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声劇×ボカロ_vol.64  『 日曜日の秘密 』

 


Top Secret ~ 二人の秘密 ~


【テーマ】

二人だけの秘密


【登場人物】

 成海 聖奈(17) -Sena Narumi-
転校生の翠のことが気になっていたが、傘を貸したことがきっかけで一歩前進。
芸能活動(読者モデル)をしてることもあってか、思い切った面も。

 


 濱中 翠(17) -Midori Hamanaka-
毎朝同じ電車の聖奈のことが気になっていた。
自身が転校生ということと女子慣れしてなかったことで、あと一歩が踏み出せない。

【キーワード】

 

・秘密
・理想で不釣り合い
・デート
・これから

 


【展開】

・互いに気になる存在だった二人。連絡先を交換し、また一歩前進する。
・読者モデルをしている聖奈とは、自分は不釣り合いだと感じる翠。
・デートの約束をした日曜日。ちぐはぐな時間も、互いに楽しいと思える。
・恋人となった二人。でもそれは“二人だけの秘密”。

※原作準拠のため、一部関西弁(っぽい)仕様となっている。

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。

【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 


 翠 「おはよう!」

 


聖奈 「おはよう!」

 翠 N:最近よく見る夢。
     いつものように電車じゃなくて、学校でも自然に挨拶をしている。

聖奈 N:緊張ばかりしている日常と違って、夢の中では挨拶もお手の物。
     自然に、ずっと前から知る友達みたいに。

 翠 「……はぁ。なんで現実は同じようにいかへんのやろ」

 翠 N:落ち込んだところで何も変わらないのはわかっている。
     わかっているけど、なんだかもどかしい。

     おはようは言えた。だから次は…。

聖奈 「……あーあ、夢かぁ。……もうちょっとお話できないかなぁ」

聖奈 N:夢では気兼ねなく話せていたから、次はもっと…ってなっちゃう。
     気になるだけの存在だった彼が、私の中でどんどん大きくなっていく。

     だから今日も逢えたら…。

 

 


 + + + +

 

 


聖奈 「お隣いいですか?」

 


 翠 「え?ど、どうぞ」

聖奈 N:電車で彼を見つけた時は飛び上がっちゃうくらい嬉しかった。
     もちろんそれは、心の中の小さな私のお話。

 

     勇気を出して声をかけたら、彼はびっくりした顔をしていた。

 翠 N:隣に座った彼女。その隣にいる俺。

 

     せっかく話しかけるチャンスなのに、何か話しかけようにも、言葉が出て来ない。
     すぐ隣に彼女がいるというこの状況に、ただただ緊張しっぱなしだった。

聖奈 N:勇気を出して彼の隣に座ったのに、特に会話をするでもなく、沈黙が続いて…。

 


     連絡先聞いていいかな?
     いきなりで引かれないかな?
     タイミング逃してない?
     どうしよ…。えーっと…。

 


     そんなことで頭の中はいっぱいだった。

 

     それに早くしないと目的地に着いちゃう…。

 翠 N:沈黙が続く中、俺はこんな状態男らしくないと勝手に結論づけていた。

 

     自分がどうしたいのか、そんなことはわかりきっている。
     緊張で震え、頭の中がぐるぐるしてるなか、俺は必死に沈黙を破ろうと口を開いた。

 翠 「……携帯聞いてもいいですか?」

聖奈 N:急な言葉に「えっ」って声が出そうになって、なんだかそれが可笑しくて。
     私はにやけないように、でも笑って返事をする。

聖奈 「私も同じこと思ってた」

聖奈 N:携帯を取り出すと、彼も取り出し、私たちは晴れて連絡先を交換した。

 

     交換しました!

 翠 N:同じことを思ってくれていたとわかって、嬉しくなって、俺は小さく呟いた。
     呟いたというか、彼女に聞こえるような大きさで。

 翠 「ありがとう…」

聖奈 N:その声が可愛くて、私はまた笑顔になる。
     連絡先を交換するからと、お互い内側を向いていたから、緊張していたけど。

 

 


* * * * *


聖奈 N:連絡先を交換したのに、なんて送ればいいか悩んでしまう。
     朝なら"おはよう"で決まり。でも今は夜だし、じゃあ"こんばんは"?
     彼のことがもっと知りたくて、でも友達ならきっと普通だし、どうしよう…。

     撮影の仕事中だけど、自分の番が終わると、私は彼から何か来てないかと、携帯を離さない。

 


     ……なんなら電話しても、いいのかな?

聖奈 『いつでも連絡していいですよ』

 翠 N:その言葉を反芻し、俺は携帯を握りしめたまま、部屋の中をウロウロ。
     ウロウロ、ウロウロ…。
     本当に送っていいのか、送るならなんて送ろうか、俺はずっと悩んでいて…。

 

     ふと右上の時計が目に入る。もうすぐ夜の11時。
     ご飯も早めに済ませて、部屋にこもってから、えっと……何時間経った?

 

     タイミングを失った気がして、俺は部屋で一人、ガクリと肩を落とした。

聖奈 N:好きなお菓子も好きな色も、もっともっと知りたい。
     彼のいろんなことが知りたい。
     聞かせてよ……好きなタイプも。

 

     仕事終わり、お風呂でサッパリした私は、部屋で雑誌を見ながらそんなことを考えていた。

 翠 「あーっ、もう!!」

 翠 N:俺はガバッとクッションに抱きついて横になる。

 

     彼女のことが頭から離れない。
     彼女ともっと話したいし、やり取りだってしたい。
     でも本当は迷惑じゃないかとか、俺なんか相手にされないんじゃって思ってしまう。

 

     彼女、成海聖奈は、読者モデルをしてる、俺とは違う世界に住む女の子。
     でも彼女は理想の人で、もっと近づきたいと思うのに、どうしたらいいかわからない。
     それだけ不釣り合いな恋だと思うから…。

聖奈 N:せっかく一歩前進したと思ったのに。

 翠 N:次の一歩が出せなくて。

 

聖奈 N:待ってるだけじゃダメだってわかってるのに。

 翠 N:こんなの全然男らしくない。

聖奈 N:ねぇ、私たち。

 翠 N:俺たち、この後。

聖奈 N:どうなるの?

 

 


* * * * *

 

 


 翠 「おはよう!……おはよう!……よしっ」

 翠 N:初めて挨拶を交わすまで、ずっと日課だった挨拶の練習。おはようのオーディション。
     実はまだ今も継続中。
     連絡先も交換したし、これならもっと気軽に挨拶もできる。
     そう思ってたのに、そんなこと全然なかった。

聖奈 N:連絡先を知って、もっと意識するようになって、やっぱり挨拶すら交わせなくて。
     顔が見れない分、文字だけのやり取りなら少しはマシかなって思ってたのに。

 

     仕事でよく言われてる。聖奈ちゃんはもっと自信持っていいよ、って。
     でもね、自信どころか不安になっちゃうんだ。
     変なこと聞いて、嫌われたりしないかなって。

 翠 N:いつもの電車。2車両目。俺の特等席。
     隣は今日は空いていない。
     腕を組んで、ちらりと時計を見る。
     もうすぐ彼女が、あのドアの向こうに現れる。

 

     来た…!

 

     ……とは言っても、相変わらず自然におはようなんて言えるはずもなく。

聖奈 N:彼の姿をいつもの場所に確認して、私とあかりはすぐ横のドアの前へ。
     背中を向けて、気づかないフリをする。
     ……のは、誰にも知られたくない秘密があるから。

 

     いつもの時間。でも今日は金曜日。また月曜まで会えない。だから…。

聖奈 『次の日曜会えますか?』

 翠 N:目の前にいるのに、わざわざ文字で届いたメッセージに驚き、俺は彼女の方を見る。
     いきなりすぎて、普通なら声が出そうなのに、その声も逃げる始末。

 翠 『よころんで!』

聖奈 N:彼の返事に緩みそうになる顔を必死に保ちつつ、私はおはようのその先へ。

聖奈 『遊園地行きませんか?』

 


 翠 『行きます!』

 


聖奈 『やったー。楽しみにしてます』

 翠 N:文字では自然体でいられる。それが、それだけなのにとても嬉しかった。
     スタンプだってお手の物。彼女になら、そんな自分も見せられる。

聖奈 N:送ってよかった。思い切って誘ってみてよかった。
     待ってるだけじゃダメなのはわかってたから。
     それにせっかくこうして連絡が取れるようになったからこそ、行動すべきだと思った。

 


     私が彼に抱いてる気持ちが、同じものが彼にもあったらいいのにな。

 

 


 + + + +


 翠 N:日曜日当日。遊園地の入口で待ち合わせ。
     遅れるわけにはいかなかったから、20分くらい前には来ていた。
     彼女も同じことを思っていたようで、俺が着いてすぐに彼女はやって来た。

 

聖奈 「あれ?私遅れちゃいました?」

 


 翠 「いや、全然。俺が早く着いただけですから」

 


聖奈 「そうなんですか?私も少し早いかなって思ってたんですけど」

 


 翠 「ははは。じゃ、じゃあ行きましょか」

 


聖奈 「はい」

 翠 N:どう接したらいいかわからなくて、敬語は抜けないまま。
     自分が自分じゃないような気がして、落ち着かなかった。

聖奈 「晴れてよかったですね。あ、ご飯ってどうします?」

 


 翠 「食べてきてないん……ですか?」

 


聖奈 「あ、そうじゃなくて…」

聖奈 N:私は背負っていたリュックに目をやる。
     実はお弁当を作ってきてしまうくらい、今日を楽しみにしていた。

 翠 「ならどっかで」

 


聖奈 「そうじゃなくて!……あの、ですね…」

聖奈 N:言いかけて私はやめた。どうせならびっくりさせたいと思ったから。

 翠 「え、あの…。俺何か変なこと言ったり」

 


聖奈 「なんでもないです!行きましょう!」

 翠 N:困った顔をしていたのに、一瞬で笑顔になる彼女。
     俺は何が何だかわからなくて、しばらくソワソワしていた。
     もちろん気づかれないように。

 

     その気持ちは昼時になって、ようやく解消された。

聖奈 N:広場のような所に持ってきたシートを敷いて、私は作ってきたお弁当を広げて見せる。

 翠 「うおっ、すげえ」

 


聖奈 「何が好きかわからなかったから、お弁当の定番メニューにしてみました」

 


 翠 「これ自分で?」

 


聖奈 「そうですよ。苦手なものあったら言ってくださいね」

 


 翠 「ないない!全部いただきます!」

聖奈 N:そう言ってくれて、美味しいって言ってくれて、本当に嬉しかった。
     お互い緊張してて、会話もちぐはぐだったりしたけど、それもなんだか楽しくて。
     お弁当の後は緊張もすっかり解けて、最初の頃が嘘みたいに、遊園地を遊び尽くしていた。

 翠 N:特にジェットコースターは、二人で並んで座ると、肩が触れそうで触れない、そんな距離。
     触れたら触れたで、心臓バクバクになるのは間違いない。

聖奈 「あ、向こうでパレードやってますよ!」

 


 翠 「ホンマや。しばらく見てく?」

 


聖奈 「そうですね」

聖奈 N:一緒に過ごしているうちに、手なんか繋いでみたくなって。

 翠 N:すぐそこに、触れられる距離にある彼女の手。
     繋いでる想像くらいはしてみてもいいですよね?

聖奈 N:被り物をつけて、楽しそうな彼の横顔。
     その無邪気な笑顔がとても可愛くて、目が放せなくて、胸がキュウンってなる。
     苦手な事もダメなところも、秘密にしていることも、彼の全部を知りたいって思う。

 翠 N:不細工な被り物をしてても、彼女が理想の人には変わらない。
     何より今は、こうして二人で過ごす時間がとても大切に思える。

 


     自分には不釣り合いな人とわかっていても…。

聖奈 N:周りにバレると面倒だからと、つけてきたマスク。
     でもちゃんと私を見てほしい。そう思って外したけど、やっぱり…。

 翠 「逃げるぞ!」

 


聖奈 「え!?」

聖奈 N:いきなりぐいっと手を引かれたかと思うと、走り出していた。
     逃げるのに必死で、この時はお互いに気づいていなかったと思う。

 翠 N:想像なんかじゃなく、しっかりと手を繋いでいたことに。

 


* * * * *


聖奈 「ライブするらしいですね」

 


 翠 「おう。よかったら見に来てや」

聖奈 N:あの遊園地以来、二人きりで会う度に、だんだんと自然に笑えてる自分がいた。
     それは彼も同じで、最近のことなのに、敬語だった頃が懐かしいくらい。

 翠 N:学校でもそれ以外でも、何度か二人で会ううちに、自分の気持ちを再確認できた。
     友達だけど、きっとそれ以上に感じていたのは、俺だけじゃないはず。

 

     楽しい秘密が、思い出が増えていく。

聖奈 N:ライブ。体育館は最高に盛り上がっていたけど、私はボーカルの彼に釘づけだった。
     また知らない一面を見れて、何よりかっこよくて…。

 


     私は気づいた。気になるだけじゃない。私がなりたかったのは、きっと彼の――。

 翠 『後夜祭が始まったら、体育館まで来てくれへん?』

 翠 N:そう送ったのは少し前。後夜祭は校庭で行われる。
     祭りの後。人気(ひとけ)のない場所。と言ったら相場は決まってる。

聖奈 N:彼を見つけて、いてもたってもいられなくなって、私は先に声をかけた。

聖奈 「独り占めいいですか?」

 


 翠 「え?」

 翠 N:告白しようと呼び出したはずなのに、彼女のまさかのセリフに言葉を失う。

聖奈 「あっ」

 


 翠 「いててててて」

聖奈 N:私のセリフに気づいた彼は、ほっぺたを赤く染めていた。
     だから私はそこをつねって、精一杯の照れ隠し。

 翠 N:言葉はいらない。

聖奈 N:私たちはきっと初めから同じだった。

 

 翠 N:今日から彼氏に。

聖奈 N:今日から彼女に。

 


     たくさんの時間を一緒に過ごして、たくさんの思い出を一緒に作って。
     出会えたことの奇跡を噛み締めて。

聖奈 「あ、うん。そうだよ」

 翠 N:彼女が近所の中学生に声をかけられている。俺はその前を素通り。
     俺たちの関係は二人だけの秘密。

 

聖奈 N:だから彼は道端で会っても私に構わない。
     だけど私たちは確かに繋がっている。

 翠 N:いつもの電車。2車両目。俺の特等席。
     時計は8時7分。もうすぐ彼女がやってくる。

聖奈 N:朝電車に乗ると、少しでも傍にいたくて、私の特等席へ。

 翠 「おはよう」

 翠 N:もうオーディションはしていない。
     今はバレないように微笑んで、自然に言うことができるから。

聖奈 「うん、おはよう」

≪ タイトルコール ≫

 


 翠 「 Top Secret 」

 


聖奈 「 二人の秘密 」

 + + + +

聖奈 「いろいろあるかもしれないけど、辛い時には笑い話聞かせてよね?」

 


 翠 「もちろんや!」

 

聖奈 N:こういう約束もデートの約束も、みんな同じ。彼の言葉は信用できる。

 


     ずっと傍にいてほしいし、時にはワガママもいいですか?

 翠 N:二人の秘密、守らせてね。

 


     ずっと傍にいたいし、ずっと傍にいてほしい。
     理想の人が恋人になってくれるなんて、夢にも思わなかった。

聖奈 「改めて言うことでもないんだけど…」

 


 翠 「ん?」

 


聖奈 「これからもよろしくね!」

 


 翠 「こちらこそ!」

 

 

 


fin...

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