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声劇×ボカロ_MDV-M
第2章 ミーティア
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第7話 《 動乱の滴 》
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【登場人物】
ミク 16歳
失くした記憶を探す少女。
戻った一部の記憶を話せないままでいる。
ザイン 24歳
世界中を旅してきたおかげか、割と顔が広い。
世界の端にある辺境の地で育った。
アイナ 16歳
見た目は普通の少女だが、機械製のヒューマノイド。
ザインの方針のおかげで、他と違って人間に近い話し方をする。
イニス・シュトレー 25歳
ザインの幼馴染で"オーバード"のリーダー。
オブリガードの協力を得ていることもあり、多くのシェルを保有する。
アルノー 17歳
"オーバード"のメンバーの一人。
イニスを実の兄のように慕う少年。
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| アウフタクト研究塔 |
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|ヒューマノイド開発をはじめ、様々な研究を行っている建物。 |
|一部民間への開放もしており、ヒューマノイドのメンテナンスで多くの人々が出入りしている。 |
|軍とは別に、エンプティやシェルの開発も行っている。 |
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《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は"N(ナレーション)"の中に"M(モノローグ)"が含まれることが多い。
【本編】
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ザイン N:トライアド遺跡の最後の出入口は、オブリガード共和国のモデラート丘陵に繋がっていた。
そこは人の往来がない林の奥、生い茂る草木にうまく隠れていたため、今まで見つからなかった
のだろう。
俺たちは林を掻き分け、アイナが言っていた農道を目指していた。
イニス「止まれ。動くな」
ザイン「うっ」
ミク 「え?」
アイナ「マスター!」
ザイン N:突然背後から声がしたかと思うと、硬いものを背中に押しつけられた。
こういう状況で、それが何かなんて言わなくてもわかる。経験上。
ザイン「よせ、アイナ」
イニス「身分証があれば出せ。なければ名前と出身を言え」
ミク 「ザイン!」
イニス「お前たちも動くな」
ザイン「大丈夫だ、ミク。そのままでいろ。アイナも」
イニス「余計なことをすれば、容赦はしない」
ザイン「わかってる。…ザイン・ヒューネル。辺境のドミナントの出だ」
イニス「ドミナント?ピアニシ諸島の自治領か」
ザイン「よく知ってるな」
イニス「……ひょっとしてテシスか?」
ザイン「あ?なんで知って……ってお前、イニスか!?」
イニス「久しぶりだな、ザイン。10年振りか?」
ザイン「8年だ、バカやろう!」
ミク 「え、知り合い?」
ザイン「ああ。おい、もういいだろ。その物騒なものを下ろせ。あと隠れてる連中もなんとかしろ」
イニス「ああ、そうだった。お前たち、出て来い。そいつも下ろしていい」
ザイン N:イニスがそう言うと、銃を持った男たちが四方から現れた。
そうやって改めてイニスを見ると、警備兵というにはお粗末な、普段着に近い格好をしている。
ミク 「あの…」
イニス「ん?ああ、俺はイニス。ザインとは同郷の腐れ縁ってやつだ。今は……まぁ、見た通りだ」
ザイン「見た通りって、国の警備兵でもやってんのか?」
イニス「……まぁ、そんなとこだ」
ザイン「あぁん?なんだよ、その含みのある言い方」
イニス「あー……っと、ちょっとな」
ザイン「?」
アルノー「リーダー。アルシスのメリスから連絡が」
イニス「わかった。悪い、ザイン。少し待っててくれ」
ザイン「あ、ああ」
ザイン N:その様子に、俺は違和感を覚えた。
いち警備兵にしては、イニスに対する周りの接し方が少し違って見えたのだ。
隊長や団長といった呼び名ではなく、リーダーという言葉にも。
それにしても、アルシス…?
あそこは最近、観光地として人気だというが、帝国にも近い…。
イニス「待たせたな。少々厄介なことになった。悪いが、お前たちにもこのまま一緒に来てもらう」
アルノー「いいんですか!?」
イニス「こいつらは大丈夫だ。お前は先に戻ってみんなを集めておけ」
アルノー「はい」
ザイン「それで?俺たちはどこに連れて行かれるんだ?」
イニス「ついてくればわかる」
ザイン「拒否権はなし、か」
ミク 「ザイン…」
アイナ「マスター…」
ザイン「言う通りにしよう。悪いようにはされないはずだ」
イニス「すまんな。だがここでお前と再会できたのも運命なんだろう。アジトに着いたら全てを話す」
ザイン「アジト?お前、いったい…」
イニス「ふっ。俺の護衛は一人でいい。あとの二人はアルシスへ三人を迎えに行け」
ザイン N:互いにアイコンタクトを取った三人は頷き、即座に二人が姿を消した。
イニス「じゃあ、行くか。これから突風が吹くが、飛んでくる枝なんかに気をつけろよ」
ザイン「は?」
ミク 「突風?」
ザイン N:意味がわからず首をひねっていると、イニスの言葉通りに突然風が吹いた。
そしてその原因が、俺たちの頭上に現れる。
ミク 「あれって…!」
ザイン「スカイシェル!?さっきの二人が乗ってるのか!?」
イニス「おい、こっちだ」
ザイン「イニス!お前本当にいったい何を!」
イニス「だからそれはアジトで話す。早く来い」
ザイン N:吹き荒れる風に背中を押されるように、俺たちはイニスの後をついて行った。
念のためと最後尾についた俺は、ミクの左腕にまた違う傷が増えていることを見逃さなかった。
今度はそれがただの傷じゃないとはっきりわかる。
俺は声をかけようとして止めた。
それは以前も感じた、何か大きなことに関係しているような気がしたから。
そしてイニスが知ることもまた、ミクの秘密に近いことではないかと思ったから。
ミク 「ザイン、ちゃんと話すよ」
ザイン N:ちらりと振り返ったミクの口から出たのは、まるで心を読んだかのようなセリフ。
俺は小さく頷き、遺跡での言葉に嘘はないと、改めて自分に言い聞かせた。
* * * * *
イニス「さて、改めて自己紹介をしよう。俺はイニス・シュトレー。"オーバード"のトップを張ってる」
ミク N:私たちが連れてこられたのは、首都エトヴァスの郊外にあるという小さな廃村。
その先にある御社(おやしろ)の、さらに扉の奥。
階段を下りていくと、巨大な空間に出た。そこは扉の内と外じゃ、まったく違う世界。
ザイン「"オーバード"っていやぁ、圧政や貧困に苦しむ人たちの英雄じゃねえか。ここがそのアジトだって?
それでお前がそのトップ?」
イニス「ああ。俺はテシスを出た後、この国に身を寄せてたんだが、あることがきっかけでこの組織を立ち上
げた。今じゃ、世界中にメンバーが散らばってる」
ザイン「あること?それが例の厄介事に繋がるってのか」
イニス「そうだ。だがその話をする前に、お前には知ってもらいたいことがある。…っとその前に、そちらも
自己紹介してもらおうか」
ザイン「俺か?俺は」
イニス「違う。お前の連れだ」
ザイン「ああ、そっちか。だってよ」
ミク N:そう言って私とアイナに促すザイン。
先に戻った?ー?がイニスの言う通り人を集めていて、その視線が一斉にこちらを向く。
アイナ「アイナです。マスターであるザイン様と旅をしています」
イニス「あんたヒューマノイドか」
アイナ「はい」
イニス「証は?」
ミク 「証?」
アイナ「マスター」
ザイン「構わん。出せ」
アイナ「はい。こちらです」
ミク N:アイナは服をめくり、胸から腰に沿って縦に刻まれた文字を見せた。
イニス「ヴォー、カリ…オン。間違いないな。もういいぞ」
アイナ「はい」
ミク 「……ザインはあれ知ってたの?」
ザイン「ん?ああ。着ている服が破けたり燃えない限り、こいつらが肌を露出することはない。だが見た目は
普通の人間となんら変わらない。だから焼印のような形で、その名を刻んでるんだそうだ」
ミク 「それがヒューマノイドの証…。ヴォーカリオンってのは?」
ザイン「それは」
イニス「それは俺が説明しよう」
ザイン「イニス」
イニス「ヴォーカリオンってのは、彼らを動かす核の名だ。古代の遺跡で発掘されたオリジナルを元に、複製、
付与することで、彼らは動いている。そのオリジナルに刻まれていたそうだ。ヴォーカリオン、とな」
ミク 「そうなんだ…」
イニス「複製はできたが、未だに解明されてない代物だ。さ、次はあんただ」
ミク 「私?」
イニス「自己紹介」
ミク 「あ、そっか。えっと、私はミク。ザインたちとは森で会って、それから一緒に旅をしてる」
イニス「…と言ってるが」
ザイン「間違いない。帝国にあるフォルテ大森林。あそこの国境近くで会った。怪物と鉢合わせしてな」
イニス「森の怪物…?……そうか」
ミク N:イニスはそれ以上聞いてこなかった。
何か考えているのか、顎に手を当てている。
様子を窺っていると目が合ったけど、それだけ。
イニス「……ザイン。一応聞くが、これから予定があったりするのか?」
ザイン「いや、特には。首都に寄るついでにアウフタクトでアイナを見てもらおうと思ったくらいだな」
イニス「首都に?」
ザイン「もうお前も知ってるんじゃないか?帝国がシンガに攻め入ってることを」
イニス「ああ。バルカロールではもう戦闘が始まってるらしい。空騎士も来てると聞く」
ザイン「ってことは、俺たちがヴィヴァーチェで見たあれは、やはり帝国の特殊部隊か」
イニス「あれは厄介な連中だ。場合によっては、命を捨てることも厭わないという」
ザイン「そうだな。それで、俺が知りたい情報は今ある程度聞けたんだが、お前は何を言おうとしてた?」
イニス「それなんだが、待たせてばかりで悪いが、また少し時間をくれ。なるべく先手を取りたいんだ」
ザイン「よくわからんが、いいぞ」
イニス「悪いな。……お前たちいるな!今ノルドとゼルがメリスたちを迎えに行ってる!一班は二人を追って
脱出を援護!二班は南に展開して、帝国の動きを封じろ!すぐにこちらにも来るぞ!」
ザイン「なっ…!?」
イニス「三班、四班はエトヴァスの守備を固めろ!五班はアウフタクトに協力を要請後、二班と合流だ!」
ザイン「待て待て!ここでも戦争を起こす気か!!」
イニス「起こすんじゃない。もう起きてるんだ!帝国の、いや皇帝の本当の狙いを知るには、アルシスにいる
やつの情報が不可欠。どこで漏れたのか、泳がされたのか、手負いのあいつにはもう時間がない!!
アルシスの向こうは、すぐに帝国なんだ!シンガが落ちるにしろ落ちないにしろ、やつらはここにも
必ず来る!!」
ザイン「くそっ。やはり避けられないのか…」
イニス「いいな、無理はするな!連絡は密に!」
ミク N:そこにいた全員の返事は、ここが広い場所だからか、重く響いて聞こえた。
そもそも何故ここはこんなにも広いのだろう。
答えはすぐにわかった。
ザイン「こいつは…っ。ここは格納庫だったのか」
イニス「ああ。来たるべき日のために、今まで集めてきたものだ」
ザイン「来たるべき日…。それが今か」
イニス「いや…。どうだろうな」
ザイン「あ?」
イニス「場所を移動しよう。ここは今から轟音が鳴り響いて、話どころじゃなくなる」
ザイン「お前…。これを見せるために、わざわざ俺たちを連れてきたな?」
イニス「噂の"オーバード"がどういうものか、知ってほしかっただけだ」
ミク N:イニスは私の方を向いて、そう言ってきた。
彼のその行動が、私の中で確信に変わる。この人は私のことを知っている、と。
私も知らない私のことを、きっと――。
アルノー「リーダー、首相からお電話です」
イニス「おっと、こちらから連絡する手間が省けたな。繋いでくれ」
ミク N:今までザインたちにも話していなかったこと。
得体の知れない私を快く受け入れてくれた二人には、やっぱりちゃんと知ってもらいたい。
私がいた場所と"彼ら"の存在を。その繋がりを。
M-7 "動乱の滴"