声劇×ボカロ_vol.59 『 夏恋パレット ラムネ色 』
Be attracted to each other
【テーマ】
波はいつか打ち寄せて
【登場人物】
潮崎 楓花(16) -Fuka Shiozaki-
内気で地味な少女。暑いのが苦手。
クラスの太陽のような存在の海渡に徐々に惹かれていく。
堤 海渡(16) -Kaito Tsutsumi-
眩しい笑顔が夏に似合う少年。
いつか見た楓花の笑顔をもう一度見たくて、声をかける。
【キーワード】
・夏の到来
・互いの胸の内
・海デート
・思い出の夏
【展開】
・強い日差しと潮風で、夏の到来を感じる楓花。
・楓花に声をかける海渡。白黒の日常に色がつくのは海渡の笑顔があるから。
・楓花を海に誘う海渡。徐々に二人の距離が縮まっていく。
・帰りの電車で見た花火が儚く見える楓花。でも寂しさよりも楓花の中に芽生えたのは…。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は“N(ナレーション)”を中心に展開される。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
楓花 N:最近、眩しい日差しが私を襲う。どうやら梅雨が明けたらしい。
時折吹く風が、海の匂いを運んでくる。
毎年のこととはいえ、夏の始まりを改めて感じ、私は憂鬱になっていた。
楓花 「あぁ…。あっつい…」
楓花 N:朝の登校時から、蒸し蒸しした暑さを感じる。
それだけで一日のヤル気が決まってしまうんじゃないかってくらい、私は夏が苦手だった。
そんなこと言ってると、私にとっては毎日が地獄のようなものなんだけど。
楓花 「あー、もう。……やっぱり夏は苦手だ…」
海渡 「そう?俺は夏好きだけど?」
楓花 N:突然横から声がして振り向く。そこにいたのは同じクラスの男の子。
いつの間にか隣を並んで歩いていて、びっくりした私は思わず立ち止まってしまった。
海渡 「ん?」
楓花 「なっ…」
海渡 「おはよう。どうかした?」
楓花 「なななっ」
海渡 「ななな?」
楓花 N:なんでいるの!?
そう出かかった言葉は、我に返った掌に遮られる。
彼はというと、黙ってしまった私の次の言葉を待っているようだった。
楓花 「なな、な……。なんでも、ない…です」
海渡 「なんでもないって。はは、なんだよ、それ!」
楓花 N:彼は笑っていた。今日も変わらず、私にとっては眩しすぎるくらいの笑顔で。
突然声をかけられ、笑顔が私に向けられている。それだけで私がポカンと口を開ける理由としては
十分だった。
海渡 「あ、あのさ…」
楓花 「え?」
海渡 「いや、あの……。あ、陽太!英語の予習ってしてきた?俺今日当たりそうなんだよ」
楓花 N:なにかを言おうとしてた?………なんて自惚れてみる。
そんなはずがない。いつも一人きりでいるこんな地味な私に、太陽のような彼が用なんてあるはず
がない。
楓花 「(呟いて)ふふ、今日は一日カラフルかも」
楓花 N:いつだって楽しそうにしてる彼を、遠くから眺めるのが好きだった。
学校生活に大した楽しみもなく、まるでモノクロのようだった私の世界を彩ったのは間違いなく彼。
自分の世界が、自分以外の誰かに変えられるなんて、思ってもみなかった。
* * * * *
海渡 N:ずっと探していた。彼女に話しかける機会を。
同じクラスだし、話しかけることじたいは不自然じゃないはずなのに、いつもあと一歩のところで
チャンスを逃していた。
海渡 「……あー、くっそ。何やってんだよ、俺…」
海渡 N:教室に行く前から彼女に会うことができて、内心すごく嬉しかった。
変に取り乱さないように、細心の注意を払っても、思い切って"あの話"をしようとしたら、さ。
ホント情けない。でもそれも仕方ない。
俺の頭の中では、白いのと黒いのが、ついさっきの出来事を言い合っている。
それだけ俺にとっての彼女は――。
+ + + +
海渡 N:別に無理をしているわけじゃない。キャラを作っているつもりもない。
ただありのままの自分で居続けた結果、いつしかクラスで一番目立つ存在になった。
取り巻きじゃないけど、四六時中誰かが近くにいるその環境は、知らず知らずのうちに
俺にダメージを与えていたみたいだ。
海渡 「おう、また明日な!…………ふう」
海渡 N:帰り道、ようやく一人になれた俺が、最近よく行く場所があった。
家の前を通り過ぎて、少し先。
坂を上った先にある、丘の上の小さな公園。
遠くに見える山の向こうには、小さく海が顔を覗かせている。
海渡 「……海、か。そのうち行ってみるかな」
海渡 N:電車を乗り継いでまで行こうとは思わなかった。
海じたいは好きだけど、一人で行くような場所じゃないなと、敬遠していた。
コウキ
楓花 「ちょっと、昂希!」
海渡 「ん?」
海渡 N:誰もいないと思っていたはずの公園に声が響いた。
どうやら買い物帰りに遊びに夢中になった弟を、お姉さんが連れ帰ろうとするところだったようだ。
誰かがいたことも気づかないくらい、自分は周りが見えていなかったのか。
そうしてまた遠くに目をやった時、その視界に入ってきたのは…。
楓花 「ほら、早く帰ろう。今日は昂希の好きなカレーだぞ」
海渡 N:それを聞いた弟は、姉が差し出した手をぎゅっと掴み、嬉しそうな顔をしている。
向こうは気づかなかったみたいだが、俺ははっきりと見えた。
弟に満面の笑みを向けている彼女を。潮崎楓花という女の子の、初めて見る顔を。
海渡 「…マジ、かぁ。あいつ、あんな顔もするんだな」
海渡 N:クラスでもあまり目立たない子だったし、意識して見ることなんてないからわからなかった。
まだ小さい弟を連れての買い物だから、きっと家もこの近くなんだろう。
まさかのご近所さんだったという事実よりも、この時の俺は何か憑き物が取れたような気分だった。
驚きと新鮮さと、いや、ギャップ?
きっと学校の誰も知らない彼女の笑顔が、結果的に俺の心の救いとなったのは言うまでもない。
* * * * *
海渡 「ねぇ!」
楓花 「え?」
楓花 N:聞こえなかったわけじゃない。その言葉が信じられなかっただけ。
訳も分からずにいる私に、彼はもう一度それを口にする。
海渡 「海を見に行こうよ!」
楓花 N:聞き間違いじゃなかった。念のため、私以外の誰かに言ったんじゃないかと振り返るも…。
海渡 「どう?」
楓花 N:彼が聞いているのは私で間違いないらしい。
学校の帰りに偶然会って、特に話が盛り上がらないまま歩いていた時だった。
私の世界をカラフルにしてしまう彼。
そんな彼との会話が弾まないことなんて、誰しもが予想できたこと。
でも彼からの突然のお誘いなんて、予想できるはずがない。
海渡 N:あの日見た彼女の笑顔。
あの日遠くに見えた真っ青なキャンバス。
誰かと行くなら…、とずっと心に思っていた。
なにより彼女がすぐ近くにいるのに、話しかけられないまま別れてしまうことが嫌だった。
楓花 「…」
海渡 「やった!」
楓花 「え?」
楓花 N:自分のおかれた状況が理解できず必死に整理するも、それでもやっぱりわからなくて。
覗き込んできた彼の顔が近くて、ただただドキドキしっぱなしで。
自分が頷いたことさえも、わからなかった。
海渡 N:急だったからか、彼女が戸惑っているのがわかる。
それでも頷いてくれたもんだから、俺のテンションは一気にMAXまで上がった。
楓花 N:突然すぎる…。落ち着け、私!!
海渡 N:嬉しすぎる…。静まれ、鼓動!!
とにもかくにも、こうして俺は海へ行く約束を取り付けたのだった。
* * * * *
楓花 N:私の世界を彩る、そんな彼からのお誘い。
苦手な夏の季節に、まさかの展開。
約束の日は、明日――。
楓花 「あー、もう!何を着て行こう…」
楓花 N:誘われたのは海。目の前には、下ろし立てのマリンスカート。
他にこれといった服が浮かばないから、これでいいのかもしれないけど…。でも…。
少し気合入れすぎてるかな?
そう考えてしまう自分がいて、私はベッドに突っ伏した。
楓花 「もう…。恥ずかしい…」
+ + + +
海渡 「おはよう」
楓花 「お、おはよう…ございます」
海渡 N:昨日はあまり眠れなかった。
何を着て行こうか悩んで、あれもこれも違う気がして、一人ファッションショー状態。
舞い上がりすぎてるとわかっていても、今日のことを妄想して。
だって、仕方ないよね?
海渡 「じゃあ、行こうか」
楓花 「は、はい」
海渡 N:きっと女の人は0点をつけるかもしれない。
学校以外で会う、いわゆるデートという場で、彼女の服についてコメントがなかったから。
可愛いよ!めちゃくちゃ可愛いよ!!
でも言えるわけない。
あんな約束でちゃんと来てくれて、二人きりって状況で。
それだけで俺は…。
楓花 N:散々迷って、結局あのマリンスカートを選んだ。
別に感想が欲しかったわけじゃない。
緊張で頭がいっぱいで、顔もうまく見れないし、心臓の音は大きく聞こえるし。
彼の後を付いて行くという状況に、これはデートなんだと改めてわかってしまったから。
海渡 「今日、雨降らなくてよかったね」
楓花 「そうですね」
海渡 「ここまで来てなんだけど、海好き?」
楓花 「え、はい。……今?」
海渡 「ははは!うん、今!」
楓花 「遅いですよね。ふふふ」
海渡 N:本当は気づいていた。初めてのこの感情に。
楓花 N:それはまだ見たことのない色をしていて。
海渡 N:他では見れない色をしていて。
楓花 N:堤くんだから。
海渡 N:潮崎だから。
楓花 N:もしかして、これって――。
海渡 N:やっぱり、これって――。
楓花 「うわぁ、綺麗!!」
海渡 「すごいな。ずっと向こうまで雲一つない空だから、海と繋がってるみたいだ」
楓花 「…ふふ」
海渡 「な、なに?」
楓花 「ううん。そういうこと言うんだなぁ、って」
海渡 「…意外、だった?」
楓花 「んー。そうでも、ない…かも?」
海渡 「はは。なんだよ、それ」
楓花 N:彼と近いイメージはあった。
真っ青な海も、真っ青な空も、まるで一枚の大きなキャンバスみたいだなって。
大きすぎて一人で描けなかったものが、二人ならできる。そんなことさえ思っていた。
海渡 「水着は?」
楓花 「ううん、持ってきてない。いいかなって」
海渡 「うん…」
楓花 N:電車の中じゃ、緊張して全然話せなかったのに、今は普通に話せてる。
弾むってほどじゃないけど、一緒に同じ場所にいるってだけで、なんだか安心していた。
海渡 N:初めから水着なんて頭になかった。
海に誘ったのだから、おかしな話かもしれない。でも本当にそうだった。
ただこうして並んで歩いて、同じ景色を眺めるだけで十分だった。
楓花 N:彼と距離ができても、心は楽しげに走り出す。
それを追いかけるように、私も砂浜を踏みしめて、彼の元へ。
今が続けばいいのになぁ。
そう思ったのは、きっと私の本当の気持ち。
海渡 「ああ。夏はやっぱり好きだなぁ」
海渡 N:ふとそう口から漏れたのは、夏が苦手だと言っていた彼女を思い出したから。
楓花 「そうですね。悪くないかも」
海渡 「え?」
楓花 「ん?」
海渡 「…ふっ。ううん、なんでもない」
海渡 N:彼女の言葉が、俺は少し嬉しかった。
苦手だと言っていた彼女が、悪くないと思うようになったのは…。
って思うのは自惚れかな?
あっという間に時間は過ぎて、空は夕焼けに。海はオレンジに染まる。
特に会話を交わさずとも、俺たちは駅に向かって歩き出した。
海渡 「(呟いて)また来ようね」
楓花 N:彼の呟きに、私はとても嬉しくなった。
胸の奥が熱くなるのがわかる。想いが加速する。
楓花 「はい!!」
楓花 N:私の返事を聞いた彼が、照れくさそうにしていて、少し可愛かった。
* * * * *
楓花 N:帰りの電車。窓から見えた花火。
海渡 N:それはモノクロの世界を彩って。
楓花 N:儚げに光る花びらが、夜空を舞う。
海渡 N:その儚さが、一日の終わりが近いと告げている。だけど…。
楓花 N:二人で見た海も、空も。
海渡 N:この花火さえも、思い出の1ページ。
楓花 N:いつか振り返る為の、大切な宝物。
海渡 「綺麗だけど、なんか寂しくなるね」
楓花 N:私も。そう言いかけた。
でも今日で終わりじゃないから。
明日になれば、また彼に会えるから。だから寂しくなんてない。
夏は苦手だった、本当に。
暑いし、焼けるし、楽しいことなんて何もない。ずっとそう思っていた。
でも今は、今の私は…。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語ver.】
楓花 「 Be attracted to each other 」
(ビー アトラクテッド トゥー イーチ アザー)
【日本語ver.】
楓花 「波はいつか打ち寄せて」
+ + + +
海渡 N:彼女が何か言いたそうにしている。
なんだろう、と思っていると…。
楓花 「あの!私、今日で夏が好きになりました!」
海渡 「え?……ぶふっ。あはははは!!」
海渡 N:どうして笑っているのか、きっと彼女はわからなかっただろう。
何か失礼なことを言ってしまったのかと、おどおどしている。
大丈夫、何も悪くない。むしろ…。
楓花 「あの…」
海渡 「はは。そりゃ、よかった!」
楓花 N:また今度――。
海渡 N:また二人で――。
fin...