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声劇×ボカロ_vol.63  『 ブラックキャット 』

 


Thief or Knight ~黒と白が交わる夜~


【テーマ】

奪いたいのは、守りたいのは

 


【登場人物】          ※配役に迷ったらこちらを押してください。  

 

 クロ(黒猫)  オス
全身真っ黒な毛並の猫。
普段は街中を徘徊している野良。

 


 シロ(白猫)  オス
全身真っ白な毛並をしている。
ユナと同じ部屋に住む飼い猫。

 


 ユナ(人間) 女性
いつの頃からか、部屋に閉じこもるようになった。
外の世界に憧れはあるのか、月夜にだけ外を眺める。

 

 

【キーワード】

 

・笑顔を失った少女
・挑戦と決意
・奪う者、守る者
・憧れは強く、記憶は深く

 


【展開】

・日の光を遮るように閉められたカーテン。徐々に黒に染まる世界。
 ・闇夜に溶け込む一匹の猫、クロ。遠くに見える窓の向こうのユナを窺い、天を睨み付ける。
 ・ユナの傍らに佇む一匹の猫、シロ。己の存在意義を確認しつつ、外から感じる視線に不安を覚える。
・勝負の時は午前2時。ユナの心から悲しみを奪おうとするクロと、心を満たしてやりたいシロ。
・人知れず始まる攻防戦。神がけしかけた障害と思いこむクロと、ユナを守ろうとするシロ。
・表情を変えないユナに、逆に心を奪われる二匹。
 ・ずっと人への憧れがあったクロ。生まれ変わって、想いを伝えて、それで笑ってくれるなら。
 ・人だった記憶が僅かに残るシロ。記憶が戻れば、そうじゃなくとも、ただ笑ってくれるなら。

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。


※“クロ”と“シロ”がカタカナ表記で判別しずらいため“◇◆”で区別する。

 

※“ユナ”のセリフが少ないため、シーン別のサブタイトルをセリフとして追加。

 

 

 

【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 


◇クロ N:とある街に一人の少女がいた。
      彼女はいつの頃からか笑顔を見せなくなり、次第に外に出ることも減っていった。

 

      月が闇夜を照らす時、いつも決まった場所に姿を現す彼女。
      そんな彼女を遠くから見つめる一匹の猫がいた。

 

 

◆シロ N:彼女の傍にはずっといた。
      それなのに、近付けば時折撫でてくれるくらいで、あまり興味を示してくれない。

 

      月が闇夜を照らす時、彼女はいつも決まって外を眺める。
      その瞳(め)を魅了するものが何かはわからない。

 

 

◇クロ N:これは俺が少女の。

 

 

◆シロ N:僕が彼女を守り。

 

 

◇クロ N:笑顔を取り戻そうとする物語――。


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◇クロ 『 Thief or Knight 』
    (  シーフ オア ナイト)

 


◆シロ 『 黒と白の交わる夜 』

 


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  ユナ 『 page.1 黒と白 』
 ――――――――――――――――

 

◆シロ N:また、だ。
      今日もまたカーテンは閉め切られている。
      一度開けてしまえば、暖かな日の光で思わず笑顔になるかもしれないというのに。

 

      そんな期待をしていた時もあった。
      でも彼女がカーテンに触れることはない。

 

 

 ユナ 「おいで」

 

 

◆シロ N:小さな声で、そう彼女は僕を手招きする。
      そのまま彼女が腰掛ける椅子のすぐ隣で、丸まり、片時も離れない。

 

      これが僕の、ここでの日常。

 


      でも…。

 

 

◇クロ N:いつの頃だったか。夜の街を徘徊していた時に、俺は彼女を見つけた。
      悲しそうな表情を浮かべ、一度も笑みを見せないその姿が、妙に焼きついている。

 

      次の夜も、また次の夜も、彼女を見かけては思うようになった。

 


      その悲しみを奪ってやりたい、と。

 

 

◆シロ N:昼間は閉め切られているカーテンも、月が闇夜を照らす時だけは違った。
      それは決まって遅い時間。深夜。
      そして最近、窓の外を眺める彼女に向けられた視線を、外から感じるようになった。

 

 

◇クロ N:闇夜に溶け込み、塀の上を行き来する。
      そうして俺はまた、どこにいても彼女を見つけ出す。

 

      なぜ彼女は笑わないのか。なぜ笑おうとしないのか。
      考えれば考えるほど、わからなくなる。が、それがまたそそられる。

 


      俺はブラックキャット。夜を駆ける大盗賊。どんなものだって盗んでみせる。
      たとえそれが、神が相手だとしても。

 

 

◆シロ N:視線の正体はわからない。
      わからないが、僕のやるべきことは一つ。今も昔も変わらない。

 


      僕はホワイトキャット。君を守る騎士(ナイト)。どんなときも守ってみせる。
      たとえそれで、命を落としたとしても。

 

 

◇クロ N:さぁ。

 

 

◆シロ N:時は近い。

◇クロ N:今夜決行だ!

 

 


* * * * *

 

 

  ユナ 『 page.2 影と陰 』
 ――――――――――――――――

 

 

◇クロ N:今夜は満月。雲間から顔を出したそれが放つは、不気味な青白い光。

 

      俺は天を睨み付ける。

      原因がわからない以上、俺が予告状を出す相手は奴しかいない。
      何もせず、世界を見守るだけの…。

 


      俺は目を閉じ、覚悟を決めたように走り出す。彼女の元へ。
      まるで囚われの姫のように窓際に立つ少女。
      それを阻もうとする塀も、難癖をつけてくる他の連中も関係ない。

 

      すべては、彼女の笑顔のために…。

 

 

◆シロ N:彼女がカーテンを開けると、照明の落ちた部屋に光が入ってくる。
      空に浮かぶ月を綺麗だと思うも、今日に限っては不気味さを感じる。
      明るいのに暗い。ゆっくりと、でも確実に何かいけない物が近づいてくる。そんな感覚。

 

      部屋には静寂が満ちていた。
      聞こえるのは時計が秒針を刻む音と、微かな呼吸音だけ。

 

      針は1と6を差していた。
      6があと半周した頃に、きっとあいつが来る。
      ここ最近感じる落ち着かない時間が、まさに勝負の時のような気がしていた。

 

 

◇クロ N:だんだんと彼女の姿が大きくなってくる。
      順調すぎて怖いくらいだった。
      塀の下では、食料を巡って野良どもが争っていたり、恋にかまけているやつもいた。

 

      バカバカしい。こいつらはわかっていない。
      今日の獲物が、どれだけレアなのかってことを。

 

 

◆シロ N:でも…。

 

 

◇クロ N:見えてきた。が、近づいて初めて気づく。
      彼女の横に、白い刺客がいることに。

 

 

◆シロ N:今日だけは…。

 

 

 ユナ 「……さん」

 

 

◆シロ N:こっそりと外に出て、窓と窓の間に身を隠す。
      外に出ても彼女の傍を離れるわけにはいかないと、壁を隔てた一番近くであいつを待つ。

 

      闇が途切れる隙間に照らされた光が、黒の標的を映していた。
      僕は近づくそれに向かって、飛びかかる。

 

 

◇クロ N:月の光を浴びた塀が黒に染まっていく。
      それは徐々に大きくなり、気づいて見上げた時にはすぐそこまで迫っていた。

 

      俺は咄嗟に後ろに飛びはね、その正体をしっかりと目に焼き付ける。

 

 

◇クロ 『なんだ、あんた。邪魔するなよ』

 


◆シロ 『そういうわけにもいかない。彼女は僕が守る』

 


◇クロ 『へぇ?あんたはさしずめ、あの子の騎士(ナイト)ってところか』

 


◆シロ 『そういうお前はなんなんだ!?』

 


◇クロ 『俺?そうだな……。天下の大盗賊ってところか』

◆シロ N:その言葉に一瞬戸惑った僕は、光の届かない闇に溶け込んだ奴を見失ってしまう。

 

 

◇クロ N:すぐそこに影はあった。
      少しでも身を隠せば、この白い奴は突破できると踏んでいた。
      予想は見事に的中。
      塀から塀へと飛び移り、白い奴を置き去りにすることができた。

 

      俺たちは。

 

 

◆シロ N:猫だ。
      人間が“猫”と呼ぶ僕らは、俊敏で夜目が利く。
      一度見失っても、その目標がはっきりしているからこそ、次の行動ができる。

 

      僕は彼女の元へ急いだ。

 

 

◇クロ N:一戦交えることもできたが、今夜の標的はただ一つ。
      大盗賊なんて言うからには、必ず彼女の笑顔を頂いてやる。

 

      息巻いて窓越しの彼女と対面したと同時に、彼女の瞳(め)から一滴(ひとしずく)の涙が
      こぼれ落ちた。

 

 

 ユナ 「……さん」

◇クロ N:何と言ってるかは聞き取れなかったが、彼女の変わらぬ表情、落ちる滴に、悲しみなんてものが
      簡単には奪えないと気づいた。
      それがわかった時、俺はまた闇に溶け込んだ。

 

 

◆シロ 『待て!!』

 

 

◇クロ N:その声も届かぬほど、静寂に身を包んで…。

 

 


* * * * *

 

 

  ユナ 『 page.3 憧れと記憶と 』
 ――――――――――――――――――――

 

 

◇クロ N:昼間、食料を求めて彷徨いながら、俺は彼女の涙を思い出していた。

 

      わかっていたつもりだった。そう簡単にはいかないことくらい。
      でも彼女の心はとてつもなく深く、悲しみは奥底に広がっている。
      突然現れた黒い物体に目もくれないほどに…。

 


      でも…。

 

 

◆シロ N:昨日、何事もなかったかのように、僕は部屋に戻った。
      しかし彼女は、僕がいなくなっていたことすら気づいていなかった。
      うっすらと空が明るんできた頃にカーテンを閉め、振り返った彼女の顔はいつもと変わらず。

 

      黒い奴の襲撃に変化がなかったことに安心しつつも、それでも笑顔を見せない彼女が心配で
      仕方なかった。

 

      でもひとまずこれで安心だ。………なんて思わない。

◇クロ N:たった一度の挑戦で諦めてちゃ、大盗賊の名折れだ。
      今夜もう一度。今度は彼女に予告状を。

 

 

◆シロ N:あいつはきっとまたやって来る。
      それも間を置かずに。つまりそれは……今夜!

 


      彼女が笑顔を取り戻してくれるなら、どんな形になったとしても…。

 


      その想いには、そっと蓋をして。

 

 


 + + + +

 

 


◇クロ N:ただ笑顔が見たかった。
      たった一度でいいから、彼女の笑った顔が見たかった。

 

      彼女への想いはいつしか、心の片隅に置いていた“憧れ”を強くするものになっていた。

 

 

◆シロ N:ただ伝えたかった。
      君は一人じゃないって、君には僕がいるんだって伝えたかった。

 

      欠けて散り散りになった記憶の片隅に、確かに彼女の姿がある。

 

 

◇クロ N:もしも生まれ変わったなら。

 

 

◆シロ N:もしも記憶が戻ったなら。

 

 

◇クロ N:もしも人間になれたなら、ちゃんとこの想いを伝えたい。
      そんなことばかり考えていた。
      でもそれで彼女が笑ってくれるなら、それだけで俺は幸せになれるのに、って。

 

 

◆シロ N:もしも僕を思い出してくれたなら、きっと彼女の笑顔を取り戻せる。
      そんな気がしていた。
      だから傍にずっといたし、彼女が笑ってくれさえすれば、それだけで僕は幸せで…。

 

 


* * * * *

 

 

  ユナ 『 Last page 微笑みの先に 』
 ――――――――――――――――――――

◇クロ N:空を見る。雲に隠れていた月が街を照らし、いつもの風景が異様な雰囲気に包まれているよう
      だった。それは自分の気持ちが昂っているせいなのかもしれない。今度こそはという強い意気
      込みが、そう感じさせたのかもしれない。

 

 

◆シロ N:彼女は今夜も気づかない。いつものように、活気からは遠ざかった街並みを眺めている。
      まるで僕もその一部であるかのように。

 

      昨日は思わず飛びかかってしまった。でもそんなバカなことはもうしない。
      あいつの目的が彼女と確信した今、ここでじっと待てばいい。

◇クロ N:作戦開始の合図を知らせるように。

 

 

◆シロ N:静かな街に、野犬の遠吠えが響いた。

 

 

◇クロ 『いる…』

 


◆シロ 『来る…!』

 

 

◇クロ N:まっすぐに、ただまっすぐに、この気持ちに正直に。
      歩みを止めず、ひたすらに突き進む。

 

 

◆シロ N:気紛れな猫なんてここにはいない。
      ここにいるのは、ただ愛する者を守りたいと佇む、一匹の…。

 


      傍から見れば、ただの猫同士のケンカかもしれない。
      それでも僕には、きっと奴にも、譲れない何かがある。

 

 

◇クロ N:俺はブラックキャット。夜を駆ける大盗賊。

 

 

◆シロ N:僕はホワイトキャット。どんな時も主を守る騎士(ナイト)。

 

 

◇クロ N:それぞれの想いを胸に、俺たちは唸りをあげ。

 

 

◆シロ N:僕たちは爪を立て――。

 

 


 + + + +

 

 


◇クロ N:あの日、自分の中の正直な気持ちを確かめに向かった日。
      小さな憧れから生まれた挑戦は、俺から足を奪った。
      それはきっと無謀にも神に挑んだ代償ということなんだろう。

 

 

◆シロ N:守りたい。ただそれだけで決意したあの日。
      自分が昔人間で、彼女の笑顔を目にしていた記憶は、幻だったのかもしれない。
      そう思えるほど、僕の存在は知らぬ間に彼女の心を埋めていたようで…。

 

 

◇クロ N:彼女にどんな心境の変化があったのかはわからない。
      でも今はそんなことどうでもいい。
      そう思えるほど、ずっと欲しかった彼女の笑顔は、こんなにも俺を癒してくれる。

 

 

◆シロ N:僕はいつもの場所に寝転がる。
      そこは彼女の膝の上ではないけれど、彼女にとっての僕の定位置。
      それに…。

 

 

◇クロ N:俺から足を奪った神の粋な計らい。
      生まれ変わって人間になる。その夢は潰えたけど、今はこれでいい。

 

 

◆シロ N:彼とぶつかって、痛いほど自分が猫だと知った。
      だからこそ、塀から落ちて行く彼を見捨てることができなかった。
      そして今、同じ空間に彼の姿があることが、嬉しいとも思った。

 


      心は簡単には奪えない。守るなんてのも、ひとりよがりな考えが招いた思い込みだ。
      それに気づいた僕らは、ただ彼女の傍にいられることの幸せを選んだ。

 

 

◇クロ N:微笑む彼女の膝の上で、俺は。

◆シロ N:微笑む彼女が見えるいつもの場所で、僕は。

◇クロ N:今日も眠りについた――。

 

 

fin...

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