声劇×ボカロ_vol.11 『 orange(少年T) 』
Glow with Orange day's
【テーマ】
君のいた日々
【登場人物】
蓮井 彰吾(15) -Shogo Hasui-
勢いで別れてしまった美紀との関係に戸惑っている。
好きなキモチに離れてから気づく。
鈴川 美紀(15) -Miki Suzukawa-
彰吾の元カノ。教室から眺める放課後の風景が好き。
彰吾との関係は一人の友人としてふっきれている。
【キーワード】
・オレンジ比喩 → 夕焼け、色褪せていく記憶、寂しげなキモチ、照らされた頬
・経過する時間と存在
・失って気づくもの
・譲れない気持ち、諦められない想い
※引きずる男、ふっきれる女
【展開】
・茜色に染まる帰り道。ぽっかりと心に穴の空いた彰吾。
・美紀と付き合っていた頃を思い出す彰吾。
・離れてから気づく本当の想い。
・素直になりたくて。でもそれはできない葛藤と戦う彰吾。
(現在)→(過去)→(過去)→(現在)
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
彰吾 N:誰もいない放課後の教室。茜色に染まる教室で、君は何かを探すように外を眺めている。
声をかけたくても、かけられない。触れちゃいけない。壊しちゃいけない。
そんな気にさせられるほど、僕の目に映る君はとても綺麗だった。
それでも、やっぱり僕は…。
美紀 「…あれ、彰吾?どうしたの、こんな時間まで」
彰吾 「いや、ちょっとね。美…紀は、まだ帰らないの?」
美紀 「うん。もうちょっと見てたいから」
彰吾 「そっか。じゃあ、また明日」
美紀 「うん、バイバイ」
彰吾 N:君の目には、いったい何が映っているんだろう。あの頃、君の目に映っていた僕は、
今はどう見えているのかな。
一人で歩く帰り道。遠くに見える黒いコンクリートの柱が、僕を誘(いざな)うようにただ立っている。
僕はいったいどこへ向かえばいいのか、不確かな未来が僕をまた、苦しめる。
あどけないあの笑顔が、もう一度見たくて…。
* * * * *
美紀 「彰吾ぉ、帰ろー?」
彰吾 「ああ、うん」
彰吾 N:入学してからずっと気になっていた子。その子が今、僕の隣を並んで歩いている。
美紀 「ねぇ、いつも何聞いてるの?」
彰吾 「え?それは…」
美紀 「ちょっと片方貸してよ、っと」
彰吾 「ぅわ、ちょ…」
美紀 「んー、あれ?これって…」
彰吾 「…っ、そうだよ。前に美紀がすすめてくれたやつ」
美紀 「ははっ、ホントに聞いてくれたんだ?いいでしょ、これ」
彰吾 「う、うん」
彰吾 N:曲がどうとかじゃない。美紀がいつも聞いている。だから…。
そんな小さなことがきっかけだったけど、僕はこの曲をいつの間にか気に入っていた。
それまで、彼女に出会うまで退屈だった日々が夢のようだった。
彼女がいればそれでいいと、本気でそう思っていた。
美紀 「はい、踏んだぁ」
彰吾 「…は?」
美紀 「知らない?影鬼」
彰吾 「いや、知ってるけど…。なに、急に」
美紀 「ふふっ、彰吾の鬼ね」
彰吾 「え、美紀…?」
美紀 「ほら、早くしないと暗くなっちゃうよー(あははっ)」
彰吾 N:こうして時々、美紀は子供みたいに無邪気に笑い、ふざける。でもそんな彼女に、僕はどこか
安心していた。と同時に、彼女を失いたくないなんて思ってしまう。
彰吾 「…(小声で)ずっとこのままいられたらいいのに」
美紀 「へ?なんか言った?」
彰吾 「う、ううん。なにも」
美紀 「そ?」
彰吾 N:呟きを誤魔化すように、僕は彼女に手を差し出した。
美紀 「…どうしたの?」
彰吾 「…っ/// いいじゃん、別に」
美紀 「ふふっ、変なのー」
彰吾 N:そう言いながらも、手をとってくれる彼女。
オレンジの景色が徐々に消えていく時間。
僕らは手を繋いでゆっくりと歩く。
まるでこの世界には、僕らしかいないんじゃないかってくらい、僕は彼女しか見えなかった。
+ + + +
美紀 「……(遠くを眺めている)」 ※呼吸音
彰吾 「…はは、また空見てる」
美紀 「……(遠くを眺めている)」 ※呼吸音
彰吾 N:どこか声をかけられない。そんな雰囲気の彼女。でも夕陽の射し込む教室に映える彼女は、
とても綺麗だった。
彰吾 「美紀、お待たせ。帰ろう」
美紀 「あ、彰吾。…うん、行こ」
彰吾 「……ん」
美紀 「だーめ。学校出たらね」
彰吾 N:外を眺めていた彼女が、遠くに行ってしまいそうな気がして、僕はまだ学校にも関わらず
手を伸ばしてみた。
反応はわかりきっていたのに、なんだかそうせずにはいられなかった。
+ + + +
美紀 「それでね――」
彰吾 N:ゆっくりと歩く帰り道。手を繋いで、彼女の体温を感じる。
繋がれた手から伝わる《彼女が傍にいる》という感覚が、僕の鼓動を早くする。
彰吾 「へー。……おっと」
美紀 「(笑いながら)ちょっと、大丈夫?」
彰吾 「あぶねー。でもこのまま転んだら、美紀も一緒に転ぶとこだった。あー、よかった」
美紀 「(ははっ)別にいいのに、それくらい」
彰吾 「よ、よくねーよ!だって美紀は…」
美紀 「ん?私がなーに?」
彰吾 「…い、いや。別にっ」
美紀 「……ふーん」
彰吾 「あっ!あ、明日も晴れればいいねー」
美紀 「(笑顔で)なにそれー」
彰吾 N:言葉につまずいただけなのに、彼女は笑ってくれる。
『大切だから』って言葉が言えなくて、でも言わなくてもきっと気づいてるんだろうなって
思ってた。
いつまでも、この幸せが続けばいいのに…。
* * * * *
美紀 N:嫌いになったわけじゃない。ちゃんとそう伝えた。
受験も近くなって、どこか余裕がなくなってきたから。
ううん、違う。
このままじゃいけない気がしたんだ。
傍にいることが、傍にいてくれることが当たり前になってしまったら、私は…。彼は――。
彰吾 「……え…っ?」
美紀 「別に無視するとかそういうんじゃなくて、話したりするのは今まで通りだよ?でもね…」
彰吾 「でも…?」
美紀 「でも、うん…。一緒に帰っても、それだけ。意味、わかるよね…?」
彰吾 「……そっか」
美紀 「うん…」
美紀 N:笑ってたけど、やっぱり寂しげだった。こうなることはわかってた。だからといって、
私まで暗くなってもしょうがない気がした。
決めたのは自分。永遠なんてなくて、夢より現実をみた私。
だから…。
だから、もし彼に伝えたいことがあるとすれば、それは――。
美紀 「(呟いて)ありがとう。たくさん、たくさん、ありがとう」
美紀 N:私は教室を出て行く彼に、そう呟いた。
* * * * *
彰吾 N:どうしてこうなったんだろう。どこで間違ったんだろう。
頭に浮かぶのはそればかりで、目を閉じれば彼女の笑顔が映る。
あの頃みたいに、幸せそうに笑う彼女は、もういない。
君を中心に世界がまわってたんだと、僕は思い知った。
彰吾 「……美紀…」
美紀 「ん?呼んだ?」
彰吾 「って、うわっ!なんだよ、いたのかよ!」
美紀 「そりゃ、同じクラスですからねー」
彰吾 「そ、そうだけど…」
美紀 「で、なに?」
彰吾 「なんでもねーよ」
美紀 「あっそ」
彰吾 N:君と別れてから、久しぶりに交わした会話。
口から出たのは、素っ気ない言葉。
伝えたいことはたくさんあるのに、今の僕にはそれができない。
離れてみて初めてわかったこと、たくさんあるのに…。
彰吾 「…あっ、ちょっと待っ…」
美紀 「もう、先行かないでよ!私も帰るってば!」
彰吾 N:伸ばした手も、声も届かない。
もう、諦めなきゃいけないんだ。君のこと。
わかってるのに、頭ではわかってるのに…。どうしてこんなに…。
彰吾 「(呟いて)苦しいよ…」
彰吾 N:結局、この時抱いた想いは、胸の奥に封印した。
顔を合わせても、特に会話らしい会話もなく、ただ時間だけが過ぎていく。
どれだけ君を想ったとしても、どれだけ君を求めたとしても、それはもう叶わない。
近づくことはない距離。一方通行の想いは、ただ遠ざかるばかりで…。
あれから2年が経った――。
その間に、僕は何度か彼女ができたけど、それも長くは続かなかった。
理由なんて、考えなくてもわかる。相手の子には、いつも申し訳なく思っていたこと。
時間が傷を癒してくれるなんて嘘だ。どんな優しさに巡り会っても、僕の心はいつも…。
彰吾 「ごめんね。女々しいって思われてもしょうがないと思う。でもやっぱり僕は…」
彰吾 N:別れ際にいつも思い出す。あの頃のことを。窓際で夕陽を見つめる彼女のことを。
彰吾 「あいつのこと好きだって気持ちは、やっぱり変わらないみたい。だから、ごめん」
彰吾 N:そう。やっぱり僕は、君以上なんてありえない。“後悔”なんて言葉で終わらせられない。
諦めなきゃ…。何度もそう思った。でも、でも…。
(後悔している状態から、今の心境に苦笑いして)
君を好きだっていう一つの気持ちには勝てないよ…、美紀…。
どうやらこればっかりは、譲れないみたいだ(笑)
君が好きだった曲を聞いて、僕は未練がましく君の姿を探す。
どこかで『久しぶり!』なんて声が聞こえないかなって、淡い期待を抱いて。
そんなこと、あるはずないのに…。
彰吾 「(ため息)はぁ…。帰るか」
+ + + +
(回想 / 5~7秒あけて)
美紀 「ねぇ、彰吾。…彰吾?彰吾ってば!しょーごー!」
彰吾 「……ん、あっ…。美紀…?」
美紀 「待っててくれたのは嬉しいけど、疲れてるなら先帰ってもよかったのに」
彰吾 「いや、大丈夫だよ。帰る?」
美紀 「うん、帰ろ!」
+ + + +
彰吾 N:あの頃言えなかったこと。今になってちゃんと伝えたかったと思うこと。
僕を好きになってくれて、ありがとう。
【タイトルコール】
美紀 「Glow with Orange day's」
彰吾 「君は僕の、初恋だったのかもね」
美紀 「あ、だからいつまでも後引いてる感じ?」
彰吾 「え、えええっ!?それ君が言う?」
美紀 「だってそうでしょ?」
彰吾 「いや、そうだけど…って、なに言わせてんだy」
美紀 「はいはい、終わり終わりー」
彰吾 「終わりって、えっ、ちょ…っ」
美紀 「早く幕下ろしてってば!お客さんこっち見てる」
彰吾 「幕下ろすとか言うなああああああっ!あとあんたらも笑うなあああああっ」
美紀 「…というわけで、最後は茶番を入れてみました。雰囲気壊しちゃってたら、ごめんね☆」
fin...