声劇×ボカロ_vol.15 『 夏の終わり、恋の始まり 』
Page of Summer days
【テーマ】
夏の思い出
【登場人物】
小野 紗友莉(15) - Sayuri Ono -
クラスメイトの一人に恋をする女の子。
思い切って、気になる彼を花火大会に誘う。
市川 瞬(15) - Shun Ichikawa -
無邪気な笑顔が印象的な少年。
親しみやすい存在。
【キーワード】
・触れられそうな距離
・過ぎゆく時間
・無邪気な笑顔
・始まる恋心
※ 打ち上がる花火 ←→ 紗友莉の心
【展開】
・思い切って花火大会に瞬を誘う紗友莉。
・無邪気な笑顔で花火を楽しむ瞬。それを横目で見て、顔を赤くする紗友莉。
・カラフルな花火と対照的に、心が願い・不安・妥協に染まっていく紗友莉。
・積もり積もった想いを伝える紗友莉。いろんな想いを一言に乗せて…。
【本編】
紗友莉 N:ドキドキしていた。初めて浴衣を着て、変じゃないかなって何回も鏡を見て。
今日は近所の花火大会。
ちょっと前に、冗談っぽく彼を誘ったら、なんとOKをもらって…。
紗友莉「え!?いいの?」
瞬 「うん、いいよ!待ち合わせは神社の階段のとこでいい?」
紗友莉「うん!」
瞬 「それじゃ、また明日ね」
紗友莉 N:その日は全然眠れなかった。
笑顔でOKしてくれた彼の顔が、何度もちらついて、その度にドキドキして。
好きだよ、瞬くん。
ぽろっと漏れた言葉にはっとして、私は布団で顔を隠す。
誰も見てないのに、すごく恥ずかしいよ…。
瞬 「あ、おはよ!」
紗友莉「お、おはよう…」
瞬 「どうしたの?元気ないね」
紗友莉「そそそ、そんなことないよ!」
瞬 「ホント?よかった」
紗友莉 N:うー、ずるい。その顔、反則…。
別に付き合ってるとかそういうんじゃない私たち。
だから一緒に花火大会に行くってなっても、きっと彼に大した意味はない。
でも私は、その日に思い切って告白しよう、と考えていた。
で、できるかな…?
* * * * *
瞬 「わ、浴衣だー」
紗友莉「へへ、どう…かな?」
瞬 「うん、すごく似合ってるよ!」
紗友莉「あ、ありがと」
紗友莉 N:わざとじゃないんだろうけど、彼は平気で恥ずかしいことを口にする。
聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ。
でもそんな彼だから、惹かれたのかも…。
あー、もう。顔熱いよぉ。
瞬 「花火までもうちょっと時間あるね。屋台見てまわろうか」
紗友莉「う、うん」
瞬 「お腹すいたなー。なんか食べようかなー」
紗友莉 N:そんな彼の独り言すら私には聞こえなかった。
人ごみの中で彼を見失わないように、慣れない浴衣に苦戦しながらついていく。
少し前を歩く彼の手が見える。
追いついて、彼に見えないように手を伸ばしてみるけど…。
紗友莉「やっぱり無理だよぉ」
瞬 「え、なにが?」
紗友莉「あ、ううん。なんでもないよ」
紗友莉 N:そう答えてすぐに、辺りは明るくなり、大きな音が響いた。
花火だ――。
瞬 「あ、始まった!」
紗友莉 N:屋台の人も、お客さんも、手を止めて空を見上げる。
夏の夜空に咲く花が、次々と打ち上がり、お祭りの熱はさらにヒートアップ。
同じように見上げる彼の横顔を見て、私の鼓動も早くなる。
身体が、熱い…。
瞬 「ねぇ!」
紗友莉「ふぇっ!?」
紗友莉 N:急に声をかけられ、思わず変な声が出る。
恥ずかしくて、口を隠して俯(うつむ)く私。
ゆっくりと顔を上げて、彼を見ると、そんなこと全然気にしてない感じで。
瞬 「ちょっとついてきて。こっち」
紗友莉「え、ちょ。瞬くん、どこ行くの?」
瞬 「いいから。ちゃんとついてきてね」
紗友莉「え~」
紗友莉 N:先を行く彼に追いつけるか不安で、また手を伸ばす。
でもすぐに引っ込めた。
やっぱり、無理…。
迷子になるから。慣れない浴衣だから。彼が速いから。
手を繋ぐ口実なんていくらでも思いついたけど、それよりも恥ずかしさの方が強かった。
そんなことを考えているうちに、彼は突然立ち止まる。
瞬 「ついたよ」
紗友莉「え?」
瞬 「ここならそんなに人いないし、綺麗に花火見えるよ」
紗友莉 N:そこは屋台のあった場所より、少し高台にある小道。
打ち上がる花火に照らされた彼の笑顔に、また胸が高鳴る。
瞬 「花火、見たかったんだよね?」
紗友莉 N:私のため…に…?
なんて自惚れちゃって、でもその優しさが嬉しくて。
花火なんて、あなたと一緒に過ごすただの口実だったのに。それなのに…。
瞬 「綺麗だねー」
紗友莉「…うん」
瞬 「あ、見て!きっと今度のはすごく大きいよ!」
紗友莉 N:次々と打ち上がる花火。そのすべての花火が消えて、一筋の光が空高く昇っていく。
瞬 「…まだ……まだ…。来るよ!」
紗友莉 N:彼の合図とともに、特大の花火が夜空を包み込む。
瞬 「うわっ、すごい」
紗友莉 N:無邪気に笑う彼。それを見て私は…。
あれからどれくらい、私はあなたに近づくことができたんだろう――。
* * * * *
紗友莉 N:あなたと話すようになったのは、席替えであなたが前の席になってから。
それまではただのクラスメイトだったけど、話せば話すほど、あなたの優しさと
その笑顔に惹かれていく自分がいた。
人当りがよく、誰とだって仲良くなるあなた。
そんなあなたのことを好きになる女の子の話はよく聞いていたけど。
私もその一人。
今のままでも十分楽しい毎日を、棒に振ったって構わない。
そう思うほど、このままじゃ嫌だって思うようになった。
もっと近づきたい。触れてみたい。
私の花火は、あなたの胸に届きますか?
* * * * *
瞬 「あ、今ので終わりかな?」
紗友莉「ど、どうだろう」
瞬 「綺麗だったねー。来てよかったー」
紗友莉 N:来た道を戻りながら、彼はそう話す。
どうしよう。うまく話せない。話さなきゃ、でも…。
彼を前にして、はちきれそうな想いが、言葉を紡(つむ)ぐ邪魔をする。
暗闇と静寂が、私の心を不安で覆っていく。
瞬 「そっちから帰れば、小野さんちに近いはずだよ」
紗友莉「あ、うん」
瞬 「僕はこっちだから。それじゃ」
紗友莉 N:手を振る彼の姿を見て、なんだか急に寂しくなった。
もっと一緒にいたい気持ちが溢れてきて、これで終わりなのかなって思って。
伝えようか迷っていた。でもやっぱり…。
紗友莉「ちょっと待って!」
瞬 「え?」
紗友莉 N:不意に最後の花火が打ち上がり、私たちを照らす。
彼は驚いた顔をして振り返った。
私の右手は彼の服の裾をしっかりと掴んで離さない。
脈が、速い。
伝える。伝える。伝えなやきゃ。
瞬 「どうしたの?」
紗友莉 N:今までためてきた想い。近くにいたのに言葉にできなかった。
瞬 「ん?」
紗友莉 N:早く、早く――。
きっと言ってしまえば、今よりずっとずっと楽になる。
それなのに、なかなか言葉にならなくて…。
でも、そんな今までの私とは、さよなら。
伝えなきゃ、この気持ち。
瞬 「……?」
紗友莉「えっと、あのね…。えっと…」
瞬 「ん?うん」
紗友莉「……っ。ずっとずっと、好きでした!」
瞬 N:このときの彼女のことは、今でも覚えてる。
でも君は知らないでしょ?
君のおかげで、僕も自分の気持ちに気づいたんだ。
瞬 「(嬉しそうに笑って)ははっ。あのね――」
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
紗友莉「 Page of Summer days 」
【日本語 ver.】
紗友莉「 とある夏の日の1ページ 」
+ + + +
瞬 「ねぇ、もう一度言って?」
紗友莉「えっ!?な、なにを!?」
瞬 「(意地悪な感じで)花火大会のアレ」
紗友莉「え…っと。す、すー…。す……。お、おしまい!」
fin...