声劇×ボカロ＿vol.9 『 泣き虫カレシ 』
Cast a spell on Crybaby (訳：泣き虫に魔法をかけて)
【テーマ】
泣き虫な僕 強がりな君
【登場人物】
汐見 優希子（18） －Yukiko Shiomi－
進路に悩む高校３年生。年下の彼氏（了平）が可愛くてしょうがない。
優しくて、思い切りのいい性格。
須山 了平（15） －Ryohei Suyama－
涙もろい高校１年生。自慢の彼女（優希子）の前では強がってばかりだが、バレている。
素直で泣き虫、放っとけない。背伸びしたいお年頃。
【キーワード】
・泣き虫なカレシ
・些細なすれ違い
・自立と別れと…
・「さよなら」「ありがと」
【展開】
・二人のデートシーン。お互いの泣いてる顔を見て、笑いあう。
・優希子が浮かべる思い出。了平の思い出。
・別れの言葉を告げようとする優希子。“魔法”をかける優希子。
・手を放した優希子。最後は絶対に泣かないと決める了平。
《注意（記号表記：説明）》
「」 → 会話（口に出して話す言葉）
Ｍ → モノローグ（心情・気持ちの語り）
Ｎ → ナレーション（登場人物による状況説明）
※ただし「」との区別をつけるため、ＭおよびＮは、：（コロン）でセリフを表記する。
【本編】
優希子 Ｎ：私はうずくまる彼をそっと抱き寄せて、耳元で言った。それが、私にできる精一杯のこと
だったから…。
優希子「これで終わりね。ほら、泣かないの…」
優希子 Ｎ：楽しいはずのデートも、彼の涙を見ることが当たり前だった。
でもそれは、私たちの悲しい涙じゃなくて、泣き虫な彼の日常で…。
だから私は、一緒に泣いてあげた。
その先には、いつだって、どんな時だって、笑顔が待っていたから…。
でも、今日は…。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
了平 「…うっ、くっ…。この映画、やば…」
優希子 Ｎ：涙もろい、とかじゃなくて、泣き虫な了平。そんな彼が可愛くて、守ってあげたくなっちゃう。
そんなこと言ったら、また強がるんでしょ？あなたは。
了平 「…うっ、ひっく…、ぐすっ…。あれ、なんで…優希ちゃんも、泣いてんの…？」
優希子「さ、さぁ？なんでだろ…」
了平 「なんだよ、それー。……ぷっ、くくくっ…」
優希子「あは、あははは…！」
優希子 Ｎ：笑顔で映画館を出て、それから手を繋いで。予定していたお買い物タイム突入！
了平 「ねぇ、優希ちゃんはどれがいい？」
優希子「えー？私が選んでいいのー？」
了平 「ん、いいよ。僕、優希ちゃんとお揃いだったら、それでいいもん」
優希子「そう？じゃ～あ…」
了平 Ｎ：君とお揃いの指輪。お互いに、結婚式の指輪の交換みたいに、指にはめ合う。
やばいっ。なんかまた、泣きそう…。
優希子「あっれー？どうしたの、了平。ひょっとして、また泣いちゃう？」
了平 「ばっ…。そ、そんなことないよっ！」
優希子「へー。ホントに～？」
了平 「な、なんでにやにやしてんのさ。なんにもないって言ったろ？」
優希子「じゃあ、顔見せてよ」
了平 「……や、やだ…」
優希子「あー、じゃあやっぱり…。泣き虫」
了平 「う、うるさいなー、もーっ！」
了平 Ｎ：いつも泣いちゃってごめんね、って言いたいのに、きっと君は、そうやって謝ったら
『どうして？』って言うに決まってる。
君との別れ際だって、いくら強がっても結局泣くのは僕の方で…。
笑って、と言いながら泣いて、頭を撫でて…。
優希ちゃん、あのね。ホントはいつだって伝えたいんだ。大好きだよ、って。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
優希子 Ｎ：どうしてだろう。最近、自分のことでいっぱいだったせいか、ふとした時に、彼との
今までを思い出してしまう。
あなたに会ったのは…。
了平 「あ、あのっ！僕のこと覚えてないかもしれないですけど、よかったら今からお茶でも…」
優希子 Ｎ：記憶にはなかった。そんなことよりも、明らかに私よりも年下に見える子が、ナンパを
してきたことに驚いた。
了平 「あの…、ダメ…ですよね…」
優希子 Ｎ：涙ぐんで私を見るその姿が可愛くて、ホントにホントに可愛くて、私はokした。
優希子「私、君とどこで会ったの？全然覚えてないんだけど」
了平 「（ため息）はぁ…。ですよね…。受験に来て迷子になったやつなんて笑いのネタにしか…」
優希子「受験…？……あっ、あーっ！あの時の！？」
了平 「…は、はい」
優希子 Ｎ：恥ずかしさを通り過ぎて、また涙ぐんでいる。あれ？ってことは…。
優希子「今度高校生！？」
了平 「…そ、そうですけど。なにか？」
優希子「あ、ううん。なんでもない」
優希子 Ｎ：あなたとの出会いはこんな感じだったっけ。
確か一目惚れだったんだよね？
あの時はまさか、あなたと付き合うことになるだなんて思いもしなかった。
了平 「あの、好きです！」
優希子「へっ！？」
了平 「俺と、付き合ってください！」
優希子 Ｎ：告白の時だって、涙を見せていたね。
そんなあなたがなんだか可愛くて、でもそれ以前に私の気持ちは決まってた。
優希子「いいよ？」
了平 「え、ホントに！？やったっ、超うれしー。（ぐすっ）」
優希子「もー、泣かないの（くすくす）」
優希子 Ｎ：それから私たちは一緒にいろんなところに行った。
リードしようと手を引く彼は、結局半泣きで迷子になったって言ってきたり、
大好きなアイスを先に私が食べちゃったときも、目に涙をためていたよね。
泣き虫だな、ってホントに思ったけど、それでも私は大好きだったよ。
優希子「ねぇ、了平。髪長くなってきたんじゃない？私が切ってあげよっか」
了平 「えー、大丈夫？」
優希子「大丈夫、大丈夫。はい、座って座って」
了平 「（呟いて）ホントに大丈夫かなぁ」
優希子「いいから、お姉さんに任せなさいっ」
了平 「（納得いかない感じで）……ん、ううんっ」
優希子 Ｎ：不満そうな顔してたけど、切り終わった頃にはすっかり笑顔になってて。
そういうとこ、やっぱり子供だなって思ったりもしたけど、それが私の知る彼。
私が好きになったあなただから…。
＋ ＋ ＋ ＋
了平 Ｎ：いつも隣にいてくれて、僕を笑顔にさせてくれる。時が経てば経つほど、僕は彼女を
好きになっていく。
これからもずっと一緒だと信じて疑わなかった。それが当たり前だと思っていた。
でももっと考えるべきだった。僕自身のこと、彼女のこと。未来のこと。
今が楽しくて、幸せで。でもそれだけじゃダメなんだって考えもしなかった。
了平 「ねぇ、優希ちゃん。今日ウチに来ない？」
優希子「それは…、いわゆるお家（うち）デートってやつですか？」
了平 「そ。たまにはまったりさ、ゲームでもしようよ」
優希子「そうだね。でも対戦ゲームはしない方がいいんじゃない？」
了平 「なんで？」
優希子「負けたら泣いちゃうでしょ、了平」
了平 「泣かねーよ！」
了平 Ｎ：そうやって僕をからかう君は、ホントに楽しそうで。
泣き虫な僕と違って、ツヨムシな君に僕ができること。
それは…。
寄り添って笑顔を見せるだけ。きっとそれだけでいい。
ずっとそれでいいんだと思ってた。ずっと…。
優希子「そろそろ帰らないと…」
了平 「送ってく」
優希子「うん、ありがと」
了平 Ｎ：何度も二人で通った思い出の歩道橋。見送りはいつもここまで。
それがわかっているから、別れる時に強がってしまう。
了平 「じゃあ、またね」
優希子「…うん」
了平 「笑ってよ。僕だって同じなんだから」
了平 Ｎ：そう言って僕は、彼女の頭を撫でる。でも…。
優希子「…うん」
了平 Ｎ：彼女の様子がおかしいことに僕は気づく。
さっきまで笑っていた彼女。今までも、別れ際に泣きそうな僕を笑って励ましてくれていた。
だけど…。
了平 「…優希ちゃん？」
了平 Ｎ：黙ったまま俯いてしまった彼女に、僕はまた強がって作り笑いをしてみせる。
すると彼女は…。
優希子「さよなら、だよ」
了平 「……え…っ？」
了平 Ｎ：彼女が口にした言葉。その意味を僕は理解できないでいた。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
優希子 Ｎ：ちゃんと伝えないといけないと思った。このままじゃいけないって。
でも彼の涙を見ると、決意が揺らぐ。それでも今日は、って。私も覚悟して…。
了平 「…優希ちゃん？」
優希子「さよなら、だよ」
優希子 Ｎ：握っていた手を放し、そう呟く。目を合わせられない。
しばらく黙っていた彼。そして私の言葉をようやく理解したのか、俯き泣いていた。
手を差し伸べたかった。「冗談だよ」って言って抱きしめたかった。でも、それはできない。
私たちは見ている先が違うから。
嫌いになったわけじゃない。でもきっとこのままじゃ、彼は…。
了平 「（泣いて）ぐすっ、ぐすっ…。ううっ…」
優希子「あのね、了平…」
了平「わかってる。わかってるけど、でも…っ」
優希子「聞いて。私が今から魔法をかけるから。いい？」
了平 「……ま…ほう…？」
優希子「うん、魔法。涙が止まる魔法。私と、同じ顔をするの。こうやって…」
優希子 Ｎ：そう言って私は精一杯の笑顔を作ってみせる。
泣いていた彼も、私の顔につられるように笑顔になった。
それがいつもの笑顔じゃないことはわかっていた。でも、最後だから彼には笑ってほしかった。
泣き虫なあなたの笑顔が見たかった。私の最後のわがまま。
今までと同じように、一緒になって笑った私たちを照らすように、夕陽が眩しく輝く。
今日彼は、私を卒業する。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
了平 Ｎ：僕が子どもだったから。そう思っていた。いつも泣いていて、きっとそれが迷惑だったんだって。
でもそんなことなかった。むしろ僕のことを考えてくれた結果なんだって気づくのに、少し時間が
かかってしまった。
彼女が魔法をかけてくれたあの日から一週間後、彼女は進学のため、この地を発つことを知った。
笑顔で見送るつもりで駅に向かい、彼女の姿を見つける。
一歩ずつ近づいていく。その間に蘇る彼女とのたくさんの思い出。
優希子「ありがと、来てくれて…」
了平 「うん…。いってらっしゃい」
優希子「いってきます。じゃあね…」
了平 Ｎ：それ以上は何も言わなくて。でもお互い伝えたいことが、きっとまだある。そんな気がした。
だから扉が閉まる瞬間、僕は呟くように言った。
了平 「ありがと」
優希子「ごめんね」
了平 Ｎ：手を伸ばしても届かない、君の《好き》。伸ばした指先から零れ落ちていくそれを、
僕はずっと探していた。
でも彼女が最後に告げたキモチを知って、僕は…。
彼女を見送って、一人になる。
街灯が照らす夜の街。賑やかに行き交う人たちに隠れて、僕はそっと泣いた。
これで終わりだ。もう泣かないぞ。
そう心に決めて…。
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優希子「 Cast a spell on Crybaby 」
【日本語 ver.】
優希子「 泣き虫に魔法をかけて 」
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了平 「君と過ごした日々は、絶対に忘れない」
優希子「あなたならきっと大丈夫」
了平 「僕は魔法をかけられた」
優希子「私がかけた魔法」
了平 「いつも笑顔で」
優希子「誰かを笑顔に」
了平 「そしていつか…」
優希子「おわり...」
fin...