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声劇×ボカロ_MDV-M

第1章  Break my fate
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第3.5話 《 広域探索実地演習 》
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【登場人物】

 

 ギルス・マドラー      25歳
帝国の主力部隊"マッドギア"の隊長。
考えなしのようで、周りの言葉もちゃんと聞ける。

 


 ノール・アンバーテイン   20歳
"マッドギア"を束ねるギルスの右腕。
自ら先陣を切るギルスに代わり、隊を指揮することも。

 


 ヴィンセント・コール    18歳
"マッドギア"の隊員。
常にギルスの後をついて回る、隊長信者。

 


 イゾラ・ロラ        18歳
"マッドギア"の隊員。
隊長信者2号で、ヴィンセントといつも張り合っている。。

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| スティンガーウルフ(Stinger Wolf)                         |
|                                            |
|巷で噂になっている"変異種"の一匹。                           |
|見た目は巨大な狼だが、サソリのような尾を持つ。鋭く強靭な尾は、地面に突き刺すことも可能。|
|尾から毒を出すが、致死毒ではなく麻痺毒。                        |
|                                            |
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【本編】
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ノールの召集で、ずぐに全員が集まった。
俺はというと、一応は演習で森に出向くという名目なため、先代に仕えたじいさんたちに後でとやかく言われ
ないように、その書類をしたためた。
まったく、めんどくさい。こっちは皇帝直属の部隊だっていうのに。

 

「隊長、ご苦労様です!」
「ホントだぜ。まぁ、いい。ひとまず出るぞ。他の連中には道中説明する」
「はっ!」

 

帝都から馬を走らせ、森の開けた場所で止める。
事情を知らない者たちは、どうしたのかと顔を見合わせている。

 

「聞け!先ほどラングザーム監獄より大罪人が脱走した!我々はこれよりその追跡を行う!この森全体の
 捜索となる!心してかかれ!」
「隊長、特徴を言っていただかないと」
「おっと、そうだったな。対象は若い女だ!緑色の長い髪をしているから、見つかればすぐにわかるだろう!
 俺は山沿いの検問所を目指す。他は任せたぞ!」
「はっ!」
「合流は明日の正午、この場所だ。いいか!それじゃ散れ!!」

 

俺の掛け声で、隊員は一斉に散っていった。が、その場に居座っている者が2名。
なぜいるのか、睨みをきかせても、まったく動じていない。
ノールはノールでいつものことだからと、すでに興味のない素振りを見せている。

 

「おい、お前ら。何やってる?」
「はっ!自分は隊長についていきたく!」
「私は初めから隊長とご一緒するつもりでしたので!」
「…はぁ。あのな、お前ら。おい、ノール。お前も何か言ってやれ」
「無駄ですよ。いつものことじゃないですか。この二人が残るのも、隊長がそうやって私に助けを乞うのも」
「…ったく。ヴィンセント、イゾラ。ついてこい!」
「はっ!!」

 

皇帝直属の部隊であるウチにいる以上、こいつらも実力を認められた人間だ。
とはいえ、毎度こうでは作戦というものが成り立たなくなってくる。
こいつらの実力をわかっているからこそ、任せたい場面も今後やってくるだろうに。
それでも今日に限っては、問題ないだろうと結論づけた。大罪人とは言ったが、昨日見た感じでは危険がある
ようには見えない女だった。本人も知らない何らかの力を秘めている。そんなことなど、そうそうあるもので
もない。だが警戒は必要だ。この国のトップが、長年閉じ込めていた女なのだから。

 

「そういえば隊長はご存知ですか?この森にいるっていうあいつを」
「あいつ?」
「はい。森の猛獣どもすら恐れるという、伝説の魔物です。自分もその噂を聞くようになったのは、ごく最近
 なんですが」
「あ、私も聞きました。ちゃんとした姿は目撃されていないため、噂として広まっているようですね」
「いったいなんなんだ?」
「スティンガーですよ。スティンガーウルフ」
「はぁ?あいつは絵本に出てくる作り物だろうが」
「自分もそう思ったんです。でも噂で聞いた話を繋いでいくと、そうとしか思えなくて」
「バカバカしい。空想上の怪物に踊らされてんじゃねえよ」
「でも実際にいたら興奮しません!?」
「しねえよ、バカ」
「ホント男ってこういうとこあるから、好きになれないのよねぇ。あ、もちろん隊長は別ですけど」
「うるせえ、イゾラ。お前には聞いてねえ。俺が隊長と話してんだ」
「私だって隊長と話してますぅ~。そっちこそ少し静かにしてくんない?」
「んだと!?」
「なによ!?」
「あー、もー!お前らいちいち喧嘩すんな!!」

 

こうやって片方と話しているうちに、いつの間にか二人の言い合いになってるのは日常茶飯事。
緊張感なんてあったもんじゃない。
今日はノールが先行してるからいいものの、これは早急になんとかしないとな。

 

「止まれ、ノール」
「はっ。どうなさいましたか?」
「いや、もうすぐ国境だ。それに日も落ちてくる。先行して詰所に事情を話してこい。俺はこいつらを連れて
 山沿いをもう一度あたってくる」
「わかりました。ヴィンセント、イゾラ!隊長を頼んだぞ!」
「はいっ!」
「もちろんです!」

 

ノールと別れ、森を斜めに突き進む。そこから一度森を出て、俺ら三人距離をとって国境を目指す。
途中他を任せた隊員にも遭遇したが、それらしき者はまだ見つかっていないらしい。
街から離れれば離れるほど、人の痕跡が残らない森だ。奥に踏み込みすぎると、俺たちの手に負えない猛獣や
魔物もいる。判断を誤れば、狩られるのは俺たちの方だ。

 

「お疲れ様です、隊長。詰所に話は通してあります」
「おう。ヴィンセント、イゾラ。お前ら何か見つけたか?」
「いえ、自分は」
「私も特に」
「ちっ。夜は危険だ。この森は特に夜行性のやつが多いからな。続きは明日にするぞ」

 

国境を預かる兵たちは、俺の姿を見てひどく動揺していたが、そんなこと俺には知ったこっちゃない。
詰所で夜を明かし、早朝から再び森へ入る。今度は二手に分かれて、合流地点まで一直線。と行きたいところ
だったが、脱走から丸一日経ったとなれば、案外近くにいるかもしれない。

 

「ノール、お前はどう思う?」
「対象がこちらに向かっていると仮定すれば、その可能性は十分にあるかと。ずっと牢にいた人間ならば、
 なおのことわかりやすいこの山を目指すのでは」
「だよな。だが時間も迫っている。演習といって出てきた以上、今日中に戻らなければ、またじじい共に
 とやかく言われるだろうし」
「それでしたら、自分がギリギリまでここに残ります!」
「私もです!」
「は?お前ら、それ本気で言ってんのか?」
「え、ええ。ダメですか?」
「隊長はノールさんと先に戻ってください。時間に遅れると、他の隊員もきっと心配します」
「そ、それはそうなんだが…」
「だ、そうですよ、隊長。二人もこう言ってますし、私たちは先に参りましょう」
「あ、ああ」

 

いがみ合うことしかできない二人だと思っていたから、さすがに驚いた。
むしろ二手に分かれるってことで、どっちが俺と行くのか、また喧嘩になるだろうと踏んでいたからだ。
成果を上げたい。理由がそんなことであったとしても、二人の発言は素直に嬉しかった。

 

「なんでお前も残るんだよ」
「あんただけ一人占めなんて許すわけないじゃない」
「足引っ張んなよ」
「そっちこそ」

 

二人の申し出を受け入れた俺たちは、先行して森に入っていった。
しかし俺たちはすぐに戻ることとなる。
一瞬視界に入った巨大な影が、二人の方へ、森の出口の方へ向かっていったからだ。
"散華讃歌"なんていう、散ることすら誇らしいなんて大層な隊訓があるが、今はその時じゃない。
その影に危険を感じたにも関わらず、みすみす見殺しになんてできない。

「くっ」
「大丈夫か、イゾラ!」
「なんなの…。なんなのよ、こいつはぁ!!」
「……巨大な狼。そしてサソリのような尻尾。間違いない、こいつは…っ!」
「また来る!!」
「イゾラ!お前は先に行って、隊長たちにこのことを伝えろ!!」
「はぁ!?あんた何言ってんの!?こんなやつ、あんた一人でなんて」
「いいからさっさと行け!!」

 

死を覚悟したと、ヴィンセントは言っていた。それでもイゾラだけでも逃がしたかった、とも。

 

「無事か、お前ら!!」
「た、隊長!!」
「平気、イゾラ?」
「ノールさん…」

 

俺たちの姿を見て安心したのか、イゾラは気を失ってしまった。
傷を負っているようだが、ノールの顔を見る限り深くはないようだ。
二人の馬がいないところを見ると、喰われたか逃げたか。今となってはどうでもいい。

 

「おい、逃げるぞ!立てるか?」
「は、はい。すみません、イゾラが」
「あいつは無事だ。それよりこいつは…」
「くっ。おそらく、昨日話したやつです」
「マジか。絵本にはモデルがいたってことかよ」
「みたいですね。でもなんでこんなところに…」
「考えるのは後だ。とっととここから離れるぞ!ノール!!」
「はい。イゾラは私が」

ヴィンセントを俺の馬に乗せると、怪物を目の前にして怯える馬を叩いて、俺たちはその場を離脱した。
やつが追ってこなかったことが、唯一の救いだった。
噂は噂のままでいればいいものを…。
とにかく俺たちの罪人追跡の極秘任務は、失敗に終わった。
スティンガーウルフから離れる直前に、緑髪の人影が見えたような気がしたが、きっと見間違いだろう。
仮に見間違いじゃなかったにしても、あんなものを相手にしつつ、罪人を確保など到底無理な話だ。
俺たちはまだ、あの人に何も返しちゃいないのだから。

 

「……ここ、は…」
「起きたか?」
「隊長?すみません、俺…」
「いい。何も言うな。ガイヤルドに戻った時には、お前もイゾラ同様気を失っていたんだ」
「そうだ、イゾラは…!」
「安心しろ、あいつも無事だ。向こうでノールがついてる」
「そう、ですか…」

 

よほどイゾラのことが心配だったのだろう。ヴィンセントは身体を勢いよく起こして聞いてきた。
イゾラが無事と知ると、ゆっくりとまた身体をベッドに預けていたが。

 

「何があった?ゆっくりでいい」
「……あいつと、イゾラと詰所前で待機してて、さすがにこれ以上は隊長たちに追いつけないと思って、
 馬を走らせた時だったんです。隊長の言っていた、それっぽい姿を見かけたのは」
「ああ」
「先に見つけたのはイゾラだったんですけど、その…。俺たちいつもいがみ合ってるじゃないですか。だから
 イゾラが先にそっちに向かって行って、俺もすぐに追ったら、その女の傍にあいつが…」
「スティンガーか」
「はい。まさかとは思いましたけど、姿かたちが絵本に出てくるまんまでした」
「そうだな」
「あいつに気を取られてるうちに、いつの間にか女はいなくなってて…。すみません」
「いや無事で何よりだ。他に何か気づいたことはあるか?」
「気づいたこと、ですか?」
「なんでもいい。正直あんなものには俺も二度と会いたくないが、対策は必要だろう」

 

ヴィンセントは少し考えてから、気になることを口にした。

 

「……捜しているよう、でした」
「捜す?」
「はい。女の姿が見えなくなってすぐくらいに、あいつ辺りをきょろきょろしだしたんです。それがまるで、
 女を捜しているように見えて…」
「魔物が?あの女を?」
「はい。っておかしいですよね、こんな話」

 

確かに妙な話ではある。単に元々狙っていた獲物の行方を探っていただけなのかもしれないが。
昨日見た感じでは、やつと何か関係があるようには見えなかった。
ひょっとしてそれが、エドルドのおっさんがあの女を幽閉していた理由なのか?
なんにせよ、脱走の話はもう知られていることだろう。俺たちが演習と称して追跡していたことも。
それを一々問題にするような人じゃないから、事無きを得るはずだが。

 

「隊長、どうしました?」
「いやなんでもない。お前は早く傷を癒せ。二人とも戻ったら、俺がシェルで訓練をつけてやるよ」
「それ本当ですか!!やった!」

 

俺たちは"マッドギア"。この国の特殊部隊。空を駆る機動兵器に乗ることを許されたエリート集団。
武力での制圧を掲げるこの国で、世界統一という夢を前に、空以外で散ることは許されない。
世界と停戦協定が結ばれている今、いつ命令が下されてもいいように、俺たちは日々牙を研ぎ続けている。


M-3.5 "広域探索実地演習"

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