声劇×ボカロ_vol.2
『 ピエロ 』
Labyrinth Emotion
【テーマ】
僕の生き方(みち) 仮面の素顔
【登場人物】
仮屋 颯太(20) -Sota Kariya-
おとなしい性格で、仕事以外で、明るく
接することは少ない。
我慢強く、他人の笑顔が好きな少年。
一之宮 麗(23) -Rei Ichinomiya-
一之宮財閥のお嬢様。父親に逆らえず、
婚約をする。
颯太とは幼い頃に一度会っている。
ピエロ(??)
小さなサーカス団に所属するピエロ。
道化師の名の通り、明るく動じない素振りを
見せる。
鏑木 明寛(31) -Akihiro Kaburagi-
麗の婚約者。結婚して麗の親の会社を奪おうと
している。そのため颯太を邪魔に思う。
少年A サーカスがやってきた町の少年。
少年B 少年Aの友達。
男の子 母親と一緒にサーカスを
観にきた。
【キーワード】
・ピエロ
・笑顔と妬み
・嘘と誠実
・素顔と涙
【展開】
・颯太とお嬢様の出会い。
・声をかけられない颯太。ピエロとして麗の
前に現れる。
・笑ってほしくて、どんなことにも立ち向か
う。
・素直になって。あなたは一人じゃない。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話
(口に出して話す言葉)
M → モノローグ
(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション
(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、Mおよび
Nは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編はN(ナレーション)を中心に展開
される。
《キャスティングについて》
颯太とピエロは同じ人でも可。
ただし本編途中までは、颯太とピエロは
別人物として表記。
(その後の展開により変わる)
【本編】
颯太 N:あのときの君は、確かに笑っていた。
無邪気に、そして精一杯…。
でも再会した君から、昔のような笑顔
を見ることはできなかった。
あの日、一緒に遊んだことを、きっと
君はもう覚えていないだろう。
だから…。
だから僕は、あいつの力を借りること
にしたんだ。
麗 「…はぁ。もぅ、やだ…」
颯太 N:木陰に座り込んで呟いている君。その
顔は、やっぱりどこか寂しくて…。
麗 「…お父さんのバカ。どうしてわかって
くれないのよ…」
颯太 N:あいつは、いつもおどけて、人を笑顔
にする。笑顔を糧に生きている。
そんなあいつは、寂しそうな顔をする
人の前に、ひょっこり現れる。
ピエロ「おやおや、お嬢さん。こんなところで
何をしているのですか?」
麗 「……え?」
ピエロ「そんな辛そうな顔してないで、笑って
ください」
麗 「…そんな簡単に笑えたら、苦労しない
ですよ」
ピエロ「うーん…。では、こういうのはどうで
しょう?……ほっ」
麗 N:どこから持ってきたのだろう。いきな
り現れたピエロさんは、お月様のよう
なボールの上に、ひょいっと乗って、
うまくバランスをとっている。
ピエロ「ほっ、ほっ、ほっ……って、うわっ」
麗 M:あ、こけた。
麗 「くく…、ふふふ…」
ピエロ「もう一回、チャレンジです。…ほっ、
ほっ……って、どわぁ!」
麗 M:だから、なんでそんなにおもしろく
転ぶの…!
麗 「あはは…!」
ピエロ「やっと笑ってくれましたね。僕たち
は、みんなの笑顔が力になるんです。
だからあなたが笑ってくれると、
僕も嬉しいんですよ」
麗 「あっ…」
麗 N:どこからかやってきたピエロさん。
この人は、私を笑顔にさせるために、
来てくれたんだ。
そう気づいて、お礼を言おうとした。
でもいつの間にか、彼はどこかにいな
くなっていた。
私は魔法にかけられたみたいに、夢だ
ったんじゃないかと思ったけど、そん
な夢の住人さんに「ありがとう」と
呟いた。
* * * * *
颯太 N:とりあえず、これでしばらくは大丈夫
だろう。
悲しい心を感じ取って現れるあいつ。
それからこの街で一番深い悲しみを
持つであろう彼女のもとに、あいつは
ちょくちょく現れるようになった。
麗 「うわぁ、すごい!」
ピエロ「まだまだこんなものではないですよ!
そらっ、ほっと!」
麗 N:歓声に混じって感じる視線。振り向か
ずともわかる。あの人だ。
あの人の目は、まるで私を監視してい
るかのようで。
ピエロ「おや、そこのお嬢さん。つまらないで
すか?でしたら、こんなのはいかがで
しょう?」
麗 N:私の方を向いて、仮面の下に感じ取れ
る笑顔を向ける彼。いつだって気にし
てくれる、優しい彼。
少年A「なぁ、なんかあいつムカつかね?」
少年B「だよな。おい、コレ…。くっくっく」
麗 N:今のあなたが、思わず目をそらしたく
なるほど眩しくて、でも無理をしてい
るようで辛くて。
明寛 「そろそろ行こうか」
麗 N:父に勝手に決められた婚約者、明寛さ
ん。彼に肩を叩かれ、私はあなたから
目を逸らす。
刹那、鈍い音がしたかと思うと、群衆
から悲鳴があがった。私は彼を見て、
愕然とした。
ピエロ「……くっ」
男の子「うわぁ、ピエロさん!ピエロさんが、
ピエロさんが…。お、お母さん…っ」
麗 N:動揺して声をあげる男の子。一緒に
見ていた母親にしがみつき、震えて
いる。
私も、彼の手前、駆け寄りたくても駆
け寄れないでいた。
ピエロ N:誰かが泣いている。泣かせてしまっ
ている。こんなのは僕じゃない。
たとえ石を投げられようとも、大丈
夫。僕はこんなの痛くも痒くもな
い。
それよりも涙を見ている方が、もっ
と辛い。
男の子「(泣きながら)ねぇ、お母さ…」
ピエロ「おやおや、ちょっと転んでしまいまし
た。ほら、坊や。よーく見ててくださ
いね。…んー、ぱっ、と」
麗 N:彼が何かを唱えると、血がにじみ出た
あたりから咲くお花。涙を見せていた
男の子の顔も、すぐに明るくなった。
おどけて、人を笑わせて、何が起こっ
ても平気なフリをして。
仮面の君はそうでも、仮面の下のあな
たは…?
小さなサーカス団の小さな楽屋で、
彼の手当てをしてあげた。
変わらない素振りの彼。そんな彼を見
ることに我慢できず、私は彼に向かっ
て呟いた。
麗 「あなたの嘘が悲しいの…」
ピエロ「ん?僕は嘘なんて一つも吐いてない
よ」
麗 「そう…」
ピエロ N:悲しい顔で手当てをしてくれた彼
女。彼女の心が泣いている。でも
僕にできることは変わらない。
彼女の心が晴れるまで、僕のする
ことはきっとずっと変わらない。
悲しい気持ちなんて、あの頃だけ
で十分だ。涙を流すのも、涙を流
している誰かを見るのも、もう…。
* * * * *
ピエロ N:今日も僕はステージに立つ。サー
カスを楽しみに来てくれる人のた
めに、一人でも多くの人を笑顔に
するために。
ピエロ「……でもホントは、泣いてる君を笑
顔にさせたいだけなのかもね」
麗 N:今日も彼はステージに立つ。無意識
に彼を目で追ってしまう私。
彼は階段を上り、一輪車に乗って綱
渡りをしようとしている。
本当の自分を偽って、どんな危険な
ことにも立ち向かう彼。だけどその
仮面の下のあなたは、とても怯えて
いる。
だから気になってしまう。
感情を隠して生きるその姿は、まる
で自分を見ているようで…。
明寛 「やはりあいつか…」
麗 M:(「無理しないで…がんばって…」)
明寛 「私の邪魔をした罰だ」
麗 N:見ててハラハラする。ただただ祈るば
かり。あなたが無事に帰ってきますよ
うに…。
* * * * *
颯太 N:あの頃、僕は泣いてばかりだった。
つらくて、泣いてもどうにもならな
くて。
そして何のために笑っているのかわ
からなくなって。
仮面をつけることで、僕は僕を偽り、
隠し、自分の顔も、あの子を好きだ
った気持ちさえも閉じ込めた。
自分からラビリンスへと踏み込んだ
んだ。それが、僕は僕であり、僕の
生き方なんだと決めつけた。
今になって突然脳裏に浮かぶ、あの
頃の自分。忘れたはずの記憶。
車輪から伝わってくる緊張感と、僕
を見守っている観客。盛り上げよう
とするBGM。
それは何かが千切れる音とともに、
無を生み、同時に僕を宙に浮かせた。
真っ逆さまに落ちていく。仮面が外
れ、観客に素顔が晒される。もちろ
ん彼女にも。
必死に隠してきた僕の素顔。僕の本
当の気持ち。辛い、苦しい。嫌だ、
嫌だ、怖い…。
麗 「颯ちゃん!!!」
颯太 N:一人ぼっちで泣いている僕。
あの頃の記憶を、鮮明に思い出す。
でも同時に…。
明寛 「行くな、麗!!」
麗 「嫌です!もう、あなたの言うことに
は従いません!もちろん、お父様に
も…!」
明寛 「私を裏切るのか!そんなことは許さ
んぞ!」
麗 「裏切るも何も、私は最初からあなた
のことなんて…!」
明寛 「麗!!」
麗 N:彼を振り切って、私はあなたに駆
け寄った。久しぶりに見たあなた
の素顔。やっと、会えた…。
颯太 「…あ、…うっ…」
麗 「大丈夫!?」
颯太 「…はは、大丈夫です。こんなこと、
たまにあるんですよ…」
麗 「こんなときまで嘘吐かないで!無理し
て笑わなくていいんだから」
颯太 「…ほ、ホントに大したことじゃ…」
颯太 N:仮面はもうない。でも、そうやって
生きてきた僕は、痛くても辛くても、
喚くなんてできなくて。
変わらず笑顔を作ろうとすると、顔に
何かが落ちてきた。
目を開けて彼女を見ると、泣いてい
た。そして…。
麗 「上手く笑う必要ないよ。泣くことは恥
ずかしくないんだよ。泣けないのな
ら、私も一緒に泣いてあげるから…」
颯太 N:彼女にそう言われた僕は、今までため
込んでいたものが、涙となって溢れ出
る。
そしてあの頃の、忘れていた最後の
ピース。忘れそうになっていた、
僕の顔。
彼女に抱かれて、すべてを思い出す。
颯太 「……君、は…」
麗 「大丈夫」
颯太 「…あの、ときも…」
麗 「大丈夫だから」
颯太 N:君の笑顔が見たかった。だから、あい
つは僕の前に現れた。ずっとそう思っ
ていた。
でも助けられていたのは、僕の方だっ
た。君が僕を、見つけてくれたんだ。
麗 「大丈夫、大丈夫…」
颯太 N:まるで魔法の言葉のように、どんど
ん僕の心を裸にしていく彼女。
僕は涙が止まらなかった。
ふと目に入った、ピエロの仮面。
真っ二つに割れている。
あれだけの高さから落ちたんだ。生
きている僕が不思議なくらい。
でもその仮面を見て、逆に僕はすっ
きりした。
どんなに自分を偽っていたとしても、
僕は僕だ。それは変わらないし、変わ
れない。
だから…。
あいつとはさよならだ。
麗 「ずっと、あなたを待ってました…」
颯太 「あの…っ、僕の傍にいてくれるんです
か?」
麗 「……はい」
颯太 「あ、ありがとう…、ございます…」
麗 「ふふ、初めて笑顔以外の顔を見せてく
れましたね」
颯太 「え、僕、今どんな顔してました?」
麗 「えー、内緒ですっ」
颯太 N:あの頃のように、無邪気な笑顔を見せ
る君。
きっとこの先、二度とあいつとは会わ
ないだろう。
僕は、やっと本当の僕になれたんだ。
《タイトルコール》 ※1つを選ぶ
【英語 ver.】
颯太 「 Labyrinth Emotion 」
【日本語 ver.】
颯太 「 心の迷宮 」
+ + + +
麗 「今まで、彼を守ってくれてありがと
う」
ピエロ「さようなら、もう一人の僕…」
麗 「おーわーりっ」
fin...