声劇×ボカロ_vol.57 『 おじゃま虫 』
keep off My Heart
【テーマ】
その言葉が聞きたくて
【登場人物】
丸山 恭介(16) -Kyosuke Maruyama-
幼なじみの真結をずっと想っているも、今まで伝えたことがない。
かと言って特に仲が悪いわけでもなく、今の関係にやきもきしている。
藤田 真結(16) -Mayu Fujita-
隣に住む恭介のことが気になっている。
お互い成長して、昔のように気軽に話せなくなっていることがもどかしい。
【キーワード】
・一日の始まり
・あの日の僕ら
・久しぶりの…
・「好き」って言って
【展開】
・二人は幼なじみ。家も隣同士。今日もまた一日の始まりは、大好きな彼女の「おはよう」。
・昔は兄妹のようにずっと一緒だった二人。あの頃は恥ずかしげもなく気持ちを言葉にできていたのに。
・学校以外での久しぶりの会話。仲が悪いわけではないのに、自然と距離を取ってしまっていた。
・満更でもない気がするのに、不安な恭介。何より真結の口から「好き」という言葉が聞きたくて。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編は“N(ナレーション)”を中心に展開される。
【本編】
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真結 「いってきまーす」
恭介 「いってきまー………あ」
恭介 N:ほぼ同時だった。
ドアを開け外に出ると、自分ちと対照の造りをした家から出てきた一人の女の子。
俺と同じく、すぐにこちらに気づいたようだ。
真結 「あ、恭介。おはよー」
恭介 「お、おはよ」
真結 「……」
恭介 「……な、なに?」
真結 「別に。ほら、なにしてんの?早く行こ!」
恭介 N:そう言って差し伸べてきた手を、俺は掴んで……なんて漫画のような展開はなく、先を行く彼女の
後ろを追いかける形で学校へと急いだ。
真結とは生まれた時からの腐れ縁。家が隣同士で、昔はよく一緒に遊んだりしたものだ。
それこそ当時は兄妹のように見られた時もあり、一番の仲良しと言っても過言ではなかった。
今は、そうだな。なんて言ったらいいか…。
真結 「きょーすけー。もっと走れー。置いてくよー」
恭介 N:俺のことなんか放っとけばいいのに…。
いつの頃からか、たまにこうして時間が合った日は、一緒に登校するようになった。
そんな俺らを周りは茶化してくるけど、そこは幼なじみってことでうまく誤魔化せてる。
誤魔化す?何を?今、そう思った?
それは彼女に対する気持ち。漫画とかでよくある展開のアレ。
真結 「あっ、楓花。おはよー」
恭介 N:交差点で信号待ちをしているところで、真結は誰かに駆け寄って行った。
あれは……潮崎さんか。よかった。ひとまずこれで、俺とは距離を取るだろう。
誤魔化してると言っても、そう毎回並んで登校するわけにもいかない。
もし周りにバレバレだったとしても、肝心の彼女に気があることを悟られないためにも、俺は
こうして一歩引いて……。
真結 「あはは、それでねー」
恭介 N:……って、できるわけないんだよなぁ。
視界に入れば目で追うし、声が聞きたくて理由もなく呼ぶことだってあるし、バカなことやって
笑わせたりもする。困った顔も、照れた顔も、怒った顔だって好きだ。
真結 「あ、ちょっと待ってね。おーい、恭介。遅刻はお姉ちゃん許さないぞー」
恭介 「誰が姉ちゃんだ、誰が!わかってるよ!……ったく、恥ずかしいやつ」
真結 「ホントごめんねー。あのバカったらさ」
恭介 N:貶しつつも笑顔の彼女を見て、俺は少し安心していた。
なにも変わっていないじゃないか、と。でも…。
家が隣同士。同じ高校で、腐れ縁の幼なじみ。
その肩書きは望んで手に入るものじゃないのに、実は最近、学校以外で話すことはほとんどない。
きっと今朝も、たまたま顔を合わせたから“いつも通り”になっただけ。
真結を意識し始めた頃には、もう今と同じような状況になっていた。
真結 「えー、ホントに?いつ!?いつ行くの、楓花!」
恭介 N:あの頃は、兄妹のように見られていたあの頃は、素直に気持ちを言葉にできていたのに――。
* * * * *
真結(幼)「きょーちゃーん。あーそーぼー」
恭介(幼)「なんだよ、まゆ。またきたのか」
真結(幼)「えー、きのうあそぼうねってゆったよー」
恭介(幼)「ゆったけどさー」
真結(幼)「ほら、いこう。はやく、はやく!」
恭介 N:家が隣同士だったからか、真結は毎日のように俺を連れ出していた。
親同士も仲がよかったから、天気のいい日なんかは必ずどっちかの親が付き添って、近くの公園に
足を運んでいた。
真結(幼)「ねーねー、きょーちゃん」
恭介(幼)「んー?」
真結(幼)「きょーちゃんは、まゆのことすき?」
恭介(幼)「うん、すきー」
真結(幼)「ほんとー?」
恭介(幼)「うん」
真結(幼)「やった!まゆもきょーちゃんだいすきー」
恭介 N:仲良く手を繋ぎながら、そんなことを言っていたのを微かに覚えている。
そんな俺らの後ろを歩く母さんが、とてもニコニコしていたことも。
でも一年、二年と経っていくと、俺はカッコいいもの、真結は可愛いもので遊ぶようになり、
一緒に遊ぶことはなくなっていった。
今でも時々、あの頃遊んだ公園の前を通ると、懐かしさと初々しさに小恥ずかしくなる。
それでも素直に想いを言葉にできていた幼い自分を、羨ましく思ったりもした。
* * * * *
真結 N:今朝は本当に驚いた。
いつも彼より早い時間に、私が家を出ているのは知っていたし、彼の方が早かった時は、
姿を見つけては追いかけることもあった。だからまさか同時に家を出るなんて…。
私が彼を見つけて追いかけるのも、“学校”という理由をつけて話すことができるから。
兄妹のように育って、いつからか距離ができて、意識し始めたら急に恥ずかしくなって。
昔のように、普段から話せていたらどれだけよかったか。
恭介 「真結、国語辞典貸してー」
真結 「また?もう、ちょっと待って。……その後私も使うから、ちゃんと返しに来てよね」
恭介 「さんきゅー」
真結 N:廊下側にある私の席。開いた窓越しに話しかけてきた彼。
一通りのやり取りを終えて振り返ると、クラスの男子たちがニヤニヤしていた。
真結 「なに?」
真結 N:私たちの仲は周知の事実。でもそれも幼なじみだからと言い張っている。
そう、幼なじみ。
本当のことなんてとても言えない、私のただの片想い。
ずっとずっと好きだったのに、最近まで気づかなかった私のただの――。
* * * * *
恭介 N:部屋に入ってすぐ、俺はベッドへと倒れ込んだ。
朝から最高の気分で、調子にのって持ってきてるくせに辞書なんて借りに行ってみたりして。
あ、正確には同じクラスのやつに貸したから、俺が使う分はなかったんだけど。
大好きな彼女の声を聞いて、大好きな彼女の顔を見て、いい感じに膨らんだ胸を見……いやいや。
恭介 「……だぁーっ、もう!仕方ねーじゃん!俺だって健全な男子だし!」
恭介 N:ベッドの上で一人騒いでいると、窓の外から光が差し込んだ。
体を起こしてその先を見る。帰宅した彼女が部屋の電気をつけたところだったようだ。
こういう時思う。小さい時から変わりなく育った幼なじみだったら、難なく声をかけられていた
んじゃないか、って。
学校ではそれができて、どうして今できないのか不思議に思うだろう?
自分でもそう思う。学校じゃ、からかわれてたりするのに、逆にそれが話すきっかけにもなって
いるなんて、みんなは知らないんだろうな。
恭介 「…………俺も電気つけるか」
恭介 N:部屋の電気をつけ、少しすると、ガラッと窓が開いたような音がした。
なんとなしに振り返ると、そこには――。
真結 「おかえり、恭介」
恭介 「あ、うん。ただいま」
真結 「……遅かったんだね」
恭介 「いや、たぶん俺のが早かった……と思う」
真結 「そうなの?」
恭介 「うん。それで、なに?珍しいじゃん、学校以外で話しかけてくるなんて」
真結 「そう、それ!あんた何か忘れてない?」
恭介 「え?」
真結 「貸したもの!返せって言ったでしょ!」
恭介 「あ……。やっべ」
真結 「やっべ、じゃないわよ!次使うって言ったじゃない!」
恭介 「だったらそっちが取りに来ればよかっただろ!確かに忘れてた俺も悪いけどさ!」
真結 「悪いって思うなら、まず言うことあるでしょう!」
恭介 「あ、はい。ごめんなさい」
真結 「ダメ、許さない」
恭介 「なんでだよ!謝っただろ!」
真結 「………ぷっ」
恭介 「……くっくっく」
真結 N:次使うなんてのは嘘だった。
嘘だとわかっていたから、クラスの男子たちは笑っていたのだ。
でもそう言えば、また彼の顔を見れるし、声も聞ける。
いいじゃない、別に。そのくらい。
まさか、一日待っても返ってこないとは思わなかったけど。
恭介 N:授業後に返しに行くつもりだった。それは本当だ。
でも先生に捕まって、その時は返しに行けなくて、そのまま昼休みになって、学食行って、それで…
……うん、忘れてた。
真結 N:でも。
恭介 N:でもそのおかげで、今こうして話せている。
真結 N:それもなんの隔たりもない、すぐ傍に彼が。
恭介 N:彼女がいる。
真結 「はーっ、なんか久しぶりだね、こういうの」
恭介 「そうだね」
真結 「昔はずっと一緒だったもんねー」
恭介 「そうそう。真結が毎日遊びに来てさ」
真結 「そうだっけ?」
恭介 「そうだよ。公園でおままごととかやってたじゃん」
真結 N:もちろん覚えてるよ。
真結 「あったねー。あ、確か恭介、滑り台で危ないことして、おばさんに怒られてなかった?その後、
わんわん泣いてさ。顔ぐしゃぐしゃにして、ずっとごめんなさいって言ってたよねー」
恭介 N:……それは忘れててほしかったな。
恭介 「なんでそんなこと覚えてるんだよ。……でも、まぁ。懐かしいな」
真結 「…うん。懐かしいね」
恭介 「……」
真結 「………」
恭介 N:あの頃の二人の関係を、俺も真結も今と重ねたのかもしれない。
懐かしさが、無言の時間を生む。
傍にいることが当たり前で、お互いがお互いを想っていることはわかっていて、数少ない知ってる
言葉の中から「好き」という気持ちを選んでいた。
真結 N:恭介が好きだった男の子っぽい遊びも一緒にしたし、私のおままごとにも恭介は付き合ってくれた。
思い出の中にはいつも彼がいて、話す機会が減っても、それは変わらなかった。
それが私の気持ちのすべて。
恭介 N:今なら言えるかも。
真結 N:明日になったら、また…。
真結 「……」
恭介 「………」
恭介 N:俺は沈黙を破る言葉を探していた。
“おやすみ”を選べば、きっと明日また“おはよう”が聞ける気がした。
“そういえば”と切り出せば、今までできなかった当たり前の幼なじみを始められる気がした。
あとは……。
好きな声をした、好きな表情の、好きな子が目の前にいる。
緊張しないはずがない。
それなのに不安と自信が入り混じっているのは、やっぱり俺らが幼なじみだからなんだろう。
彼女の日常にもっと触れたい、近づきたい。
“おはよう”も“おやすみ”も、“サヨナラ”だって言いたいのはこの気持ちがあるから。
真結 N:長い沈黙の中、彼に期待してしまう。
願わくば、私と同じ気持ちでいてほしいから。
ねぇ、恭介。………好き。
恭介 N:大好き。
真結 N:超好き。
恭介 N:もうわかんないくらい好き。
意を決して言おうと思っても目が合って、なんとなく照れてしまって、また振り出しに戻る。
彼女の声で“好き”と言ってもらうために、俺は――。
恭介 「ねえ」
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真結 「 keep off My Heart 」
(キープ オフ マイ ハート)
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真結 「その言葉が聞きたくて」
+ + + +
恭介 N:真結の口から“好き”って言ってもらえるなら、他には何もいらない。
シワシワになるまでずっと、なんなら死ぬ時までずっとメロメロでいるから。
だからどうか……。
真結 「ホントにそれでいいの?」
恭介 N:……ごめん、嘘。
他に何もいらないなんて、ヤダ。
あわよくば、同じ想いでいてほしい。
君自体がほしいから。君以外はいらないから。
真結 「おはよ、恭介」
恭介 「お、おはよ」
真結 「なに、どうしたの?」
恭介 「いや、別に。…なんでも」
真結 「………んー。ねぇ恭介、ちょっと耳貸して」
恭介 「なに?」
真結 「……(とても小さい声で)すき」
fin...