声劇×ボカロ_vol.22 『 bouquet 』 ※一人芝居用
Good-bye Everyday,my Trail
【テーマ】
卒業と孤独と自由と
【登場人物】
五十嵐 悠美(18) -Yumi Igarashi-
卒業した日に、思い出を振り返る。
少しでも残したものはあったのかと、自分に問いかける。
藤 瑛太(18) -Eita Fuji- ※セリフなし
夏まで悠美と付き合っていた。
別れても気まずい空気は出さず、いいクラスメイト。
【キーワード】
・忘れ物
・思い出
・出会いと勇気
・足跡と別れ
【展開】
・高校を卒業した悠美。がらんとなった教室を眺める。
・よみがえる思い出に切なくなる。
・色あせていくような自分に嫌気がさす。今よりも幸せになれる?
・過ごした時間が織りなす色彩。いろいろな想いに「さよなら」
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
悠美 N:私は今日、この学校を卒業した。
最後だからと、クラスのみんなに遊びに誘われたけど、私は断った。
最後だからこそ、私は一人で行きたい場所があったから。
悠美 「誰も…いないよね…?」
悠美 N:教室の扉を開ける。そこは私が過ごした最後の一年が詰まった場所。
一年前、この扉を開けたときの記憶が蘇る。でもそれは、夕日に染まった教室のせいで、セピア色に
見え、哀愁さえ漂っていた。
私は一つ一つを懐かしむように、教室の中に入っていく。
ふと窓際の席を見ると、笑顔で彼が笑っていた。いや、笑っているように見えた。
私はここで、彼と一年を過ごしたんだ。
消えゆく彼の幻。《卒業おめでとう》と書かれた黒板。鳴り響くチャイムの音。
少しずつ静かになっていく“今日”に、止まらない時間が私の背中を押す。
昨日までの日常には戻れないのだと、実感させられる。
悠美 「いろいろ、あったよなぁ…」
悠美 N:思い出を懐かしむというよりも、なぜだろう。
私一人、“今日”を過ごせていない。“昨日”に囚われ置き去りにされている気がした。
教室を見渡すと、思い出がパズルのように一つずつ組み合わさっていく。
…うん。あの頃は自由で、そして彼が、友達がいて、毎日がいろんな色で彩られていた。
「さよなら」も「また明日」。変わらぬ色で毎日を過ごしていた。
だからこそ思う。私がここにいた意味は、ちゃんとあったのかな、って。
彼に、あの子に、あの人の記憶の中にちゃんといるのかな、って。
誰もいないのに、問いかけてみたくなる。
ねぇ、答えて…?
いつの間にか私の頬を涙が伝っていた。一度溢れた涙はなかなか止まってくれない。
悲しいとか寂しいとか、そういう単純な気持ちだけではなかった。
明日からの日常が想像できない。
「おはよう」と言われ、笑顔になっていた自分。
廊下を駆けていた彼の背中に手を伸ばしかけた、切ない自分。
くだらないことで笑いあっていた、無邪気な自分。
幸せだったんだ。何気なく、それが当たり前だと過ごしていた毎日が、孤独とは一切無縁で。
でも卒業した今は、引き換えに自由を手に入れて。
まるで夢のような出来事。
教室をもう一度見渡して、扉を閉める。私の高校生活が、静かに幕を下ろす。
夕日に映し出される私の姿は、私の心を映しているようで、遠すぎてわからない。
悠美 「さよなら、ありがと」
悠美 N:自分の過ごした教室を、校門から見上げる。
きっと私には、これからの未来にたくさんの色がつまってる。
それでも、少しずつ織り上げていった思い出をブーケに変えて…。
あの日見上げた青い空。 (青)
教室から見た綺麗な夕日。 (橙)
彼にドキドキして真っ赤になった顔。 (赤)
うたた寝するほど気持ちよかった中庭。 (緑)
友達とケンカして、イラついた日。 (藍)
落ち込んだり、泣きたくなった日。 (紫)
笑いあった楽しい日々。 (黄)
思い出は色褪せるというけれど、どうか枯れないでと願いを込める。
私がいなくなった舞台(ステージ)に、その足跡を残して。
≪ タイトルコール ≫
悠美 「 Good-bye Everyday,my Trail 」
(グッバイ エブリデイ , マイ トレイル)
悠美 「視界にふと舞い込んだ花びら。
もう戻れない昨日へと、それは消えゆく」
fin...