声劇×ボカロ_vol.05 『 レンラクマダー? 』
Within call ( 呼べば聞こえるところに )
【テーマ】
一途な、でもすれ違う想い
【登場人物】
桧山 華凜(19) -Karin Hiyama-
連絡を断たれた蓮二を忘れられず、泣いてばかりいる。
自分からは連絡できない。
高遠 蓮二(20) -Renji Takato-
突然連絡を断った華凜の恋人。
何かを隠している様子。
【キーワード】
・連絡待ち
・言葉の真実
・「…誰よ?」
・切ない恋心、大好きな人
【展開】
・二人のデートシーン。華凜の思いつく限りのこと(後半の歌詞)をデートでする。
・過去、付き合う前の話。蓮二の告白。
・途絶えた連絡。会いたい気持ちが募る華凜。
・
【本編】
蓮二 「(息を荒くして)…わり、待った?」
華凜 「おそーい!じゃあ…、行こ?」
蓮二 「おう。ってなんでそんな引っ張るんだよ?」
華凜 「久しぶりだから!楽しみにしてたの!」
蓮二 「だからってなぁ…。少しは落ち着けって。俺走ってきたんだぞ」
華凜 「遅れた蓮二が悪いんでしょー」
華凜 N:別に非難する感じじゃなくて、笑いながら私はそう言った。
ずっと楽しみにしてたから。
今は会えたこと、ちゃんと来てくれたことが嬉しいから…。
蓮二 「お前、方向音痴なのに、よく迷わなかったな」
華凜 「え?だって蓮二があそこで待ってろって…」
蓮二 「(笑いをこらえて)くっくっく…」
華凜 「あっ!もしかして、意地悪したの!?私が迷子になるんじゃないかって!」
蓮二 「えー?いやー、そんなことねーけどー?」
華凜 「ちょっと!ちゃんとこっち見て言いなさいよ!」
蓮二 「おー、こわっ」
華凜 N:本当のところはわからないけど、蓮二は私に無邪気な笑顔を作ってみせた。
それにまたドキッとさせられて、一瞬で私はおとなしくなってしまう。
ホント、反則…。
* * * * *
蓮二 N:初めて彼女を見たとき、俺にはこの子しかいないと思った。
どこかにキッカケが落ちてないかなんて、いろいろ様子を窺ったのも今ではいい思い出。
華凜 「あと…、ちょ…っと…」
蓮二 「あれって…」
蓮二 N:とある資料室。椅子に乗って、さらに背伸びしてめいいっぱい腕をのばしてる子がいた。
そう、キッカケはここにあった。
蓮二 「…よっと。ほらよ、これでいいのか?」
華凜 「あ、ありがとう…」
蓮二 「(とっさに笑って)ぷっ」
華凜 「な、なんですか?」
蓮二 「いや、ちっちゃくて可愛いなーって」
華凜 「なっ!?私は小さくないし、可愛くもないですっ!どうも、ありがとうございましたっ!」
蓮二 N:そう言って彼女は部屋を出て行った。
知りたいことはいっぱいあったはずなのに、話せたことが嬉しくて、近くで声を聞けた
ことが嬉しくて、思わず意地悪をしてしまった。
でもその代わりに、俺の中には一つの確信が生まれた。
それから何度か廊下ですれ違うこともあり、いつの間にか俺たちはいい先輩・後輩として
お互いに接するようになっていた。
でも…。それじゃあ、ダメなんだ。それじゃあ…。
華凜 「先輩が買い出しに付き合ってくれるとか意外でした」
蓮二 「は?そりゃー、お前に誘われたら…って、どうせ俺を荷物持ちで呼んだんだろ?」
華凜 「あれ、バレてました?」
蓮二 「わかるっつーの。…あっ!なぁ、アレ見ろよ」
華凜 「なんですか?」
蓮二 「あっちの子の髪、黒くてまっすぐで綺麗じゃね?」
華凜 「…っ。せ、先輩はあーいう子が好きなんですか?」
蓮二 「いや、別に」
華凜 「そっか。よかった」
蓮二 「へ?今なんて?」
華凜 「なんでもないです」
蓮二 N:もしかして、なんて言葉が頭をよぎる。
でも期待なんてしないし、できない。だって俺はまだ彼女に何も伝えていない。
俺はこれ以上を望めない、今の関係に終止符(ピリオド)を打ちたかった。
だから…。
* * * * *
華凜 「『本当に、キミのことが、好きだ』…」
華凜 N:あの日、彼が私に送ってきたメールを口に出して読む。
もう、2年も前の話。
たくさんのメールのやりとりをして、最初に保護したメール。
私と彼の、始まり…。
待ち受けにしている彼の後姿の写真は、今でも私には眩しくて…。
蓮二 「待たせてスマン」
華凜 「ぜったいに許しませんっ」
蓮二 「なんでだよ、ちゃんと来たろ?」
華凜 「その遅刻癖、治してよねっ」
蓮二 「うん、次は遅れない」
華凜 N:…うん、夢だってわかってる。
目を開けると、部屋の天井が目に入った。
いつの間にか眠っていた私。
次は…。ねぇ、次っていつ…?
どうして連絡してくれないの…?
彼からの連絡が来なくなって、もう1ヶ月が経とうとしていた。
華凜 「蓮二…」
華凜 N:こっちから電話していいの?メールしていいの?
《…誰よ?》とか言わない?ねぇ、ねぇってば!
+ + + + +
蓮二 「ばーか。俺がそんなこと言うわけないだろ?」
+ + + + +
華凜 「会いたいよ…。もう、会えないの…?」
華凜 N:こみ上げる涙と、鳴らない携帯。画面に映るのは、あの頃の彼。
いつだって思い返す。あの言葉…。
信じずにいられたら、どれだけ楽なんだろう…。
いつか必ず連絡が来ると信じて、今日も私は携帯を握りしめて眠りにつく。
* * * * *
蓮二 「待たせてスマン」
華凜 「ぜったいに許しませんっ」
蓮二 N:夢をみた。
そこでは俺はいつものようにまた遅刻していて、彼女に手を合わせて謝っていた。
どれだけ謝っても、いつも許してくれなくて…。
いつも同じところで目が覚める。
でも今日は、その夢に続きがあって…。
そこには俺はいなくて、彼女だけがいて、ただずっと携帯を眺めていて…。
華凜 「会いたいよ…。蓮二…、もう会えないの…?」
蓮二 N:携帯を強く握りしめ、顔を隠しているけどわかる。
きっと、泣いている…。
華凜 「れ…んじ…ぃ…」
蓮二 「華凜…。ごめ…ん…っ」
* * * * *
華凜 N:もう、諦めるしかないのかな。何がいけなかったんだろう…。
私が、上手く喋れないから…? 落ち着き…ないっ、から…?
蓮二 『なんで黙ってんの?俺と一緒…、嫌…?』
華凜 N:たまに…口が悪い…から? ヤキモチばっかりだから…?
蓮二 『なーに、すねてんだよ?ほら、こっち向けって』
華凜 N:やっぱりチビで子供っぽいの嫌? スタイルよくないもんね…。
蓮二 『はは、お前、あの頃から全然成長してないのな』
華凜 N:ナイスバディじゃないから? 髪の色、やっぱりおかしい?
蓮二 『いや、似合ってると思うけどな、その色』
華凜 N:私の悪いところ、たくさん思いつくのに、いつだって浮かぶのは彼の笑顔で――。
蓮二 『ほら、華凜。おいで?』
華凜 「(泣きながら)ねぇ、治すよぉ…。治すからさぁ…。れん…じ…ぃ」
華凜 N:表示された彼の番号。あと一歩、ただそのボタンを押すだけのことが、私にはどうしても
できないでいた。
華凜 「声…、聞きたいよぉ…。会いたい…っ」
* * * * *
蓮二 N:もうどれだけ経ったんだろう。彼女に会わなくなって、彼女の声を聞かなくなって。
一日だって忘れたことはない。でも、彼女はきっともう俺のことなんて…。
そんな考えがいつも頭をよぎっていた。
自分から離れると決めたはずなのに、その想いは募るばかりで…。
夢か現(うつつ)か、その狭間で俺はいつも彼女の名前を呼んでいた。
* * * * *
華凜 N:また夢を見た。いつものあの夢――。
「待たせてスマン」って言うんでしょ?もう、夢を見ることさえつらい。
どうせ連絡なんて来ない。着信なんてない。
きっともう、蓮二は私に会いたくないんだ…。
でも…。
蓮二 「お待たせ、華凜」
華凜 「へっ?」
蓮二 「(ぶはっ)なんて声出してんだよ。ほら、行くぞ」
華凜 「えっ、あ…。うん…」
華凜 N:手を差し出され、繋いだ蓮二の手は、あの頃と同じように温かい。
黙ったままでいると、きょとんとした顔をこちらに向けてくる。
うん、いつもの蓮二だ。私の知ってる蓮二だ。
だってあなたはそんな顔をした後、いつだって…。
蓮二 「どうした?」
華凜 N:そう聞きながら、にかって笑ってくるもんね。
そんなときタイミング悪く携帯が鳴る。
もっと彼を見ていたいのに…。
そう思いつつ、彼にも促され、いったん手を放して、通話ボタンを押す。
………
え?
私は目を覚ました。視界には部屋の天井だけが映り、さっきのことは夢だったのだと思い知らされた。
華凜 「…夢の中だったけど、やっとあなたに会えた。でも、でもやっぱり…」
華凜 N:何気なく携帯を見ると、1件の着信履歴。誰だろう、と思っていると、着信が鳴った。
とっさに電話に出た私は、その声を聞いて言葉を失ってしまった。
蓮二 「華凜、俺…だけど…」
華凜 「……えっ、あ…。れん…」
蓮二 「待たせてスマン。ちゃんと、ちゃんと話すから、今から来てくれる?」
* * * * *
蓮二 N:自分で選んだはずだった。好きだけど、どうしようもないくらい好きだけど、傍にはいてやれない。
そう思って、もう連絡しないつもりだった。でもやっぱり、ダメだった…。
思い切って電話して、「誰?」って言われないかすごく不安で、でも声を聞いたらなんだかほっとして。
ちゃんと話そうと思った。自分が連絡しなかった理由も、今置かれている状況もすべて。
俺が選ぶんじゃない。彼女に選ばせるために…。
* * * * *
華凜 「失礼しまーす…」
蓮二 「おう、久しぶりっ」
華凜 N:彼がいたところ。ずっと知らずにただ泣くことしかしていなかった私。
自分のことしか考えていなかった…。
彼の方が、ずっとずっとつらい思いをしていたはずなのに…。
蓮二 「…(笑って)なんで泣いてんだよ」
華凜 「(泣きながら)だって、そんな…っ。まさか、病院にいるなんて…」
蓮二 「…うん。でもね、会うのが最期だから、お前を呼んだとかじゃないぞ」
華凜 「へ…っ?」
蓮二 「もうちょっとかかるけど、大丈夫だってさ」
華凜 「じゃあ…っ」
蓮二 「難しい手術だったらしいんだけど」
華凜 「…っく」
蓮二 「(笑いながら)俺って悪運強いらしいわ」
華凜 「…も…ぅ」
蓮二 N:まともに目線を合わせられない。でも、声が震えているのはわかる。
不安にさせたのは俺で、泣かせてしまったのも俺で…。
こんなやつのことなんか、普通愛想つかすよな…。嫌いに、なって当然だよな…。
様子をうかがうように、彼女をちらっと見てみる。
華凜 「…ずっと、会いたかったよ。ずっと、待ってたよ。だから…っ」
蓮二 N:彼女はその場でうつむき、俺が生きていることを確かめるかのように、そっと手を握ってきた。
華凜 「だから…っ」
蓮二 「……華凜…。ごめん。ほら、おいで?」
華凜 「…っ、謝らないでよぉ。もう…、もう、いいからぁ…」
蓮二 N:そういうと彼女は、崩れるように俺の腕の中に入ってきた。
しっかりと鼓動が聞こえたのだろう。彼女は泣きじゃくった。
その手はしっかりと俺を掴んで、離さない。
華凜 「…っく、…ひっく…」
蓮二 「…もう、一人にしないから。(涙を堪えながら)嫌いになんて、なれなかったよ…」
華凜 「……うん…」
蓮二 「(ぐすっ)他に好きな人見つけてくれれば、なーんて」
華凜 「…や」
蓮二 「ホント、俺バカだよな…」
華凜 「……蓮二が、いいんだもん…」
蓮二 「…うん。忘れないでいてくれて、ありがとう」
華凜 N:彼の“ 音 ”が聞こえる。彼が、確かに“ ココ ”にいる証。
蓮二 N:彼女の“ 体温 ”が伝わってくる。彼女の“ 想い ”を熱に変えて。
華凜 「だいすき」
蓮二 「うん。ただいま、華凜」
《 タイトルコール 》
蓮二 「 Within call 」
華凜 「呼んだら聞こえるとこにいてね」
蓮二 「(遮って)ばーか。離れねーよ」
fin...