声劇×ボカロ_vol.58 『 恋空予報 』
I fall in love many times
【テーマ】
空に映るは恋心
【登場人物】
雨辻 璃子(16) -Riko Ametsuji-
中学の頃から陽太に片想いしている。
もっと話したいのに、嫌われたくない系女子。
三嶋 陽太(17) -Yota Mishima-
璃子とは中3からずっと同じクラス。
それもあってか仲は良いが、気持ちには気づかない鈍感男子。
【キーワード】
・決意の日
・ドキドキ
・告白
・手を繋いで
【展開】
・ずっと好きだった陽太に告白を決意した朝。もっと話したいのに、しつこいと思われたくない璃子。
・鈍感な陽太。好きになった方が負けとわかっていても、やっぱり悔しい璃子。
・今までは幸せな晴れ。でも明日には涙で雨になるかもしれないと思い悩む璃子。
(空を見上げ、自分の心と空模様を重ねる)
・告白をするも、答えを先延ばしにする璃子。雨が止んだ時、その手を陽太が握っていた。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は“N(ナレーション)”を中心に展開される。
【本編】
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璃子 N:連休明けの学校。何年か前までは憂鬱で仕方なかったのに、今の私はむしろ楽しみになっていた。
理由は一つ。あいつに会える。ただそれだけ。
陽太 「よう、璃子。おはよう」
璃子 「おはよう」
璃子 N:教室に入ってすぐに飛んできた声は、私が中3の頃から好きなあいつ。
たまたま高校も同じで、入学式で見かけた時嬉しかったのを覚えている。
そして1年、2年と同じクラスになった今、中学の頃よりは仲良くなれたと思う。
陽太 「なぁ、英語の予習やってきた?」
璃子 「え、うん」
陽太 「マジ?ちょっと写させてくんない?俺当たりそうなんだよ」
璃子 「えー、またぁ?あんた毎回それじゃん。自分でヤル気あんの?」
陽太 「あるある。次は大丈夫だから、はい、出して」
璃子 「出してって…。それ人に物頼む態度?」
陽太 「あはははは!!ごめん、ごめん」
璃子 N:……まただ。
私はこいつのこの笑顔にやられてしまった一人。きっと他にもいるんじゃないかってくらい、彼は
可愛い笑い方をする。
人の気も知らないで…。
私が彼と話すたびに、実はドキドキしてることを彼は知らない。全然気付かない。
陽太 「ちょっと借りるな」
璃子 「いいけど、授業前には返してよね」
陽太 「わかってる、わかってる」
璃子 N:彼は私のノートを持って、自分の席へ。
でもそこでまた友達に話しかけられて、話に夢中になったのか、ノートを写す手は止まっていた。
陽太 「それで恭介がさー」
璃子 N:男友達っていいな、って思う時は今までもあった。
本当はもっと話したくても、しつこいなんて思われることを心配しなくていいし、気軽に触れたりも
できる。
でも私が抱いた感情は『友情』じゃなくて『恋』だから、だからちゃんと伝えたいと思えるんだ。
陽太 「だろー?ほんとバカだよな、あいつ」
璃子 N:楽しそうにしている彼を横目に、私は大きく深呼吸する。
今日は昨日までと違うから。
私は今日、あいつに告白する。
* * * * *
璃子 N:日本史の授業中、あいつはこそこそと何かをやっていた。
どうやら朝私が貸したノートを写しているようだ。
しばらくそれを見ていると、視線に気づいたのか、振り向いて笑って見せた。
不意討ち…。反則…。
おかげでそれからは、チャイムが鳴るまでずっと上の空だった。
いつもあの笑顔に見惚れて、あの笑顔を思い出して、そのたびに自分がドキドキしてるのがわかる。
悔しいけど、好きになったら負けっていうのは本当だったんだなって思う。
陽太 「ほい、さんきゅ」
璃子 「よかった、返ってこないかと思った」
陽太 「ひっでぇ。璃子は俺のことそんな風に思ってたんだ?」
璃子 「……(呟いて)思うわけないじゃん」
陽太 「なに?」
璃子 「え、なにも言ってないよ」
陽太 「そ?とにかく助かったよ。また頼むわ」
璃子 「また、って…。気が向いたらね」
陽太 「あはは、頼りにしてるぜ」
璃子 N:本気なのか冗談なのか、私の好きな笑顔はそれをうやむやにしてしまう魔法を持っている。
ふと窓の外を見る。
さっきまで晴れていた空を、雲が覆い始めていた。
まるで私の見えない不安な心を映すみたいに…。
* * * * *
璃子 N:放課後になって、朝からは想像できないくらい、どんよりとした雲が空を覆っていた。
きっとあいつは傘を持ってきていない。だから雨が降り出す前に、帰ってしまうかもしれない。
もたもたしてる時間はなかった。
今日すると決めていたのに、先延ばしにしてしまったら、明日、また明日と、結局言えないままに
なる可能性だってある。だから…。
陽太 「なんだよ、璃子、話って。早く帰らないと、雨降りそうだぞ」
璃子 「わかってるよ。でもごめん。ちょっとだけ時間ちょうだい」
陽太 「…?うん」
璃子 N:呼び出した場所は定番の校舎裏。
定番なだけあって勘付かれそうだけど、こいつに限ってそれはなさそう。
璃子 「………」
陽太 「どうした?」
璃子 「……今までずっと言えなかったけど、本当はずっと好きだったから」
陽太 「え?」
璃子 「あぁ、でも!答えは待って!すぐに言わないで!」
陽太 「え……あ、うん」
璃子 N:突然のことで困惑しているのがわかる。
言わないでと言ったものの、脈がないならないで、彼ならはっきりさせようとするはず。
耳を塞ぎたくて、でもそこまでみっともない真似はできなくて、私は震えていた。
気持ちを伝えずに、あの笑顔を眺めているだけで幸せだったかもしれない。
それでもいつしか独り占めしたくなって、あの笑顔を私だけに向けてほしくなって、私は勇気を
出して一歩踏み出した。………はずなのに。
陽太 「璃子…」
璃子 N:声をかけられ、返事がくるのだと思い、俯いて目を閉じる。怖い。
そのすぐあとに、雨が地面を鳴らし始め、ひんやりとした空気を肌で感じた。
陽太 「……あーあ、降ってきた」
璃子 N:降り出した雨は、叶わないかもしれない恋が、不安が、涙となって落ちてきたようだった。
陽太 「なぁ、璃子。傘持ってる?」
璃子 「……うん」
陽太 「そっか。じゃあ、一緒に帰ろう。ってか、入れて」
璃子 「え…?」
陽太 「ん?ダメ?」
璃子 「ううん、いいよ。帰ろう」
陽太 「おう。先に下駄箱行ってて。カバン取ってくる」
璃子 N:走っていく彼の後姿を見ながら、私は呆然としていた。
断られなかったことへの安堵感と、心の片隅にあったちょっとの期待感が、私をそうさせていた。
雨は降り続いている。でもそれは涙なんかじゃない。
ひょっとしたら今日で私の恋は終わりなんだと思っていた。
それがまだ明日も続くとわかっただけでも、私は救われたような気がする。
陽太 「悪い、お待たせ」
璃子 「うん」
陽太 「さすがに今日はみんな帰るの早いわ。天気予報外れたからだろうな」
璃子 「お昼ぐらいから降りそうだったけどね」
陽太 「それにしても、よく傘持ってたよな」
璃子 「折りたたみはいつも持ってきてるから」
陽太 「へー。さすが女子」
璃子 「それ関係ある?」
陽太 「んー…。ないかな!」
璃子 「また適当言ってー」
陽太 「いいじゃん。そういやお前と帰るの久しぶりだな」
璃子 N:前にも何度か一緒に帰ったことはあった。でもそれはよくある仲良しグループでの話。
二人だけで帰ったことなんて、帰り道でたまたま会った時くらいしかない。
璃子 「……よかったの?」
陽太 「なにが?」
璃子 「私なんかと二人で帰って」
陽太 「なんで?ダメなの?」
璃子 「そ、そうじゃないけど…」
陽太 「ならいいじゃん」
璃子 「だってこれ…、相合傘…」
陽太 「俺傘持ってねーもん。茶化してくるやつらなんて放っときゃいいんだよ」
璃子 「……っ。またそうやってあんたは」
陽太 「ん?」
璃子 N:なんでそうやって素直に言葉にできるんだろう。そう思った。
茶化されても関係ないくらい私に興味がないのか、ただ私を守ろうとしての発言だったのかは、
今の私にはわからない。
でも後者だったらいいなって思うのはいけないこと?
陽太 「璃子、見ろよ。あっち」
璃子 「え?………あ、虹」
陽太 「雨も……止んだな」
璃子 「通り雨だったんだね」
陽太 「ありがとな、入れてくれて」
璃子 N:私たちは足を止めて、彼は傘から出ていく。
雨が止んだのに傘をさしているのもおかしいから、私はその場でたたんだ。
たたむその瞬間、きっと彼の見えないところで私の顔はがっかりしていたと思う。
せっかく一番近くにいられたのに、その時間はとても短かったから。
陽太 「じゃ、じゃあ帰るか」
璃子 「え…?」
璃子 N:傘を挟んで近づいた関係も終わりだと思っていたのに、傘を持たない手を彼が握ってきた。
今すぐ返事はいらない。そうは言ったものの、繋いだ手と必死に目を逸らそうとする彼の態度で、
私は気づいてしまった。
陽太 「な、なんだよ?」
璃子 「え…。え?」
陽太 「だ、だから!茶化してくるやついたら放っときゃいいんだよ!」
璃子 「それ、さっき聞いたよ」
陽太 「う、うるさい」
璃子 「…ぷっ。ふふ、ふふふふ」
陽太 「なに笑ってんだよ!」
璃子 「べっつにー」
璃子 N:私は幸せものだ。
想いが届いたことが、願いが叶ったことがわかって、自然と笑みがこぼれてしまった。
雨上がりの空は、夕日と虹が混ざりあって、とても思い出深いものになった。
今はまだ言葉はいらない。でも近いうちにきっと、彼の気持ちをちゃんと聞きたい。ううん、聞く。
彼の笑顔に見惚れていた私は、これからもきっと――。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語ver.】
璃子 「 I fall in love many times 」
(アイ フォーリンラブ メニータイムズ)
【日本語ver.】
璃子 「私は何度も恋をする」
+ + + +
陽太 「おーい、璃子。帰るぞ」
璃子 「あ、ちょっと待って!」
陽太 「なんだよ、準備しとくって言ったじゃんか」
璃子 「だから待ってって!」
陽太 「はいはい。おー、こわ」
璃子 N:3年は同じクラスにはなれなかった。
寂しくはあるけど、離れているからこそ、彼に会えた時はとても嬉しくなる。
最初は茶化す人たちもいたけど、今じゃいつものことって感じ。
陽太 「そういや海渡がまた一緒に海行ったって言ってたけど、お前なんか聞いてる?」
璃子 「ううん。楓花は先に真結に相談しそうだもん」
陽太 「いい加減くっつけよって思うわ。二人ともバレバレだっての」
璃子 「ね。私たちもそうだったのかな?」
陽太 「あー、どうだろ」
璃子 N:彼に恋をした日から、私は何も変わっていない。
昔も今も、目を、心を奪われるのは、いつだって彼の笑顔。
きっとこれから先、同じくらい笑って、同じくらい涙を流すと思う。
そのたびに、私はあの日の彼の言葉と優しい手を思い出すんだろう。
そして大好きな笑顔を見て、自分の中で再確認。
私、今日も恋してます。
許されるなら、このままずっと――。
fin...