声劇×ボカロ_vol.8 『 ちょこまじ☆ろんぐ 』
Melting Chocolate ~ あなたはどっち? ~
【テーマ】
バレンタイン(学生)
【登場人物】
水沢 仁美(17) -Hitomi Mizusawa-
祐介のクラスメイト。祐介との仲の良さが自慢。
今年は一歩先に進みたいと思っている。
吉見 愛依(16) -Mei Yoshimi-
祐介の部活の後輩で、仁美の幼なじみ。
仁美を“ひとちゃん”と呼び、実の姉のように接してきた。
佐野 祐介(17) -Yusuke Sano-
いわゆる鈍感で無自覚な男の子。
モテない自分は、今年もチョコをもらえないと思っている。
【キーワード】
・真剣勝負
・仁美の想い
・愛依の想い
・バレンタイン当日
【展開】
・愛依の告白(仁美に好きな人ができたと告げる)
・応援すると言いつつも、内心穏やかではない仁美。
・仁美の気持ちに気づく愛依。
・当日、偶然にも同じ場所に祐介を呼び出した二人は…。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
愛依 「あのね、ひとちゃん。私、好きな人できちゃったっ」
仁美 「えっ、ほんとに!?だれ、だれ?私の知ってる人?」
愛依 「あー、う~ん。知ってるんじゃないかな。私の部活の先輩だから」
仁美 「愛依の部活の先輩って…。え、ひょっとして…」
愛依 「…うん、佐野先輩。でも私女の子っぽくないからダメかもなぁ…」
仁美 「そ、そんなことないって!愛依、可愛いじゃん」
愛依 「そ、そうかな…?あのね、応援…してくれる…?」
仁美 「(下唇を噛む感じで)…っ。もうすぐバレンタインだもんね!応援してる、がんばれっ!」
愛依 「うん!ありがとー、ひとちゃん!」
仁美 N:そうは言ったものの、どうしよう…。
姉妹のように育った幼なじみの愛依が、ウチに遊びに来るのはいつものこと。
でもまさか、そんな妹のような彼女と、同じ人を好きになるなんて…。考えもしなかった。
仁美 「……祐介…」
* * * * *
祐介 N:2月10日。今年ももうすぐ嫌な日がやってくる。そう、俺のような非モテ男子にとっては最悪な…。
だんだんと浮かれ始める生徒たち。今年こそは!と無駄に意気込むやつ。誰に渡すか相談するやつ。
俺は冷めた感じでぼそっと口にする。
祐介 「はっ、たかがバレンタイン」
仁美 「なーんて言いながら、心の中では『リア充爆発しろ』なんて思ってるんでしょーが」
祐介 「そんなの当たり前…って、仁美!?」
仁美 「あんたそんなんじゃ、いつまでたってもチョコなんてもらえないよ?」
祐介 「…うるせ」
祐介 N:クラスメイトの仁美は、気が合うというか、一緒にいるとなんだか楽なやつ。
さすがに付き合いもそれなりに長いし、義理でもくれないかなって思ったりもするけど…。
仁美 「あ、ちなみに、もし私からのチョコを期待してるんだったら諦めてね。あんたに義理はもったいない」
祐介 「うわっ、ひっでぇ」
仁美 「去年と違って後輩もできたんだし、誰かがくれるかもよ?」
祐介 「そんなに都合よくいったら苦労しねーっての」
仁美 「そんなのわかんないじゃん?」
祐介 N:いや、あの。笑顔でそう言われてもですね。
一番可能性のあるやつに、あっさり拒否された俺は、凹んだ様(さま)を悟られないように教室を出て行く。
仁美 「(呟いて)…応援、ってこういうのでいいのかな…。(深いため息)はぁ~。……ばか」
仁美 N:すっかりデコレーションされた街並みに隠すように、私は自分の気持ちを押し殺す。
溢れないように、この高鳴る鼓動を抑えつけて…。
仁美 「夢の中だと、伝えたい気持ちとかもすんなり言えちゃうんだけどなぁ…」
祐介 「え、なんか言ったか?」
仁美 「…っ!?(動揺して)ききき、聞いた…?」
祐介 「なにを?」
仁美 「いや、聞いてないならいいんだけど」
祐介 「あ、そ」
仁美 N:愛依の告白を聞いたあの日、しばらく考えた。このままでいいのかなって。
応援する。応援したい。その気持ちに嘘はない。でも…。
友達と話す彼を見る。少しずつ熱くなってくるのが自分でもわかる。
そしてこういう時に限ってこいつは…。
祐介 「ん?どうした?」
仁美 N:(呆れつつ)目を合わせてくるんだよねぇ。
強がって、なんでもないよってバシッと頭をたたいたりして。
彼に触れて熱くなった手も、赤くなった頬も、私がどうしたいのかを素直に告げる。
仁美 「(呟くように)…やっぱり無理だよ」
* * * * *
愛依 N:ひとちゃんがどんな反応するかなって思ってた。きっとひとちゃんは先輩のこと…。
でも応援するって言った。がんばってって…。
私をいつも笑顔にさせてくれる先輩。気づいた気持ちを早くプレゼントしたい。
でも…。
愛依 「ちゃんと勝負したかったのに…」
祐介 「勝負ってだれと?」
愛依 「え、あっ!せせ、先輩!?」
祐介 「俺とする?同じ短距離同士」
愛依 「いや、あのっ。えっと、それもいいんですけど…。ほ、ほら!今日はストレッチだけですし」
祐介 「だから走れなくてストレス溜まってんのかなって思ったんだけど」
愛依 「そんなことないですよー。むしろ…」
愛依 N:先輩の近くにずっといられて嬉しいです!なんて言えるわけもなく…。
その言葉を飲み込んで、私は無理やり笑ってみせた。
祐介 「むしろ?」
愛依 「なんでもないですよーだっ」
祐介 「…よかった。やっと笑った」
愛依 「え?」
祐介 「いや、なんかさ。やっぱ吉見は笑ってる方がいいなって思ってさ。その方が可愛いよ」
愛依 「……っ///」
祐介 「じゃあ俺今からミーティングだから。サボんなよ?」
愛依 N:さらりと先輩はとんでもないことを言っていった。あれでモテないっていうんだから…。
もう止まらないよ。この胸のドキドキは隠せない。
後悔しても知らないからね、ひとちゃん。
* * * * *
祐介 N:2月14日。ついにやってきた運命の日。そう、俺は今日チョコをもらえるのだ。
ただそれが安定の母親から、ということでなければどれだけ嬉しいか…。
祐介 「(ため息)はぁ…。なんかもう、浮かれてるやつらが憎いわ」
仁美 「ねぇ、祐介」
祐介 「あ?なんだよ」
仁美 「お、お父さんにあげるチョコを買いに行くから付き合ってよ」
祐介 「あー、まぁ、いいけど」
仁美 「(小声で)やったっ。(ごほん/咳払い)じゃあ、いつものところで」
祐介 「おっけー」
祐介 N:そのついででもいいから、俺にもくれよなぁ。いいじゃん、別に義理ぐらい。
あー、マジで今日一日憂鬱なんだろうな…。
放課後、部長は「今日」という日の空気を読んだのか、部活は軽いミーティングで終わることになった。
そんなことでいいのか、なんて言っても無駄だと思ったから言わなかった。それに突っ込む気力さえない。
祐介 「あー、マジでめんどくせぇ」
愛依 「先輩!」
祐介 「ん?どうした、吉見」
愛依 「今日これから予定ってありますか?」
祐介 「んー、まぁ。あるっちゃあるけど…」
愛依 「少しだけでも時間って作れません?」
祐介 「いいけど、なんか用事なら別に今でも…」
愛依 「ここじゃダメなんです!」
祐介 「お、おう…。わかった」
祐介 N:指定された時間までだいぶ時間があった。部活が早く終わることを仁美にメールして、俺はいったん家に帰る。
パートに出ている母親が、まるでサンタのプレゼントのように、机の上にチョコを置いていたのは、あえて
触れないでおこう…。
* * * * *
仁美 N:祐介からメールが届く。しばらくやりとりして、待ち合わせの時間を決める。
仁美 「…もう、なんでこんなにドキドキするの…?」
仁美 N:とびきりのお洒落をしても、霞んでしまうぐらいバレンタイン一色の街並み。
だんだんと近づいてくる待ち合わせの場所。治まらない胸の鼓動。上がる体温。
あの角を曲がれば、彼がいる。
でも早く、この想い、ちゃんと伝えたい。
仁美 「ごめんね、遅くなって」
祐介 「いや、俺もさっき来たとこだし」
仁美 「そっか」
祐介 「さて、行くか」
仁美 「え、あっ」
祐介 「どうした?チョコ買いに行くんだろ?」
仁美 「いや、えっと」
愛依 「あれ、ひとちゃん?」
仁美 「え、愛依!?」
祐介 「吉見!?え、もうそんな時間だっけ?」
愛依 「いえ、先に行って先輩を待ってようかなって思ったんですけど…。そっか、やっぱりひとちゃん」
仁美 「そ、そういうことだからっ」
祐介 「なんだよ、二人して!なにも知らない俺がバカみたいじゃん!」
愛依 「そうですよ!」
仁美 「あんたはバカなの!超がつくバカ!」
祐介 「…はぁ?意味わかんねーよ」
祐介 N:どうしたらいいかわからず俯いていると、いきなり突き出される2つの包み。
顔を上げると、そこには頬をストロベリー色に染めた二人がいて…。
仁美 「これあげる。言っとくけど、義理じゃないよ」
愛依 「先輩!ずっと好きでした!」
祐介 「え、俺に…?」
仁美 「他にだれがいるっていうのよ」
仁美 N:ここまで来たら、笑顔で渡そう。そう思ってとびきりの笑顔をつくる。
仁美 「大好きだよ、祐介!」
愛依 「先輩を好きな気持ちは私だって負けませんから!」
祐介 N:もらえるなんて思っていなかった今年のバレンタイン。それをまさか一度に2つもなんて。
そしてそれはどっちも本命で…。
ん?…どっちも本命…?
あれ、ってことは…。
《 タイトルコール 》
仁美 「Melting Chocolate」
愛依 「~あなたはどっち?~」
祐介 「も、もうちょっと待ってっ!」
愛依 「ダメです!」
仁美 「はっきりしなさいよ、男でしょ!」
祐介 「でも、あの…」
愛依 「先輩!」
仁美 「祐介!」
仁美
& 「「アイシテル!」」
愛依
祐介 「ああああああっ!!!!おわり、おわりっ!!」
fin...