声劇×ボカロ_vol.45 『 恋愛裁判 』
guilty relation
【テーマ】
恋人たちの罪の在り処
【登場人物】
赤嶺 僚太(21) -Ryota Akamine-
恋人がいるにも関わらず、浮気をしてしまった。
その浮気もバレて、玲奈とは別れる瀬戸際。
大内 玲奈(23) -Rena Ouchi-
僚太の彼女。僚太の浮気に気づき、尋問する。
僚太の本心次第では、別れることも視野に。
【キーワード】
・浮気
・必要な存在
・裁判の果てに
・恋は有罪(ギルティ)
【展開】
・ふと魔がさして浮気をしてしまった僚太。彼女の玲奈に問い詰められる。
・それはまさに裁判。すべてを見透かされた僚太に突きつけられる別れへの秒読み。
・言い訳も取り繕うこともせず、その罪を受け入れる覚悟の僚太。
・告げられた「有罪」の言葉。しかし嘘泣きをしていた玲奈も「有罪」な小悪魔。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
玲奈 「……で?」
僚太 「えーと、ですね…」
僚太 N:突然呼び出され、冷めた態度で僕を招き入れた彼女。
ソファに座った彼女の正面に、僕は正座する。いや、正座せざるをえない雰囲気だった。
玲奈 「…なんか言うことある?」
僚太 N:主語が抜けた質問。が、僕には一つ心当たりがあった。
その時はバレるなんて思ってなかった。
だってそうだろ?しっかりアリバイも作って、履歴も何もかも消して、完璧だったはず。
しかしその考えじたいが間違いだった。
玲奈 「なに黙ってんの?」
僚太 「……」
玲奈 「……全部知ってるんだけど」
僚太 N:あぁ、この世に完璧なんてものはないんだな、と思った。
完全にバレている。
僕は彼女がいながら、別の女性と関係を持った。
そう“浮気”をしたんだ。
玲奈 「もう一回聞くけど、なんか言うことある?」
僚太 「……ちょっと魔がさしたんだ」
玲奈 「は?」
僚太 「一番は玲奈だよ。信じて」
玲奈 「何を信じろって言うのよ」
僚太 N:確かに。
すでに事後。すでに起きてしまったこと。取り返しのつかないこと。
こんなことになってしまった恋人の行く末は、はっきりとしている。
その時はそこまで考えが及ばなくとも、今この時はこれからどうなるのか嫌でもわかる。
それなのに、僕のしたことは罪だとわかるのに、それでも…。
玲奈 「……(小さくため息)はぁ」
僚太 「僕は君が好きだ」
玲奈 「今さら何言ってんのよ」
僚太 「わかってる。自分のしたことの重大さは。でも…」
玲奈 「でも…?」
僚太 「……情状酌量をください」
玲奈 「は?」
僚太 「もう絶対しない。金輪際、心入れ替えるから、だから」
玲奈 「ホントに自分が何したかわかって言ってんの?」
僚太 N:もちろん!
そう強く口に出そうとして、僕は言葉を飲み込んだ。
彼女の眼が、完全に僕を蔑(さげす)んで見ていたから。
玲奈 「……じゃあ言ってみて?」
僚太 「へ?」
玲奈 「(口調強めに)自分が!あんたが!何をしたの!?」
僚太 「……(ぼそっと)浮気です」
玲奈 「なに?聞こえない」
僚太 「浮気を、しました…」
玲奈 「それで?」
僚太 N:僕は尋問を受けている。裁判にかけられている。
魔がさしたこと、彼女なしでは生きられないこと。
心にあろうがなかろうが、気持ちがどっちに傾いていようがいまいが関係ない。
罪は罪。
僕らの関係を終わりにするかどうかの天秤に、今僕は乗っている。
僚太 「もう絶対しない。約束する」
玲奈 「そう…」
僚太 「執行猶予ってことで、一度だけ見逃して」
玲奈 「…随分勝手ね」
僚太 N:そんなことは十分わかっていた。
勝手でもなんでも、彼女と別れたくない気持ちは確かだった。
彼女のいない日常なんて、考えられなかったから。
玲奈 「他に言うことは?」
僚太 「悪いのは僕だ!でもお願いだ。君と別れたくない」
玲奈 「……」
僚太 「(涙を堪えながら)頼む。君が好きなんだ。ずっと一緒にいたいんだっ」
玲奈 「…最初っからその気持ちだけ持ってたらよかったのにね」
僚太 「え…?」
玲奈 「(呆れたように)有罪。あなたの犯した罪は、それだけのことよ」
僚太 N:バレやしない。大丈夫。あの時の自分はただそれだけだった。
なんてことをしたんだ。僕は彼女を裏切った。後悔が、まとわりつく。絶対に消えない影。
そして告げられた判決。有罪――。
徐々に湧き出ていた台詞が、確かなものになる。
玲奈 「もう、終わりね…」
* * * * *
僚太 「玲奈、今週末なんだけど、修平たちと飲みに行くことになったから」
玲奈 「修平くんって高校の時の?」
僚太 「そうそう。なんかこっち来るらしくてさ。久しぶりに飲もうってなった」
玲奈 「そっか。うん、わかった。楽しんできてね」
僚太 N:地元の連中と会う。それは事実だった。
ただ一つ、僕は玲奈に伝えていないことがあったが。
前々から修平がこっちへ来る話はあった。
それに合わせて、同窓会をやろうって話になっていた時、僕は一人の女の子と連絡を取り始めた。
ふざけて送った内容に、ノリのいい反応をしてくる彼女。
学生時代は割と仲のいい方ではあったし、おそらく彼女もどこか期待しているような気がした。
いけるんじゃないか、って思ったことが始まりだったのかもしれない。
同窓会。久しぶりの再会。
どうにも都合のよさそうな条件が揃っていた。
+ + + +
玲奈 「……返事くらいくれたっていいのに」
+ + + +
僚太 N:玲奈からの通知に気づかないほど、僕は楽しんでいた。
――という話になっているはずだった。
玲奈 「……もしもし?」
僚太 「ん、なに?どうし…」
玲奈 「(呟いて)今からウチに来ること」
僚太 「あ、あー。はい…」
僚太 N:有無を言わさない。そんな声のトーンで彼女は言い、電話はすぐに切られた。
* * * * *
玲奈 「もう、終わりね…」
僚太 N:最悪の事態だった。
魔がさしたとはいえ、僕にとっての彼女は本当に大事な人で。
こんな事態になってから気づくってのが、なんとも情けない話ではあるが。
玲奈 「そもそも普段から性格だって合わなかったし、いい機会なんじゃない?」
僚太 「え、ちょ…」
玲奈 「あなたは結構勝手な人だし。私の話なんてあんまり聞いてくれなかったし」
僚太 「おいっ」
玲奈 「デートに行くにも、いつも同じようなところばっかり。旅行行きたいね、って話だって」
僚太 「そ、そんなこといつ言った!?」
玲奈 「ほら、覚えてない。だからもういいのよ。もういい…」
僚太 N:彼女は目を逸らし、少し寂しそうな顔をする。
『もう終わり』と自分から口にしたのに、彼女の方が悲しそうに見えた。
玲奈 「ほら、もういいでしょ。終わり…。帰って…」
僚太 「ホントにいいの…?」
玲奈 「なに、が…」
僚太 N:自分でも勝手だと思う。でもそうせずにはいられなかった。
僕は彼女の言葉を遮り、彼女を抱きしめる。
玲奈 「な、なにすんの!?」
僚太 「…僕は嫌だ。離さない」
玲奈 「だからそれは…っ」
僚太 N:『あなたが悪いんでしょ』と言わんばかりの顔をしていた。
でもしょうがない。これ以上伝えようがない。
そうしていると、彼女は僕に一枚の紙を押しつけてきた。
それには“あの日”の出来事が書かれている。
この際、誰がリークしたとかはどうでもいい。
問題はそこじゃない。
何を言おうが聞いちゃくれないのは、どれだけ本音を口にしても、明確な証拠があるから。
玲奈 「……離して…」
僚太 N:突きつけられた証拠を見て、僕はもう取り繕わないことにした。
口先だけの弁護をしたところで、判決は覆らないだろうし、それならもういっそ…。
彼女にフラれるくらいなら、暗闇に突き落としてほしい。
それができないなら、彼女の監獄に一生閉じ込めておいて構わない。
玲奈 「(力なく)……離し、て…」
僚太 N:無理やりに突き放すことだってできたはずなのに、彼女はそうしようとはしなかった。
その本心を聞くことはできない。聞いてもきっと答えてはくれない。
僕はただその行動だけを信じ、彼女をまたいっそう強く抱きしめた。
玲奈 「……お願い。…もう…っ」
僚太 N:泣いているのがわかる。それだけでわかってしまう、彼女の本当の気持ち――。
たとえ性格が合わなくても、互いに必要な存在であることに変わりはない。
きっと彼女にとって、それは最初からずっとそうだった。
僕はそんな彼女に甘えて、魔がさしたなんて言って傷つけた。
愛した人、愛された人。
互いにその両方であるからこそ、形は違えど、同じだけの悲しみがある。
僕は気づいた。本当に大切なものは何か。本当に大切な人は誰か。
彼女は気づいていた。性格的な問題の、微妙なすれ違いに。
玲奈 「(泣いて)ひっく、ひっく…」
僚太 N:僕らは互いを裁き合う宿命(さだめ)だ。
それが“恋人”という特別な関係の二人にもたらされる、ある意味特権のようなもの。
他人の気持ちなんてわからない。わかるはずもない。
でも近づくことはできる。だから僕らは、未来の自分たちを天秤にかけている。
玲奈 「……何か、言うこと、ある?」
僚太 N:だから僕は彼女に償いたい。
天秤なんてかけるだけ無駄だって言い切れるほどの覚悟。
終身刑の自己宣告――。
僚太 「死ぬまで君だけを守るよ」
玲奈 「ふっ…。ふふふふっ」
僚太 N:僕の言葉がおかしかったのか、彼女は少しだけ笑った。
こっちはえらく真剣だっただけに、なんか拍子抜け。
それでも顔を上げてくれた彼女を見て、なんだかホッとした。
彼女はもう、泣き止んでいた。
そして――。
玲奈 「もう、しょうがないなぁ」
≪ タイトルコール ≫
僚太 「 guilty relation 」
( ギルティー リレイション )
玲奈 「ねぇ、もう一回言って」
僚太 N:一度上げた顔をまた伏せて、彼女は言った。
僚太 「な、なにを?」
玲奈 「さっきの」
僚太 「え…。だから、死ぬまで君だけを守るよ…って」
玲奈 「ふふ…。ふふふふふっ」
僚太 「…?」
玲奈 「ひっかかったぁ」
僚太 N:顔を上げた彼女の目からは涙が消え、代わりに微笑みを見せる小悪魔が一匹。
ずっと嘘泣きをしていたという彼女。
己の過ちが有罪判決を受けたことは当然として、これは彼女も…。
僚太 「アウト」
玲奈 「ん?」
僚太 「有罪」
玲奈 「あなたよりマシよ。次やったらもう許さないからね!」
僚太 N:あっかんべー、って。可愛いな、もう。
でも、僕の覚悟を甘くみないでもらいたいな。
fin...