声劇×ボカロ_vol.13 『 S・K・Y 』
Silent Kiss You
【テーマ】
いつだって伝えたい
【登場人物】
雪瀬 知紗(23) -Chisa Yukise-
臆病で方向音痴。でも自分の好きなことには大胆になれる。
想いを素直に口にできない自分が嫌い。
関谷 大輔(23) -Daisuke Sekiya-
知紗とは高校時代からの腐れ縁。
優しいが、たまにぶっ飛んだ行動力をみせる。
【キーワード】
・SKY ⇒ 「朔夜」「関谷」「sky(空)」「好きよ」
・「好き」と「ありがとう」
・言葉と態度と行動と
・沈黙のキス
【展開】
・大輔を見送りに行く知紗。“また”伝えられなかった想い。
・帰り際、大輔と出会ってからのことを思い出す知紗。昔と変わってない自分に苛立つ。
・「ありがとう」と言えても「好き」と言えない知紗。
・言葉にできなくても、行動で気持ちを伝える知紗。別れ際にキスをする。
真っ赤になって、恥ずかしそうに一言『好きよ』と告げる。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
知紗 N:遠くからだんだんと大きくなる電車の音。
それは“サヨナラ”のカウントダウンを刻む音。
大輔 「お、ちょうど来たな」
知紗 「そう、だね…」
大輔 「なんだよ、いつもそんなふくれっ面して」
知紗 「し、してないし」
大輔 「へー?そんな顔するなら、もう来ないけど?」
知紗 「やっ…!…あっ、いや、あの。えっと…」
大輔 「(笑って)ははは。嘘だよ、嘘」
知紗 N:そう言って笑う彼。
高校からの腐れ縁のような彼が、こうして私に会いに来るようになって5年。
でも私たちの関係は、ただの友達。それ以上なんてなかった。
ただ一言、私がたった3文字の言葉を告げれば、きっとそれも…。
大輔 「じゃあ、また来るわ」
知紗 「うん、気をつけてね」
大輔 「次は…。たぶんお前の誕生日だな」
知紗 「べ、別に無理して来なくたって…」
大輔 「いや、まぁ。なんかもう俺んなかでも恒例行事みたいになっててさ。
遠慮すんなよ。祝ってやるから。どうせ一人だろ?」
知紗 「う、うるさい」
知紗 N:また笑顔をつくる彼。
電車に乗った彼は、動き出すまでこちらを見ている。
ドアが閉まる瞬間に、声をかけようとして、また私は口を噤(つぐ)んだ。
彼と――大輔と出会ったあの頃の私は、友達として過ごす日々を笑って楽しんでいた。
なのに…。
彼に惹かれるようになって、いったい何年経っただろう。
でもまだ私は、彼に想いを伝えられないでいる。
* * * * *
大輔 N:知紗のことを知ったのは、高校1年の冬。塾の帰りに空を見上げていたとき。
ちょうど月が出ていない夜だった。
大輔 「すげー。めっちゃ星は出てんのに、月がない。えっと、確かこんな日のことを…」
知紗 「うわ、今日って朔夜だったんだぁ」
大輔 「へ?」
大輔 N:たまたますれ違った女の子。その子が口にした“朔夜”。つまり“新月の夜”のこと。
それはついさっき、俺が求めていた答え。
大輔 「ははっ」
知紗 「……?」
大輔 N:彼女をよく見れば、同じ塾の子。確か何度か見たことがあった。
彼女も俺のことを知っていたようで、思わず笑ってしまった俺に、むすっとした顔を向ける。
知紗 「な、なんですか?」
大輔 「(微笑みながら)いいえ、なんでもありません」
知紗 「私、なにか変なこと言いました?」
大輔 「……朔夜。そういや、そんなこと習ったなぁって思って」
知紗 「朔夜じたいは習ってないですよ?朔が新月と同じってのはありますけど」
大輔 「あ、なるほど」
大輔 N:このときの会話は、こんな程度だった。
でもこの日をきっかけに、俺と彼女は顔を合わせれば挨拶を交わすようになり、
次第にくだらない話もするようになっていった。
知紗 「せきやー。今度の休みって暇?」
大輔 「え?あー、うん。なんで?」
知紗 「学校の友達と遊びに行く約束してたんだけど、急にキャンセルされちゃってさ。
買い物に付き合ってよ」
大輔 「おう、りょーかい」
大輔 N:一緒に買い物に行くほどの仲。きっと周りは俺たちが付き合ってると思っていただろう。
でも実際は、ただの友達。特に知紗はそう思ってたんじゃないかな。
俺は…。
この関係を壊したくない。その気持ちの方が強かった。
知紗 「関谷は大学どこ狙ってんの?」
大輔 「こっから一番近くの国立。雪瀬は?」
知紗 「私は東京に出ようかなって思ってる」
大輔 「東京かぁ。じゃあ今までみたいに遊んだりできなくなるな」
知紗 「はは、そだねー」
大輔 N:知紗はその意味を深くは考えなかったようだった。
俺は迷っていた。
自分の中にある想いを伝えるべきなのか…。
でも今は一番大事な時期。そんなときに、彼女を悩ませることはできない。
俺は一つの答えにたどり着く。今はまだ、このままで…。
その日の夜は、あの日と同じ“朔夜”だった。
* * * * *
知紗 N:あの頃の私。何度思い返してみても、ホントに鈍感だったと思う。
恋なんてそんなの自分には無縁で、いつも友達の話を聞いているばかりだけど、
それでいいと思っていた。
大輔 「久しぶり。1年ぶりぐらい?」
知紗 N:高校を卒業して、それぞれ違う大学に進学した私たち。
それ以来、連絡のなかった彼から、ある日電話がかかってきた。
大輔 「おーい、知紗ぁ?聞こえてる?」
知紗 「…あ、うん。久しぶり」
大輔 「なんだよ、その反応。もっと嬉しそうにしろよー」
知紗 「1年も連絡して来なかったやつが何を……って、なんで下の名前!?」
大輔 「へ?俺、そう呼んでなかったっけ?」
知紗 「呼んでないし!」
大輔 「あれー?まぁ、いいじゃん」
知紗 「いいじゃん、ってあんた…。じゃあ私も大輔って呼ぶからね!」
大輔 「おう、呼べ呼べ」
知紗 「うー」
知紗 N:久しぶりに彼の声を聞いて、久しぶりにバカなやり取りをして。
名前で呼ばれて、少しドキッとしてしまったのは内緒。
なんだか悔しくて名前で呼ぶなんて言ったけど、いきなりはやっぱり…。
あれ?なんで恥ずかしいって思うのかな?
あの頃の私なら、冗談混じりでも、もっと簡単に口にできたはずなのに。
大輔 「なんかこうして話してると、会いたくなるな」
知紗 「え?」
大輔 「よし、来週そっち行くわ」
知紗 「は!?」
大輔 「詳しいことはまた連絡するなー。それじゃ!」
知紗 「それじゃって、え!?ちょ、ちょっと待っ…」
知紗 N:…てはくれなかった。
普段は割とおとなしいくせに、いざ決断すると、意味わかんなくなるくらいの行動力を発揮する。
相変わらずだな、と思いつつも、全然変わってない彼に安心してる自分もいた。
知紗 「……そっか。あいつ来るんだぁ」
知紗 N:その日の夜は、携帯を握りしめたまま眠っていた。
自分で思っていた以上に、私は彼に会いたかったのかもしれない。
そして数日後、本当に彼はやってきた。
少し垢抜けた感じがしたくらいで、他はあの頃と同じ、私の知ってる彼だった。
東京は初めてという彼のために、彼の好きそうな場所を事前に調べて、
時間の許す限り、いろんな場所を見てまわった。
途中、私の方が迷子になるというアクシデントがあったけど、彼が見つけてくれた。
情けない。申し訳ない。きっと私はそんな顔をしてたんだと思う。
大輔 「なんだよ、まだ凹んでんのか?」
知紗 「(拗ねた感じで)……別に」
大輔 「気にすんなって!知紗が変わってなくて、逆に俺も安心したし」
知紗 「なんかそれムカつく…」
大輔 「(笑いながら)そうか?」
知紗 N:彼を見送る駅で、私は電車の発車時刻を気にしながら、そんなやり取りをしていた。
大輔 「なぁ、知紗。さみしい?」
知紗 N:ふと彼が聞いてきた。
いきなり聞かれたのもあった。自分の中で、そんなこと思ったりしないというのもあった。
だから…。
知紗 「あー…」
大輔 「(笑いながら)なんだよ、その返事」
知紗 N:まったくだ。自分でもそう思った。
大輔は困ったような笑みを浮かべていたけど、聞かれたことで、逆に私は気づいたことがあった。
そっか。さみしいんだ、私。
気づいたら気づいたで、急に恥ずかしくなって、俯(うつむ)いてしまった私。
そんな私を心配して、彼は電車に乗ってから、ぽんっと私の頭に手をおいた。
大輔 「また来るから。な?元気出せって」
知紗 「ちょ、やめてよ、恥ずかしい!」
知紗 N:心を見透かされたみたいで、また恥ずかしくなって、私は彼の手を振りほどいた。
意地はって、素直になれなくて。実はずっと彼を想ってたんだって、悟られたくなくて。
そうして想いを伝えられないまま、過ぎた年月。
たった3秒だけ、たった3文字だけを口にすれば、きっと届いたはずなのに…。
* * * * *
大輔 N:知紗を好きになって、もうだいぶ経つ。我ながら、よく待ってるなと思う。
告白なんて、男からってのが普通なんだろうけど、俺はすっかりタイミングを失っていた。
思い返すのは、やっぱり高校のとき。
あの時に伝えていたら、ひょっとしたら、俺は今頃違う人に恋をして、幸せな時間を過ごして
いたかもしれない。
そう頭に過(よ)ぎることは何度もあったけど、そうしなかったのは、やっぱり俺が彼女のことを
ホントに好きだったから、なんだろう。
だから今の俺たちの関係は、中途半端だけど、それでもいいんだって思わせられるものだった。
大輔 「(ため息)…はぁ。でもこれで脈なしとかだったら、マジきつ…」
+ + + +
知紗 「大輔、コーヒーってブラックでよかったよね?」
大輔 N:あいつ、よく覚えてたな。
知紗 「ちょっと先行かないでよ!迷子になるでしょ、私が」
大輔 N:(笑って)そうだけど、わかっててやってる。
知紗 「(ため息)……はぁ。もう時間なんだね」
大輔 N:おいおい、いつもの元気はどこ行った。
知紗 「大輔!…大輔?…大輔ってば!」
+ + +
大輔 「くっ…」
大輔 N:大好きだよ、バカ野郎…っ。
同じ空の下に知紗がいる。空を見上げて思い出すのは、知紗のことばかりで。
なぁ、お前もこの空見てるか?今夜はな、やっぱりあの日と同じ…。
* * * * *
知紗 「朔夜…だ」
知紗 N:明日は私の誕生日。また彼が来てくれる。
その前日の夜。ふと星を見たくなって、ベランダから空を見上げる。
知紗 「…寒っ」
知紗 N:彼への気持ちに気づいて、あっという間に時は過ぎた。
彼は特に変わる様子もなく、もしかしたら私の一方通行かもしれない。
それでもいい加減に、自分の気持ちに決着(ケリ)をつけたかった。
素直になりたかった。
* * * * *
大輔 「あ、そうだ!あっぶね、忘れるとこだった」
知紗 「なに?」
大輔 「はい、誕生日おめでと」
知紗 「…あ、うん。ありがと」
知紗 N:プレゼントされたのは、今年もネックレス。
再会してからずっと、彼は毎年私にネックレスをくれていた。
渡すたびに「安物だけどな」と苦笑いするのは、今年も同じ。
そう、今年も、去年も、その前もずっと変わらない。
それは私も同じだった。でも今日は…。
大輔 「…じゃあ、な」
知紗 「ちょっと待っ…」
大輔 「ん?どうした?」
知紗 「……っ」
大輔 「なんだよ、もう電車出るから、そこいたら危ないぞ」
知紗 N:発車を知らせるベルが鳴る。私はそれを待っていた。
大輔 「おい、知紗。扉閉まるぞ。早く…」
知紗 N:私は彼の胸元を掴んで、引き寄せた。
知紗 「(ちゅっ)」
大輔 「…え、な…に…?」
知紗 「好きよ」
知紗 N:たった一言、私はそう口にした。
キャラじゃないのはわかってた。人前でそんなことすることじたい、バカだってのもわかってた。
でも長年彼を想いつづけたことへの決着と、私が絶対にやらないような意外性が必要だった。
どうしても、彼を手に入れたかった。
伝えたかった。嘘じゃないんだよって。
しばらくして、彼から電話がかかってきた。
大輔 「ちょ、お前っ。さっきのどういう…」
知紗 「そういうことだよ。迷惑だった?」
大輔 「誰もそんなこと言ってねーだろ!まだ駅出てないよな?そこで待ってろ!」
知紗 N:そう言うと彼は、一駅先で降りて、また戻ってくるという。
(微笑んで)ホント、決断したら早いんだから。
しょうがない。まだちゃんと返事も聞いてないし、待っててあげようかな。
《 タイトルコール 》 ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
知紗 「 Silent Kiss You 」
【日本語 ver.】
知紗 「 そっとあなたに口づけを 」
+ + + +
大輔 「いきなりですが、問題です。Y・S・Kを並び変えてできる言葉は?」
知紗 「そんなことやるな、キモイ。で、SYK。あんたのことでしょ?」
大輔 「マジかよ!え、ちょ…え~」
知紗 「はい、この問題終わり~」
大輔 「おい、待てって、知紗!もう一回…」
知紗 「(満面の笑みで)お・わ・り。ね?」
大輔 「(怯えて)はっ、はいぃ!」
fin...