声劇×ボカロ_edit.02 『 キミボシ 』
No good-bye Day
【登場人物】
〇中原 星華(18) -Seika Nakahara-
心臓に重い病を抱えている。
歌うことが大好きで歌手になることが夢。
〇藤崎 智輝(18) -Tomoki Fuzisaki-
星華の彼氏で星華の夢を心から応援している。
病気のことは知らされていなかった。
【キーワード】
・楽譜
・歌で伝える気持ち
・時間、タイムリミット(病気的に)
・残された夢
【展開】
・歌で気持ちを伝える星華、そして夢。
・病気の発覚。
・元気になるよう星に願うが、病気の進行は止まらなかった。
・書き直された歌詞、二人の夢
【本編】
星華 N:ここは、どこ…?
そうか、私…。
大好きな貴方の隣にいて幸せだった。強がって、ホントのことを隠して、今が幸せならそれでいいと
思っていた。でもそれは結局、貴方に辛い思いをさせるだけだって…。それなのに、私は…。
これはきっと記憶の中に眠る、私の欠片が見せる幻…。
* * * * *
智輝 N:放課後、彼女をいつもの場所で待つ。僕がこうして待っているときは、来たときには
大抵拗ねた顔をする。
星華 「ごめーん!ホームルーム長引いちゃって。」
智輝 「ううん、気にしなくていいよ。」
智輝 N:息を切らすほど急がなくたって、何時間だって待つのに。
申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた彼女に笑いかければ、
もう一度「ごめんね」と謝られた。
智輝 「時間はたくさんあるよ。」
星華 「(小声で)だって早く会いたかったんだもん」
智輝 「何か言った?」
星華 「(焦って)う、ううん!」
智輝 「そう?じゃあ、帰ろうか。」
星華 「うん!」
智輝 N:二人並んで歩くこの時間が何よりも心地いい。
お互いそれだけで満足できて、足音がはっきり聞こえるくらい、会話が少ないのもいつも通りで。
歩幅の違う君のペースを気にして、ちらりと彼女を見ると、目が合って笑みがこぼれる。
星華 「(寒そうに手をこすり合わせて息を吐く)はぁ…、そろそろ雪降るかなぁ。」
智輝 「確か…(少し考えて)去年の初雪はクリスマスじゃなかったっけ?」
星華 「そうそう!あの頃は私たちまだ知り合ってなかったねー。」
智輝 N:星華と出会ったのは今年の春。
桜が舞う川沿いで歌っている彼女を見つけた。
透き通る声、心に訴えかけるような歌詞。
気が付けば拍手を送っていたっけな。
そしたら驚いたように振り返った顔と、真っ赤になった頬。
今思い出しても、可愛かった。
星華 「あっ!」
智輝 「え?」
星華 「見て!やっとできたの!」
智輝 N:振り返ると鞄から何かを取り出す彼女。
それは僕もよく知るクリアファイル。中にはおたまじゃくしの並んだ綺麗な楽譜。
手描きであるそれは紛れもなく君の作った歌。
彼女は嬉しそうに僕にそれを見せる。
近くに腰掛け、まじまじと楽譜を眺める彼女。
智輝 「(楽譜をざっくりと読み)……いいね。」
星華 「そ、そんなことないよっ///」
智輝 N:楽譜で照れた顔を隠す彼女。その仕草は、出会ったあの時と変わらない。
その姿が可愛くて、僕はまた笑みがこぼれる。
智輝 「ねぇ、歌ってみてよ。」
星華 「え!?……ん、わかった。」
智輝 N:頬を赤らめながら立ち上がった彼女。座ったまま視線を向ければ、彼女は息を吸い込んで、
紡いだ想いをメロディーに乗せて吐き出す。
星華 「(歌う)♪ 誇れ~るほど 何も~でき~なくて~ ただ君の傍にいたい そう ね~がうだけ~」
智輝 N:思いきり歌う彼女の姿に、トクンと心臓が音を立てた。
背中越しに伝わる彼女の想い。解き放たれる素直な気持ち。
歌に乗せたメッセージは、確かに僕の心に届いていた。
もし今返事をするのなら…。なんて考えてしまうほど、僕は彼女に見惚れていた。
星華 N:曲を作ること、それに言葉を乗せること。楽しいことばかりに目がいって、私は大事なことを
忘れていた。
なんのために、私が歌を作っていたのか…。
現実から目を背けて、ホントのことを隠してまでしていた意味。
星華 「(激しい痛みを感じて)ウッ…!」
智輝 「……星華?」
星華 「(苦しそうに)ハッ…。ウウッ」
智輝 「星華っ!!!」
星華 N:これから起こるであろうこと。
私の素直な気持ち。そのすべてをこの歌で届けるために…。
* * * * *
智輝 N:僕は何も知らなかった。
毎日同じ日が過ぎるのだと、信じて疑わなかった。
何が好きだとか、何があっただとか。幸せしかこの世界にはないとさえ思っていた。
でも…。
いつもそばにいた“君”という存在の大切さに気づいていながら、
僕は知らないフリをしていたんだ。
* * * * *
智輝 N:ピッ ピッと無機質な機械音が耳に響く。
この場所が現実なのか、夢の中なのかわからないほど、一定のリズムを刻むそれは、
僕から彼女を奪っていくカウントダウンのように聞こえた。
彼女の手を握る。弱々しくもちゃんと握り返してくれる彼女に、僕は少しホッとした。
星華 「……あっ、う…」
智輝 「無理して話さなくていいよ。目を覚ましてくれてよかった。」
智輝 N:彼女が倒れた後、慌てて救急車を呼んで、彼女のお母さんにも連絡した。
そして告げられた彼女の病気。
彼女は、いつ眠ってもおかしくない状態。
一度昏睡状態に入ると、次にいつ目覚めるかわからないと…。
どうして…なんで星華がッ!
叫びたい衝動を必死に抑えつけ、僕は彼女に変わらない笑顔を送った。
一番つらいのは、苦しいのは彼女だから…。
傍にいると、傍にいたいと口にした僕が不安な顔をするなんてできない。
星華 N:目を開けると、私の前には彼がいた。
長い夢を見ていたようで、でも指から伝わる彼の温度が心地よくて。
彼と一つになれる唯一の時間。話せなくても、伝えたいことはきっと伝わってる。
私はちゃんとここにいるよ、って。
でもそれも、時間という壁が私たちを引き裂く。
智輝 「もう時間か…。明日また来るから。な?」
星華 「(かすれた声で)…あ、り…が…」
星華 N:ちゃんと伝えたくて声を振り絞る。それでも貴方は優しいから、無理をするなとでも言うように
首を横に振って、笑ってみせた。だから私も、精一杯の笑顔で返す。
ドアが閉まり、彼がいなくなって、一気に不安に襲われる。
たった壁一枚隔てた先に彼がいるのに、今の私にはそれを掴むことができない。
彼と一緒にいたい。ただそれだけのことなのに…。
智輝 N:ドアを閉めて、そのまま座り込む。
壁一枚先にいる彼女。僕にできることは何もない。
その手を掴むことも、抱きしめることも。
時間のある決められた世界に生きる僕たちは、永遠というたどり着かない迷路を彷徨う存在。
彼女の傍にいたい。そう願うだけなのに…。
最後に見た彼女の顔は、今にも消えてしまいそうな、そんな切ない笑顔だった。
* * * * *
智輝 N:すれ違う人がみんな幸せそうに見えてしまう。
キラキラと光る木々のイルミネーションさえ、今の僕には霞んで見える。
この街並みは何度も彼女と歩いたのに、今は全然違った景色のようで…。
智輝 「星華……。」
智輝 N:その景色に溶け込めないまま、季節だけが過ぎていく。
枯葉が舞い、雪が舞い、新年を迎えて舞い踊る人々に置き去りにされるように、
僕は彼女の元に通い続けた。
何も知らないフリをしていたあの頃とは違う。
離れ離れの違う世界に生きていても、心は通じてると思っていた。
想いは届く。そう信じて疑わなかった。
+ + + +
星華 N:どうか、もう少しだけ頑張って…。もう少しだけ動いていて…。
月の明かりが射し込む病室。届かない星を掴むように、私は手を伸ばす。
もう時間がないのは自分が一番わかっている。
+ + + +
(回想)
智輝 『君なら絶対すごい歌手になれるよ!僕が保証する!』
+ + + +
星華 N:知り合って間もない頃、貴方はそう言ってくれた。
歌手になりたいなんて子供じみた夢を、貴方だけは笑わないでくれた。
今でも覚えてるよ?あの日、貴方がくれた拍手の音を。
???「貴女は十分がんばった。もう休んでもいいのよ」 ※星華役の人が言う
星華 N:心の中に眠るもう一人の自分が、そう伝えてきたように思えた。
夢で見た自分とよく似た女の子。とても楽しそうに歌う彼女のようになりたいと思い、
歌を歌い始めた。ホントはきっかけなんて、そんな些細なものだった。
でも今は違う。
誰かに笑顔になってほしくて、彼に想いを届けたくて、そういう気持ちが歌になるんだって。
だから…。
星華 M:(まだ私は、ちゃんと届けていないから…)
星華 N:私と同じツインテールの彼女。きっとあの日からずっと私を見守ってくれていたのだろう。
その手には私の書いた楽譜があった。
未完成のこの歌を、溢れるほどの彼への想いを、伝えるための最後のチャンスを。
そう強く願うと同時にかけめぐる、たくさんの思い出。
ドクリと強く心臓が最後の鼓動を刻み、私は何かに吸い込まれるようにゆっくりと目を閉じた。
* * * * *
智輝 N:昨日までの機械音が、その呼吸を止めたかのように静まりかえっている。
それでも微かに聞こえるのは、かろうじて彼女が生きているという証。
そして同時に、もうどうしようもないという現実。
智輝 「星華…?」
智輝 N:呼びかけても、その手に触れても、彼女は反応してくれない。
目を開けて、僕の方を向いて、ごめんねって言いながらも笑顔でいた彼女は…。
智輝 「(涙を流しながら)う…そだ…。だって…昨日まで…笑っ…て…ッ…」
智輝 N:ボロボロと零れ落ちた涙が冷たい床に落ちる。
その涙に導かれるように、僕は崩れ落ちた。
どうしようもない喪失感。
彼女は確かにそこにいる。でも僕の声はもう、届かない。
智輝 「…まだ、伝えたいことが、聞いてほしいことが、たくさんっ…あった…っのに…ッ」
智輝 N:あの日、最後に聞いた彼女の歌。
それがどこからか聞こえてきたかと思うと、突然光に包まれる。
星華 「溢れるほど、君が愛しくて?……(微笑みながら)今、そう思った?」
智輝 「…せい、か…?」
智輝 N:夢でもなんでもいい。僕は目の前にいる彼女を抱き締める。
彼女の顔を見て、そう時間がないことは察しがついた。だから…。
智輝 「会いたかった…」
星華 「…私もだよ。でもね」
智輝 N:するりと僕の手を離れる彼女。背中越しに聞こえてきた彼女の“答え”に僕は…。
うなだれ、目を閉じると、次に僕が見たのは、ベッドに横たわる彼女。
星華 N:私の最後の願い。それを伝えることが、ようやくできた。
私の気持ちを、感じたことを、たくさんの思い出を、カタチに…。
この微かな光を、ありふれた想いを、歌にのせて…。
智輝 N:床に落ちていた彼女の楽譜。そこには彼女のすべてがつまっていた。
幻の中で見た彼女が、最後に僕に伝えたかったこと…。
星華 「ありがとう。さようなら」
《 タイトルコール 》
智輝 「 No good-bye Day 」
星華 「この手に感じた確かな温もり」
智輝 「繋いだ手に宿った小さな光」
星華 「あなたは私の」
智輝 「君は僕の……。星でした」
fin...