声劇×ボカロ_vol.04 『 初恋の絵本 』
Light red Memories
【テーマ】
初恋
【登場人物】
合田 美桜(22) -Miou Aida-
高校時代は、おとなしいが笑顔が多かった。
気づいてないフリをするわからず屋。
芹沢 春輝(22) -Haruki Serizawa-
高校時代は、はしゃいでばかりでよく怒られていた。
ポジティブ系の意気地なし。
【キーワード】
・秘密の思い出
・10cmの勇気
・届いたはずの“未来”
・初恋のアルバム
【展開】
・昔の写真を見つける美桜。忘れていた大切な気持ちを思い出す。
・高校時代、初恋の人との思い出。
・言葉にできない溢れる気持ち。あと10cmの勇気。
・アルバムを閉じる美桜。あの日があったから今の自分がいる。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
【本編】
美桜 N:就職も決まり、引っ越しの準備をしていた時だった。私は懐かしいものを見つけた。
美桜 「あ、こんなとこにあったんだぁ」
美桜 N:押入れの奥から出てきたもの。それは、高校時代のアルバム。
なんとなく見る機会もなくて、いつの間にかしまっていた私の大切な思い出の1ページ。
パラパラとめくるたびに蘇る彼との一時(ひととき)。
今、彼は、何をしてるんだろう…。
* * * * *
春輝 「ははっ、懐かしいな」
春輝 N:思わず笑みがこぼれてしまう。それは昔の記憶をたどるには十分なもの。
それだけあの頃の彼女との思い出は、俺の人生の中でとても大切で…。
俺は携帯を取り出して、その名前を見つけると、また笑みがこぼれる。
春輝 「…あいつ、どうしてっかなぁ」
* * * * *
美桜 N:私が彼のことを知ったのは、いつだっただろう?
いつも廊下ではしゃいでは先生に怒られていて、でも見てるだけでなんだか楽しくなって。
いつの間にか私は、そんな彼を目で追うようになっていた。
春輝 「…おい、バカッ!聞こえるだろっ」
美桜 M:なに、話してるんだろ…?
春輝 「あー、もう!お前マジで黙れ!」
美桜 N:いつものようにはしゃいでて、でも私はそれを遠くから眺めているだけで。
あ、ほら。先生来たってば。
+ + + +
春輝 「あ、これ。落としたよ?」
美桜 「あぁ、うん。ありがと」
春輝 N:いくら彼女と話すきっかけを探していたといっても、我ながらなんてベタなんだ。
きっとこんなんじゃ、きっかけにすらならないんだろうな、って思っていたのに、君は…。
美桜 「……はー」
春輝 「…え、な…なに?俺の顔になんかついてる?」
美桜 「あっ、ううん。いつも目立ってる人だなって思ってたけど、こんな近くで見たの初めてだったから」
春輝 「えっ!?」
美桜 「あっ…。(焦って)ごめんね。今私変なこと言ったよね?忘れて!ね?」
春輝 「…(吹き出して)ぷっ!はははっ、なんだよ、それー」
春輝 N:彼女の一言で、緊張の糸はほぐれ、ただただ笑った。
そのときの恥ずかしそうにしている君が、実はすごく可愛いかったなんて、
死んでも言えなかったけど。
美桜 N:それから私たちは、会うたびにくだらない話をするようになり、離れて見ていた頃の私からすると、
毎日がすごく充実していた。
特に約束していたわけでもないのに、一緒に帰るようになったり、寄り道してアイス食べたり、
彼と過ごせる学校生活が楽しくて仕方なかった。
春輝 「ちょ…っ、誰だよ、書いたやつ!」
美桜 N:クラス替えで同じクラスになって、今まで以上に彼と過ごす時間が増えてきたときだった。
春輝 「また、まひろんか!?」
美桜 N:黒板には相合傘が描かれていて、そこには私と彼の名前。
そっか。そうだよね。私たちって、そう見えちゃうんだ。
周りに冷やかされたことで、顔が真っ赤になってしまう。
彼は黒板を消しながら、素っ気なく私に言った。
春輝 「……気にすんなよ」
美桜 「…うん」
美桜 N:でもね。でも、なんとなく知ってたよ。真っ赤になっていたのは私だけじゃないって。
それに…。
私は帰り道にある、街を見下ろせる場所で、それとなく聞いてみた。
美桜 「ねぇ、好きな人とかいる?」
春輝 「…うん、いるよ」
美桜 「……ふーん…」
春輝 「…そっちは?」
美桜 「いるよっ」
春輝 「…そっか」
美桜 N:そう言って、彼は黙り込んでしまった。
そのとき、私と彼との距離はわずか10cm。ちょっと手を伸ばせば、触れることのできる距離に
彼はいて。
私がもっと単純でバカな女の子だったら、きっと手を掴んでたよね。
春輝 N:みんなに冷やかされ、こんな時何を話したらいいかわからなかった俺に、彼女は…。
俺がもっと気持ちを誤魔化さずに、素直に伝えていたなら、きっと届いていたよな。
《 好き 》って一言を口にするのが、どうしてだろう…。
…すごく怖かったんだ。
+ + + +
美桜 「ねぇ、今日ちょっと寄りたいとこあるんだけど」
春輝 「おう、いいぞ」
美桜 M:好きなの。
春輝 「なーに、照れてんだよ!らしくねーな」
美桜 「なっ、ひどっ。私だって女の子なんですー」
春輝 M:好きだよ。
美桜 N:やっぱり私からは言えなくて、彼から言ってほしくて。
だって、春輝。私のこと、好きでしょ?
春輝 N:どうしても勇気が出せなくて、君は同じ気持ちだって自惚れてて。
なぁ、美桜。俺のこと、好きでしょ?
いつだって笑顔で、いつも俺の隣にいてくれて。
好きで好きでたまらなかった。
美桜 M:今も思い出すよ。あなたと出会ったことも…。
春輝 M:あの日、冷やかされたことも…。
美桜 M:きっと私の…。
春輝 M:きっと俺らの…。
美桜・春輝 「「初恋」」
* * * * *
美桜 「…もしもし?」
春輝 「よぉ、久しぶり。元気してた?」
美桜 「うん。そっちは?」
春輝 「なんとかね。あのさ、あそこ、覚えてる?」
美桜 「(微笑んで)ふふ、うん」
春輝 「久しぶりに行ってみない?二人で」
美桜 「うん、いいよ」
春輝 N:俺と彼女との思い出の場所。街を見下ろせる、あの…。
結局、俺は卒業するまでに気持ちを伝えられず、そのまま会うどころか連絡もしなくなった。
今でも思う時がある。あの時ちゃんと伝えていたら、今隣には君がいたかもしれない、って。
美桜 N:でも私とあなたの長い物語の中で、お互いが少しでもいられたなら、きっとそれは“未来”に
繋がってる。
私もあなたも、今はもう子供じゃないけど、あなたに恋したことは後悔してないよ。
思い出は重なってるよ。
春輝 N:だけどそろそろ鍵をかけよう。君に恋したことも、あの頃の思い出も、忘れるわけじゃないけど、
また前に進むために。
美桜 「お待たせ」
春輝 「おう、って。なんだよ、全然変わってないじゃん」
美桜 「あんたの目は節穴?これでも女子力磨いてるつもりなんですけど」
春輝 「ははっ、可愛くないとこも相変わらずだな」
美桜 「…たたかれたい?」
春輝 「え、いや。マジ勘弁」
美桜 N:あの頃と変わらない、私と彼との距離。でも今は、私も彼も、その手を伸ばそうとはしない。
春輝 「なぁ、俺さ…」
美桜 「んー?」
春輝 「…あー、いや。やっぱいいわ」
美桜 「なによ、もー」
春輝 「ダメ、言わない。秘密」
美桜 N:そう、秘密…。
私は気づいていた。きっと彼も同じことを言いに来たのだと思ったから。
今は思い出話にふけるより、ただこうして彼と、ここにいるだけでよかった。
口にしなくても、きっと、私と彼の絵本は同じページを開いてる。
春輝 「じゃあ、またな」
美桜 「うん。風邪とかひかないように」
春輝 「おう、お前もな」
美桜 N:彼に初めて会った時と同じように、桜が舞っていた。
一つだけ違うのは、私たちは背中を向けて歩き出したということ。
美桜 「……またね」
美桜 N:もう振り返ることのない彼に、私はそう呟いた。
《 タイトルコール 》 ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
春輝 「 Light red Memories 」
【日本語 ver.】
美桜 「 桜色の思い出 」
+ + + +
春輝 「しっかし、春カップルとか単純だっつーの、まひろんも」
美桜 「おわりー」
fin...