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声劇×ボカロ_MDV-M

 

第1章  Break my fate
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第3話 《 レゾナンス 》
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【登場人物】

 

 ミク    16歳
記憶を失くした少女。
幽閉されていた監獄から脱走した。

 


 ザイン   24歳
遺跡を中心に巡るトレジャーハンター。
面倒見がよく、気のいい性格。

 


 アイナ   16歳
ザインを主とする女性型ヒューマノイド。
主の影響もあってか、他のタイプと違い、わずかに感情がある。

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| フォルテ大森林                                    |
|                                            |
|帝国の西に位置する広大な森。首都ガイヤルドから、ラングザーム監獄のその先にある。    |
|森の端に沿うように連なるミウジック山脈は、隣国との国境線。               |
|多くの獣が棲息するこの森は、帝国の台所事情だけでなく資源確保にも重要な地域となっている。|
|                                            |
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《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 


※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。

 

 

 


【本編】
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アイナ「マスター?どうされましたか?」

 


ザイン「いや、少し森がざわついてる気がしてな」

 


アイナ「そうでしょうか?」

 


ザイン「これだけでかい森だ。帝国の領地とはいえ、やつらも全貌を把握しきれていないだろう。どれだけ
    利用価値があろうが、自然なんてのは所詮人の手に余るものだ」

 


アイナ「はあ」

 


ザイン「はあ、ってお前な。……まぁ、いい。先を急ぐぞ。妙な噂もある」

 


アイナ「はい」

ザイン N:次の目的地へ向かうには、どうしてもこの森を抜ける必要があった。
      森の端にあるミウジック山脈に沿って登山道を目指すことも考えたが、山側は切り立った崖な上、
      狼どもの縄張りと聞いていた。

      一匹くらいなら、どうにかできたかもしれない。
      やつらが群れをなす生き物で、統率の取れた動きをしないなら、だ。

 

      くわえて変異種の目撃情報。
      聞いた話が事実なら、たとえ一匹でも、そいつに出くわしたら終わりだ。

ザイン「アイナ、そろそろ寝床を探すぞ。日が落ち始めた」

 


アイナ「……」

 


ザイン「アイナ、聞いてるのか?」

 


アイナ「あ、はい。了解しました」

 


ザイン「どうした?」

 


アイナ「なんでもありません。マスターは寝床を。私は薪を集めてきます」

ザイン N:そう言うとアイナは、一人森の奥へ消えていった。

 

      アイナは人型のアンドロイド。いやヒューマノイドと言った方が正しいのか。
      オブリガード共和国で研究されてきた、人類に代わる労働力。
      発展し続ける文明も、減っていく人口が足枷となり、その打開策として彼女らが生まれた。

 

      アイナとは、俺らみたいな一般にも流通するようになった5年前、旅先の街で出会った。

アイナ「マスター」

 


ザイン「おう、こっちだ。……なんだそれ?」

 


アイナ「どうせならと食糧も」

 


ザイン「頼んでないのに、お前のそういうところ、ほんと助かるよ」

 


アイナ「いえ」

ザイン N:謙遜しているわけじゃない。彼女たちは元々、感情を持たない者としてプログラムされている。
      痛みや苦しみを覚えてしまっては、人の代わりは務まらないらしい。
      だからといって、喜びや楽しさの感情まで奪うことはないと思うのだが。

 

      見た目は俺らと変わらない。
      だからこそ、ただ命令に従うだけの人形のような扱いには、俺は同調できないでいた。

アイナ「マスター、あの…」

 


ザイン「なんだ?」

 


アイナ「……あ、いえ。なんでもありません」

 


ザイン「なんだよ?」

 


アイナ「……明日は森を抜けられるといいですね」

ザイン N:らしくない言葉が返ってきた。
      まるで……そう。彼女がヒューマノイドであることを疑ってしまいそうな。

 

      そもそもヒューマノイドというのは大して口数が多くない。
      人のように感情豊かとまではいかずとも、対等に扱えばそれなりの効果は出るはずだ、という
      のが俺の自論ではあった。それにしたって、彼女のこのセリフは俺も予想外で、少し面食らっ
      てしまったのが本当のところだった。

アイナ「そろそろ休みましょう。私は火の番をしていますので」

 


ザイン「あ、ああ」

ザイン N:機械であるがゆえに、眠る必要もない。
      そういう点はソロで旅をしている俺のような人間には、とても助かることだ。

 

      だがさすがに今日は、いつもとどこか違う彼女の様子が気になってしばらく眠れないでいた。

 

 


* * * * *

 

 


ミク N:太陽が沈む方角が西。それは知っていた。
     運よく見つけた高台から、西に山、ちょうど反対側には街が見えた。
     私が昨日までいたあの場所は、人の出入りがあるようだったから、たぶん街側にあったのだろう。
     そう見当を立てて、私は暗くなるまで、沈みゆく太陽を追うように走った。

 

     外に出られた解放感からなのか、どれだけ走っても疲れを感じないくらいに体は軽かったし、その
     おかげもあって、随分と山が大きく見えてきた。
     が、さすがに夜の森は危険だと思い、火を焚いて休むことにした。

 

     感じずとも、疲れはあったのだろう。
     私は揺らめく火を眺めているうちに、眠ってしまっていた。

 

 


 + + + +

 

 


ザイン「森を抜けたぞ、アイナ」

 


アイナ「はい」

 


ザイン「思いのほか早かったな。さてあとは国境の検問だけだが、特に問題ないだろ」

 


アイナ「はい」

 


ザイン「噂の変異種が遊びに来てたりしてな」

 


アイナ「はい」

 


ザイン「……そこはもう少し危機感をだな」

 


アイナ「はい?」

 


ザイン「いや、なんでもない。行くぞ」

 


アイナ「……」

 


ザイン「おい、どうした?行くぞ。なに突っ立ってんだ?」

 


アイナ「マスター、あれ…」

ザイン N:アイナが指差した方を見ると、そこには巨大な狼と一人の少女がいた。
      向き合い、互いに牽制しているようにも見えたが、そんなわけがない。

ザイン「マジかよ!ヤバいぞ、あれ!」

 


アイナ「どうしますか?」

 


ザイン「行くに決まってんだろ!」

ザイン N:ずっと危惧している"変異種"は総じて巨体が多いという。
      その情報を耳にしていたからこそ、少女と向かい合うその狼はおそらく…。

ザイン「アイナ。お前はあの子を連れて、検問所へ向かえ。あそこは国境だし、それなりに腕の立つ者がいる
    はずだ」

 


アイナ「はい。それでマスターは?」

 


ザイン「すぐに後を追う」

 


アイナ「わかりました」

ザイン N:勝負は一瞬。
      俺たちが飛び出して見せた隙に乗じて、アイナが彼女を掻っ攫う。
      同時に、興味をこちらに向かせるというのだから、その場で食い殺されないよう祈った。

ザイン「大丈夫か!?」

 


アイナ「こちらです」

 


ミク 「えっ、え!?」

 


アイナ「何も言わず、そのまま走ってください」

 


ミク 「あ、あの…」

 


アイナ「安心してください。マスターはあれで結構強いんです」


ミク 「は、はぁ」

ザイン N:二人がそんなやり取りをしていることを、もちろん俺は知らない。
      そんなことよりも、嫌な予感が的中した。いや、それどころではない。
      少女が向かい合っていた獣の正体は…。

ザイン「なっ…。こいつは……スティンガーウルフ!?嘘だろ!?」

ザイン N:世界中の子供たちは、幼い時にほぼ同じ内容の絵本を聞いて育つ。
      いい子にしていないと、恐ろしい怪物たちが悪い子を食べに来るという、典型的な話。
      その絵本に描かれている怪物のうちの一匹は、サソリのような尾を持つ巨大な狼だった。

 

      そして今こうして目の前にいるそれは、体毛とは違う質感の尻尾を、こちらに向けている。
      絵本に似ているどころか、むしろそのままだった。

ザイン「ふっざけんな!!夢ならそうと言ってくれ!あれは絵本の話じゃなかったのかよ!!」

 

 


* * * * *

 

 


アイナ N:手を引いていて思った。私はこの子を知っている。
      いや、知っているような気がする。

 

      自分がマスターと違い、人ではないことは理解していた。
      知識があるのは、人のために作られたものだから。それ以上でも、それ以下でもない。
      知らないことは教えてもらえればすぐに覚えるし、そういうものなのだと聞いたこともある。

 

      でも記憶はマスターと出会った日からのものしかない。
      それより前は、主が決まった時点で消去されてしまうとの話だったからだ。

 


      じゃあなぜ、私はこの子を知っている?

ミク 「ど、どこに行くんですか?」

 


アイナ「この国の検問所です。もうすぐ着きます」

 


ミク 「あの人は…?」

 


アイナ「マスターもすぐに来ます。少なくとも、私を置いて無茶などしない人ですから」

 


ミク 「信頼、してるんですね」

アイナ N:よく喋ると、自分でもそう思った。
      普段は「はい」だの「そうですね」だの、返事や相槌だけだったような気がするのだが。
      これもマスターの影響なのか。

ミク 「あ!あれですか?」

 


アイナ「はい。マスターも追いついたようです」

 


ミク 「え?あ、本当です」

 


ザイン「お前らもっと走れ!来るぞ!!」

 


ミク 「え…?うわっ!!」

アイナ N:マスターの言葉にいち早く反応し、速度を上げる。声には切迫感があったからだ。
      彼女を抱えることも考えたが、手を引く彼女は意外にも私のスピードについてきた。

ザイン「検問も突っ切れ!止まると死ぬぞ!!」

 


アイナ「はい」

 


ミク 「え?え、いいの?」

 


アイナ「マスターがそう言いますので」

 


ミク 「そっか」

アイナ N:もちろん検問所の兵には一度止められた。
      でもマスターの後ろから現れた例の獣を見て、恐怖で硬直した隙を見て突っ切った。
      後方では悲鳴が上がっていたが、興味はなかった。

 

      それよりもすぐ隣を走る彼女が、私は気になって仕方なかった。
      これが魅かれるということなのだろうか。それとも…。

 


M-3 "レゾナンス"

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