声劇×ボカロ_vol.16 『 夏空に咲いた花 』
Flower of Smile
【テーマ】
思い出の軌跡
【登場人物】
伊原 一成(17・19) -Kazunari Ihara-
恋人の千佳との思い出を振り返る。
少し気だるい空気を持ちながらも、気持ちは一途。
伏見 千佳(16・18) -Chika Fushimi-
無邪気な笑顔が印象的な女の子。
男のツボを天然で掴んでいることに気づかない。
【キーワード】
・あの日の告白
・花火
・日常
・思い出の軌跡
【展開】
・花火大会に行く約束をする一成と千佳。ふと蘇る、とある思い出。
・高校時代の出来事。花火大会で千佳に告白しようと胸を高鳴らせる一成。
・「友達」から「恋人」へと変わる二人の関係。
・それから2年。たくさんの思い出と未来への軌跡。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
一成 「もしもし。千佳、どうした?」
千佳 「ねぇ一成。明日の花火で、浴衣着て行こうかと思うんだけど」
一成 「着てくりゃいいじゃん」
千佳 「じゃなくて!せっかくだから、一成も甚平とか着てきてよ。持ってたでしょ?」
一成 「えー。いや、持ってるけど」
千佳 「じゃあ決まりね!」
一成 「あ、おい!千佳!」
一成 N:断る前に、ぶつりと電話を切られた。
声から伝わるワクワク感。これはもう、何を言っても無駄だな。
着て行かなかったら行かなかったで、後が面倒くさい。
一成 「……浴衣かぁ」
一成 N:どこかに仕舞ってある甚平を探しながら、俺は昔のことを思い出していた。
それは2年前。初めて千佳の浴衣を見たあの日――。
* * * * *
千佳 「お待たせー、伊原くん」
一成 「おう、おせーぞ……って。あー、だからか」
千佳 「へへー、似合う?」
一成 N:浴衣を着てきた彼女に、俺は咄嗟(とっさ)に出そうになった言葉を飲み込んだ。
それも、あまり興味ないような感じで誤魔化して。
でもホントは――。
千佳 「ねぇ、どう?」
一成 「あー、似合う似合う」
千佳 「うっわ、嘘っぽい」
一成 「いいから、ほら。人多いんだから、迷子になるぞ」
千佳 「(不貞腐れて)はーい」
一成 N:正直なところ、かなり緊張していた。視界に彼女が入るたびに“可愛い”と声を漏らしそうに
なるほど、俺は胸をドキドキさせていた。
俺は今日、彼女に―― 千佳に想いを伝える。そう決意して…。
千佳 「ちょ、ちょっと待ってっ」
一成 「あ、悪い」
千佳 「着慣れてないから大変だぁ」
一成 N:待ち合わせに遅れたのも、うまく歩けなかったから。彼女はそう言った。
これから告白を控えた自分のことばかり考えてしまい、歩き慣れない彼女に
気づいてやれなかったのは、失態だ。
だからここは思い切って…。
一成 「……ほら。手出して」
千佳 「へ?……う、うん」
一成 N:俺は彼女の手をそっと握った。
そっと、ってのはアレだ。好きな子の手を自分から握るとか、は、恥ずかしいだろ。
そんな気持ちに気づかれないように、余裕な感じで俺は。
一成 「こうして手繋いでれば、大丈夫だろ」
千佳 「(微笑んで)……うん」
一成 「離すなよ。お前すぐ迷子になるんだから」
千佳 「う、うるさい!」
一成 N:人混みの中をかき分けて、俺たちは屋台をまわる。
無邪気に笑う彼女。その姿を見るたびに、俺の心は弾んで…。
ひとしきり遊んだあと、人の少ない木陰で休憩。伝えるなら、きっと今。
シチュエーションは整った。
千佳 「楽しいな」
一成 「うん。……あ…のさ」
千佳 「ん、なに?」
一成 「好き……だよ」
千佳 「え?」
一成 「俺、千佳が好きだよ」
千佳 「(驚いた感じで息をのむ)……」
一成 「俺と、付き合ってください」
一成 N:もっといろいろシュミレーションしてた。どう言えば、うまく伝わるかなって。
でも、いざ伝える瞬間になると、口にできたのは“好き”という言葉だけ。
一番知ってほしい、伝えたい言葉。
だからどんなにありきたりでも、それだけで十分だった。
千佳 「………うん」
一成 N:彼女がそう頷いた瞬間に、大きな花火が打ち上がった。
* * * * *
千佳 N:同じクラスで、すごく気が合って。
いつしか私にとって彼の存在は特別になっていた。
そんな彼に誘われた花火大会。嬉しくて、浴衣まで着て行っちゃって。
うまく歩けなくて、迷惑かけちゃってるかなって思ってたけど。
一成 「好き……だよ」
千佳 N:最初に聞いたときは、耳を疑った。勘違いなんじゃないかって。
彼もそうだったらいいなって思ってたから、それとごちゃ混ぜになったのかなって。
でも、嘘じゃなかった。
一成 「千佳、俺と付き合ってください」
千佳 N:恥ずかしくて顔を見れない。
頷くしかできない私の背中を押すように、大きな花火が打ち上がる。
一成 「おー、すげえ」
千佳 「……きれい」
一成 「(吹き出して)ぷっ」
千佳 「(笑って)あはは」
千佳 N:さっきまで顔も見れないくらい恥ずかしかったのに、私たちは顔を見合わせて笑う。
見上げた空には、大きな花びらがハートの形のように咲く。
本当はそんな気がしただけなんだけど。
千佳 「綺麗だね。……か…」
一成 「…か?」
千佳 「(照れながら)……か、かず…なり」
一成 「っ!?」
千佳 「…や、やっぱりいきなり名前で呼ぶとか、へ、変かな…?」
一成 「(照れて)いや、別に…。俺は、いい…けど?」
千佳 「そ?よかった!」
一成 N:花火で照らされた彼女の顔は、何よりも輝いて見えた。
夏の夜空に咲いた花が、俺に勇気を、そして「大切な人」を届けてくれた。
今日から俺たちは「友達」から「恋人」へと変わる。
* * * * *
千佳 「もー、おそいー」
一成 「悪い、悪い。なんか甚平って動きずらくって」
千佳 「嘘。寝癖ついたまんまだよ?」
一成 「やべっ」
千佳 「ほら、もう。汗がすごいよ」
一成 「(気づかなかった感じ)え?あー、うん」
千佳 「でもまぁ、走ってきてくれたみたいだから許す!」
一成 「あのさ、別に忘れてたわけじゃ…」
千佳 「わかってるよ。(笑って)それよりどうせなら、もっとマシな嘘ついたら?」
一成 「え?」
千佳 「私みたいに浴衣ならともかく、甚平は動きやすいじゃん」
一成 「あー、うん」
千佳 「でもおかげで、私はあの日のこと思い出したんだけどね」
一成 N:あの日?あー、俺たちが「友達」から…。
* * * * *
千佳 N:「恋人」になった日。
千佳 「かずなり、かずなりっと」
一成 「そんな無理して呼び方変えなくても」
千佳 「ううん。私がそうしたいの」
一成 「そっか」
千佳 「うん。でも、なんか不思議な感じだよね?」
一成 「そりゃあ、まぁ、ね」
千佳 N:ずっと見ていた。気になっていた。
彼ともう一歩近づきたいなって思ってた。その夢が今日、叶った。
さっきまでと違う色で見える花火。
まるで恋人同士となった私たちを、祝福してくれるかのように、花火が次々打ち上がる。
一成 「まだ花火終わらないけど、ゆっくり歩きながら帰ろう」
千佳 「うん」
千佳 N:迷子になるからと、さっきまで自然に繋いでいた手。
もう堂々と繋いでいいはずなのに、なんだか照れくさい。
どうしてだろう。普通、逆だよね?
一成 「ホント綺麗だな」
千佳 「ね!花火見てると、日本人でよかったなーって思ったりしない?」
一成 「するする!浴衣とかも見るとそう思う!」
千佳 「これ?」
千佳 N:くるりと回って、わざとらしくポーズを取ってみる。
やっぱりちゃんと、似合うねって言ってもらいたいもん。
一成 「うん。すげー似合ってる」
千佳 N:そう、あっさりと彼は言った。
でも言った直後、目を逸らして顔を赤くして。
それを気づかれないように、顔を手で隠して。
ねぇ、バレバレだよ?
初めて彼が見せる一面に、こっちまでドキドキしてきちゃって。
千佳 「そ、そんなはっきり言われると、照れるじゃん」
一成 「なんだよ、最初はそう言ったら怒ってたくせに」
千佳 「あ、あれはすごい嘘っぽかったからっ…」
一成 N:ケンカ、なんて大げさなものじゃないけど、俺たちは黙り込む。
俺は正直、それどころじゃなかった。
一度放した手を、どうしたら自然に繋げるかなって。
もう「友達」じゃないのに、そのときよりも緊張するなんて…。
彼女の手はすぐ近くにあるのに、なんて思いながら手を差し出してみる。
千佳 「……へへ」
一成 N:その手に気づいた彼女は、照れ笑いしながら手を重ねてくれた。
彼女の手を握った時、彼女に聞こえない声で俺は呟く。
一成 「好きだよ」
千佳 「へ?なんか言った?」
一成 「んーん。なんにも」
千佳 「そ?」
一成 N:そう言って、やっぱり無邪気に笑う彼女を、俺は本当に可愛いと思った。
千佳 「ねぇ、一成」
一成 「ん?」
千佳 「これから二人で、いっぱい思い出作ろうね!」
一成 N:そうしたいと思っていた。その予定だった。
でも改めてそう言われて、やっと「恋人」になったんだって実感が湧いた。
そんな高校2年の夏――。
* * * * *
千佳 「なんだか久しぶりな気がするね」
一成 「去年は受験やら何やらで、時間取れなかったもんな、お互い」
千佳 「そうだね。毎年来ようねって言ってたのにね」
一成 「でもまたこうして来れたから、俺はそれでいいよ」
千佳 「うん、私も」
一成 N:夏空に咲く花の下で、自然と手を繋ぐ俺たち。
あれから2年。彼女との関係は、今も続いている。
たくさんの思い出を作ろう、という約束も、現在進行形。
このまま結婚しちゃうんじゃないかなってぐらい、俺は幸せだった。
だからあの日と同じように、打ち上がる花火の音で聞こえないように、俺は呟く。
一成 「好きだよ」
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
一成 「 Flower of Smile 」
【日本語 ver.】
一成 「 花火咲く、笑顔咲く 」
+ + + +
千佳 「あのね」
一成 「なんだよ?」
千佳 「私も一緒だよ」
一成 「なにが?」
千佳 「あの時も、今も」
一成 「だから何が……って!まさか…っ」
千佳 「(笑って)好きだよっ」
一成 「(照れ隠しで強引に)お、終わり!」
fin...