声劇×ボカロ_vol.17 『 オリオン 』
Wish on the Starry Heavens ※星空に願いをかけて
【テーマ】
勇気をだして
【登場人物】
野上 智弥(16) -Tomoya Nogami-
人見知りなこともあってか、一人でいることの多い少年。
気さくに声をかけてきた実優に惹かれていく。
笹木 実優(16) -Miyu Sasaki-
明るくて男女問わず友達が多い。
星座を眺めることが好き。
【キーワード】
・オリオン ※すぐに見つかるオリオン座のように、目立つ存在
・初恋のもどかしさ
・夜空に光る満天の星
・星々の距離、想いの距離
【展開】
・実優の何気ない言葉で、世界が変わる智弥。徐々に実優に惹かれていく。
・実優と仲良くなった反面、実優が自分をどう思っているか気になる智弥。
・夏が過ぎ、冬が来る。まだ想いを伝えられないでいる智弥。
・実優と出会ってからを振り返る智弥。告白を決意する。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
智弥 N:高校入学早々、風邪で一週間ぐらい休んだ僕は、完全に友達を作るタイミングを逃していた。
もともとそんなに社交的な方ではなかったし、一人でいるのも苦じゃなかったから、あまり
気にしないでいた。そんなとき…。
実優 「またね、野上くん!」
智弥 「え、あ…うん」
智弥 N:一人の女子が僕に話しかけてきた。何気ない一言。
でもその声はすごく優しくて、僕らはずっと昔からの友達のようで。
びっくりしたと同時にすごく安心するものだった。
きっとあの時から、僕の恋は走り出していたんだと思う。
+ + + +
実優 「あ、おはよー、野上くん!」
智弥 「あ、おはよ」
△ △ △
実優 「今日あったかいねー」
智弥 「そう、だね」
△ △ △
実優 「あ、野上くんも帰りこっちなんだ?」
智弥 「そうだよ。僕も知らなかったから、びっくりしてる」
+ + + +
智弥 「笹木、今日委員会じゃん?終わったら一緒に帰ろうよ」
実優 「うん、いいよー」
智弥 N:最初に君が声をかけてきたあの日から、僕の中で何かが変わった。
引っ込み思案だったけど、周りとも話すようになったし、何より君と話す時間が増えた。
うまく話を返せない僕にもずっと声をかけてきてくれた君と、もっとちゃんと話したいと
思うようになった。
実優 「ねぇ、野上くん!見て見て、ほら!」
智弥 「…うわっ、すっげ」
実優 「きれーい」
智弥 N:彼女が指差したのは空。満天の星たちが僕らを見守っている。
委員会を口実にして、一緒に帰ることになって。
どうしてだろう。今日は特に星が輝いて見える。いつもはそんな気にならないのに。
実優 「野上くんは星座とかわかる?」
智弥 「いや、僕はあんまり…」
実優 「私もー。あ、でもね!一つだけあるよ、わかるやつ」
智弥 「それって今見える?」
実優 「うーんと…。あれ、ないや」
智弥 「(笑って)はは、じゃあきっとそれ僕と同じだ」
実優 「同じって?」
智弥 「オリオン座でしょ?わかるやつって」
実優 「そう、それ!」
智弥 「あれは冬の星座なんだって。(微笑んで)なんか僕もそれだけ知ってるから、さっき探してた」
実優 「へー、そうなんだぁ」
智弥 N:冬の夜空に輝く三つの星。それを中心に繋ぐ星座。それがオリオン座。
僕の認識はそれだけだったけど、まさか彼女との会話で使えるなんて思いもしなかった。
智弥 「ねぇ、笹木。もしあのよく見える星が僕だとしたら、笹木はどれ?」
実優 「私?えっとね…。あ、アレかな!」
智弥 N:彼女は宝物を探すように、目を輝かせて星を見つける。
それは『僕の星』とは随分離れていて…。
ただ僕が指差した星のように、よく見えるものを選んだのかもしれない。
でもきっと、これが今の僕らの距離感なんじゃないかって思った。
実優 「ホントきれーい」
智弥 N:最近よく話すようになって、彼女と話すことが唯一の楽しみって思えるくらいで。
恋なんてしたことない僕が、一日中彼女のことを考えてる。惹かれていってる。
だから今日は一緒に帰れて、ホントに飛び上がるくらい嬉しくて。
でもだからこそ、気になってしまう。
彼女は――君は僕のことをどんな風に思ってるんだろう、って。
『好きです』
その言葉を口にしそうになって、慌てて飲み込む。
実優 「それじゃ、また明日ねー」
智弥 N:少しでも距離が近づいててほしい。でもその答えはどこにもない。
君の胸の中以外に、それは――。
* * * * *
実優 「(息を吐いて)はぁ…。すっかり寒くなったねぇ」
智弥 「そうだね。でも早い時間で、こうして星が見れるのは悪くないかも」
実優 「あ、確かに」
智弥 N:そう言って笑顔を向けてくる君。
夏が過ぎ、冬がやってきた。
いつの頃からか、僕らは一緒に帰ることが当たり前の関係になっていた。
でも、ただそれだけ。
僕の彼女に対する想いも、僕らの距離感も、きっとあの頃と変わらない。
夜空に浮かぶ星たちは、すっかり様(さま)変わりしたというのに。
実優 「そうだ!寒くなってきたってことは、アレ!見えるかな?」
智弥 「あー。えっと……。あ、あった!」
実優 「ホントだ!きれーい」
智弥 「(笑って)くすっ」
実優 「え、なんで笑うの?」
智弥 「だって笹木、どんな星見たって同じこと言ってるじゃん」
実優 「いいじゃない、別に。綺麗なのはホントだもん」
智弥 「あははははっ」
実優 「なに、もーっ」
智弥 N:なんだかおかしくて笑いが止まらなかった。
少しずつ、ほんの少しずつ、君との距離が近づきますように。
そう願いを込めていたあの頃。その願いは叶った。
でもやっぱり、僕は君のことが好き。
他のやつと話して欲しくなくて、学校以外でも会いたくて、いつだって一緒にいたくて。
自分でもバカだと思う。だって僕は、君の恋人とかじゃないんだ。
ただの、友達。まだ…。今は…。
ひときわ輝くあのオリオンに願う。君と付き合えますように、って。
智弥 「ねぇ、笹木。あれが僕だとしたら、笹木はどれ?」
実優 「あ!この話、前にもしたよね!えっとね…アレ!」
智弥 「って、オリオン座のやつじゃん」
実優 「野上くんもオリオン座、指したでしょ?」
智弥 「そうだけど」
智弥 N:お互い一目でわかる星座を形作る3つの一等星。僕はその真ん中の星を指した。
彼女が指したのは、左下にある星。
智弥 「なんで左の星なの?」
実優 「(笑って)野上くんと私の身長差が、きっとあれぐらいかなって」
智弥 N:距離感とは違ったけど、それはそれでちょっと嬉しくもあった。
彼女の星は、まるで僕の星を少しだけ見上げて話しかけてるようだったから。
なんて、妄想しちゃダメかな?
実優 「どうかした?」
智弥 「んーん、なんでもない」
智弥 N:変わらず空を見上げ、嬉しそうに笑う彼女。
満天の星空よりも、僕には輝いて見えた。
ずっと閉じ込めてきた想い。もう長いこと待った気がする。
どうやって伝えようか、どれだけ考えても、結局伝えたいのは――。
『 君が好き 』
まわりくどい言い方なんて必要なんてない。
今のこの気持ちを、僕の、等身大のありのままの気持ちを、君に。
智弥 「笹木!」
実優 「な、なに!?」
智弥 N:君の手を握る。もう後戻りはできない。ううん、しない。
でも、心臓やばい。バックバク。
実優 「どうしたの?」
智弥 N:あのオリオンのように、君にとって一番目をひく存在になりたい。
そしてその隣で、僕の一番でいてほしい。
智弥 「俺、笹木が好きだ!」
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
智弥 「 Wish on the Starry Heavens 」
( ウィッシュ オン ザ スターリー ヘブンズ )
【日本語 ver.】
智弥 「 星の下に、君と共に 」
+ + + +
実優 「あったねー、そんなこと」
智弥 「覚えてなかったの!?」
実優 「覚えてるけど、いつ言ってくれるんだろうなって、その時思ってたから」
智弥 「へ?」
実優 「どうして私が声をかけたかわからない?」
智弥 「え、ちょ。それって…」
実優 「はい、この話おわりー」
智弥 「待てよ、実優!」
実優 「(笑って)終わりだよ、終わりー」
fin...