら、それは――。
* * * * *
勇次 「今まで本当にありがとう」
早苗 「(泣いて)…なに、言ってるんですか…っ」
勇次 N:僕は横になった状態で君を見上げる。
隣には、すっかりしわくちゃになってしまった君。
僕は君と出会った日のことを、これまでの人生を思い出していた。
ほら、覚えてる?
しわが一つずつ増えるたびに、僕らは明日のことを考えるのが楽しかった。
早苗 N:ねぇ、覚えてます?
しわが一つずつ増えるたびに、私たちは幸せでしたよね。そして――。
勇次 N:僕らはもう一度誓いを交わす。
それは昔誓った永遠のではなく、死ぬまで一緒という誓い。
死ぬまで――。
先にお迎えが来たのは僕の方だった。
早苗 「おじいさん」
勇次 N:あぁ、そうだったね。
呼ばれて君を見ると、子供みたいに涙を流している。
それでも、いつか交わした約束どおりの笑顔を作って――。
早苗 「おじいさん…っ」
勇次 N:君は怒るかもしれないね。でも最後に見た君の顔、今までで一番綺麗だよ。
僕の頬を涙が伝う。もう、時間のようだ。
早苗 「おじい…」
勇次 「僕は幸せだ」 ※早苗のセリフに被せて言う
早苗 「さ…」
勇次 N:最愛の人に看取られ、僕は目を閉じた。
彼女の笑顔で、僕の人生のパズルは完成したんだ。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
早苗 「 Last piece of Life 」
(ラスト ピース オブ ライフ)
【日本語 ver.】
早苗 「 幸せの最後のピース 」
+ + + +
勇次 「親愛なる妻へ」
早苗 「ふふ、これも、これも…」
勇次 「僕は君と過ごせて幸せだった」
早苗 「おじいさん、いつも笑ってましたね」
勇次 「一人にさせてすまないが、先に行って待ってる」
早苗 「でも」
勇次 「でも」
早苗 「待ってる、なんて言って、まだしばらくは来るな、って言うんでしょう?」
勇次 「ほら。君は何もかもお見通しのようだ」
早苗 「だから今は」
勇次 「少しの間だけは」
早苗 「さようなら」
fin...