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声劇×ボカロ_MDV-M

 

第2章  ミーティア
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第8.5話 《 その意味が示すもの 》
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【登場人物】

 

 イニス・シュトレー
どこの国にも属さない地下組織"オーバード"のトップ。
密命を与えたジェイクが危険と知り、自らもアルシスへ向かう。

 


 ジェイク
帝国に兵として潜入していた"オーバード"の構成員。
帝国の進軍を機に隊を離脱し、負傷する。

 


 ヨーキ
帝国に商人として潜入していた"オーバード"の一人。
アルシスのメリスと合流し、ジェイクを迎えに行く。

 


 メリス
アルシスに常駐していた"オーバード"の女性。
イニスの命でヨーキと共にジェイク救出へ向かう。

 


 ミリア・シンガリア・コルネット
シンガ王国現国王で、歴代初の女王。
傭兵集団"ディスコード"を雇い、国の保安に当たらせている。

 


 ライゼル・バウロン   62歳
オブリガード共和国の首相。元特務従事隊隊長。
イニスに極秘情報を流した人物。

 

 

 

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| アルシス                                       |
|                                            |
|オブリガードの東に位置する小さな村。                          |
|大自然の景観が記事で紹介され、観光スポットとなっている。                |
|帝国との国境に一番近いということで、避難経路の確保などの緊急プログラムが敷かれている。 |
|                                            |
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 -------------------------------------------- 
| オブリガード共和国    首都:エトヴァス                      |
|                                            |
|ジーグ帝国の西、シンガ王国の北に位置する。                       |
|隣国と違い、国の実権は国民投票で選ばれた首相が持ち、王族は隔離されている。       |
|様々な分野の研究や開発に尽力しており、ヒューマノイドも多く生活する。          |
|                                            |
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【本編】
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メリスから最初の通信が入った後に、俺はザインと再会した。あちらも急を要するが、かといってこちらも
無下にはできなかった。それもこれも、ザインが一緒に連れていた彼女の存在があったから。
ひとまず護衛として同行していたノルドとゼルを先行させ、話が済み次第、俺もアルシスに向かおうと思った。
2回目の通信は、ちょうどザインらとの話が終わり、別れた後だった。

 

「俺だ!」
「ノルドです。イニスさん、至急こちらへ来られますか?」
「今発つところだ。どうした?三人は無事か?」
「メリスのおかげで見つけることはできました。ですが…」
「……なんだ?」
「ですがジェイクの容態が思わしくなく、朦朧としたなかで、ずっとイニスさんの名前を呼んでるんです。
 ヨーキとメリスが止血を施してくれたようですが、朝までもつかどうか…」

 

それを聞いて、俺は自分の判断が誤っていたと痛感する。仲間の危機、それも一番危険な可能性のある任務を
課した者のピンチに、自ら出向くことを後回しにした。ジェイクならば大丈夫、万が一の時は何らかの形で残
してくれる。そんな考えが頭にあったのかもしれない。
そうじゃない。そういう話じゃない。
各国に潜入させている仲間も、迎えに行かせた仲間も信頼していた。その信頼に命がけで応えたい彼らの気持ち
もわかる。だがそれでも、死んでいいなんて話にはならない。簡単に人が死ぬことに慣れてしまえば、帝国がし
ていることと何も変わらない。俺たちは、やつらとは違う。

 

「なんとか持ちこたえさせろ!朝までには必ず着く!」
「はい。できる限りのことはやってみます」

 

多くのシェルを保有する俺たちは、アウフタクトという強力なパイプがあった。そのアウフタクトから度々、実験段階

の補助装備が送られていた。これもその一つ。機体内部への負荷にまだまだ改良の余地があるものの、性能としては申

し分ない。この際、体への負担なんて些細なことだ。何が何でも朝までにアルシスに着かなければならない。

「聞こえたな?のんびりしてる時間はないぞ!クラベスに打診!アルシスに全機投入!帝国が来るぞ!厳戒態勢
 を敷いて、侵攻に備えろ!」

 

ジェイクが秘密を掴んでいたとしたら、追手は、皇帝はこちらにも戦力を向けてくるだろう。考えすぎかもしれ
ない。さすがに人一人を相手に、そこまではしないかもしれない。それでも警戒するに越したことはない。
戦いはもう始まっている。いつかその時のためとこれまで力を隠してきたが、俺たちはやつらに対抗できる唯一
の組織。それだけの力を、仲間を守るための力がある。

 

「行くぞ!ハイブースター起動!!」

 

 

* * * * *

「陛下、オブリガードより使者の方が参りました」

 

初めは聞き間違いかと思った。隣国よりの使者は、つい先日も訪れていたからだ。間を空けずの訪問に、何か
思惑があるのではないかと勘繰ってしまう。

 

「通せ」
「はっ」

 

姿を見せたのは正装をした、長く白い髭が印象的な老人だった。ハットを深く被り、その顔ははっきりとは見え
ない。本来ならば、その行為じたいが無礼に値するものだが、彼だからこそ許された行為。ガロンたちの時のよ
うに、咎めようとする衛兵に私は睨みをきかせ、退室を促す。
察した衛兵はすぐさま立ち去り、ここには私と彼だけとなった。

 

「お久しぶりですね、バウロン氏」
「ふっふっふ、さすがに気づくか」
「あなたがその姿でここに足を運ばれて、もう三度目ですよ」
「気づくのはお前だけじゃ。ちょっと変装してしまえば、城の者は誰も気づかん」

 

そうしてハットを取った老人は、予想通りオブリガードの首相、ライゼル・バウロンだった。平常時ならまだし
も、帝国が攻めてきている今は戦時中。護衛の一人もいないとは、まさに彼らしい。

 

「護衛?ああ。付いていくと聞かんくてな。表に待たせておる」
「では城に入ってからはお一人で?」
「お前のことは信用しておるからな」

 

国の実権を握るトップが、隣国の王に会う時ですら護衛をつけないなど、この人以外じゃ聞いたことがない。
人を引きつける何かに加え、カリスマ性を持った言葉や行動が王たる資質と言えるが、彼はそれだけにとどまら
ない人物。かつてオブリガードにあったと言われる武闘派集団、特務十字隊の隊長だった男だ。

 

「して、今回はどのような御用件で?先日の情報提供のおかげもあり、帝国軍はヘミオラ海峡で足止めしており
 ますが」
「……悪いことは言わん。ミリア、即刻ここを離れろ」
「なぜです?先ほども申しましたが、我々の騎士団が帝国の侵攻を食い止めて」
「だからじゃ。食い止めておるうちは良いが、もし突破されたらどうする?お前んとこの騎士団が優秀なのは
 知っておるが、後ろに本隊も迫ってきておるという」
「ならばこちらも増援を送りましょう」
「なるほど。彼らを信頼しておるのじゃな」
「もちろんです」
「……お前ならそう言うと思ったから、わしが直接出向いたのじゃ。これは別ルートからの情報なんじゃが、
 どうやら本隊の構成は5番機と7番機で占められておるらしい。この意味がわかるか?」

 

機動兵器と言われるシェルには、開発初期の9つの試験機が、そのまま型番へと当てられている。つまりそれぞ
れの型番ごとに特徴があるのだ。これは空戦用、陸戦用、どちらにも当てはまること。
彼が言う5番機と7番機は、長距離支援型と超長距離支援型。こちらに向かってきている帝国の本隊には、歩く
砲台がほとんどを占めていることを意味する。

 

「まさか…。でもそんな…」
「それを知ったからと言って、わしはこの国ではただの爺。どうするかはお前が決めることじゃ。この国の民も
 お前の言葉なら耳を貸すじゃろう」
「…情報、感謝いたします」
「時間はあまりないぞ」
「はい…」
「……わしはそろそろ戻るとしよう。表の連中が、心配で胃に穴を開けるかもしれんのでな」
「ふふ」

 

最後のセリフで思わず笑ってしまったが、彼の言葉を信じるなら、事を急いだ方がよさそうだ。初めから一人で
逃げる気はない。しかし避難するにしても、カンティレーナの民だけでも相当な数だ。それを避難させる場所を
探すのも容易ではない。

 

「一時的でも構わないなら、うちへ来るといい。自慢できることじゃないが、寂れた土地なら十分にある」

 

去り際、彼は扉の前でそう言った。寂れたなんてとんでもない。それにここカンティレーナから、オブリガード
の国境は割と近い。大勢の人間が国境を越えることを許されただけでも、私には救いの言葉だった。

 

「衛兵!」
「はっ!」
「至急大臣たちを集めよ!それから緊急放送の準備を!」

 

これが杞憂に終わったとしても、なんら問題はない。問題なのは間に合わなかった時だ。やつらはもう、すぐ
そこまで来ているのだから。

 

 


* * * * *

 

 


俺がアルシスに着いたのは日の出前。カデンツを出る前、クラベスに打診していたおかげで大きな障害もなく
たどり着くことができた。観光客で賑わっていたアルシスは、帝国の動きを警戒する機体が集まり、今までに
ないくらい物々しい雰囲気となっている。

 

「容態は?」

 

ジェイクがいたのは、メリスが仮住まいとしていた家。野次馬を遠ざけるため、ノルドとゼルには表で待機し
てもらっている。部屋には夜通し付き添っていたであろう、メリスとヨーキの姿があった。

 

「……医者が言うには、血を流しすぎていると。俺たちも見つけてすぐ止血を試みましたが、せめてあと少し
 発見が早ければ…」
「…そうか。ご苦労だった。お前たちも休め」
「はい…。ほら、行くぞメリス」

 

メリスは首を横に振って、ジェイクの傍を離れようとしなかった。ずっと手を握り、その熱で生きてることを
確認してるように見える。だがそれももう、時間の問題。まだ息をしてることが奇跡と言っていいらしい。

 

「…メリス。こいつは俺を待っててくれたんだ。どんなに痛みで苦しんでも、俺の期待に応えようと必死に生に
 しがみついた。十分頑張った。だからそろそろ楽にしてやろう」
「………はい」

 

自分のベッドに横たわるジェイクの頬に触れてから、メリスはその手を離し、ヨーキと部屋を後にした。
部屋には俺とジェイクだけ。ここで飛び起きて『どっきりでしたー』なんて言ってくれないだろうか。そんな
バカなことを考えてしまうのは、俺が知るジェイクは、俺の前ではいつだってお調子者だったから。

 

「悪かったな。無茶をさせた」
「……っ」

 

俺はメリスと同じように、ジェイクの手を握り声をかけた。すると先ほどよりも近づいた声に、ジェイクが反応
したように見えた。名前を呼んでやると、うっすらと目を開け、まるでうわ言のように話し始めた。

 

「ジェイク?」
「……はぁ……はぁ……っ、…ニス……さ…」
「もういい!喋るな!」
「……っ、皇……帝は、あの……いちぞ…く……には…っ」
「…お前、やっぱり……」

 

やはりジェイクは何かを掴んでいた。おそらく開戦の直前でそれを知り、皇帝としては鼠の処分よりも侵攻を
優先したのだろう。動向を警戒させるだけさせておいて、逃げ出したものだから追手を差し向けたといったと
ころか。
きっとこれがジェイクが生きようとした執念。最後の力を振り絞って伝えようとしているのに、邪魔なんてで
きるはずがない。俺は黙って耳を傾ける。

 

「……はっ、はっ。……ひみ…つの、隠し…名が……はぁ、はぁ。……あ…るん……です」
「ああ」
「……いま、の……皇…帝……の、隠し…名は………ズィ…ン」
「なんだ!?もう一度…!」
「…はぁ、……ズィン。いこ…くの…言葉……で、崩…壊……と…」
「ああ」
「…いち…ぞくの……名は…………のぞ…む、者……っ」
「そうか。よくやってくれた。お前は俺の自慢だ。だからもういい。もう休め」
「………はは。……や…りぃ…………………」

 

俺に無事伝えられたことで安心したジェイクは、そのまま静かに息を引き取った。
最期は笑っていた。
いつだったか、俺に褒めてもらいたくて、小さな仕事も逐一報告してきた時があった。その頃はまだ幼かった
こともあり、俺は実の弟のように可愛がっていた。最期はそれと同じ笑顔だった。
部屋を出ると、そこにはメリスとヨーキがいた。顔を合わせ小さく頷くと、二人は中に入っていった。ドア越し
に聞こえたメリスの泣き声に、俺は行き場の無い怒りを覚える。
生まれてすぐ孤児だった俺は、仲間を家族のように扱ってきた。彼らもそれぞれに事情があるなかで、俺の理想
を汲んでくれた。だから俺たちにとっての"仲間の死"は、とても大きな意味を持っていた。

 

「……皇帝エドルド・ズィン・クレイバー。"崩壊を望む者"か…」

 

その名がどういった経緯で付けられたのかはわからない。ただ先代が名付けたにしても、冗談が過ぎる話だ。
名とは授かるもの。しかしそれを自分で決められるとしたら、それは…。


星の寿命、彼女の存在、そして"崩壊を望む者"。
まだ足らないピースがあるものの、少なくとも皇帝の狙いはだいたいわかった気がした。今まで不可侵協定を
結んでいたのも、そして破ったのも全てはこの時のため。表向きは国民のためと謳い、研究や開発に尽力して
いたのも、ひたすらに牙を研ぎ続けるための名目。
王族ならば、この星のことも知っていたはず。そして先日の地震で確信に変わったのだろう。
やつは危険だ。その名の通りなら、今侵攻されているシンガやこの国だけじゃない。世界全体を混乱に、星の
崩壊へと導こうとしている。
ならば俺たちが、俺が作った組織がその目論みを潰すしかない。そのためにも、彼女の記憶が全て戻ることが
鍵となるだろう。


頼むぞ、ザイン。


M-8.5 "その意味が示すもの"

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