声劇×ボカロ_vol.44 『 スウィートタイム 』
Future to walk Together
【テーマ】
二人だからできること
【登場人物】
大場 慎之介(24) -Shinnosuke Oba-
素直になるのが苦手な男性。
彼女とのある日のキスを境に、染められていく自分に気づく。
井上 沙紀(23) -Saki Inoue-
一途だが、気持ちを強要しない女性。
そんな中、素直な気持ちをいつでも聞きたいと思う人と出会う。。
【キーワード】
・あの日のキス
・理由なんていらない想い
・二人で歩く道
・素直な気持ち
【展開】
・付き合って半年。デート終わりの別れ際。
・離れてすぐ、また会いたい気持ち。
・俺の気持ち。私の想い。
・あの日のキス。互いの心を染めて行く。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
慎之介 N:俺は元々、好きだとか愛してるだとか、そういう愛情表現を口にすることが苦手だった。
君に会うまでは――。
沙紀 N:恋愛になると、いつもわかりやすいくらい顔に出てしまう私。
でも気持ちは強要するものじゃないし、って彼氏の気持ちを聞きたいなんてことは言わなかった。
あなたに会うまでは――。
+ + + +
慎之介「沙紀ちゃん!ごめん、待った?」
沙紀 「あ、いえ。私もさっき来たとこなので…」
沙紀 N:そんなの嘘。ホントは2時間も待ってる。
いいな、って思ってた人に遊びに誘われて、一人で舞い上がってたのがバカみたい。
彼にとって私は、大した存在じゃないんだって。
慎之介「えっと、どこ行く?」
沙紀 「あ、じゃあ…。お任せします」
慎之介「……ひょっとして、怒ってる?」
沙紀 「…いいえ」
慎之介「なら、いいんだけど」
沙紀 N:デートの始まりはこんなだったのに、結局私は楽しんでいた。
だって彼、ずっと私のこと気にしてるんだもの。
急に笑わせてきたかと思ったら、私の好きなお店に連れていってくれたり。
たったそれだけのことなのに、私の心はまた彼に向いていた。
慎之介「あのさぁ…」
沙紀 「なんですか?」
慎之介「…あ、いや。えっと…」
沙紀 「……?」
沙紀 N:彼の気持ちなんてわからない。でも賭けてみたくなる。
だってこんなにも私のことを想ってくれている。だから――。
沙紀 「あ、あの…っ」
慎之介「ダメ、俺に言わせて」
沙紀 N:思い切って私から、なんて考えは筒抜けだったみたいで。
彼は真剣な面持ちで、私の口元に手を当てる。
慎之介「…えっと、よし。…うん。沙紀ちゃん」
沙紀 「は、はい!」
慎之介「俺の彼女になってください」
+ + + +
慎之介 N:あの告白から半年。明日はその記念日。
明日は月曜で平日だから、お互い仕事が忙しく、きっと会えないということで、デートを
前倒ししていた。
沙紀 「あーあ、そろそろ帰らなきゃ」
慎之介「そうだなー」
沙紀 「ねー」
慎之介 N:実はこの会話、もう3回目。二人して繋いだ手を離せないでいる。
時計を見る。本当にそろそろヤバい。
俺は彼女に笑いかけ、そっと手を離した。
沙紀 「あ…っ」
慎之介「それじゃ、また土曜」
沙紀 「…うん。気をつけて帰ってね」
慎之介「おう」
慎之介 N:改札を抜け、視線を感じて振り返る。
彼女はまっすぐに俺を見ていた。
それが嬉しくて、なんだか照れくさくて。
あまり目立たないように小さく手を振ると、彼女は笑顔で返してくれた。
沙紀 N:彼の後姿を見て、胸がきゅうぅんってなった。
時間ギリギリまで一緒にいたいから、って家(うち)の最寄駅まで来てくれた彼。
明日も仕事だから早く帰してあげたかったのに、いざ手を離そうとすると途端に切なくなる。
結局、終電間際になってしまって、少し自己嫌悪。
慎之介 N:電車に乗って、扉の近くに身を預けた。
徐々に駅から遠ざかっていくと、世界は一変する。
灯りの減った街並。流れゆく景色。そして降り注ぐ月灯り。
沙紀 「慎くん!」
慎之介 N:ほら、もう思い出してる。
大好きな人。
さっきまでずっと一緒にいたはずなのに、もう声を聞きたいって思ってる。
こういうの、ドラマの中だけのフィクションだと思ってた。
でも今ならわかる。そんなことないって。
沙紀 N:一人じゃ気付けなかった、この気持ち。
慎之介 N:二人で見つけた。
このまま時が止まればいいのに、って何度も願った。
沙紀 N:でも私たちはいつだって、意地悪されっぱなし。
誰のせいでもないのに、誰かのせいにしたくなる。
慎之介「……もう半年か」
慎之介 N:座席の手すりに寄りかかり、微かに軋む車輪の音を聞きながら、俺は彼女との思い出を
振り返っていた。
* * * * *
沙紀 「うーん、そろそろ着く頃かなぁ」
沙紀 N:時間は日付が変わる少し前。
着いたらいつも電話をくれるから、あんまり心配はしてないんだけど。
電車に乗ったという連絡は来た。
それからしばらくはやり取りしてたけど、ちょっと前から返事はなし。
そう思った矢先、彼からの着信で携帯が揺れる。
手に取って名前を確認した私の心も同じくらい、ううん。きっとそれ以上に躍っていた。
沙紀 「……もしもし!!」
慎之介『…っ。もしもーし。あっれぇ?沙紀ちゃーん』
沙紀 「もしもしー、慎くーん。もしもーし…。電波悪いのかな。もしもー」
慎之介『あ、ごめん。ずっと聞こえてた』
沙紀 「ちょっ、もぉ!」
慎之介『だって勢いよく出すぎ。声でかいよ』
沙紀 「あ、ごめん…。お、おかえり」
慎之介『ん。ただいま』
沙紀 N:そんなやり取りの中、ふと時計に目をやる。
いつの間にか日付は変わっていた。
沙紀 「…あっ。ねぇ、変わったよ」
慎之介『ん?うん。ありがとな』
沙紀 「へ?」
慎之介『いつも一緒にいてくれて』
沙紀 「え?………え?今なんて…」
慎之介『は?なんも言ってねーけど』
沙紀 「え、言ったよ。ねぇ、もう一回言って」
慎之介『言ってない。仮に何か言ってたとしても、もう言わない』
沙紀 N:ずるいな、って思った。
さっきまでずっと隣にあなたがいて、一番近くで聞いていたその声は、今はデジタルに干渉されて。
電話越しのくもった声も大好きだから、またすぐ会いたくなる。
慎之介『それよりお前、あんまり夜更かしすんなよ』
沙紀 「わかってるよ。さすがにこれで寝坊しましたー、なんて絶対怒るでしょ」
慎之介『よくわかってんじゃん』
沙紀 N:付き合いたての頃は、お互い仕事があってもホントに朝方まで話してた。
でもそれじゃダメで、お互いの仕事とか生活とかをちゃんと考えようってことで、
今ではあまり遅くまでは話さない。
でもやっぱり寂しいんだけどね。
慎之介『じゃあ、もう切るぞ』
沙紀 「……うん。おやすみなさい」
* * * * *
慎之介 N:切りたくない。そんな顔が浮かんだ。
でも俺は心を鬼にして、電話を切った。
滅多に口にはしないけど、週末まで待てないってのは俺も同じ。
ホントは今すぐ会いたい。
絶対にそんなこと言わないけど。
横になって目を閉じる。
思い出したのは、あの日――。
+ + + +
慎之介「俺の彼女になってください」
沙紀 「え…?…………はい」
慎之介「……いいの?」
沙紀 「うん。私もそうなりたいなって」
慎之介 N:自分らしくないと思いつつも、思い切って気になる子をデートに誘ってみたこの日。
嬉しくて飛び上がりたい気持ちを抑えて、俺はそっとガッツポーズ。
okしてもらってから自然に、いや自然な感じになるように手を繋いだ。
ドキドキを表に出さないように、ポーカーフェイスを貫く。
その日は彼女を家まで送っていった。
沙紀 「ありがと。ウチすぐそこだから」
慎之介「ばーか。だったらそこまで行くよ」
沙紀 「え、いや、あの…」
慎之介「…なに?警戒してんの?」
沙紀 「しし、してないよ!そんなことしない!」
慎之介「あっそ」
慎之介 N:素っ気ない態度。でもこれが精一杯。
嘘つけって誰かに言われても、素直になったのはあの時だけ。
気持ちを正直に伝えるには、素っ気ない態度は御法度(ごはっと)だと思って。
沙紀 「着いたよ。ホントにここだから」
慎之介「あ、うん…」
沙紀 「……?」
慎之介 N:手を離したくない。彼女の家の前で、無言で駄々をこねる子どものようなアピール。
俺はすぐに我に返って、手を離した。
沙紀 「……お茶でも飲んでく?」
慎之介「あー、いや…」
沙紀 「はい、どうぞー」
慎之介 N:彼女は俺の手を引く。
付き合って初日で男を家に招き入れるなんて、結構軽いのかなって思った。
でもその疑惑もすぐに払拭(ふっしょく)。
よく見ると彼女の顔は真っ赤で、自分の家なのにドタバタしてる感じで。
それがおかしくて、同時に可愛いと思った。
沙紀 「いたた…」
慎之介「大丈夫?」
沙紀 「大丈夫!です!」
慎之介 N:倒れた彼女を引き起こし、そのまま抱き寄せた。
そして――。
沙紀 N:彼の腕の中にすっぽり収められて、私はもう何が何だか…。
抱きしめられた腕が少し緩んだ気がして彼を見上げると、目が合った。
私の瞳(め)には彼がいて、彼の瞳(め)には私がいる。
それがわかっただけで十分。駆け引きなんていらない。できない。
ゆっくりと身も心も近づいた私たちは、言葉にできない想いを形にする。
慎之介「……沙紀…」
沙紀 「んっ…」
沙紀 N:時が止まったかのような錯覚。
嬉しい気持ち。愛しい気持ち。たくさんの気持ちが入り混じって、身動きがとれない。
唇が離れてしばらくして、急に恥ずかしくなった私は、彼の胸に顔を埋(うず)めた。
慎之介 N:躊躇いなんてなかった。
ずっと、好きだからって言葉で済ませられないような、もどかしい気持ちがあった。
どう扱えばいいのかわからないまま、それを見せないように自然に振る舞っていた。
そんな気持ちはキスをした今、綺麗になくなっていた。
沙紀 「……恥ずかしい…っ」
慎之介「(笑って)はは、誰も見てないよ?」
沙紀 「そ、そういう問題じゃ…」
慎之介 N:絡めた腕に軽くキスをして、名前を呼ぶ。
それでも耳を真っ赤にして顔を隠す彼女を、大切にしたいと、心からそう思った。
沙紀 「うー…」
慎之介「あのさ。やっぱ俺、今日はもう帰るわ」
沙紀 「え…。あ、うん」
慎之介 N:そうして彼女の部屋を後にした俺。
帰ったのには、もちろんちゃんとした他の理由があった。
でもそんなの、絶対彼女には言えない…。
* * * * *
沙紀 N:それからもたくさんのことがあった。
ケンカだってしたし、その分仲直りもいっぱいした。
慎之介 N:二人して強がって、ムキになって、どうでもいいことで口きかなくなって。
そのたびに、お互いの大切さを知った。
そういえば、誕生日にサプライズしたこともあった。
沙紀 N:ホントに嬉しくて、私はずっと泣いていた。
彼に抱きつくと、優しく包み込んでくれる。
よしよしと、頭を撫でてくれた彼も嬉しそうに笑っていた。
沙紀 「……ねぇ」
慎之介「んー?」
沙紀 N:呼びかけはすれど、私はその先の言葉を飲み込んだ。
わがままかもしれない。でもホントは伝えたい。
慎之介 N:あの日のキスが、今も頭と心を埋め尽くしてる。
身動きなんてとれない。とれるはずもない。
今ならきっと、素直な気持ちを…。
沙紀 N:傍にいてほしい。この手を離したくない。
ずっと、私だけ見ていてほしいよ。
ねぇ、素直な気持ち聞かせて?
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
慎之介「 Future to walk Together 」
(フューチャー トゥー ウォーク トゥギャザー)
【日本語 ver.】
慎之介「 共に歩く未来のために 」
+ + + +
沙紀 N:横顔も香りも大好きで。
慎之介 N:声も仕草も愛しくて。
沙紀 N:喋り方も手の繋ぎ方も。
慎之介 N:すべてが愛しい。手放せない。
沙紀 N:手放せるはずなんてない。だから――。
慎之介 N:真剣に考えよう。君と共に歩む未来を。
fin...