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声劇×ボカロ_MDV-M
第2章 ミーティア
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第10話 《 星に願いを 》
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【登場人物】
ミク
失くした記憶を追い求める少女。
人間ではないかと疑うほどの"完璧な"ヒューマノイド。
ザイン
ミクと共に旅をする、責任感の強い男性。
旅で得た経験なのか判断が速い。
アイナ
ザインの右腕たるヒューマノイド。
アウフタクトで頑丈に改修済み。
エドルド・クレイバー
ジーグ帝国現皇帝。
自ら前線に赴き、部隊を指揮する。
ロレン・アルロス
帝国特殊部隊"アルアクロス"隊長。
"誘死徹戦"の隊訓通り、勝利のためには平気で味方を殺す。
ギルス・マドラー
帝国特殊部隊"マッドギア"隊長。
隊訓は"散華讃歌"だが、仲間想いの一面がある。
通信兵
皇帝の命を部隊に伝える兵士。
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| ピウ大陸 |
| |
|世界の半分を占める巨大な大陸。 |
|隆起した山々や広大な森を持ち、多くの人々に恵みをもたらす大地。 |
|主な国として、ジーグ帝国、シンガ王国、オブリガード共和国が挙げられる。 |
| |
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《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。
【本編】
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エドルド「首尾は?」
通信兵 「はっ!発射と同時に出撃したシロフォン隊の報告によりますと、カンティレーナの王宮は崩壊。また
市街地も同様で、壊滅的な打撃を与えられたとのことです!」
エドルド「思ったより抵抗が少なかったようだな」
通信兵 「はい。こちらで先ほどまで戦っていた騎士団も数機確認できたとのことですが、間に合わず落胆する
者の姿を確認したそうです」
エドルド「そうか」
通信兵 「残る騎士団に追い打ちをかけますか?」
エドルド「捨ておけ。もう戦う気力なぞ残っておらんだろう。それよりも、ギルスとロレンに繋げ」
通信兵 「はっ」
エドルド N:カンティレーナは落ちた。民を想うあの女のことだ。最後まで残ると言い張り、一緒に吹き飛ん
でいてもおかしくはない。もちろん、ちゃんと死体は探させるとして、次は…。
ロレン 「陛下」
エドルド「補給は済んだか?」
ロレン 「はっ。我が隊は、欠けた者たちの補充も滞りなく」
エドルド「ギルス、そちらはどうだ?」
ギルス 「はっ。我々は先の戦闘での損害が軽微なため、また本隊警護の者らとも合流しましたので、ほぼ万全
の状態です」
エドルド「よかろう。お前たちには再度先行してもらう。目標はオブリガード。国を出てから時が経っている。
あちらもそれ相応に応戦してくるだろうが、なんてことはない。蹴散らしてやれ」
ロレン 「はっ!」
ギルス 「陛下」
エドルド「なんだ?」
ギルス 「………」
エドルド「そうか、わかった」
ロレン 「…?」
エドルド「所属不明の連中がうろちょろしているようだが、やつらもまとめて排除しろ。シロフォン、セプテ、
ミズーラの3隊はシンガに残り、女王の行方を追え。他の者はオブリガードへ向け、進軍を開始す
る。そうだな。次はモデラート辺りでいいだろう」
通信兵 「はっ。各員に通達。補給、整備の済んだ部隊から、順にモデラート丘陵へ進軍を開始せよ。繰り返
す。補給、整備の済んだ部隊は……」
エドルド「…ふっ。さて、どう出るか見物だな」
ギルス N:俺の部隊もあいつの部隊も、予想より被害が大きいことは黙っていた。
バルカロールにおける戦闘で、俺たちと同等、いやそれ以上の力を持つかもしれない連中が現れた
こと。本来ならば、報告すべき事案だ。だが最初から最後まで、我が軍の圧勝であることを信じる
陛下からすれば、眉間に皺を寄せることは必至。
ロレン N:そう。だから僕たちは、あえて口にしなかった。
"敗走"ではなく"戦略的撤退"と見せなければ、今頃命がなかった可能性だってあるのだ。
だが陛下はそれすらも、すべてお見通しな気がする…。
ギルス N:どのみち退くことしか選べなかったのは、屈辱の何物でもない。
次は、次こそはと、今にも血が沸騰しそうな中、再度先行できるという命令に安堵した。
きっとやつらは、また現れる。なぜかそんな予感があった。その時は――。
* * * * *
ミク N:砲撃が止んだのがわかると、カリヨンは徐々に落ち着きを取り戻していった。
運よく港にあった船に被害はなかったものの、混乱の最中、無理やり乗船しようとして海に落ちた
人の救助や、人波にのまれてケガをした人の救護、親とはぐれた子供をなだめる人らの姿があった。
そこにはザインとアイナの姿もあり、どうしたらいいかわからない私は、せめて邪魔にならないよう
にと、隅の方に立っていることしかできなかった。
ザイン 「ミク!!」
ミク 「あ、はい!」
ザイン 「この子が母親とはぐれたそうだ。一緒にいてやってくれ。お前のその髪目立つから、それっぽい人に
はここに来るよう伝えておく!」
ミク 「え、でも、私」
ザイン 「頼んだぞ!」
男1 「すまねえ、誰か手を貸してくれ!」
ザイン 「今行く!!アイナ!」
アイナ 「はい、マスター」
ザイン 「ケガ人を看ながらでいい。一応警戒はしといてくれ」
アイナ 「わかりました」
ミク 「ねぇ、ザイン…!」
ザイン 「おい、どうした!?」
ミク N:私の声は届かず、ザインは船着き場の方へ向かっていった。
急なことに私が戸惑った理由は一つ。
二人と出会ってから、今まで何をするにも一緒にやってきたものだから、子供を見ておくことでさえ、
私には難しい。ううん。できないと思ったから。
そんなことないと気づいたのは、ぎゅっと服の袖を握ってきたその子が、泣くのを必死に堪えていた
から。まだ幼い女の子。お母さんとはぐれて、本当はとても不安なはずなのに。
ミク 「大丈夫。お母さん、きっと来てくれるよ」
ミク N:自然とそう口にしていた。
しゃがみこんで、女の子に目線を合わせて。
するとその子は小さく頷いて、またぎゅっと強く袖を握った。
不思議な感覚だった。懐かしい気持ちだった。
今ある私の記憶には、人ではないあの子たちのものしかないのに。
アイナ N:そんな彼女を見て、なぜか安堵している自分がいた。
本来感情なんて持ち得ない自分が、彼女と出会ってからというもの、確実に変化してきている。
それが自分でわかる。
同じヒューマノイドだから、というだけでは説明がつかない。
人の言葉で例えるなら、これは………そう。魅かれている。これが一番近い、と思う。
ミク 「うんしょ。ねぇ、アイナ」
アイナ 「あ、はい。どうかされましたか?」
ミク 「ううん。人間ってすごいなって思って」
アイナ 「はい?」
ミク 「誰かのためにこんなにも一生懸命になれたり、言い方悪いかもしれないけど、自分が助かるためなら
無茶なことだってする。いろんな人がいる。それもこれも全て、みんながここで生きている。生きて
いたいって思うからなんだよね」
アイナ 「そうですね」
ミク 「みんなここにいることが当たり前で、みんな必死に生きてて、みんな死ぬことが怖い」
アイナ 「はい」
ミク 「私たちが作られたのは、そんな彼らの手助けをするため。だけど今こうして、人間と同じように、
同じようなことができる私たちも、変わらず同じ命だってザインは言ってくれた」
アイナ 「はい」
ミク 「みんながみんな、ザインと同じ考えじゃないのはわかってる。だったら私は、人間だけじゃなくて、
今ここに、この世界に生きてる仲間にも手を差し伸べたい。ひょっとしたらこの子のように、強がっ
てるだけの子もいるかもしれないから」
アイナ 「感情を持たないとされる私たちが、ですか?」
ミク 「うん。だってそれを決めるのは、命を持つ者自身だから。誰かの手で好きにしていいものじゃない。
ましてや勝手に決めつけるものじゃない」
アイナ 「……興味深いお話ですが、今の私では何とも…」
ミク 「答えが欲しいんじゃないの。私が今ここで感じたことを、ただ聞いて欲しかっただけ。なんでかな。
アイナにはそういうの、話せるから」
アイナ 「そうですか」
ミク 「うん。だから聞いてくれてありがと。さーって、お母さんまだかなー?」
アイナ N:再び腰を下ろした彼女は、そう迷子の女の子に話しかけていた。
彼女が人間に近い、いわゆる理想形というのも頷ける。
マスターがいて、マスターの命が全てとプログラムされている私たちに、こんな言葉は出て来な
い。どこかの研究者の助手をする者なら……。いや、そんな話は聞いたことがない。
あくまでも私たちは、人間の代わりに、人間が少しでも楽になるようにと作られた。
モノという意識が命に変わったのも、マスターと出会ったから。
違う人間と出会っていたら、きっと意識はずっと"モノ"のままだっただろう。
ザイン 「どうした、アイナ。妙な顔しやがって」
アイナ 「え?」
ザイン 「あ、探されてるのはあの子では?……おーい、ミク!お迎えだ!」
ミク 「あ、こら。走ったら危ないよ!」
ザイン 「よかったな、親が見つかって」
ミク 「そうだね」
アイナ 「マスター」
ザイン 「ん?」
アイナ 「私、どんな顔をしていたんでしょう?」
ザイン 「あ?……あー、いつもと違って見えたんだが、気のせいだろう。そもそもお前らに、表情なんて仕様
はないわけだしな」
アイナ 「はぁ」
ザイン 「それよりだ。さっき聞いてきたんだが、出港には数日かかるそうだ。急いじゃいるが、他に向こうに
渡る当てもないし、船が出るまでここに滞在しようと思うんだが、どうだ?」
ミク 「私は大丈夫」
アイナ 「わかりました。それでは宿を探して」
ザイン 「あ、いや。その情報をくれた人が宿を経営してるらしくてな。事情を話したら、ウチに来いと」
アイナ 「わかりました。ではそこに」
ザイン 「ああ。行くぞ、ミク」
ミク 「………」
ザイン 「どうした?空になんか…。まさかまた…!」
ミク 「あ、ううん。違う。なんでもない」
ザイン 「…?」
ミク N:予感。そう、これは予感。
また星が降ってくる。ふと空を見上げた時、そんな気がした。
違うと言ったのは、その星が痛みを生むものじゃないこと。
むしろ今のこの状況では、小さな救いとなるかもしれない。
ザイン 「うおーっ、こいつはすげぇな!流星か!」
ミク N:予感は的中した。
陽が落ち、夜になって外が騒がしくなり、部屋を飛び出したザイン。
その目に映ったのは、星々が魅せる最期の鼓動。
この日、死を覚悟した者たちは、次々と手を合わせていた。
平和に生きること、明日もまた無事に過ごせるようにと、きっと誰もが願っただろう。
でも私たちは知っている。このままでは、その願いが叶わないことを。
たとえわかっていても、そうせずにはいられなかった。
同じように恐怖にのまれ、同じように生を実感し、同じように平凡な日々を願う。
そこに人間だとか、ヒューマノイドだとかは関係ない。
私たちは、確かに"ここ"にいるのだから。
M-10 "星に願いを"