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声劇×ボカロ_MDV-M
第2章 ミーティア
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第5話 《 夢の傷跡 》
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【登場人物】
ミク 16歳
記憶を失くした少女。
囚われの檻から脱出し、ザインらと行動を共にする。
ザイン 24歳
決まった場所に留まることを嫌い、世界中を旅している。
所有物であるアイナを同じ人間のように接する。
アイナ 16歳
他と比べて感情豊かなヒューマノイド。
ザインがいろいろ教えてることもあり、何かと有能。
ロレン・アルロス 25歳
戦闘兵器"スカイシェル"に乗り、シンガ王国へ侵攻中。
前線の指揮を任されている"アルアクロス"の隊長。
ギルス・マドラー 25歳
皇帝からの極秘任務を引っさげ、前線に合流する。
もう一つの"スカイシェル"部隊、"マッドギア"の隊長。
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| トライアド遺跡 |
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|シンガ王国領にある地下遺跡。入口が3つあることが名前の由来とされている。 |
|遥か昔に存在したとされる超高度文明の遺物が多く、未だ完全解明されていない。 |
|中は迷路のように広大なため、命知らずが足を踏み入れる場所と揶揄する者も多い。 |
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《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。
【本編】
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ザイン「そこ崩れてるぞ。気をつけろ」
アイナ「はい」
ミク 「ねぇ、どこまで行くの?」
ザイン「連中が入口を見つけて、追って来ないとも限らん。こちらに気づいてはいないだろうが、あのまま
あそこにいるよりはマシだろう」
ミク 「それもそう…だね」
ザイン N:……とは言ったものの、だ。
前に一度来たことがあるとはいえ、この遺跡の中は迷路のように複雑に入り組んでいる。
電灯なんてないから、明かりは手持ちのライトだけ。
でも俺は運がよかった。前回来た時にはもうアイナと一緒だったからだ。
アイナ「マスター。その先を右です」
ザイン「やっぱ覚えてたか」
アイナ「はい。前回ここに来た時に、入口からのルートはマッピングしていました。ただ…」
ザイン「ん?」
アイナ「……やはり」
ザイン「なんだよ?っと、行き止まりか」
アイナ「いいえ。本来ならこの先にも道が続いていました。ですが先ほどから、同様のことが起こっています」
ミク 「え、どういうこと?」
ザイン「……ちっ。落盤か。さっきのはでかかったからな」
アイナ「わかりません。少なくともここの瓦礫は、崩れてからだいぶ経っているようですね」
ザイン「元々ここは迷路みたいなもんだからな。道を間違えれば、永遠に地上には出れんぞ」
ミク 「え、やだ!」
ザイン「俺だって勘弁だ。アイナ、ひとまずマッピングは継続しろ。トライアドって言われてんだ。残りの
二つに続く道もきっとあるはずだからな」
アイナ「はい」
ザイン N:せめて明かりがあれば…。そう思った。
手持ちのライトだけでは、進行方向を照らすだけで精一杯だ。
鉱山なんかで使われてるヒューマノイドには、ライトが装備されてるらしいが、生憎アイナには
付いていない。それは本人にも確認済みだ。
機械だからこそ、なんでもかんでも付けることはできなくはなかった。
しかし俺がそれを拒んだ。たとえ機械であっても、命は命。
人と同じように過ごしてほしいという願いがあったから、今のアイナがある。そう信じたい。
ミク 「アイナ、どこまで戻ったらいい?」
アイナ「そうですね…」
ザイン「……ミク。悪かったな、さっきは。少し強く言いすぎた」
ミク 「ううん。ザインの言う通りだよ。助けたいって気持ちだけじゃ、誰も助けられないって」
ザイン「そうだ。まずは自分があって、それから誰かに手を伸ばせるんだ」
ミク 「うん。私が壊れちゃったら、それで終わりだもんね」
ザイン「ああ。………ん?」
ミク 「それでアイナ。道は見つかった?」
アイナ「先ほど右に曲がって来ましたので、そこまで戻って直進しましょう」
ミク 「だって、ザイン」
ザイン「あ、ああ」
* * * * *
ロレン「抵抗する者は容赦するな!敵も我々の動きに気づいてるはずだ!警戒は厳に!」
ロレン N:見るからに小さな村だった。
ミウジック山脈があるとはいえ、シンガはあまりに無策だと感じた。
自然の要塞を過信しすぎだ。我々は空を統べる者。
ロレン「定刻通りなら、まもなくやつらも来る!不甲斐ない働きを見せてくれるなよ!」
+ + + +
ギルス「こりゃまた派手にやったな、ロレン」
ロレン「そうかい?君にだけは言われたくないな」
ギルス「あれは?」
ロレン「ん?ああ、降伏してきた人たちだね」
ギルス「それらしいのは……いないか」
ロレン「どうかしたのかい?」
ギルス「いや。こいつらはどうするんだ?」
ロレン「どうって…。ねぇ?」
ギルス N:ロレンは首を傾げて、こちらに笑みを向けてきた。
なるほど。そういうことか。
部隊を率いての初めての実戦。人を撃つことに国が許可したのが戦争。
それなのに変態のこいつが、わざわざ全滅させなかった意味。
ギルス「ほんとクソだな、お前」
ロレン「むしろ泣いて感謝してほしいんだけど?」
ギルス「うるせえ、変態」
ロレン「じゃあ僕は向こう行ってるねぇ」
ギルス N:俺は村の中心の黒い塊に銃口を向ける。
その時の表情?はんっ、興味ない。
ロレンは何か勘違いしてるようだが、俺は昔、この機体のテストで発展途上の村を一つ潰している。
あの時は最高だった。巣をつついた蟻のように、逃げ惑うやつらを追い込んでいくのが。
だがこれは"おこぼれ"。それもあいつの嫌味たっぷりの。
俺がすぐに追いつくとわかってて、わざと残しやがった。
ギルス「じゃあな」
ギルス N:絶望した蟻は身動き一つ取らず、塊のまま光と共に消滅した。
ロレン「終わった?」
ギルス「あぁ?いいから、状況を教えろ」
ロレン「状況も何も、さっきので任務完了。一応部下には家々を調べてもらってるけど、見たまんまだね。
目ぼしい物はないようだ」
ギルス「本隊の山越えは終わってる。直に来るぞ。敵の反応は?」
ロレン「今のところは」
ギルス「別にお前らと慣れ合うつもりはないが、敵の情報がないうちは」
ロレン「わかってる、わかってる。そこはお互い様ってことで」
ギルス「お前のその反応、虫唾が走るぜ」
ロレン「なんか楽しくてね。楽しくなってきた、が正しいかな」
ギルス N:俺も大概だが、こいつも相当ネジが飛んでいる。
人を殺め、そこらじゅうに死体が転がってる異様な光景に、ロレンは笑顔を見せる。
ロレン「で、どうする?待つ?」
ギルス「そうだな。後ろには陛下がいるし、俺もお前も進むにしても、ここにまた人員を割く必要があるが…」
ロレン「が?」
ギルス「どこまで行けるか試してみたくなる。俺だってウズウズしてんだ」
ロレン「だよねぇ。やっぱり君も同類だよ」
ギルス「お前と同じとか反吐が出る」
ロレン「うん、僕も」
ギルス N:それから俺たちは、それぞれ2機ずつ配備することにした。
俺たち隊長を含め、部隊は10人で構成されている。
その半数を帝都に残し、ここに2機を割くと3機となる"アルアクロス"。
対してこちらは、本隊に3機、ここに2機で残りは5機。
ロレン「じゃあ君たち、ここは頼むよ」
ギルス「おい。たった3機で行くのか?」
ロレン「なに?心配してくれんの?」
ギルス「ちげーよ。気持ち悪いこと言うんじゃねえ」
ロレン「ははは。でも、ま。大丈夫でしょ。埋める穴、というか壁はあるし」
ギルス「あぁ。やつらか」
ギルス N:帝国には軍が保有しているヒューマノイドが多数いる。
痛みも感情もないからこそ、実験体として有用だと研究所の連中が言っていた。
そのヒューマノイドをもっと有効に使うためにと、専用の機体が開発され、今もロレンの指揮下に
4機が入っている。
ロレン「……あー、ちょっと待ってね。まったく、無駄なことを」
ギルス「どうした?」
ロレン「"感染者"。えっと……あぁ、アレか。進路を塞げ!」
ギルス N:ロレンの声に合わせ、上空にいた3機が1機を取り囲んだ。
身動きできなくなったその1機に、ロレンは機体の背部にある砲身を向ける。
狙いはすぐに定まったのか、一筋の光が中央の1機を撃ち抜いた。
ギルス「お前何して!」
ロレン「ああ、ちゃんと許可はもらってるよ。どっかのバカが人形に感情を植え付けたんだ。そのせいで恐怖
心が生まれ、ああいう行動に出るんだってさ。人形は人形らしく、ただ命令に従ってればいいのにね」
ギルス「だから"感染者"か」
ロレン「面倒だよね、ほんと。堂々と友軍機を撃てるとこは評価できるけど」
ギルス「それを理由にこっちに撃ってきやがったら、遠慮なくぶっ殺してやるよ」
ロレン「夢が終わった後ならいつでも」
ギルス N:あと懸念すべきは機体の燃料。本隊と合流すれば補給も可能だが、その前にもう一つくらいは
落とせるだろう。何より実戦となって興奮したメンバーが複数いたことが、俺にも拍車をかけた。
ヴィンセントやイゾラなんかは、鼻息まで荒くして、いつも以上に喧しかった。
次はきっとここよりもでかい町のはずだ。それなりの防衛機能も備えているだろう。
つまりここからが本番だ。
まだ見ぬ強敵とのバトルを想像するだけで、俺もニヤケが止まらなかった。
* * * * *
ザイン「なんか広い所に出たな。少しここで休憩するか」
アイナ「はい」
ミク 「わかった。ねぇ、ザイン。ここには前は来てないの?こんな広い場所なら、他の入口からも繋がって
そうだけど」
ザイン「ん?あぁ、そうだな。前はこんな所はなかった。全ての分かれ道を進んだわけじゃないから、ひょっと
したらあったのかもしれんが。少なくとも覚えはない。それより左腕どうした?さっきから抑えてるよ
うだが、ケガでもしたのか?」
ミク 「う、ううん。大丈夫。あれ?でも同じ入口なんだよね?」
ザイン「言ったろう?ここは一本道じゃないんだ。こう変化のない景色をずっと目にしてれば、自分が今どこに
いるかさえ分からなくなる。アイナの記憶力があったから、あの時も今も絶望を感じないだけだ」
ミク 「つまりアイナがいれば、最悪引き返すとなっても大丈夫ってこと?」
アイナ「マスター」
ザイン「そうだ。前に進むしかない状況だとしても、退路があるのとないのとでは全然違う。この中においては
入口へ戻る道が退路だが、たまに心残りを退路と表現するやつもいるな」
ミク 「どういうこと?」
ザイン「例えば何か生死に関わる重要な任務に就くとする。するとそいつにとっての退路、つまり戻る場所って
のが死ねない理由になる。そうやって生にしがみついて、また奮起する。活力になる。大抵は恋人や
家族のことだな。退路って表現は、俺もどうかと思うが」
アイナ「マスター」
ミク 「ふーん。いろんな人がいるんだね」
ザイン「お前の周りにはそういう変なやついなかったのか?」
ミク 「え?うーん………特には」
ザイン「そうか。すっかり話しこんでしまったな。そろそろ行くか」
アイナ「マスター」
ザイン「お、おう。なんだ、アイナ」
アイナ「アレを」
ザイン N:ミクとの話に夢中になっていた俺は、ずっとアイナが呼んでいたことに気づかなかった。
別にそれに不貞腐れた様子はないが、もしこれが人間ならと、その無表情に恐怖した。
アイナはライトの光が及ばない場所を指差している。
そこに何があったのか。俺はライトを向け、言葉を失った。
ザイン「なん…だ、これは…っ」
ミク 「どうした……の?」
ザイン「こいつは…、ヒューマノイド…か?」
アイナ「はい、おそらく」
ザイン「だが見たことないタイプばかりだ。見た目も現行のものとは程遠い。それにこの数…」
アイナ「ここはかつての研究施設だった、ということでしょうか?」
ザイン「ああ。その線が濃厚ではあるが…。ここは千年近い昔の遺跡だぞ?そんなことがあり得るのか?」
アイナ「わかりません。ですが現に」
ミク N:私は見覚えがあった……ような気がした。
でもそれを言い出せずにいたのは、そんな昔のことを記憶として持つはずがないと、夢で似たような
景色を見ただけだと、そう思ったから。思いたかったから。
ザイン「遺跡の特性を利用して、最近までここでひっそりと研究していた、ってのはどうだ?」
アイナ「その可能性は低いと思います。彼らに使われている金属を、私は見たことがありません」
ザイン「間違いないか?」
アイナ「はい。マスターと旅をする中で、多くの同朋とお会いしましたが、そのどれにも該当しません」
ザイン「お前が言うならそうなんだろう。ならこいつは、昔あった超文明の名残りってとこか」
ミク N:二人が討論してるところを見ると、本当に世界中を一緒に旅してきたんだとわかる。
でも二人は気づいていない。ザインと話してばかりだった私も、ついさっき気づいた。
彼らを見守るように佇む、背後のその視線に。
ザイン「少し調べてみる価値はありそうだな。帝国の連中も気になるが、ここまで来るのに相当歩いたからな。
ちょっとやそっとじゃ追いつけないだろう。アイナはまず、生きてる機械がないか調べてくれ。多少
壊れていても、お前ならどうにかできるだろう」
アイナ「はい」
ミク 「ねぇ」
ザイン「悪いな、ミク。もう少しここに留まることになるが」
ミク 「そうじゃなくて。それで後ろ照らして」
ザイン「後ろ?何かあるの………なっ!?」
ザイン N:背後にあったのは、おそらく壁画。凹凸がはっきりわかるから間違いないだろう。
1、2……全部で4体か。一部欠けてしまっているが、種類の違う生物の絵が描かれていた。
ミク 「……あの一番右の、見たことあるような」
ザイン「オオカミで、あの尾…。あいつか!」
アイナ「確かに似ていますね」
ザイン「あいつはここと何か関係でもあるのか?」
ミク 「……っ」
ザイン「どうした?」
ミク 「なんでも…ない」
ザイン「おい、やっぱどっかケガして…!」
ミク 「あっ」
ザイン N:俺は左腕を抑えているミクの右手を掴み、傷の具合を見ようとした。
それは一見噛み跡のようだったが、傷というより印のようにも見える。
少なくとも昨日まではこんなものなかった。
ザイン「なんだ、これ?……傷か?」
ミク 「そ、そう!さっき逃げてる時に転んだみたいで、って痛っ」
ザイン「んなわけねえだろ。お前あの時アイナに抱えられてたじゃねーか。せめて木の枝にでも引っかけたとか
なら、まだわかるが」
ミク 「そう、それ!」
ザイン「もう遅えよ。誤魔化したってことは、自分でもただの傷じゃないってわかってんだろ?」
ミク 「……少し前に、この遺跡に入ってすぐくらいだったと思う。腕に痛みが走って、見てみたらこれが。
私も最初はただの傷だと思ったし、大して気にもしてなかったんだけど、この部屋に来てから妙に
はっきりと見えだして…」
ザイン「傷じゃないとしたら何だ?心当たりは?」
ミク 「あるわけないじゃん。私だって知りたいよ」
ザイン N:そう言うミクは、話してすっきりしたのか急に明るくなった。
もう隠す必要もないからと、アイナに駆け寄る動きも心なしか軽快に見える。
本人がわからないと言う以上、問い詰めたところで無駄だろう。
大昔の研究室、謎の壁画、そしてミクの腕の傷。
ここに来て興味を引くことが一気に押し寄せ、俺にも整理する時間が必要なのもまた確かだった。
ミク N:ザインには言ってないことがある。
腕の傷が何を意味してるのか、それは私にもわからない。でもあの場所を抜け出したことは必然だっ
たのだと、あの時"彼"が教えてくれた。"彼ら"が私の記憶を紡ぐ欠片たちだと教えてくれた。
きっとそう遠くない未来に"彼ら"と出会い、そして私は私が存在する意味を理解するのだろう。
そうなる前に、今あるこの僅かな時間を少しでも有意義に――。
M-05 "夢の傷跡"