声劇×ボカロ_vol.40 『 プライド革命 』
to breast Pride
【テーマ】
闘う決意
【登場人物】
加治 信太郎(16) -Shintaro Kaji-
傷だらけになっても、強くなりたいと願う少年。
そのキッカケを作ってくれた陽に、心を開いていく。
蔵戸 陽(15) -You Kurato-
剣術に長けた少年。
笑顔が印象的だが、時折沈んだ顔を見せる。
【キーワード】
・落ちこぼれ
・プライド
・暗闇と涙
・君がいたから
【展開】
・落ちこぼれだった信太郎。もうどうでもいいと思った矢先、目の前に現れた陽。
・心に土足で入ってくる陽に、どこか安心感を覚える信太郎。
・辛い時も楽しい時も共に過ごす時間。そして突然連れ去られる陽。
・陽を取り戻しに、単身突撃する信太郎。強くなれたのは――。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
信太郎「くそっ!!やめてやる!!」
信太郎 N:道場に、木刀の音がカランカランと響く。
その場は一瞬、ほんの一瞬だけ静まったが、すぐにたくさんの声に埋め尽くされた。
それも歓声ではない。人を嘲笑う声。その標的は、俺――。
陽 「…おい」
信太郎 N:負けてばかりで守るものなんてない。
プライドなんてカッコいい事、ただ口にしてただけ。
そんな俺が剣をやめたところで、別に…。
陽 「…おい、悔しくねーのかよ」
信太郎 N:床にあったはずの木刀。それを俺に突きつけるのは、声の主。
陽 「お前…」
信太郎「…んだよ、関係ねーだろ」
陽 「お前、まだ何もしてねーだろ」
信太郎「は?なに…」
陽 「まっすぐにぶつかれよ!それやってから文句言え!」
信太郎「なんでそんなことお前に…。……っ、くそっ!!」
信太郎 N:稽古も中途半端で、気持ちも半端。
それでも自分は強い、そこら辺のやつになんか負けない。
そんな妙な自信があった。
いや、ただ言い訳を作っていた。
だから負けても言い訳をして、そうして自分からも逃げていた。
気持ちに正直に、まっすぐにぶつかっていくことが、心のどこかで恥ずかしいものだと
思っていたんだ。
陽 「うおー、スッゲー!!次あそこ行こーぜ!!」
信太郎「……(ため息)はぁ」
陽 「なんだよ?」
信太郎「なんで俺、お前と一緒いんの?」
陽 「いいじゃんかよ!ほら、早く!」
信太郎 N:まるで初めて露天を見る子どものようにはしゃぎまわっている。
あの後、道場を引っ張り出されて、今に至る――が。
いくら核心を突かれたからと言って、一緒にいる理由なんてない。
仲間なんて、弱いやつらが群れるために組むもの。
俺には必要ないと思っていたもの。
陽 「さて、と。じゃあそろそろ行くか」
信太郎「はぁ?まだどっか行…」
陽 「道場。案内してよ」
* * * * *
信太郎「こんのっ!!」
陽 「おっと」
信太郎「くっそ、なんで当たんねーんだ!」
陽 「スキありっ」
信太郎「…いってぇ。また負けた。なんで勝てねーんだよ!」
信太郎 N:陽と稽古を始めてひと月。俺の戦績は、全敗。
ある程度強いのはわかっちゃいたけど、さすがにここまで来たら意地もある。
何よりこいつ毎回俺に…。
陽 「やっぱ俺にはかなわねーなー」
信太郎「うるっせぇ!いちいち毎回言ってくんじゃねーよ!」
陽 「信ちゃん、こわーい」
信太郎「変な声出すんじゃねー!!」
陽 「(笑って)あはは!」
信太郎「明日は絶対勝ってやるから、逃げんなよ!」
陽 「……そうか。お前は明日を自由に決めることができるんだよな…」
信太郎 N:また、だ。
このひと月、こいつはたまに沈んだ顔をする。
何か事情があるんだろう、と詮索はしていない。
こいつも、そして俺も、立ち塞がる壁に手探りで生きていってる気がした。
だから――。
信太郎「それで?」
陽 「え?」
信太郎「どうせ行くんだろ、今日も」
陽 「おう、もちろん!」
信太郎 N:稽古後の散歩。
面倒だけど、変わらず自分勝手に行動するやつだけど、行かないなら行かないで
なんだか落ち着かない。
出会った時から人の心に土足で踏み込んできた。
そんなこいつのことを、俺はいつしか“仲間”と思えるようになっていたのかもしれない。
陽 「じゃあ着替えてくるから、ついてくんなよ!」
信太郎「はぁ?行かねーよ…」
+ + + +
陽 「明日、か…」
陽 N:稽古を一緒にやり始めてから、彼はだいぶ変わったように思う。
それは剣術の腕だけじゃない。
彼の中のプライド。燻(くすぶ)っていた想い、感情。
顔を見ればわかる。
まっすぐにぶつかって、気持ちが前へ前へと向いている。
陽 「……よかった」
信太郎「おーい」
陽 N:出会った時は、見てらんなくて手を差し伸べてしまった。
でも後悔はしていない。
俺にも大事だって思える人ができた。
“仲間”っていいなって思えた。
信太郎「おーい、陽」
陽 N:また明日、こうやって過ごせたらどんなに嬉しいか。
俯(うつむ)き、取り囲むのは、俺の心の闇――。
信太郎「おい、陽!いつまで待たせんだよ!!」
陽 「…あ、わりぃ。すぐ行く!」
信太郎「ったく、頼むぜ。どうせすぐには帰してくんないんだろうからよ」
陽 N:明日を決められる君が、私は本当に羨ましいよ。
* * * * *
信太郎 N:あいつ遅いな…。
いつもの時間。いつもの場所。
一つだけ違うのは、俺しかいないということ。
過(よ)ぎるのは、昨日のあいつ。
+ + + +
陽 「明日は君が決めろ」
+ + + +
信太郎 N:いつもは無邪気なあいつが、ふと呟いたセリフ。
聞いた時は深くは考えなかった。
そんなことは当たり前で、むしろそれ以外あるのかという疑問さえ残った。
でもそれは俺の話。
あいつは俺じゃない。
だからずっと引っかかっていた。
どうしてあんなに暗い顔をするのか…。
信太郎「……っ!?」
陽 「…んたろっ」
信太郎 N:あいつの声が聴こえた気がした。
俺は声のした方へ急ぐ。
たどり着いた先は、この地を治める者の象徴である、大きな城――。
陽 「…しんた…っ。むぐっ」
信太郎 N:城門前、一瞬の視界に映ったのは連れ去られていくあいつ。
瞬きのうちに姿は消え、瞬間、俺の中で何かが弾けた。
信太郎「うおおおおおおっ!!!」
信太郎 N:袂(たもと)の橋を渡ると、衛兵に取り囲まれる。
周りは真剣、俺は木刀。
人は無謀だというだろう。でもそれが何だ?
俺は無謀でも何でも、奪われた仲間を助けにいく。
信太郎「ただそれだけだ!!」
+ + + +
陽 「もっと腰を落として踏み込め!」
+ + + +
信太郎 N:力ならもらった。
傷つけるためじゃない。守り抜くために。
己を守る。誇りを守る。
そして何より、まっすぐにぶつかること、立ち向かうことを教えてくれた
大事な仲間を守るために。
信太郎「止まるな、俺!」
信太郎 N:震えを止めるために、迷わず進むために、俺は自分を鼓舞した。
どうしようもなかった俺を、どうしたらいいのかわからず燻っていた俺を、
暗闇をかき消してくれた君を、俺は…っ!
城兵 「曲者(くせもの)だ!であえ、であえ!!」
信太郎「くっそ!!」
信太郎 N:城門は突破した。でもここは城。代わりの兵はいくらでもいる。
+ + + +
陽 「悔しくねーのかよ」
+ + + +
信太郎 N:わかってるよ。だから来たんだ。
闘う理由は、お前にもらったから。
俺の誇り。失いたくない仲間。
切り傷なんてたくさんもらったけど、まだ…。まだだ。
まだ下を向くわけにはいかない。
足を止めるわけにはいかない。
+ + + +
陽 「明日は君が決めろ」
+ + + +
信太郎 N:どうして泣いてるように言うんだ。
お前はあの時、何を思ってそう言った。
涙を流す理由があるなら、俺が振り払ってやる。
俺はそれだけお前に救われたんだ。
城兵 「貴様!何が狙いだ!?」
信太郎「うるせぇ!!」
信太郎 N:俺はまた踏み込んで、斬りかかる。
本当は怖い。今だって足がすくんで震えてる。でも俺は――。
信太郎「立ち向かう」
陽 「怖くない」
信太郎「君がいる」
陽 「ここにいる」
信太郎「待っていて」
陽 「大丈夫」
信太郎「負けないよ」
陽 「認めてる」
信太郎 N:あいつの声が聞こえた。まるですぐ隣にいるかのように。
あいつの声が背中を押す。
おかしなもんだ。助けに来たやつに後押しされるなんて。
でも今の俺には十分。
俺は大きく息を吸って、届けと願う。
城兵 「貴様、いい加減に」
信太郎「助けに来たぞー!!!」
信太郎 N:この城のどこかにいるあいつを取り戻すまで、俺は――。
* * * * *
城兵 「おい、いたか!?」
信太郎 N:お前の不安も、わだかまりも、俺がすべて切り裂いてやる。
城兵 「くそっ、どこに隠れてやがる」
信太郎 N:でもさすがにまずいな。
このままじゃ、助けるどころかこっちだって。
……逃げるか?
城兵 「いたぞ!」
信太郎「……(呟いて)はっ、なーに言ってんだか」
城兵 「こっちに来い!」
信太郎 N:背中を強く押さえつけられ、腕も広げられる。これは即座に首を斬られる態勢。
声にならない叫び声が、胸の中を渦巻く。
俺はもう、一人じゃない。
城兵 「狼藉者が。今すぐその首、叩き斬って」
信太郎「……っ、ああああああああああっ!!!!」
城兵 「なっ、貴様!」
信太郎 N:俺は身体を起こし、手にしたカタナを振り回す。
たとえ刃(やいば)がなくとも、芽生えた誇りが刃となる。闘える。
城兵 「無駄だ!観念しろ!!」
信太郎「陽!どこだ、陽!!」
+ + + +
信太郎「お前も食えよ」
陽 「いや、俺はいい…」
信太郎「いいから食えって!」
陽 「ちょ、いいって言ってるだろ!ってか、でけーよ、それ!」
信太郎「(自慢げに)ふふーん、俺の自信作だ」
陽 「(呆れて)あはは…」
+ + + +
信太郎 N:必ず助ける。
俺にとっての日常に、欠かせない大切な仲間。
俺はお前じゃないし、お前も俺じゃない。
事情もあるだろうが、そんなこと今はどうでもいい。
あの日々を取り戻す。今はそれだけだ。
どんな高い壁だって、俺とお前の意志は繋がってる。
信太郎「それを証明する!!」
陽 「信太郎!!」
信太郎「……え…っ?」
陽 「もういい。もういいよ…」
信太郎「…陽?」
陽 「うん…」
信太郎 N:後ろから抱きつかれ、我に返る。
そこには俺の知るあいつはいなくて、でも声は確かにあいつで。
結っていた髪をほどき、華やかな衣装を纏ったあいつは、いや彼女は――。
陽 「隠しててごめん…。私…」
信太郎「……(安心して)はっ、よかった。無事で」
陽 「…おこ、らないの…?」
信太郎「なんでだよ」
陽 「だって私…っ!」
信太郎「いいから行くぞ」
陽 「へ?」
信太郎「今日こそ絶対に勝つ」
陽 「……(笑って)ぷっ、あはははは!!」
信太郎 N:俺は陽の手を取って、来た道を戻る。
身体はボロボロだけど、そんなことはどうでもいい。
俺は大事なものを取り戻したのだから。
城兵 「姫!!」
陽 「はは、いってきまーす」
信太郎 N:「お待ちください」とか「不届き者が」なんて聞こえたが、陽の前ではそれも形無し。
一蹴された兵たちは、何事もなく俺たちを出してくれた。
信太郎「なぁ、お前…」
陽 「なに?やっぱり今日はやめとく?」
信太郎「ばっ、ふざけんな!ぜってー負けねー」
陽 N:彼は言った。お前のお蔭だって。
ううん、違うよ。
救われたのは私。
毎日が楽しみで、当たり前に過ぎる時間が大事に思えて。
そう思わせてくれたのは、他でもない君。
信太郎「おらっ!勝負だ!」
陽 N:きっといつか、彼は私よりも強くなる。
でもまだ、譲れないかな。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
信太郎「 to breast Pride 」
(トゥー ブレスト プライド)
【日本語 ver.】
信太郎「 プライドを掲げて 」
+ + + +
陽 「誇りを胸に」
信太郎「立ち向かえ」
陽 「でもまぁ、まだまだかなー」
信太郎「う、うるせぇよ!明日は絶対…っ!」
陽 「(笑って)はいはい」
信太郎 N:取り戻した日常で、俺はまた君と笑ってる。
fin...