声劇×ボカロ_vol.21 『 聴こえていますか 』
Unrequited Love
【テーマ】
私の気持ち届いていますか?
【登場人物】
神山 一香(19) -Ichika Kamiyama-
臣吾と同じ高校に通っていた。同じバイト先だが、大学は別。
気が強い印象があるが、すごく思い悩んでしまうところも。
戸渡 臣吾(19) -Shingo Towatari-
バイト先の先輩に恋をしている。先輩とは大学も同じ。
一香を気の合う親友としか見ておらず、一香の気持ちにも気づかない。
松井 美咲(21) -Misaki Matsui- ※セリフなし
一香、臣吾と同じバイト先の先輩。臣吾の想い人。
【キーワード】
・クラスメイト
・強がり
・長い片思い
・儚い想い、届かない気持ち
【展開】
・臣吾の好きな子への視線を見守る一香。
・好きになったきっかけの出来事(回想シーン)
・自分の気持ちを偽って接する一香。
・実らない恋。言葉にできない想い。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
一香 N:私はあなたを見るたび思う。どうして、私じゃないんだろうって。
あなたの視線を感じたい。あなたの一番近くにいたい。そう思っても、それは叶わなくて…。
ねぇ、今日もあなたは、あの人を見てるのかな…?
私の声は、聴こえていますか?
* * * * *
臣吾 「おい、おっせーぞ、一香!」
一香 「はぁはぁはぁ。危ない、危ない。ギリギリセーフでしょ?」
臣吾 「バーカ。早く着替えろよな」
一香 N:高校時代から同じバイト先で働いている臣吾は、いっつも私を小馬鹿にした態度をとってくる。
それは高校を卒業してからも変わらず、でも私はその変わらない臣吾の態度が嬉しくもあり、
寂しくもあった。
臣吾 「さぁて、今日も頑張るか」
一香 N:変わらないってことは、彼にとって私は、それ以上でもそれ以下でもないってこと。
私がどれほど彼を想っても、それはあの時から届かない。
彼と仲良くなって、ここのバイトを紹介してもらったあの時から、
彼の目には『 あの人 』しか映っていないのを私は知っている。
臣吾 「あ、美咲先輩!おはよーございまーすっ!」
一香 N:彼が美咲さんを好きなことには、すぐに気づいた。
彼が好きだから、彼のことを自然と目で追ってしまっているからこそ、気づいてしまった。
臣吾 「そういえば、昨日のこと、絶対内緒にしてくださいよ?」
一香 N:え…、なに…?…内緒?二人だけの秘密?
気にしてないつもりでも、やっぱり気になって、どうにかして彼の視線が、彼の言葉が
欲しくなって…。
でも素直になれない私は、ふざけたノリで彼をつっついて…。
一香 「もう、なにイチャイチャしてるんですか!特にそこのバカ」
臣吾 「おまえ、絶対今、臣吾と書いてバカって読んだだろ!?」
一香 「あれ?なんでわかったの?すごーい」
臣吾 「すごーい、じゃねえよ。おまえとは付き合い長いから、わかるっつーの」
一香 N:そうだね。それなのに、あなたは私の気持ちには気づかないんだよね。
それはあなたが“あの人”しか見ていないから。だから自分に向けられた想いには気づかないんだよね。
『 友達 』
あなたにとって私は、付き合いの長い、ただの『 友達 』。
だから私は、その都合のいいポジションを失うことが怖くて、結局想いを伝えられないんだ。
胸が苦しい。そう、あの時からずっと…。
* * * * *
臣吾 「おい、こら。女の子が『 俺 』なんて言うんじゃねーよ」
一香 「……誰、あんた?」
臣吾 「さっき自己紹介しただろ。つーか、せめて前後左右のやつの名前ぐらい覚えろっつーの」
一香 N:出会いは最悪だった。もともと人見知りで、周りを寄せつけないような雰囲気を出していた私は、
他人にはまったく興味がなかった。自分のことを『 俺 』なんて言うのも、誰にも関わりたく
なかった現れ。
それでも話しかけてきた臣吾に、私は初めて興味が湧いた。
というか、バカ?なんてまで思っていた。
臣吾 「せっかく綺麗な顔してんだからさ。もっとまともに話せよな」
一香 「ばっ…。お、俺はそんなんじゃねーよ。あんなキャピキャピなんてできるか」
臣吾 「キャピキャピって…。いや、別に無理して『 俺 』なんて言う必要ないんじゃね、って思った
だけだからさ」
一香 「無理なんてしてませんから」
臣吾 「ふーん。ま、こうやって友達になったんだ。今日の放課後、どっか遊びに行こうぜ?」
一香 N:本当にバカだと思った。ただそっちから話しかけてきて、それに適当に答えていただけなのに、
臣吾は私を『 友達 』だと言った。一人でいることを望んで、そうしていたはずなのに、
なぜか嬉しくて。
どこかで私は、こいつには勝てないんじゃないかと思っていた。
* * * * *
臣吾 「なぁ、一香!今日の帰り、駅前のゲーセン行こうぜ?今日は負けねーからな!」
一香 「はは。そう言っていつも負けてるのは、どこのどなた?」
臣吾 「うっせー。なんか今日は勝てる気がすんだよ!」
一香 「はいはい、言ってなさいな」
臣吾 「ぐっ…。と、とにかく!放課後、先に帰ったりすんじゃねーぞ」
一香 N:あれからというもの、臣吾は私に何かと構ってくるようになり、私はすっかり臣吾に心を許していた。
でもそれはお互いに『 親友 』としての距離であるとわかっていたし、それ以上なんて考えたことも
なかった。
臣吾 「おまえさ、最近『 俺 』って言わなくなったよな?なんで?」
一香 「はぁ?あんたが言うなって言ったんでしょうが」
臣吾 「あれ、そうだっけ?」
一香 「あんたねぇ…。まぁ、でも感謝はしてるよ。あんたのおかげで、それなりに学校も楽しいしさ」
臣吾 「……俺、何言ったんだ?」
一香 「…一生そこで考えてろ、バカ」
一香 N:こいつはいつもそう。口にすることは本心であって、でも無意識で。だから私がどれだけ救われたか
なんて知るよしもない。
# # # # #
臣吾 「おまえはおまえだろ?自分が一番楽だったらそれでいいんだよ。少なくとも、俺には肩肘はる
必要ねーぞ」
# # # # #
一香 N:別に気を張っていたつもりはなかった。でも自分が一番楽な状態。素直な気持ち。
それは『 独りは嫌だ 』ということ。最初から、見透かされていたのかもしれない。
臣吾にとっては、何気なく言った言葉でも、私にとっては世界が変わるほどで…。
一香 「いつまでそこで考えてんの?まさかここで降参?」
臣吾 「バカ、何言ってんだよ!今日はぜってー勝つ!」
一香 「バイト代、まーたすっからかんになるよ?」
臣吾 「うっせ!こっちのセリフだっつーの!」
一香 N:この頃はまだ気づいていなかったんだ。彼に好きな人がいること。そして、私の中に眠る気持ち。
ただ、彼の傍で笑っていられることが幸せで…。
* * * * *
一香 N:ねぇ、聴こえてる?
寒空の下、あなたを想うこの鼓動。
ねぇ、見てるかな?
空に光る、たくさんの星と三日月。
いつか…。いつか、あなたと見れたらいいのに…。
臣吾 「美咲さん!今度なんですけど、よかったら…」
一香 「…また、か。ホント懲りないな、あいつも」
臣吾 「えーっ。じゃあ、いつだったらいいんですか?」
一香 N:美咲さんは綺麗めのお姉さん。臣吾なんかが相手にされるはずもない…んだけど。
それがわかってはいても、羨ましいと思ってしまう。
臣吾 「いーちか。今日バイト上がりにご飯どう?」
一香 N:私には普通に接してくる。でもそこに下心なんてものはない。
見せる顔が違うから。本人は気づいてないかもしれないけど、やっぱり私はそれだけで
胸がチクリと痛む。
一香 「…あー、うん。いいよ、どこ行く?」
臣吾 「俺が決めていいの?じゃあ…」
一香 N:変なとこが敏感な彼に、気持ちを悟られないように、私は笑顔をつくる。
今はこれでいい。
もし…。もしあなたが“あの人”との恋が叶ったとしても、
どうか、お願いだから…。
ちゃんと『 おめでとう 』って言うから…。
だから…。
会わなくならないで…。
臣吾 「ふー、うまかったな。ちょっと物足りなかった気もするけど」
一香 「え、あんだけ食べといて?」
臣吾 「嘘だよ!もう食えない。無理です、むりー」
一香 N:もし…。もしあなたがこの先、失恋したり、壁にぶつかったりしたら、
『 友達 』としてでも、あなたの隣に選んで欲しいから。
世界中があなたの敵になったとしても、私は…。
いつもあなたの味方です。
臣吾 「一香、聞いてる?」
一香 「ねぇ、臣吾」
臣吾 「なに?」
一香 「あんたと私、一生こんな感じかもね」
臣吾 「腐れ縁ってやつ?いいね。頼りにしてるぜ、相棒!」
一香 N:にかっと笑って、ホントにもう。反則だってーの。
好きだよ、臣吾。大好き。
この想いが届かなくても、泣きたい日があっても、私はきっとこの関係をやめられないんだろう。
でも、それでもあなたに聞いてみたい。
私のこの想い、胸の高鳴り。
聴こえていますか?
≪ タイトルコール ≫
一香 「 Unrequited Love 」
(アン リクワイテッド ラブ)
臣吾 「届いてほしい」
一香 「振り向いて?」
臣吾 「俺はこんなにも好きなのに」
一香 「私はあなたしか見てないのに」
臣吾 「片想いはいつも、楽しくて」
一香 「辛いよ、バカ…っ」
臣吾 「おわり...」
fin...