声劇×ボカロ_vol.51 『 恋距離遠愛 』
for Spend our Life together
【テーマ】
遠く離れた君へ
【登場人物】
臼井 慶太(24) -Keita Usui-
四国に住む面倒見のいい男性。
滅多に会えない梓のことを、常に気遣っている。
鳥谷 梓(24) -Azusa Toritani-
関東に住む愛想のいい女性。
慶太に会いたい気持ちを抑え、日々を過ごす。
【キーワード】
・遠距離恋愛
・離れた相手を想う気持ち
・素直になって
・再会と別れと
【展開】
・クリスマス。街は恋人たちで溢れる中、一人浮かない顔をした慶太の姿。
・共に過ごせなかったクリスマス。離れていても繋がっている確かな絆。
・久しぶりに再会した慶太と梓。楽しい時間を過ごす。
・あっという間に時間は過ぎ、別れの時間がやってくる。辛く、寂しくても、その気持ちは…。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
慶太 N:街はたくさんのイルミネーションで着飾っていた。
もうすぐやってくるクリスマス。最近は恋人たちの幸せそうな笑顔を、ちらほらと見かけるように
なった。
その度に思う。
あー、今年も一人なんだ…って。
梓 「もしもし、慶太?」
慶太 N:かかってきたのは遠距離中の彼女。
お互いに仕事で忙しいのもあるから、毎日ってわけじゃないけど、暇をみつけてはなるべく話す
時間をつくるようにしていた。
梓 「どうだった?」
慶太 「やっぱ無理だなぁ。その後すぐ年末だし、休み取れそうにないや」
梓 「そう、だよね。それが普通なのかなぁ」
慶太 「前日の祝日も仕事になっちゃったから、会えるのは年明けになるかも」
梓 「そっか…」
慶太 N:遠距離だし、簡単に会えないから、何かと不安にさせてるんだろうなって自覚はある。
それでも仕事を犠牲にして彼女を選ぶことを、彼女自身が許さない。
そんなこと口にしようものなら…。
慶太 「いや、やっぱりもう少し交渉してみる」
梓 「ダメ。無理なら無理でいいから。仕方ないじゃん、仕事なんだもん」
慶太 「だけどさ」
梓 「いいの。私は大丈夫だから。ね?」
慶太 「……うん」
梓 「伊達に遠距離してないもんね!」
慶太 N:明るい声で言う彼女。
本当に平気そうなトーンで言うから、逆にこっちが戸惑ってしまう時もあるけど、僕は知っている。
会いたくて、会いたくて仕方ないんだって。
それは僕も同じ気持ちだからわかる。
でも彼女の“無理してまで会わなくていい”という我儘に、僕はいつも付き合っている。
本心を隠して――。
梓 「……じゃあ、切るね。おやすみなさい」
慶太 N:電話が切れて、ツーツーという音が妙に耳に残る。
きっとそれは、目に入る煌(きら)びやかな世界が、恋人たちの幸せそうな顔が、僕を孤独な世界に
追いやっているからなんだろう。
独りじゃないけど、今年も一人。
その現実は、確実に僕の心を蝕(むしば)んでいった。
+ + + +
梓 N:電話を切ると、強がりな私はいつもかくれんぼ。
本当は無理してでも会いに来てほしい。普段なかなか会えない分、恋人たちのイベントには
私も同じように参加したい。
…なんて言えるはずもなく、私は電話の後、いつも枕を濡らしていた。
好きな人が傍にいない。たったそれだけのことなのに…。
* * * * *
慶太 「ねぇ、梓。ちょっと息止めてみて」
梓 「なに、急に」
慶太 「いいから。はい、吸ってー。止めて!」
梓 「…んっ。んーっ、っはぁ…はぁ…はぁ。もう、無理」
慶太 「どう?苦しかった?」
梓 「当たり前でしょ!なんなの急に!いじめ!?」
慶太 「いや、息を止めたら苦しいのは当たり前だけどさ、梓が傍にいない時も同じくらい苦しいんだよね」
梓 「は、はぁ!?なに言ってんの!」
慶太 「え、梓はそうならない?」
梓 「…う。な、なるけど…。って、何言わせてんの、もう!」
慶太 「あはははは!」
梓 N:私は半年前の出来事を思い出していた。
いきなり変なことをさせられて、何かと思えば恥ずかしいことを平気で言ってくれちゃって。
ホント、敵わないなぁ、もう。
慶太 「クリスマスは一緒に過ごせるといいね」
梓 「あー、去年はお互い仕事だったもんね」
慶太 「その前までは毎年一緒だったんだけどなぁ」
梓 「そりゃ、あの頃はまだ私たち学生だったし。それに学生の頃って言っても、二人で過ごしたのは
最後の年だけだったじゃん」
慶太 「誰かさんがずっと片想いしてたからね」
梓 「う、うるさいなぁ、もう。誰かさんが鈍感だったからでしょ」
慶太 「え、それ誰のこと?」
梓 「あんた以外いる?」
慶太 「あ、やっぱり?」
梓 N:私は学生時代、ずっと彼に片想いをしていた。
同じサークルだったこともあって、ちょくちょくそれっぽいアピールはしてたつもりなんだけど、
彼は全然気付かなくて。
だからお互いの就活が終わったのを見計らって、思い切って私から告白。結果は見ての通り。
慶太 「ん、なに?」
梓 「ううん。あれだけ鈍かったあんたが、今じゃそんなこと言うようになったんだなって」
慶太 「なんで?おかしい?」
梓 「ううん。嬉しい」
慶太 「そっか。なんかこっちまで嬉しくなるね」
梓 「だ、だからあんたはまたそうやって!」
慶太 「ん?」
梓 N:きょとんとした顔でこちらを見ている。
あぁ、そうか。彼にとってはもう、これが日常なんだ。
私の気持ちが彼に届いて、それが彼をここまでにした。私の、功績。
慶太 「ふふ、梓。ほら、おいで?」
梓 「……バカ」
梓 N:限られた時間の中では、特別なことをする必要なんてなかった。
たくさんの恋人たちが当たり前のようにやっている、当たり前のことができるだけで十分だった。
それだけに別れの時は、いつも寂しさで胸が締め付けられる。
きっとそれは彼も同じ…。
慶太 「なんで…」
梓 「なんで…」
慶太 N:君はここにいないんだ…。
共に過ごした日々が昨日の出来事のように思い出される。
毎日笑って生きているのに、何かが足りなくて、何かで心を埋めたくて、でもできなくて。
足りないものが何かなんて、とっくにわかっていた。
わかっているのに、どうにもできない現実が、僕らを阻む。
だからせめて、傍にいる時間だけは、君だけの僕にしてくれていいんだ。
口にせずとも感じる。離したくないという、その気持ち。
* * * * *
梓 N:年が明けても、私たちは会うことができなかった。
新年の挨拶も電話だけで、初詣はどうしただの、仕事はどうだの、他愛もない話ばかりだったけど、
私にはそれでも十分だった。
我儘なんて、言っても困らせるだけだから…。
慶太 「梓、来月の中旬行けそうなんだけど、休み取れる?」
梓 「うん、大丈夫だよ。待ってるね」
慶太 「ん。逃げないで待っててください」
梓 N:おかしな言い方に思わず私は笑ってしまった。
彼は時々、こういった言葉で私を笑わせてくる。
それも私がさせてしまってるんじゃないか、って思ったりするんだけど…。
慶太 「え、なんで笑うの?なんか変なこと言った?」
梓 N:彼にとっては、それが普通だったみたい。
とにかく来月に彼に会える。約8ヶ月ぶりの再会。
あとは詳しい日にちを決めて、それまでカウントダウン。
もうちょっと、あと少し。
会えなくて辛かった日々は、しばらくお留守番。
+ + + +
慶太 「ふぅ、着いた。さて、梓どこだ?」
梓 「慶太!おかえり!」
慶太 「ただいま……でいいのかな?」
梓 「(納得いかない感じで)…じゃあ、久しぶり」
慶太 「はいはい、ただいま!悪かったって。そんな拗ねるなよ」
梓 「…拗ねてないし」
慶太 「思いっきり拗ねてんじゃん!」
梓 「うるさい…」
慶太 「えー。……待たせて、ごめん」
梓 N:目を逸らして、頭をポリポリ掻いて、彼はそう言った。
向き直った目はまっすぐに私を見ている。
梓 「んーん。やっと会えたね。嬉しい」
慶太 「うん。やっと会えた」
慶太 N:何も言わずに手を差し出せば、彼女は手を重ねてくる。
それに安心している自分がいる。彼女が傍にいるのだと実感できる。
梓 「……このまま時間が止まったらいいのに」
慶太 「そうだな」
梓 「ねぇ、ホントにそう思ってる!?」
慶太 「思ってる、思ってる」
梓 「うっわ、適当」
慶太 「なんでそうなる!?」
梓 「だってさー」
慶太 「……思ってるよ、ホントに」
梓 N:さっきとは違う声のトーン。
それがわかっただけで、胸がきゅうんってして、同時に安心した。
でも叶うことなら、どうか――。
少しでも彼と過ごせなかった日々を、時を止めて忘れさせてほしい。埋めてほしい…。
慶太 N:一緒に過ごしたかった時間はたくさんあったのに、一緒に過ごせる時間はわずか。
その限られた時間の中で、伝えたいことなんて山ほどあるのに、うまく言葉にできない。
ねぇ、笑っていいよ。泣いてもいいよ。怒っていいよ。……もっと好きになっていいよ。
梓 N:聞けなかった言葉が、浮かんでは消えていく。
口に出せずとも、そう語りかけてきているような彼の顔。
ねぇ、笑っていいの?泣いてもいいの?怒っていいの?……もっと好きになっていいの?
慶太 N:キスしていいよ。抱いてもいいよ。
梓 N:キスしていいの?抱いてもいいの?
慶太 N:君だけの僕にしてくれていいよ。
梓 N:私だけのキミにしても、いいのかな…?
離れていた時間と私たちの心の距離は反比例。
いくら仕方ないと割り切っても、寂しいものは寂しい。
でも我儘言って嫌われたくもない。
別れるなんて絶対に嫌で、ずっとずっと一緒にいたいから、私はまたここでキミを待つ。
慶太 「もう時間か…」
梓 「そう、だね…」
慶太 「はは、超笑顔」
梓 「慶太もじゃん。……あれ、泣いてる?」
慶太 「……っ、梓だって…」
梓 「…っ。好きだよ、慶太」
慶太 「僕も好きだよ」
梓 「…うん」
慶太 「また、会えるよ。会いに来る」
梓 「うん、待ってる」
慶太 N:そうして僕は彼女の手を離す。
必ずまた会いに来る。
離れていても、絶対に離さないと誓って――。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
梓 「 for Spend our Life together 」
(フォー スペンド アワー ライフ トゥギャザー)
【日本語 ver.】
梓 「君と並んで歩くまで」
+ + + +
慶太 N:別れてすぐ、彼女から一通のメール。
そこには今すぐ電話をかけたくなるような…。
梓 「来てくれてありがとう。絶対また会おうね!……大好きだよ」
慶太 N:それだけでも頬が緩むには十分。
見えない糸が僕らを繋ぐ。
どれだけ遠く離れようとも、互いに想っている限り、その糸が切れることはない。
……と信じたい。
むしろ今すぐにでも手繰り寄せて、そして――。
梓 「お・わ・り」
慶太 「……なんて絶対言わせない」
fin...