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声劇×ボカロ_MDV-M

 

第1章  Break my fate
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第2話 《 月灯の祈り 》
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【登場人物】

 

 ミク    16歳
記憶を失くした少女。
自由に空を羽ばたく鳥に憧れを抱く。

 


 ギルス・マドラー   25歳
帝国の主力部隊"マッドギア"の隊長。
不器用ながらも部下からの信頼は厚い。

 


 ノール・アンバーテイン   20歳
ギルス率いる"マッドギア"の女性。
隊長に忠実で有能。

 


 レナ    19歳
戦火を逃れた先の廃墟に居着く。
朽ちた聖堂での祈りが日課。

 


 マルク   21歳
レナの幼なじみ。
同じ境遇の者たちで村を作る。

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| ラングザーム監獄                                   |
|                                            |
|首都ガイヤルドの特別区域に位置する、比較的新しめの監獄。                |
|重罪人が多く収容されており、何重にも張り巡らされた罠が、罪人の脱出を阻む。       |
|かつて戦争で廃墟となった街の跡に作られ、大きく抉られた地面がその凄惨さを象徴している。 |
|                                            |
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《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 


※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。


【本編】
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ミク N:目を覚ますと、知らない感触があった。
     それはひんやりとゴツゴツしていた今までとは、明らかに違うもの。
     肌から感じる熱は温かく、髪を揺らすそれはざわめきに似た音を奏でる。

ミク 「ここ、は…?」

ミク N:身体を起こして、辺りを見回す。
     人のざわめきは、風が揺らす木々の音。
     感じた熱は、大地の肌。

 

     私はどうやら、どこかの森の中にいるようだ。

ミク 「私、いったい…」

ミク N:訳が分からなかった。
     間違いなく、昨日は石に囲まれた部屋にいたはず。そしてそこで眠りについた。

 

     自分がなぜこんなところにいるのか、考えても考えても答えは見つからない。
     でも一つだけわかることがあった。

 

     それは私を遮るものは何もないということ。
     あの日空を自由に羽ばたいていた鳥のように、自分の行きたい所へ行けるということ。
     それがわかっただけで、私は十分だった。

 

 


* * * * *

 

 


ギルス「さーって、ひとっ風呂浴びたし、あの女の様子でも見に」

 


ノール「隊長!!」

 


ギルス「おう、どうした、ノール。お前も例の女見に行くか?俺は昨日見たから連れてってやらんでも」

 


ノール「女が消えました!!」

 


ギルス「なんだと!?消えた?どういうことだ!?」

 


ノール「たったいまラングザームから通信が入り、女の姿がどこにも見当たらないと」

 


ギルス「逃げたのか!?だがどうやって!?」

 


ノール「わかりません!夜明け前には確かにいたとの話でしたが」

 


ギルス「……考えるだけ無駄か。わからねえことはわからねえ。おい、このことロレンは知ってるのか?」

 


ノール「はっ。いえ、この件は我々で対処すると、兵には口止めしております」

 


ギルス「よくやった、ノール。追うぞ。逃げたにしても、まだそう遠くへは行ってないはずだ」

 


ノール「はっ!しかし機体は整備中との報告があり」

 


ギルス「バカやろう。あんなんで出たら、ロレンのやつに勘付かれるだろうが。手柄ってのは一人占めして
    こそだ」

 


ノール「確かに。ではどうなさいますか?」

 


ギルス「ちょうど警戒任務がてら、演習を考えていたところだ。上にはそう言っておく」

 


ノール「では私は召集をかけて参ります」

 


ギルス「ああ。大げさに動くなよ」

 


ノール「はっ!」

 

 


* * * * *


ミク N:私がいたのは、どこかの森の中。
     あの場所以外を知らない私にとっては、何もかもが新鮮だった。

 

     記憶はないが、知識はあった。
     だから木も草も、鳥も風も、どういうものか知っていた。
     一つ一つ触って確かめられる感じ、悪くない。

 


     ただこの先、どうしたらいいかがわからなかった。
     この場に留まれば、きっとあそこの人たちが私を見つけ出す。
     宛てはないが、自分の勘を信じて前に進むしかなかった。

 

 


 + + + +

 

 


レナ 「おはよう、マルク」

 


マルク「ああ、おはよう。昨夜はちゃんと眠れたか?」

 


レナ 「どうして?」

 


マルク「……いや、なんでもない。きっと俺の見間違いだろう」

 


レナ 「…?」

 


マルク「それより今日も行くのか?」

 


レナ 「ええ。私の大切な日課だもの」

 


マルク「そうか…。あそこはまだ瓦礫も多い。気を付けて行けよ。俺も後で行く」

 


レナ 「ええ」

マルク N:俺とレナは生まれ育った村を、家族を戦争で失くし、ここにたどり着いた。
      ここも昔はもっと大きな街だったのだろう。
      村と同じように、戦火の爪痕がいたるところに見える。
      だが雨風を凌ぐくらいの建物が、いくつか残っていたのが救いだった。

 

マルク「……やっぱり気になるな。ここは誰かに任せて、後を追うか」

マルク N:廃墟も同然のこの地に、同じ境遇の者が少しずつ集まってきたのは最近の話。
      近くには森があり、川も流れていて、食糧問題はひとまず解決している。
      それならばと、小さくとも村を作ろうと俺は持ちかけ、今日も朝から作業に励んでいた。

 

      レナはというと、毎朝朽ちた聖堂に赴き、祈りを捧げている。
      本当に神がいるのなら、どうして俺たちをこんな目に遭わせたのか聞いてみたくはあった。
      信じる信じないはともかく、レナにとっては自分を保つためにも必要なことなんだろう。

 

ミク 「あの…」

 


マルク「ん?ああ、新しく来た子かい?すまないが、他を当たってくれないか。俺はこれから」

 


ミク 「ラングザームってここ?」

 


マルク「ラングザーム?」

 


ミク 「地図だとここだって」

 


マルク「地図?……ああ、こりゃまた随分と古いものだな。位置は……うん。確かにここのようだ。
    今じゃ地図からも消えてしまっているだろうが」

 


ミク 「そう…」

 


マルク「あ、おい!」

マルク N:彼女はそれ以上何も言わず、どこかへ行ってしまった。
      手渡された年季の入った地図に、俺は再度視線を落とす。

 

      廃墟となった街。それももうだいぶ前に。
      きっと地図からも消えているだろうここで、もう一度同じ名を掲げたら…。

 

      慎ましく、ひっそりと暮らせば、気味悪がる者もいるかもしれない。
      そうなれば悲劇の繰り返しなど、もう…。

マルク「そう簡単に行くはずもない、か。………ラングザーム…。おっと、レナの様子を見に行かないと」

マルク N:そうして向かった聖堂跡には、レナと先ほどの彼女の姿があった。

ミク 「何をしているの?」

 


レナ 「お祈りを、捧げているのよ」

 


ミク 「どうして?」

 


レナ 「さぁ、どうしてかしらね。あの日全てを失って、もう何も信じられなくなって、でも自分で死ぬ
    こともできなくて。そんな私を、あの人は見捨てたりなんてしなかった」

 


ミク 「あの人?」

 


レナ 「私のね、幼なじみ。小さい頃からずっと一緒で、いっつも私を守ろうとしてくれて。自分だって
    つらいはずなのに、そんなの全然見せようとしない。だからせめて、あの人が笑っていられます
    ように、って」

 


ミク 「それが、お祈り?」

 


レナ 「そうね。……ええ、たぶんそう。あの人の存在は私が生きる糧でもあるから、かな」

 


ミク 「そう…」

 


レナ 「ふふ、おかしいわね。あなたには初めて会ったはずなのに、こんなにも心の内を話すなんて。
    ひょっとして、あなた神様だったりするのかしら?」

 


ミク 「…?」

 


レナ 「なんでもないわ。気にしないでちょうだい」

 


マルク「レナ」

 


レナ 「マルク?どうしたの、あなたがここに来るなんて」

 


マルク「いや、ちょっとな。それよりさっきの子は…」

 


レナ 「さっきの?……ああ、私が何をしてるか不思議そうな顔だったから、説明してあげてたのよ。
    ねぇ?…って、いない。いつの間に」

 


マルク「レナの知り合い……じゃあないよな」

 


レナ 「ええ。初めて見る子だったわ。でもきっとすぐにまた会うでしょう」

マルク N:胸の内を話して少し楽になったのか、レナの顔には昔のような笑みが戻っていた。

 

      でもそれ以来、俺たちは彼女を見ていない。
      旅の途中だったのか、それとも…。

 


      彼女が持っていた地図に記された、かつての街の名。
      それがこの村の名前になったのは、そう遠くない未来の話だ。

 

      だが神は再び、俺たちに試練を与えてきた。

ギルス「お前らにはこいつのテストに付き合ってもらう。あばよ、罪人ども!」

マルク N:覚えのない罪が、火の粉となって村に降り注ぐ。
      ようやく自由を手に入れたと思っていたのに、偽りでしかなかったというのか。
      乾いた笑い声が、たくさんの悲鳴に混じって聞こえていた。

マルク「レナ!どこだ、レナ!!」

マルク N:必死に逃げながら、俺は彼女を探す。
      まさかとは思ったが、彼女は聖堂跡にいた。

 

      月灯りの下、祈るレナの姿はとても綺麗だった。

レナ 「マルク…」

 


マルク「レナ、早く逃げる…」

 


ギルス「バーカ、逃がさねえよ。死ね」

マルク N:突然現れた悪魔に、俺たちは――。

 

 


 + + + +


ミク N:夢を見た。いやこれは夢というより、記憶に近い感じがする。
     朽ちた聖堂で祈りを捧げる女性は、儚くも美しく見えた。見惚れてしまうほどに…。

 

     自分のためではなく、誰かのために。
     そんな彼女の姿に、私は胸が痛んだ。

 


     もしかすると記憶を失う前の私も、そういう気持ちがあったんじゃないかと…。


M-2 "月灯の祈り"

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