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声劇×ボカロ_MDV-M
第2章 ミーティア
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第9話 《 降り注ぐ痛み 》
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【登場人物】
ミク
大昔に作られたとされるヒューマノイド。
失くした記憶を取り戻すため、ザインらと行動を共にする。
ザイン
世界を旅するトレジャーハンター。情報通。
地下組織"オーバード"のイニスは幼馴染でもある。
アイナ
ザインが所有権を持つ汎用ヒューマノイド。
乗り物だけでなく、地上用のシェルならば操縦可能。
ヴァン・シャルク
王国騎士団所属で"カルテットリッター"のリーダー格。
融通が利かないこともあるが、国への忠誠は強い。
ライラ・オヴェスト
王国騎士団所属で"カルテットリッター"の紅一点。
ヴァンの右腕とも言える、お目付け役ポジション。
ガロン
シンガ王国のコルネット女王に雇われている傭兵集団"ディスコード"のリーダー。
状況判断に長け、癖のあるメンバーをまとめる。
エドルド・クレイバー
ジーグ帝国皇帝。己の目的のためには手段を選ばない。
不可侵協定を破り、大部隊を率いてシンガ王国に侵攻中。
通信兵
帝国軍所属の通信兵。皇帝の命令を全兵士に繋ぐ役割。
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| 港町カリヨン |
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|シンガ王国の王都カンティレーナの真西に位置する港町。 |
|海を挟んだ先にあるメノ大陸への連絡船が出ているため、王都に次いで人の往来が多い場所。 |
|ヘミオラ海峡のフィドル港と同じく、交易の重要拠点の一つとなっている。 |
| |
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《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。
【本編】
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ザイン N:アイナのメンテナンスを待つ間、俺は研究塔の人間に、化物の類の話を知らないか聞いてまわった。
だが皆首を傾げるばかりで、これといった有力な情報は掴めずにいた。
ザイン「参ったな。探すにしたって、どこをどう探せばいいんだ?これだけ聞いて誰も知らないって言うんだか
ら、それこそ辺境にまで足を伸ばす必要も出てくるぞ」
ミク 「ねぇ、ザイン。私は診てもらわなくていいの?」
ザイン「あぁ?あー、そうか。お前もヒューマノイドなんだよな。今まで同じ"人"として接してきたから、すっ
かり忘れてたわ。で、どこか調子が悪かったりするのか?」
ミク 「ううん。別にそういうわけじゃないんだけど」
ザイン「ならいい。ここの連中からしたら、お前はいわゆる理想形だ。ヘタに正体を明かして、バラバラにされ
たらたまったもんじゃないからな」
ミク 「バ、バラバラ!?ここの人たちって、そういう感じなの?」
ザイン「研究者ってのは、自分の説や推測を確かめたがる人種だ。結果的にそれが、よりよいものを作ろうとい
う意識から来てたとしても、我を忘れて狂行に走る者がいるのもまた事実。そんな巣窟ともいえるこの
場所に、ヒューマノイドってだけで置いてくほど俺もバカじゃない」
ミク 「そうなんだ。ありがと」
ザイン「礼なんてよせ。お前は今まで通り、やりたいようにやってればいい。正体を知ったからといって、今ま
でとこれからが変わることはない。そうだろ?」
ミク 「うん。そうだね」
ザイン N:ミクは少し微笑んだように見えた。素性を知られたことで、不安な気持ちもあったのかもしれない。
限りなく"人"に近い、完全体と言ってもいいほどのヒューマノイド。俺はそっち系は専門外だが、
人の傲慢さは理解できる。星の危機が迫ってる今、余計なことはしたくない。
アイナ「すみません、お待たせしました」
ザイン「おう」
ミク 「おかえり、アイナ」
アイナ「それで、どちらに向かいますか?」
ザイン「それなんだがな…」
ザイン N:俺はアイナに情報集めに手こずってることを伝えた。事が事だけに、あまりぐずぐずはしてられ
ない。予定ではアイナが戻った時点で、目的地へと発ってるはずだった。
アイナ「そうですか。あの、マスターは御存知かと思いますが、私たちはメンテナンスの間も、動力の源である
核を修復する時以外は、意識が途切れることはありません」
ザイン「ああ」
アイナ「なので私も私なりに、何か情報はないかと聞き耳を立てていたんですが、ここより西の、海を渡った
先にあるアルモニカの外れで、最近怪鳥の目撃があると」
ザイン「なに!?」
アイナ「彼らはそれを笑い飛ばしていました。見間違いに尾ひれがついた作り話だろうと」
ミク 「怪鳥…」
ザイン「……その話が本当なら、そいつはあの絵の一匹かもしれないってことか」
アイナ「可能性の一つとして、ですが」
ザイン「最近ってとこが気になるな。スティンガーもそうだった。あいつの噂を聞くようになったのも、ここ
数ヶ月のことだ。もしもそれが、誰かの意図するものだったとしたら…。いや、それは考え過ぎか」
アイナ「いかがなさいますか?」
ザイン「どうせ他に行く当てもないんだ。行ってやろうじゃねえか。第2の大陸"メノ大陸"へ!」
アイナ「そうなりますと、まず向かうべきはシンガ王国の西、メノ大陸との玄関口であるカリヨン港ですね」
ザイン「ああ。だがシンガか…」
アイナ「はい」
ザイン「あそこは今、帝国の侵攻で混乱してるはずだ。カリヨンから出るオスティナートへの連絡船も、避難
する人々で溢れ返ってる可能性がある」
アイナ「ですが他にあちらへ行く手段は…」
ザイン「しょうがねえ。とりあえず行くだけ行ってみるか。あ、おい!そこのあんた!ちょっと伝言を頼みたい
んだが」
ミク N:目的地が決まったからか、ザインは人を呼び止め、何やら話をしている。
協力関係にあるイニスに、行き先を伝えるためだろう。
ミク 「ねぇ、アイナ」
アイナ「はい?」
ミク 「……何も聞かないの?」
アイナ「なんのことでしょう?」
ミク 「……ううん。何もないならいいの」
ミク N:私はヒューマノイドで、彼女もヒューマノイド。同じはずなのに、どこか違う。
理想形だとか完全体だとか、そういうんじゃない。
私の正体を知った彼女は、なんとなく私がいる意味や理由を理解してるように思えたから。
でもそれは、まだ私がたどり着いていない答え。
ザイン「悪い、待たせた。それじゃ、行くか」
* * * * *
ヴァン「撤退だ!全機撤退!ただちに戦場を離脱しろ!!」
ガロン「なんだと!?ふざけんな!あと少しだろうが!」
ヴァン「予想よりこちらの被害が大きい。それに敵の本隊がそこまで来ている。これ以上の追撃は無理だ。やり
たければ勝手にやれ」
ガロン「ちっ。お前ら、退くぞ!」
ガロン N:こちらとしても、燃料に不安がある。本隊の相手をしてる間にやつらに補給され、またこちらに
戻って来られでもしたら、立場が逆転する可能性もある。
撤退に不満気な三人をなだめ、俺たちは騎士団とともに戦場を後にした。
+ + + +
通信兵「先行部隊の残存機、全ての帰投を確認」
エドルド「全機停止。砲撃用意」
通信兵「了解。全機停止。砲撃用意。繰り返す。全機砲撃用意」
エドルド N:我々がこれ以上進むことはない。
まだ橋を渡ってもいないが、初めから王都まで行くつもりはなかった。
星屑の届く距離。それがちょうど橋の手前、この場所だったからだ。
通信兵「全機、砲撃準備完了」
エドルド「整備と補給を急がせろ。やつらにはまだ働いてもらわねばならん」
通信兵「はっ。2番隊は至急アルアクロス、マッドギア両隊の整備と補給を…」
エドルド「さて、どうなるか。………発射」
通信兵「全機発射。繰り返す。全機、目標に向け発射」
エドルド N:合図で撃ち上がった弾の数々は、綺麗な孤を描き、空を駆ける。
空を駆けた次は、落ちていくだけ。その先にあるのが、カンティレーナだ。
エドルド「ふっ。ふっふっふ。はっはっはっは!!……落ちよ、シンガ!」
+ + + +
ライラ「ヴァン!背後から熱源接近!すごい数よ!」
ヴァン「バカな!?やつらの援護にそんな数……。まさか!?」
ライラ「狙いはこっちじゃないわ!軌道が高すぎる!」
ヴァン「くそ、皇帝め。狙いは初めから陛下だけだったのか!それにこの数は、王都の周りごと吹っ飛ぶぞ。
全機、空からの攻撃に警戒しつつ、全速力で戻れ!王都を守るんだ!!」
ライラ「私もすぐに行くから、あなたが先に行って!あなたの"プレスト"なら、きっと間に合う!お願い、皆を
守って!!」
ヴァン「わかってる!」
ヴァン N:見事に罠にはまり、王都の守りは薄くなった。初めから長距離の砲撃が狙いだとわかっていれば、
俺たちが本来の場所を守っていれば、きっとここまで焦ることはなかった。
流星とも言える弾幕に必死に抗う姿を、今頃皇帝は笑って見ていることだろう。
ヴァン「ナノ!レッタ!!……くそっ、なんで繋がらない!!」
ヴァン N:電波障害でも起きているのか、王都に残る二人と連絡がつかない。
肉体への負担を省みず、限界まで速度を上げたことで、なんとか間に合いそうだというのに。
たった一人で何ができる?そう誰かが耳元で囁く。
わかっている。一人ではどうしようもないことも、放たれてしまった今では後の祭りということも。
それでもこの国を守るための王国騎士団。
俺はその中のトップ、"カルテットリッター"の北の守護者だ。簡単に退くことはできない。
ヴァン「信じてるぞ、二人とも」
+ + + +
ガロン N:俺たちが退いたのは、初めに戦況を見守っていた崖の上。
直後は騎士団についていく形で撤退したが、俺たちは傭兵。慣れ合うつもりはない。
今後も帝国を相手にするならと、ちょっとした偵察の意味も込めて、様子を窺うことにしたのだ。
それが異変だと気づくのに、あまり時間はかからなかった。
進軍していた本隊が橋の前で停止し、まるで花火でも打ち上げるかのような高さに、一斉に弾を
放つ。砲撃の音はしばらく続き、あまりの長さに耳障りさえ覚えた。
ガロン「こいつら何を狙って…」
ガロン N:重力がある以上、空を羽ばたく鳥やスカイシェルでもない限り、それは必ず落ちてくる。
打ち上げたということは、その軌道上、もしくは落下点が標的。海峡やフィドルの周りには、機影
らしきものは見当たらない。とすれば…。
ガロン「ちっ、そういうことか。お前ら、ここを離れるぞ。せっかく見つけた得意先だったってのに、帝国の
やつらめ」
ガロン N:放たれた弾の落下点は、おそらく王都だろう。何も知らない連中からすれば、まるで星が降ってき
たかのような攻撃だ。騎士団も全力で対処するだろうが、あまりにも数が多すぎる。何より、これ
までに計測された砲撃の距離を、大幅に更新した帝国の技術力が半端ない。
ガロン「さて、どこに行ったものか」
ガロン N:この国のやつらには申し訳ないが、俺たちはヒーローでも偽善者でもない。
今回は国のトップが取引相手だっただけで、元々金にならないことはしないのが傭兵ってやつだ。
もちろん相手が王となれば、それなりの報酬はもらえるだろう。
だが国が無くなるなら、話は別だ。あくまでも仕事。恩や義理なんてものはない。
ガロン「仕方ない。いったんオブリガードに戻るぞ」
* * * * *
ザイン「おいおい、こいつはどういうことだ?」
ミク N:世界を知らない私は、道中二人にいろいろと教えてもらった。
知識があるといっても、文化や情勢には疎い。
私がずっと昔に作られた存在であるならば、それはなおのこと。
アイナ「止まりますか?」
ミク N:歩きでは遠いからと、オーバードから地上用の機体を1機借り、私たちはカリヨンを目指していた。
異様な光景を目にしたのは、国境を抜けシンガに入ってすぐのこと。
ザイン「いや、いい。そのまま進め」
アイナ「わかりました」
ミク 「すごい…。これ全部人間?」
ザイン「たぶんな。……この方角は王都か。避難してきたと見て間違いないが、それにしてもなんて数だ」
アイナ「誘導に騎士の姿が見えますが、話を聞いてきますか?」
ザイン「確かに気にはなるが、先を急ごう。王都に何かあったとすれば、メノ大陸への手段が断たれるのも時間
の問題だ。今はあちらへ向かうことを最優先に考えなくては。この状況だと、カリヨンも人で溢れてる
だろうしな」
ミク N:ザインの読みは当たっていた。
王都の真西にあるカリヨンには、メノ大陸へ渡ろうとする人でごった返していた。
先にカデンツから連絡を受けていたオーバードの人間に機体を渡し、私たちも船を待つ列に並んだ。
その時だった。悲鳴にも似た声が上がり、人々が空を指差し始めたのは。
ザイン「なんだ!?こいつらいったい何を指して……。なっ!?」
ミク 「なに…あれ…。流れ星…?」
アイナ「いえ、あれは…!」
ザイン「砲撃だ!!」
ミク N:日の光を浴びた無数の星が、王都のある方角に降り注いでいた。
その一部はカリヨンのすぐ近くにも落ち、悲鳴はさらに大きくなる。
船着き場は混乱し、我先にと人々が船に乗り込もうとしていた。
ザイン「落ち着け!!……くそ、無駄か!アイナ、ミク!離れるんじゃねーぞ!」
ミク 「う、うん!」
アイナ「こちらへ」
ミク N:押し寄せる人波から守るように、アイナは私に覆いかぶさる。
突き飛ばされても踏みつけられても、彼女は私を放そうとしなかった。
アイナの腕の中で、私は人が生んだ負の感情に息が詰まりそうだった。
そのほとんどは恐怖。死に直面した、明日どころか数分先さえ真っ暗な闇。
光なんてない。絶望しかない。そんな感情が、流れ込んでくるような感覚があった。
ザイン「大丈夫か!?」
ミク 「わ、私は…。でもアイナが…」
ザイン「立てるか、アイナ」
アイナ「……っ。は、はい…」
ザイン「ミク、こっちだ。ひとまず砲撃が収まるのを待つ」
ミク 「う、うん」
ザイン「それにしても帝国め、いったいどこから…」
ミク 「帝国?」
ザイン「ああ。不可侵協定が結ばれてる今、砲撃を仕掛けてくるのは、それを破って侵攻してきた帝国以外に
ない。だが帝国軍はバルカロールで足止めされてたはずだ。この国の騎士団によってな」
ミク 「騎士団?……あっ」
ザイン「思い出したか?妙だと思ったんだ。ここに来る前に見た避難民が来た方角は王都だった。おそらく
コルネット陛下はどこからか情報を仕入れ、砲撃が到達する前に民衆をオブリガードに向かわせた
んだろう。それでもこの惨状だ。王都には逃げ遅れた者もいただろう」
ミク 「そんな…」
ザイン「前にも言ったな。何かしてやりたいと思うのは立派なことだが、まずは自分の身を守ることが最優先
だ。お前やアイナがヒューマノイドだからといって、誰かの盾になる必要はない」
ミク 「うん、わかってる」
ザイン「でもまぁ、アイナがしたことは、お前を守りたくてしたことなんだとわかってくれ。矛盾して聞こえる
かもしれんがな」
ミク N:ザインの言いたいことはわかる。
ヒューマノイドは人のために作られたモノ。だとしても人と同じように感情があれば、その機能を
停止することがどういうことか、命あるものが行き着く先は変わらないのだと、そう言いたいんだ。
ただその感情を無視して、モノとして盾になるなと…。
ザイン「……収まったか。アイナ、動けるか?」
アイナ「はい」
ミク 「え?」
ザイン「アウフタクトに行って正解だったな。イニスに聞いたぞ。少しボディを強化してもらうように言って
おいたってな」
アイナ「はい。今後の旅では、必ず私の力が必要になるからと」
ザイン「ったく、ほんとあいつの読みは昔から気持ち悪いくらい当たるな。なんにせよ、よかった」
ミク 「大丈夫、なの…?」
アイナ「はい。ご心配かけてすみません」
ミク N:私が抱きつくと、アイナは少し困ったような笑みを見せていた。
ザイン「……ん?なぁ、ミク。腕の傷、増えてないか?傷、というより文字のようにも見えるが」
ミク 「うん、そうだよ。あの子たちがいなくなっちゃったからね」
ザイン「それはつまり、あの2匹が死んだから浮かび上がったと?」
ミク 「そうみたい。あの子たちと私のこれが、どういう関係にあるかはわからないけど、これが出てくると、
いなくなっちゃったんだってのはわかるから」
ザイン「ただの横に入った傷に見えたのは"I"。で、こっちが"N"か。あと2匹。あと2つってことか」
ミク 「その時は全て説明できると思うよ。私が生まれた意味も、この星のことも」
ザイン「そうだな」
ミク N:記憶を取り戻すのに必要なこととはいえ、あの子たちを犠牲にしなければならないことに、私は
戸惑っていた。かといって、このままではどうにもならないことも。
どんな状況でも、必死に抗う彼らを見てしまったのだから。
この日、シンガ王国の王都カンティレーナは、無数の流星の被害を受け崩壊した。
コルネット女王陛下は避難民とともにオブリガードに向かったとされるが、その真偽は定かではない。
残る2つの記憶の欠片。
彼らが伝えるのは、希望か、はたまた絶望か――。
M-09 "降り注ぐ痛み"