声劇×ボカロ_edit.1 『 からくりピエロ 』
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【登場人物】
桜河 春音(23) - Harune Sakurakawa -
一途な女性。
本音を言えない。
吉川 玲緒(30) - Reo Yoshikawa -
一流企業で働く男性。
女遊びが激しく、飽きたら捨てるを繰り返してきた。
大河内 瑠依(27) - Rui Ookouchi -
玲緒の元カノ。わがままなお嬢様。
玲緒につきまとう。
【展開】
・視点変更有
・遊び相手と知っていながらも好きを止められない春音
【キーワード】
・仮面
・待ち合わせ
・ピアス
【本編】
春音 N:全部初めから知っていました。
貴方が本気でないことも、この関係が今にも切れそうな細い糸で繋がってるだけだってことも。
それでも私は今日も貴方を待ちます。
笑顔の仮面を携えて…。
* * * * *
玲緒 「わりぃ、遅れた」
春音 N:そう言っていつも通り遅れてやってきた貴方。
時間通りに来たことなんてないくせに、“悪い”なんて思ってもいないのでしょ?
春音 「ううん、来てくれたからそれでいいの」
春音 N:そんなのウソ。でも、そんなわがままを貴方が嫌うことを知ってるから。
私は嫌われたくなくて、離れて欲しくなくて、今日もこの仮面を貼りつける。
玲緒 「あ、これやるよ」
春音 「え?何?」
春音 N:コートのポケットから取り出したそれを私に押し付けた。
手のひらに乗った小さな箱。
リボンを解いて箱を開ければそこには小さなピアス。
ピンク色のハートが揺れる可愛いピアス。
玲緒 「これ、欲しがってたやつだろ?少しはえーけど、クリスマスプレゼントな」
春音 「…嬉しい…ありがとう」
春音 N:ねぇ、私今、うまく笑えてるかな?
この心を悟られていないかな…。
貴方とピアスを見に行ったことなんて、これを欲しいなんて…私は、言ったことないよ…?
玲緒 「じゃぁ、またな」
春音 「うん、ありがとう、玲緒さん」
玲緒 「…ああ」
春音 N:街をぶらついて、食事して、家まで送ってもらう。
これがいつものデートコース。
いつも、いつだって、貴方は…。私の気持ちなんて…。
家に帰ると、まっすぐにベッドに倒れ込む。
春音 「ふぅ…疲れた…」
春音 N:ゴソゴソと鞄の中からあの箱を取り出す。
高いんだろうな…これ…。
いったい貴方はこのピアスを誰と見たの?
どんな女の人がこれを欲しいと貴方にお願いしたの?
そんなこと口にする勇気もない癖に、嫉妬ばかりが胸に渦巻く。
それでも私は笑い続ける。
今、この時だけでも貴方が傍にいてくれるのなら…。
私は何番目だってかまわない…。
* * * * *
玲緒 N:あの子に出会ったのはいつだっけか?
ああ、青い空に白い雲が浮かぶ日だった…。
人が集まる広場の中、時計台の下に立っているあの子を見つけた。
黒髪のストレートに控えめな服。
一緒にいた女の話なんか筒抜けてしまうほど、そのときの俺はなぜか彼女を気にしていた。
瑠依 「ねぇ、聞いてるの!玲緒!」
玲緒 「聞いてるっつの」
玲緒 N:もう秋から冬に変わろうとしているのに露出の多い服。
そのくせ寒いとか言って体を密着させてくるこの女。
ああ、めんどくせぇ。
瑠依 「あ!見てみて!これ可愛い!!」
玲緒 N:俺の手を引いて宝石店のウィンドウを覗き込む。
女の視線はピンク色のハート形をしたピアスに向いてる。
てめぇにゃ似合わねえよという言葉を飲み込みながら、
こっちのがお前には似合うだろと真っ赤なピアスを指差した。
瑠依 「本当!これも素敵ね!」
玲緒 N:それはもう買ってくれという合図なんだろ?
計算高い女。けど、その計算も気づかれちゃ、ただ下品なだけだ。
この女もそろそろ飽きたな。
…切るか。
瑠依 「ねぇ玲緒、今度はいつ会えるの?」
玲緒 「…もうお前とは終わりだ。じゃぁな」
瑠依 「はぁ!?何よそれ!!」
玲緒 「もう飽きたつってんだよ。それにお前、下品だし」
玲緒 N:すぐに頬に激痛が走った。なにがどうなってるかなんて、考えなくてもわかる。
こんなことはよくあることだ。
玲緒 「ッ…てぇ…」
瑠依 「最低!」
玲緒 N:あの女思いっきり叩きやがって…。
これだから女はめんどくせぇんだよな。
とりあえず帰るかとあの広場の前をまた通ると、
視界に入ったあの子。
玲緒 「あいつ…」
玲緒 N:あれから何時間たってんだ?
初めて見た時まだ日が高かったから少なくとも4時間。
あれは待ち合わせすっぽかされたな。
少し様子を見ていたら、その子は腕時計を見て俯いた。
ああ、あれは泣くな…。
春音 「今日は4時間か…」
玲緒 N:そうつぶやいてその子は泣くでもなく、怒るでもなく、
ただ、静かに微笑んでたんだ…。
柄にもなくドキリとしたのは一瞬の気の迷いだ。
玲緒 「大丈夫?」
春音 「え?」
玲緒 「手、冷たくなってるよ」
玲緒 N:そう言って手を握れば大抵の女は顔を赤く染めて俺に落ちる。
この女だってきっと…。
春音 「じゃぁ、この冷たい手でその真っ赤な頬、冷やせますね」
玲緒 N:悲しげな目で笑って彼女は言った。
思いっきり叩かれたから綺麗についた、季節外れの真っ赤な紅葉。
誰かにひっぱたかれたのなんて、一目瞭然…か…。
玲緒 「…ありがとう」
玲緒 N:メガネの奥に、少しだけ悲しげな目をして、どこか遠くを見ているようで。
その目に俺が映っているかなんてわからなかった。
でもそんな彼女を前に、思わず口から出た《ありがとう》という言葉。
俺は恥ずかしさを隠せなかった。
これが俺と春音との出会い。
ひらひらと雪の舞う、とても寒い日だった…。
* * * * *
春音 「あれ、メール来てる?」
玲緒 『明日15時にいつもの場所で。美味しいフレンチ予約したから』(紳士をきどって)
春音 M:貴方は私に会いたいって思ったんだね。でも私はいつだって…。
春音 「ありがとう、っと。わかり、まーしたっ。おーまーちしーてーまーすっ」
春音 N:最後に“フレンチ、楽しみです”と付け加えて、私はメールを返した。
待ち合わせは15時。
明日はいったい何時に来るんだろうね…。
…うん、これでいいの。
会いたいと言われればそれに応じて、会えないと言われればそれに頷く。
そしていつかは飽きて捨てられる。
今はその筋書きの上をただ歩いているだけ。
ああ、なんて滑稽な悲劇……あるいは喜劇。
春音 「痛い…」
春音 N:悲しいのを、悲しくないふり。
痛いのを、痛くないふり。
苦しい…。苦しくない…。
苦しく…ない…。
* * * * *
春音 N:待ち合わせは15時。
陽はすっかり傾き、時計台が鐘を鳴らす。17時を告げる音楽が響く。
女「待った~?」
男「おせぇよ、お前。何時間待たせる気だよ」
女「ごめんごめん。って、10分しか過ぎてないじゃない」
男「10分でも寒いんだよ。行くぞ」
春音 N:私より後に来た男の人が、私より先に去っていく。
誰もが時折、チラチラと私を見る。
さっきのカップルだって、私を一瞥した。
可哀想な子を見て嘲笑うかのように…。
苦しい…苦しくない…。
苦しく………。
春音 「もう…やめようかなッ…」
春音 N:それでもきっと私はここで待ってしまう。
あの寒い日に、冷え切った私の手を包み込んでくれたあの温もりを…。
* * * * *
玲緒 N:あーめんどくせぇ。
春音に会いに行こうとした瞬間あの女…。
瑠依 「玲緒!私、やっぱり貴方がいないとだめなの!」
玲緒 「あ?誰だっけ、お前」
玲緒 N:まぁ、覚えてるけど。
なんせ、お前にひっぱたかれたおかげで春音と出会えたんだしな。
瑠依 「他に女がいるのね…」
玲緒 「知ってたことだろ。それを承知でお前は俺と付き合った」
瑠依 「それでも…いつか1番になれるって…」
玲緒 「思い上がるなよ。お前みてーなうっとおしい女、嫌いなんだよ」
玲緒 N:女なんてただの暇つぶし。
綺麗なら誰でも構わない。
けど…春音だけは違う。
どんなに俺が遅れたって、あいつは俺を待った。
それを責めもせず、ただ笑ってた。
悲しみを覆い隠した…笑顔の仮面を被って…。
瑠依 「ッ…どうせ、あんたなんて誰にも本気になれない可哀想な男よ!!」
玲緒 N:やっぱり下品な捨て台詞だな。
誰にも本気になれない?お前にだけは言われたかねぇよ…。
+ + + +
春音 『れーおさんっ』(玲緒の記憶の中で自分を呼ぶ春音の声)
+ + + +
玲緒 「俺だってなぁ…。本気で惚れることだってあるんだよ!」
玲緒 N:時計を見れば、もうすでに17時。
俺はかつてないくらい走った。
今まで俺、こんなに必死に走ったことあったっけか?
玲緒 「はッ…はッ…居たッ…」
玲緒 N:薄暗くなった広場の時計台の下。
後ろから息を整えながらゆっくり近づく。
玲緒 「…え…?」
玲緒 N:俺は足を止める。レンガを敷き詰めた広場の地面に落ちた雫に目を奪われる。
それはだんだん間隔を狭めていき、ポタリ、ポタリとシミを作っていく。
春音 「もう…やめようかなッ…」
玲緒 N:俺はひどい男だ。そんなのわかりきってたこと。
それでも彼女はこんな俺を待っててくれて、俺のことをずっと想っててくれて。
俺もいい加減素直にならないとな。
玲緒 「やめないでくれ…春音…」
玲緒 N:冷え切った小さな体を後ろから抱きしめる。
ビクリと震え、驚いたように振り返った、春音の目じりに浮かぶ涙を拭う。
俺の姿を確認して、ほっとしたような顔をみせる彼女に、自然と頬が緩む。
勝手だってことはわかってる。でも…。
玲緒 「お前の冷え切った手を温めるの、俺じゃなきゃダメだ…」
春音 「ッ…玲緒さんッ…」
玲緒 「泣いてくれていい、罵ってくれていい。だから…本当の笑顔で…笑ってくれ…」
玲緒 N:ずいぶんと都合のいいことを言っているのはわかってる。
でもやっぱり俺は…君を手放したくないんだ…。
春音 「ッ…じゃぁ…ピアスッ…」
玲緒 「…ピアス?」
春音 「これ…私選んでないもんッ…」
玲緒 N:嗚咽で聞き取りにくかったけど、突き返された小さな箱。
中身は見なくたってわかってる。
そうだよな…これはあの女が可愛いと言ったやつだ。
こういうのは春音みたいな女に似合うと思って買ったが、
今思えば、あの女へのただのあてつけだったのかもな…。
玲緒 「そうだな…。わりぃ…」
春音 N:急に後ろから抱きしめられて香ってきたのは貴方の好きな香水。
誰、なんて見なくたってわかったの。
どうしてそんなに息を乱してるの?
いつも余裕な貴方だったのに…。
ひょっとして、私に会いたくて…?
冷たい手を包み込んでくれた。そっと涙を拭ってくれた。
私と同じように冷たいはずなのに、とても温かい貴方の手。
耳元で囁かれた言葉に、我慢していた気持ちが弾ける。
私だって…貴方じゃなきゃ…。
初めて自分の心を伝えた。
本当はあのピアス、嬉しくなんてなかったことも。
そしたら貴方が本当に申し訳なさそうに“悪い”なんていうから。
それが嬉しくて、おかしくて、また涙が出てきたの。
玲緒 「どうした?俺、またなんか言った?」
春音 「ううん。あのね…。あ、やっぱり内緒ですッ」
春音 N:もう、貴方を待つのは終わり。
今度はきっと大丈夫。
貴方が私につけさせた仮面は、貴方が素直になってくれたとき、私が素直になったとき、
その役目を果たしたから…。
貴方が想うままに、私を操って?その代わり、私も貴方を…。
【 タイトルコール 】
春音 「Waiting for...」
玲緒 「次はちゃんと時間、守ってやるよ」
春音 「うーん…、無理なんじゃない?(クスクス」
玲緒 「なっ!?お前ッ…」
fin...