声劇×ボカロ_vol.43 『 あの日の嘘と本当の涙 』
True tears and Memories smile
【テーマ】
嘘と真実
【登場人物】
花宮 千絵(27) -Chie Hanamiya-
陽麻を好きという想いをひたむきに隠してきた。
告白された際、結婚しているという嘘をつく。
道下 陽麻(27) -Haruma Michishita-
ずっと好きだった千絵にようやく想いを告げるも、フラれる。
幼なじみの関係は変わらずも、自然と距離を取ってしまう。
【キーワード】
・あの日の嘘
・隠し事
・一人ぼっち
・好きになった君
【展開】
・陽麻とさよならした千絵。数年経った今でも、彼の告白と幼い頃の彼を忘れられない。
・不治の病にかかっていたため、陽麻の幸せのためにもと、結婚していると嘘をついていた千絵。
・独り闘病し、もう長くはないと悟る千絵。病室から抜け出して、中庭へ。
・ふと振り返るとそこに陽麻がいた。ずっと言えなかった本当の想いを告げる千絵。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
千絵 N:あの日――。彼が私に告白してきたあの日、私は嘘をついた。
幼い頃から近くて、どこか遠い存在だった彼。
彼の隣で笑っていたい、彼と笑って過ごしたいという想いと裏腹に、私の身体はそれを拒んでいた。
あの告白は、今でも鮮明に残ってる。
忘れられない、私の大切な記憶の欠片。
* * * * *
陽麻 「…ずっと、好きだったんだ」
千絵 N:ずるいよ。あなたはいつだって、私の一番欲しい言葉をくれる。
陽麻 「ずっと言いたかった。だいぶ遅くなったけど」
千絵 N:でもね、陽麻。……ごめんね。
陽麻 「……千絵?」
千絵 「…もう遅いよ。私だってずっと好きだったのに」
千絵 N:涙を見せまいと顔を覆った私。彼が気づくようにわざとそうした。
私は左手の薬指に指輪をしていたから。
見なくてもわかる。彼がどんな表情をしていたか。
長年想い続けてくれた彼に、私は彼の耳元で「ありがとう」と呟いた。
+ + + +
千絵 N:さよならを告げたあの日から、いくつもの季節が過ぎ去った。
彼とはあれ以来、連絡を取っていない。
幼なじみで、ずっと友達とも恋人とも違う存在だった彼。
でも彼の笑顔が嬉しくて、安心して、ずっと見ていたくて。
そんなことを思うようになってから、私は彼に恋をしていたんだと気づいた。
陽麻 「ちー、誕生日おめでとう!」
千絵 N:大人になってから再会した彼は、昔と変わらず優しいままで。
陽麻 「(笑いながら)何気に危なっかしいもんな、千絵は」
千絵 N:再会しても、やっぱり私の気持ちは変わらなかった。
だからこそ、彼のためにもと、私は彼の告白を断った。
その時の指輪を空に翳(かざ)す。
本当は結婚なんてしていないし、告白だって嬉しくて、その場で抱きつきそうになった。
でもね、私ね…。
もう少しで、永遠のお別れなの。だから…。
今は遠く離れてしまった大好きな人に、届かなくてもいいからと口にした真実。
本当のことを言えば、優しいあなたはきっと私の傍にいてくれたはず。
でも私はそれは彼のためにはならないと思った。だから断った。
ただ一つ後悔があるとすれば、私の素直な気持ちを伝えられなかったこと。
寂しくなって、また彼を想って、私は今日も涙を流していた。
+ + + +
陽麻 N:あの日、はっきりと“さよなら”を告げられたわけじゃない。
でも長年想い続けていたこと、もしかしたら彼女も、なんていう想いが一気に崩れ去ったことが、
僕の心をへし折った。
そうして数年が過ぎた頃、いつの間にか僕は彼女の面影を探していた。
忘れようとしても忘れられなかった。
それならと、今の僕に何ができるか。そう考えるようになっていた。
連絡しても返事はない。届いているかさえわからない。
彼女の家族も、彼女が小さかった頃に亡くなっていたから、手がかりは少ない。
それでも僕は諦めなかった。
* * * * *
千絵 N:あなたは今、何してるかな?大切な人はできたかな?
彼のことを思い出すたび、いつも彼の笑顔が浮かぶ。
そしてやっぱり、あの日の笑顔に流れる涙。
もうきっと、私はそう長くはない。
なんとなくそれがわかって、私は病室を抜けだした。
最期くらい閉鎖的な病室よりも、開放的な外で逝きたい。
そして彼と同じ太陽の下で…。
陽麻 「え、わかった!?…はい。…はい」
千絵 N:本当はね、怖いの。独りで寂しいの。
陽麻 「…はい。ありがとうございます!………千絵っ」
千絵 N:最期だからわがまま言ってもよかったかもしれない。
隣にいてほしい。声が聞きたい。
またあの笑顔が見たい。そして――。
この手をぎゅっと握ってほしい。
千絵 「……なんて、今さらバカだよね、私…」
千絵 N:思い出の中の彼を想いながら、やっぱり後悔していた私はそう呟いた。
* * * * *
陽麻 N:後ろ姿だけですぐにわかった。
それは僕がずっと想い続けていた彼女で、今も昔も大切な人。
なぜここにいるのか。なぜ連絡をくれなかったのか。
聞きたいことは山程あった。
でもそんなことよりも、また彼女に会えたことが嬉しくて、僕は自然と…。
千絵 N:一瞬懐かしい声がした。
大好きな彼を想うあまり、ついに幻聴まで聞こえ始めたのかと思った。
でも…。
陽麻 「…千絵」
千絵 「……はる…ま…?」
千絵 N:…なんで、来ちゃうの?……そんなっ、こんなこと…って。
振り返った先にいた彼。嬉しくて我慢できなくなった涙越しに、思い出の中の彼が重なる。
+ + + +
陽麻 「ちー、ほら見て!」
千絵 「なに?どうした…」
陽麻 「ひまわり!こんなに集めちゃった!」
+ + + +
千絵 N:無邪気な屈託のない笑顔。彼はあの頃と何も変わらない。
私にとって彼は、ひまわりのような存在。
そんな彼が私に笑かける。
あの頃の笑顔が、また咲いた。また、見れた。
陽麻 「…っ、千絵!」
千絵 N:また彼に会えて、また彼の笑顔を見られて安心したのか、私は急に力が抜け、その場に倒れた。
彼が手を伸ばしてくれたけど、自分が一番よくわかってる。
もう、時間みたい。
陽麻 「千絵…」
千絵 「ずっと好きだよ」
千絵 N:やっと言えた。ずっと本当のことを伝えたかった。
一番伝えたくて、なんとか絞り出した最期の言葉。ちゃんと彼に届いたかな?
陽麻 N:山程あった聞きたいこと。それは彼女の顔を見て、なんとなくすべてを理解した。
倒れ込んで抱き寄せた彼女の身体は、すっかり痩せ細っていて、立っていたのが不思議なくらい。
彼女の性格は僕がよく知っている。だから…。
千絵 N:あなたは何も言わずに、私をそっと抱きしめてくれた。
まだまだ話したいこと、いっぱいあったはずなのに。
あの日の嘘がなければ、本当はもっと二人で同じ時を過ごせたはずなのに。
私の気持ちを知っても、それでもあなたは笑っていてくれた。
それがホントに嬉しかった。
陽麻 N:そして彼女は、僕の腕の中でゆっくりと眠りについた。
≪ タイトルコール ≫
陽麻 「 True tears 」
(トゥルー ティアーズ)
千絵 「 and Memories smile 」
(アンド メモリーズ スマイル)
陽麻 N:しばらくして僕は、幼い頃に二人で行ったあのひまわり畑に足を向けた。
手には抱えきれないほどの、たくさんのひまわり。
そこで僕はまた笑ってみせる。空に向かって。
千絵 N:想いは伝えた。でもまだ言ってないことがある。
きっと彼も、それを言いに来たに違いない。
うん、わかってる。きっと彼も私と同じ言葉を口にする。
陽麻 「千絵…」
千絵 「…陽麻」
陽麻
& 「さよなら」
千絵
fin...