声劇×ボカロ_vol.49 『 デリヘル呼んだら君が来た 』
Continue or Change
【テーマ】
人生は予測不能
【登場人物】
中村 滉人(25) -Hiroto Nakamura-
多忙な中、息抜きを求めている。
感情表現が豊かな青年。いわゆるオーバーリアクション。
二木 志織(25) -Shiori Futaki-
隼人の元カノ。
別れた理由は自分にあると思っている。
【キーワード】
・デリヘル
・予測不能な事態
・愛執の彼女
・チェンジ or チェンジ
【展開】
・多忙な中、息抜きにと風俗を考えた滉人。街頭でもらったチラシの番号に電話する。
・扉の先にいたのは、別れた元彼女の志織。冗談という思いと現実に発狂する滉人。
・風俗リベンジを考えた滉人。しかし扉の先にいたのは、またしても志織。
・行く先々で志織は現れる。志織の愛執に気づかなかった滉人は、絶賛逃亡中。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
滉人 N:多忙な毎日。仕事ばかりで、プライベートには潤いなんか何一つない。
そんな現実から目を背けたくて、夢を見たくて、俺は今夜癒されようと思う。
帰宅途中、繁華街で渡されたポケットティッシュ。
一緒に入っていた広告は、よくある風俗のもので、今まで何度かお世話になっていた。
だから今夜も息抜きってことで、ちょっと電話してみるとしよう。
滉人 「えっと……。お、繋がった」
滉人 N:小さい広告の中に、たまたまドンピシャで気に入った娘がいたんで、そこからさらに
胸の大きい方をチョイス。電話の向こうからはすぐに返事が返ってきた。
電話主「あ、はい。では髪型ショートで、攻めるのが得意な娘を、今からそちらへお送り致します」
滉人 「ありがとうございます!お待ちしてまーすっ!」
滉人 N:電話を切って、俺は妄想を膨らませる。
髪型ショートで、攻めるのが得意な…。
やっべ、すげぇ楽しみ。電話してよかったわぁ。
実際にその娘を見ないことには、普通は電話してよかったなんて思わないんだが、
なにぶん最近は特に癒しが足りていないものだから、勝手にイメージした娘が来るのだと
思っていた。
それがすべての間違いだった――。
+ + + +
志織 「え?……今なんて?」
滉人 「だから、終わり。別れよう」
志織 「どうしてですか?私、あなたのためだったなんでもしますよ?」
滉人 「あー、そういうんじゃないんだって。とにかく俺たちは明日からはもう他人な」
志織 「どこがダメなのか言ってください。私、直しますから…」
滉人 「だーかーら!お前のそーゆーとこがうざいんだよ!わかんねぇかな、もう!」
志織 「……そ、ですか。…わかりました」
+ + + +
滉人 N:ピンポーン、とインターホンが鳴った。
逸(はや)る気持ちを抑え、いったんストップ!落ち着け、俺!
一度部屋を見渡してみる。部屋は割と片づいてるし、いかがわしい物もない。
別に今からそういうことをしようが、やっぱり見られるのは男としてマズイのだ。
(賢者モード)
さて、それじゃ迎え入れるとしよう。
志織 「こんばんわ」
滉人 N:ドアを開けてすぐに、俺はゆっくりとドアを閉めた。
何かの間違いだと思った。
ドアの先にいたのは、別れた彼女だったから。
志織 「すみませーん」
滉人 N:外から聞こえるのは、確かに彼女の声。
一度ドアを開けたことで、居留守は使えず、それを知ってか何度もノックしてくる。
おいおい、こいつは一体何の冗談だ…。
志織 「こんばんわ」
滉人 「……チェンジ」
志織 「失礼します」
滉人 「いやいや、何入ろうとしてんの。……チェンジで」
志織 「結構綺麗にしてるんですね」
滉人 N;全然話を聞いてくれず、行く手を塞いでもすり抜けてくる彼女。
そしてさっきは焦り過ぎて気づかなかったが、彼女はどこか虚ろな目をしていた。
志織 「私…」
滉人 「……うっ」
滉人 N:虚ろな目と落ち着きすぎてる声に、一瞬俺はたじろぐ。
志織 「あなたの好みのタイプになって帰ってきました」
滉人 「は?いや、え…?」
志織 「髪型はショート。胸も大きいですよ。確かめてみますか?」
滉人 N:そう言って急に服を脱ぎだした彼女。
細身なのもあって、胸から腰のラインが絶妙。まじでエロ……じゃなくて。
“デリヘル”というものじたいは、それで成立。むしろ真骨頂。
普段なら、♂(おす)の本能をフル回転させて襲いかかるところだが、
どうして?なにが?と疑問符が飛び交う今の俺に、本能なんてものは存在しなかった。
志織 「ほら、見てください。触ってみますか?」
滉人 「う…。うああああああああああっ」
滉人 N:どうしていいかわからず、俺はその場から逃げだした。
ここ数分間の出来事を振り返り、ロミジュリばりの悲劇だと酔い、勢いでリストカットまで。
夢なら覚めてほしい。
そう思って自分を傷つけるも、景色は変わらず、痛みだけが残る。
心も体も傷ついた俺は、街頭を見渡して大声で叫ぶ。
滉人 「チェンジ、チェンジ、チェンジ!!」
* * * * *
志織 「あなたのこと、私全部わかってるんだから」
+ + + +
滉人 N:あの日、元カノが俺の前に現れた日から、ちょうど一週間が経った。
俺は今、大阪に来ている。
出張先の会議が予定よりスムーズに進み、一泊した今日はあと帰るだけ。
帰りの時間は夕方だというから、まだだいぶ時間があった。
だってまだ朝なんだぜ?あ、おはよう!ご機嫌いかが?
せっかく出張に来たんだ。何が言いたいか…って、男どもはわかるだろ!?
滉人 「やっぱ楽しまなくちゃねぇ。お隣さんみたいに」
滉人 N:早朝ホテルにやってきた俺は、隣の部屋から聞こえてくる声に、自然と顔がにやけてしまう。
部屋に入る前にすれ違った、女子大生くらいの娘が、今も BPM190 くらいで喘いでいると
思うと、もう…。
滉人 「あーっ、俺も早くしてー!!」
滉人 N:隣の男が羨ましくて、叫んでしまった。
先週“細身スレンダー”で地雷踏んだから、たまには年下の小柄の娘にしよう。
そう思って、ホテヘルに電話した。あとは女の子を待つだけ。
???「ぴんぽーん」
滉人 「え、セルフインターホン?」
滉人 N:年下とは言ったけど、そんなに頭緩い娘なのか?
それはそれでアリだな、と思った。
何よりもう、待ってた間のドキドキが抑えられない。
どんな流れにしようか、どういうプレイをしようか、興奮して仕方なかった。
俺は勢いよくドアを開ける。
???「こんにちわー」
滉人 「ちょ、まっ!!!」
???「どうしたんです?」
滉人 「お前、なんでここにいるんだよ!!」
滉人 N:開けてすぐに俺はドアを閉めた。
この流れには覚えがある。それもほんの一週間前の出来事。
おいおい、嘘だろ…。
何が起こっているかわからず、俺は頭を抱える。
そしてそっとドアを開けて、もう一度確認してみ…。
???「失礼します」
滉人 「お前、また…っ!」
???「何がです?」
滉人 「何がじゃねーよ!つーか、それなんだよ!?背縮んでるだろ!どんな魔法使ったってんだよ!!」
???「何を言っているのか、全然わからないんですが」
滉人 「……っ、志織!!」
志織 「はい、志織です。ご指名ありがとうございます」
滉人 「ちっげーよ!なにそれっぽく自己紹介してんだよ!!」
志織 「……?…なんのことでしょうか?」
滉人 「だからやめろ!その話し方!」
志織 「…と言われましても」
滉人 「ああっ、もう!チェンジだ、チェンジ!!」
志織 「そんなこと言って、本当はもう始まってるんですよね?」
滉人 「何がだよ!ちげーよ!チェンジだっつってんだろ!!」
志織 「あなたの弱いところ、私全部知ってるんですよ?試してみましょうか?」
滉人 「話聞けよ!!ってなにズボン下ろして…っ」
志織 「話を聞いてもらいながらシテもらいたいって言ってましたよね」
滉人 「どこ情報だよ!やめろよ!チェンジだって言ってんだろ!!」
志織 「………いや、チェンジとかないんで」
滉人 N:あの日と同じ喋り方。そして同じ、あの目。
淡々と喋る彼女の目は、やっぱり虚ろだった。
ん?今、チェンジとかないって言わなかったか?
志織 「せっかく久しぶりに会ったんですから、楽しみましょう?」
滉人 N:そう言って彼女は服を脱ぎだした。
俺はまたしても、その場を逃げ去った。
元カノ(小柄ver.)→ チェンジ希望 → できない
あああああああっ!!!!!
いったい何が起こってんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
+ + + +
滉人 N:まだ時間はある。俺の心を癒してくれるのは、やっぱり女の子しかいない。
そう思って、他の店に足を運ぶ。
こうなったら、徹底的に遊んでやる…!
志織 「こんにちわー」
滉人 N:制服コスプレ。
志織 「ご指名ありがとうございます」
滉人 N:人妻。
志織 「ここはどうですか?」
滉人 N:ナース。
志織 「気持ちよくなって帰ってくださいね」
滉人 N:OL…。
滉人 「つーか、お前っ!なんで毎回いるんだよ!!」
志織 「あなたの好みのタイプは、全部わかってますから」
滉人 「全部ってお前っ…。だからってなんで…!……あーっ、もう!!チェ…」
志織 「あ、オプションはどうしますか?」
滉人 N:何が起こっているのか、まったく理解できない。思考が追いつかない。
最初のコスプレ店で彼女が来た時、俺はもう半分諦めていた。
なすがまま、されるがまま。ただ時間が早く過ぎないかとだけ思っていた。
オプションなんて頼まない。延長なんてしない。
今すぐに「チェンジ」と叫びたいが、すべてが無駄な気がしていた。
次こそは、と息巻いてみるも、結果はすべて同じ。行く店軒並み全部登場。
意味わかんねぇよ…。
* * * * *
滉人 N:あれから俺はなかなか寝つけないでいた。
だってそうだろ?風俗行けば、元カノが登場するんだ。
なんだってんだよ、いったい。怖すぎるだろ…。
それでも日々の仕事で疲れていたせいもあってか、いつの間にか俺は眠っていた。
ふと人の気配がして、俺は目を覚ます。そこには…。
志織 「あなたの好みのタイプになって帰ってきました」
滉人 「なっ…!え、お前どっから!?」
志織 「今の私だったら、また付き合ってくれますよね?」
滉人 「ふざけんな!無理だ!!つーか、今すぐ帰れ!!」
志織 「(呟いて)……まだ、足りない…」
滉人 N:もはやトラウマとなっていた、あの目。虚ろな目。
そして彼女の笑顔…。
思い出したくもなかったのに、また俺は刻みつけられた。住み着きやがった。
志織 「…じゃあ、また来ます」
滉人 「来るなっつったろ!!」
志織 「今度こそ、あなたのタイプになって」
滉人 「あああああっ、出てけ!!」
滉人 N:はぁ、はぁ、はぁ…。
俺は彼女を無理やり、外へ押し出した。
そしてすぐに荷物をまとめる。
俺は彼女と別れたことを後悔していた。
いや、出会ったことを後悔した。
彼女の気持ち、執念。
彼女の中の愛執を見落としていた俺は、もうここから逃げ出すことしかできない。
でも願わくば、叫ばせてほしい。そして叶ってほしい。
滉人 「チェンジ、チェンジ、チェンジ!!」
≪ タイトルコール ≫
滉人 「 Continue or Change 」
( コンティニュー オア チェンジ )
志織 「あなたの好みのタイプになって帰ってきました」
滉人 「またかよ!なんで居場所わかんだよ!?」
志織 「あなたの好みのタイプになって帰ってきました」
滉人 「もう勘弁してくれ!頼むから…っ!!」
志織 「あなたの好みのタイプになって」
滉人 「……チェ、チェンジで」
志織 「あなたの好みのタイプに」
滉人 「チェンジ、チェンジ、チェンジ!!」
志織 「あなたの好みの」
滉人 「ノー、センキュー!!」
fin...