声劇×ボカロ_vol.39 『 東京サマーセッション 』
A little bit of Distance
【テーマ】
夏の思い出
【登場人物】
芹沢 春輝(19) -Haruki Serizawa-
『初恋の絵本』の彼。
「ずっと待ってる」という美桜の元に帰ってきた。
好きな子の前では臆病になってしまう。
合田 美桜(18) -Aida Miou-
『初恋の絵本』の彼女。
高校時代に足りなかった10cmの勇気を、
振り絞って彼に近づこうとする。
瀬戸口 優(19) -Yuu Setoguchi-
『告白予行練習』の彼。
相手をよく見ているのに、意地悪なことをする。
夏樹の彼氏。
榎本 夏樹(19) -Natsuki Enomoto-
『告白予行練習』の彼女。
優の彼女。
素直になれなかったのは過去の話。
望月 蒼太(18) -Souta Mochiduki-
『ヤキモチの答え』の彼。
あかりに思い切って告白したが、返事はうやむやに。
高校を卒業しても、その想いは変わらず。
早坂 あかり(18) -Akari Hayasaka-
『ヤキモチの答え』の彼女。
初めて異性として見始めた蒼太のこと。
あかりの中で、少しずつ変化が訪れ…。
【キーワード】
・≪初恋≫久しぶりの再会
・≪予行≫恋人同士の二人
・≪ヤキモチ≫変わらない想い、変わった意識
・遠くから見てただけの花火
【展開】
・帰国していた春輝。美桜に花火大会に誘われ、待ち合わせ場所へ。
・人混みが苦手な優だったが、夏樹が拗ねたことにより行くことを決める。
・卒業してから久しぶりに会う蒼太とあかり。変わらない蒼太の想い。
・3組のカップルの恋模様。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
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蒼太 「ほら、早く!」
優 「なんだよ、蒼太。急にどこ連れてくんだよ」
優 N:遅れるから。
蒼太はそれしか言わず、俺を無理やり連れだした。
夏の真っ昼間って、ホント暑くてヤなんだけど。
蒼太 「やっぱり知らなかったんだね」
優 「……何が?」
春輝 「な?俺の言う通りだったろ?」
優 N:懐かしい声がした。
振り返ると、そこにはアメリカに行っていたはずのあいつ。
蒼太 「(笑って)まさかとは思ってたけど。さすが」
優 「なっ、春輝!?」
春輝 「おっす」
優 「お前、帰ってきてんなら連絡しろよな!」
春輝 「したけど?」
優 「は?」
春輝 「なぁ?」
蒼太 「うん。僕のとこにはちゃんと来てたよ、連絡」
優 「は?え?まさか知らなかったの俺だけ?」
春輝 「薄情だよなぁ、ホント。こいつ見事に既読スルーしたんだぜ?」
優 「ちょ、待て!いつ…?」
蒼太 「二日前?」
春輝 「だな。どうせアレだろ?榎本と一緒だったとかそんなんだろ」
優 N:いいねぇ、ラブラブで。なんて茶化されつつも、俺たちは再会を喜んだ。
あまり彼女に見られたくない一面だったから、ホントにいなくてよかったって思う。
蒼太 「あ、そういえばさ。来週花火大会あるし、また皆で集まる?」
* * * * *
夏樹 「花火大会が来週あるんだってね」
優 「あー、うん」
優 N:つい先日同じことを蒼太に言われていたから、あることは知ってる。
知ってるけど…。
夏樹 「春輝も日本に帰って来たし、皆も行くかな?」
優 「あーゆー人が多いの、俺は苦手なんだよなぁ」
夏樹 「…ふーん」
優 N:言ってすぐ後悔した。
夏樹があからさまに拗ねた態度をとったのがわかったから。
拗ねた、というか、怒ってらっしゃる?
夏樹 「あーあ。優が行けないんだったら、誰か他をあたってみっかー」
優 「…や、やっぱ楽しそうだな。結構行きたいかも…」
夏樹 「ホント!?」
優 N:すぐに機嫌がよくなった。
待ち合わせはどこにしよう、だの、浴衣どんなのがいいかな、だの、すごいはしゃぎっぷり。
そりゃまぁ、他のやつと行かせるぐらいなら俺が行くけどさ。
いや、待て。そもそも二人で行く、のか?
* * * * *
春輝 N:花火大会。日本に帰ってきたことを実感する、夏の風物詩。
皆との待ち合わせは、神社の階段下だったはず…。
だいぶ待ってるが、なかなか来ない。
美桜 「あ…」
春輝 「ん?」
美桜 「…やぁ、こんにちは」
春輝 N:すっかり陽も落ちた時間。
時間的には『こんばんは』なんだろうけど、俺たちにはちょうどいい。
目の前には、ずっと好きだった女の子。
日本を離れる前に、ずっと待ってると言ってくれた子。
春輝 「こんにちは」
春輝 N:その後会話が続くことはなく、気まずい感じがして今度は俺から声をかける。
春輝 「ねぇ、調子どう?」
美桜 「普通かな」
春輝 「そか」
春輝 N:目を合わせられない。
どうしようかと思っていると、携帯が鳴る。
届いたメッセージの内容は…。
春輝 「は!?迷った?ったく、蒼太のやつ」
美桜 「…ねぇ、夏樹ちゃんたちってやっぱり…」
春輝 「あー、うん。だろうな」
美桜 「…じゃあ」
春輝 N:優は優で、榎本に引っ張りまわされてそうだしなぁ。
となると、気まずいけど仕方ない。
美桜 「はる…」
春輝 「ほら、行くぞ。美桜」
春輝 N:久しぶりに名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに後をついてきた。
* * * * *
あかり「皆どこいるって?」
蒼太 「うーん、一応連絡はしたけど、広いからなぁ」
あかり「きっとそのうち会えるよ!」
蒼太 N:迷ったなんて嘘。ごめん、春輝!
ずっと好きだった子と待ち合わせして、もう少しこの時間をって思ったら、
そうしちゃってた。
でも彼女は全然気にしない様子で、ホッとした。
あかり「のど渇いたな」
蒼太 「…これ飲めば?」
蒼太 N:僕が差し出したのは、持っていたオレンジジュース。
もちろん飲みかけ。
あかり「これっていわゆる間接キッス?」
蒼太 「…意識した?」
あかり「…意識した」
蒼太 N:その言葉に、僕も彼女も黙り込んでしまった。
卒業しても、ずっと好きだった女の子。
間接キスに意識してくれた。それだけであの頃とは違う。
それが僕は、ただただ嬉しかった。
彼女の手に渡ったジュースは、その手に収まっただけ。
彼女ののどは渇いたまんまだった。
* * * * *
春輝 「あー、やっぱいいなぁ、日本は」
美桜 「なに?もう諦めたの?」
春輝 「バッカ、ちげーよ」
美桜 N:そんなことを言いたかったんじゃないのに、つい意地悪しちゃった。
それにきっと、こういうの『らしくない』って思ったよね?
春輝 N:目を合わせない。というか、顔を見られないようにしているように思えた。
彼女の横顔を見て、視線を落とす。
その左手に、ほんの少し触れてみた。…けど。
手を繋ぎたい。
その想いはあっても、彼女が気づいてこっちを見ただけで、もう…。
何も変わっていない。
あと少しの勇気で届いたかもしれないのに、俺はポケットに手を隠した。
美桜 N:ホントは気づいていた。
すぐ隣に彼がいて、手を伸ばせば届く距離にいる。
手を繋ぎたい。
でもやっぱり恥ずかしくて、また本音を隠す。
待っていたはずの手は、そっと背中に…。
春輝 「……綺麗だな、花火」
美桜 「…うん」
* * * * *
夏樹 「むー」
優 「何怒ってんの?気に障ることしましたっけ?」
夏樹 「ヒント!なんか今日は違う気がしませんか?」
夏樹 N:私の変化になかなか気づかない彼。私はそれが許せなかった。
でも大丈夫。ヒント出したから。きっと気づいてくれる。
優 「えーっと…。わかった!」
夏樹 N:少し私を見て考え込んで、そっと耳打ちしてきた彼。
え、そんな内緒にするようなことじゃ…。
優 「(そっと)気にしないでいいよ、太ったこと」
夏樹 「殴るよ?」
優 「は?じゃあ、なに?」
夏樹 「もーっ!15cm切った髪に気づけー!」
優 「わかんねえよ、そんなの!」
夏樹 「そんなのとか、ひっど!」
優 「はいはい、行くぞ」
夏樹 「…え、あ。うん」
夏樹 N:急に手を繋がれて、すぐに怒りが治まってしまうあたり、我ながら単純だなって思う。
だって仕方ないじゃん。大好きなんだもん。
* * * * *
蒼太 「お腹空いたな」
あかり「これ食べて」
蒼太 「え?」
あかり N:私は彼に包みを渡す。
実は今日のために用意していたもの。
いつ渡そうか、ずっと様子を窺(うかが)っていた。
蒼太 「これっていわゆる手作りクッキー?」
あかり「よかったらどうぞ」
蒼太 「…夏なのに?」
あかり「(笑顔で)夏なのにっ」
蒼太 N:笑顔な彼女。でも僕が思ったのは、これを食べるとのどが渇くということ。
きっと彼女も一緒に食べるから、そうなると今ここにある飲み物は…。
あかり「どうしたの?クッキー嫌いだった?」
蒼太 「あ、ああ、いや。そういう…わけじゃ…ない、んだけど」
あかり「ん?」
蒼太 N:彼女はきっと気づいていない。
でもせっかく彼女の手作りだし、食べたい!
蒼太 「いただきますっ!」
あかり「どうぞっ」
蒼太 N:はぁ~あ、もう!……意識しちゃダメですか?
* * * * *
春輝 「……綺麗だな、花火」
美桜 「…うん」
美桜 N:私は彼をちらっと見て、そっと袖口を掴んで引いてみる。
あの日足りなかった、ほんの少しの勇気を振り絞って。
好きな男の子から、手を繋いできてほしくて。
春輝 N:目は逸らしてるけど、その行動に驚いて。
夢じゃないかと、一瞬疑って。
でも俺の袖を掴んでいるのは、確かに彼女。
女の子にここまでさせたんだ。だったら、俺がすべきことは――。
もうヘタレなんて言わせない。
* * * * *
蒼太 「綺麗だね」
あかり「綺麗だね」
蒼太 「綺麗だよ」
あかり「綺麗だよ」
蒼太 N:彼女の視線は、打ち上がる花火。
僕の視線は、彼女。
自分のことを言われてるなんて、彼女はまったく気づいていない。
楽しそうに笑顔でいる彼女は、やっぱり可愛いって思った。
ずっと好きだったから、想いは変わらなかったから。
このまま時間が止まってしまえばいいのにって。
+ + + +
夏樹 N:隣に彼がいる。
それだけなのに、なんだかすごく安心する。
優 N:なんだかんだで、来てよかったって思える。
恋人同士だけど、ずっと幼なじみの延長のような感じだったから。
+ + + +
春輝 N:彼女の手に触れ、ぐっと距離が縮まった気がした。
もっと早くこうしていたら、って。
美桜 N:一度離れてわかった彼への気持ち。
遠くから見てただけの彼と、今はこうして手を繋いで。
+ + + +
蒼太 N:同じものを見て。
夏樹 N:同じ目線で。
春輝 N:近づきたいって思ってた。
あかり N:会いたいって思った。
優 N:一緒にいることが当たり前すぎて。
美桜 N:忘れてたこの気持ち。
+ + + +
あかり「…好きかもね」
蒼太 「…好きかもね」
あかり N:私は彼の横顔を見て、そう口にする。
蒼太 N:彼女と同じように、言葉を繰り返す。
それが僕に向けられたものだなんて、気づかずに。
だけど彼女の左手に、僕はほんの少し触れてみる。
手を繋ぎたい。
口にはしなくても、想いが届くことを信じて。
あかり N:ホントは気づいてた。私が今日ここに来た意味。
気づかないフリしてた。恋に恋してた自分がまさか、って。
でも…。
手を繋ぎたい。
それは私が彼に抱(いだ)いた気持ちそのもの。
あとほんの少しで届く距離。
蒼太 「……え?」
あかり N:左手に触れてきた彼の手を、私はぎゅっと握り返した。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
夏樹 「 A little bit of Distance 」
(ア リトル ビット オブ ディスタンス)
【日本語 ver.】
優 「ほんのちょっとの距離」
+ + + +
春輝 「おいおい、蒼太。どうした、急に男らしい顔になってんぞ」
蒼太 「な、なんでもないよ!」
夏樹 「あれー?あかりちゃん、なんか嬉しそう」
あかり「えー、そうかなー?」
夏樹 「なになに?なんかあった?」
あかり「んー、内緒っ」
優 「だってよ」
春輝 「(にやついて)ふーん」
美桜 「いいじゃん、二人のことなんだし」
春輝 「ま、そうだな。とにかくこれで皆揃ったわけだ」
夏樹 「じゃあいつものこのメンツで、素敵な夏の思い出を…」
優 「だっさ」
夏樹 「殴るよ?」
美桜 N:私たちは今までも、これかもきっとずっと。
蒼太 N:こうして皆と過ごしていくんだろう。
あかり N:とりあえず、この夏の思い出は。
優 N:こんな感じで終わり。
fin...