声劇×ボカロ_vol.54 『 Snowmotion 』
Piece of Memories
【テーマ】
もしも願い事が叶うなら
【登場人物】
佐々木 愛結(20) -Ayu Sasaki-
高校時代、好きな康太と友達より先の関係になれなかった。
今も“友達”としての関係は続いている。
小林 康太(20) -Kota Kobayashi-
地元から離れた大学に通っている。
愛結とは高校の元クラスメイト。
【キーワード】
・再会
・願い事
・あの頃と今と
・冬のカケラ
【展開】
・年末の帰省より少し早く地元に帰ることになった康太。駅前で待っていた愛結。
・康太の変わらない仕草に、閉じ込めていた想いが甦る愛結。
・嬉しい事も悲しい事も、思い出してはつらくなり、それでも忘れられずにいる愛結。
・一番康太を知る存在でありながら、その想いを諦めた愛結は…。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
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愛結 N:嬉しかったこと、悲しかったこと。たくさんの思い出の中には、いつもあなたがいた。
思い出の中にはいても、今はどこにもいない。
思い出せば思い出すほどつらいだけなのに、忘れられなくて、変わらず好きな気持ちを、
切なさを抱きしめていた。
今年も、もう終わる。
だからこそ改めて気付く。星の綺麗な季節が今年もやってきたんだ、って。
* * * * *
康太 「(疲れた感じで)はーぁ、着いたー」
愛結 「おかえり、康太」
康太 「え?…あぁ、愛結!?」
愛結 N:康太のお母さんに偶然会って聞いていた。
今日の夜、康太が帰って来るって。
康太 「久しぶり、だよね。高校卒業以来?」
愛結 「そうだねー。意外と会わないもんだねー」
愛結 N:地元から遠く離れた大学に通う康太は、夏休みとか年末とか、そういう時にしか帰って来ない。
私はずっとこっちだから、帰って来たら来たで連絡くらいあるものだと思っていた。
高校時代、仲のよかった一人としては、あって当然とさえ思っていた。
康太 「去年は年末ギリギリまで大学の友達と遊んでたからね。年明けてもすぐに帰ったし。
他のやつともほとんど会えてないから、今年は早めに帰ってきた」
愛結 「そうなんだ」
康太 「年明けに同窓会やら成人式もあるけど、せっかくなら遊びたいし」
愛結 N:2年振りの康太は少し大人っぽくなったような気がした。
ここより都会の大学に行ったからなのか、ただ私がずっと会っていなかったせいなのか。
理由はわからないけど、ちょっと新鮮だった。
康太 「でもよくわかったね、今日帰って来るって」
愛結 「そう、それ!連絡してくれたっていいじゃん!」
康太 「あー、ごめんごめん。ずっと連絡とってないと、なんかしずらくてさ」
愛結 「別に気にしなくていいのに。……夕方たまたまおばさんに会って、それで聞いたの」
康太 「だからか。急に母さんが迎え行けなくなったって寄越したのは」
愛結 N:おばさんがなんて連絡したのか詳しく聞きたかったけど、ひとまずスルー。
康太 「歩いて帰れる距離だからいいけど、愛結が来なかったら、この時期きつかったよね」
愛結 「なんで?」
康太 「だってさ、周り見てみなよ。時期が時期だししょうがないんだろうけどさ。カップルばっか」
愛結 「まー、もうすぐクリスマスだからねー」
康太 「帰り道とはいえ、大通りを一人で歩く方の身にもなってほしいもんだよ、ホント」
愛結 N:『あーあー、やだやだ』と言って、康太は先に歩いて行った。
大人っぽいってのは訂正した方がいいかな?
そういえば、と私は前から気になっていたことを口にした。
愛結 「ねぇ、ちゃんと学校行ってる?」
康太 「……行ってるよ」
愛結 「えー?だって康太、一人で起きれないじゃん」
康太 「もう大人ですからぁ、僕も」
愛結 「へー」
康太 「その顔、信じてないね?」
愛結 N:もちろん、と言いかけてやめた。
だって変わってないんだもん。嘘をつく時に左手で口を隠す癖。
その仕草になんだか嬉しくなって、でもそれを悟られないように私は目をそらした。
+ + + +
愛結 「で?なんで今日遅刻?」
康太 「……昨日遅くまでゲームしてて」
愛結 「嘘。目泳いでる」
康太 「ホントだって!」
愛結 「それ一昨日の話じゃん。でも昨日はちゃんと間に合ってたよね」
康太 「え、えぇと…」
愛結 「それに日付変わる前くらいから、返事来なくなったけど?」
康太 「あ、あぁ…あっれ~?なんで、っかな~?」
愛結 「おばさん達、今日朝からいないんでしょ?そう言ってたじゃん」
康太 「あー、はい。そうですね」
愛結 N:急に誤魔化すのをやめて、どこか堪忍したように康太は答え始めた。
愛結 「電話してって、昨日頼んできたよね」
康太 「そうですね」
愛結 「私、ちゃんと電話したよね」
康太 「そうですね」
愛結 「もう起きたから大丈夫って言ったよね」
康太 「そうですね」
愛結 「………え?」
康太 「ごめんなさい」
愛結 N:私たちはよくある仲良しグループの二人で、他の人たちよりは近い距離の関係だった。
周りからは、なんで付き合わないんだとか、お似合いだとか冷やかされていたけど、
私の一方通行だってことはわかっていたから。彼の態度が、私を恋愛対象に見ていなかったから。
康太 「なんで愛結にはすぐバレんの?」
愛結 「さぁ?なんでだろうね」
康太 「今日だけじゃなくて、他もそうじゃん」
愛結 N:ずっと見てたから。好きになって、一緒にいたくて仲良くなって、それで気づいたことだから。
嘘つく時、左手で口を隠すこと。
……なんて言えるはずもなく、私は話題を変える。
愛結 「ね、それでどこ連れてってくれんの?」
康太 「は?」
愛結 「私の電話を無駄にしたお詫び!」
康太 「いやいやそれは!」
愛結 「楽しみにしてるね!」
康太 「ちょっと待って!今月ピンチで」
愛結 N:ほんと、なんで私たち友達のままなんだろ。
こんなやり取りばかりだと、ちょっとくらい期待してしまう。
ちゃんと見てほしい。意識してほしい。……好きになってほしい。
そうしてそのまま、私たちは卒業を迎えた。
+ + + +
康太 「あー、降ってきた。寒いと思ったら」
愛結 N:降り始めた雪は、彼の吐息を白に染めて、夜空に溶けていった。
康太 「愛結!強くなる前に帰ろう」
愛結 N:懐かしい仕草、優しい声。変わったようで、変わっていない。
もしも願い事が一つ叶うなら、あの日に戻りたい。
そう思うのは、少し先を歩く彼の背中から、まるで想いが溶け出したように、冬のカケラが
溢れ出て見えたから――。
* * * * *
康太 「あーゆー。置いてくよー」
愛結 「……ねぇ、ちょっと寄り道しない?」
康太 「えぇ…?」
愛結 「予報だとこれ以上降らないっていうしさ」
康太 「疲れてんだけど」
愛結 「いいじゃん、久しぶりなんだから。それにこの道歩いてたら、なんか懐かしくなっちゃって」
康太 「あぁ、言われてみれば」
愛結 N:私にとってはいつもの道。でも康太と一緒に歩いてるってだけで、途端に懐かしく思えた。
寄り道なんて口にしたのは、それだけが理由じゃないけど。
“もしも願い事が一つ叶うのなら”。
願いは変わらない。あの日の二人に戻りたい。
だけどたとえ叶うとしても、まだ少しこのまま。
それぞれの場所で生きてきた、今の私たち二人で――。
康太 「どっか座る?」
愛結 「うん」
康太 「……はぁ!疲れたー」
愛結 「お疲れ様」
康太 「まだ着いてないけどね」
愛結 「ごめんね、ワガママ言って」
康太 「別にいいよ。嫌ならちゃんと言うし」
愛結 N:そう言った康太は空を見上げた。
なんだかんだ言って、いつも私のお願いを聞いてくれる。
そんな康太だから、再会した今、試してみたくなったのかもしれない。
あの頃と何か変わったかな、って。
私への態度、扱いが変わってたりしないかな、って。
淡い期待は吐息とともに、夜空に溶けてゆく。
愛結 「(呟いて)……なぁんだ」
康太 「なに?」
愛結 「ううん、なんでもない」
康太 「そっか」
愛結 「うん」
愛結 N:誰よりも康太を知っている自信があるのに…。ううん。
自信があるからこそ、諦めていた。
その仕草もその顔も、私だけに向けられたものじゃなくて、彼自身そのものだから。
それが“小林康太”っていう、一人の人間そのものなんだ、って。
康太 「……うぅ~、さっむ」
愛結 N:こうして座っていれば同じ方を向いてるのに、ただそれだけ。
声をかけて、振り向いて目を合わせれば、彼の気持ちなんて一秒でわかってしまうのに、
それだけ彼をわかっていても、私の一方通行でしかない。
ほんの数センチ隣にある手。これに触れてしまったら、きっと――。
あの日を思い出して、再会して、やっぱりまだ好きなんだって気持ちが、心が溶け出してしまう。
彼に流れ込んでしまう。それならいっそ…。
康太 「さて、そろそろ行こうか」
愛結 「ねぇ、康太」
康太 「ん?」
愛結 「(笑いながら)彼女できた?」
康太 「うるさい、黙れ」
愛結 N:それならいっそ…。でもダメだった。私には勇気がなかった。
この場で手に触れることも、想いを告げることも、何もかも…。
愛結 「えー?向こうで気になる子とかいないのー?」
康太 「い、いないって!」
愛結 N:あ、また…。
私は気付いてしまった。なんでそんなにわかりやすいの…?
あえて“向こうで”って指定したのに、今日2回目のあの癖。
康太 「(ボソボソと)まったくなんでわかるんだよ」
愛結 「……(呟いて)そっか」
康太 「あれ?なんか言った?」
愛結 「んーん。なんでもない!ほら、もう行こ!おばさん待ちくたびれてるよ!」
康太 「愛結のせいだろ!!」
愛結 N:もしも願い事が一つ叶うのなら、か。
やっぱり私の願いは変わらない。あの日の二人に戻りたい。そして、その時は――。
思い出も気持ちも後悔も胸にしまって、先を行く彼を見る。
背中から溢れ出ていたはずの欠片は、もう空に消えていた。
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愛結 「 Piece of Memories 」
( ピース オブメモリーズ )
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愛結 「オモイデカケラ」
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康太 「どうしたの?」
愛結 「あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど…」
康太 「うん、なに?」
愛結 「……っ。やっぱなんでもない!」
康太 「え、気になるじゃん。いいよ、言って」
愛結 「いいの!!もう、いいから!ほら、教室戻ろ!!」
康太 「わかったから!押すなって!」
愛結 N:いつもの二人。それが私たちのちょうどいい距離。
でもいつか、いつかちゃんと伝えなきゃ。
大好きだよ、って――。
fin...