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声劇×ボカロ_vol.48  『 橙ゲノム 』

 


My Seacret Heart

 


【テーマ】

 

近くて遠い片想い

 

 


【登場人物】

 

 長谷川 亜美(17) -Ami Hasegawa‐
修とは幼なじみで、ずっと想いを寄せている。
修の中で自分が異性として見られてないことに気づいている。

 


 佐山 修(17) -Shu Sayama‐
亜美の想いにも気づかず、でもいつも気にかけている。
高校で身長も伸び、目立つ存在に。

 

 

 

【キーワード】

 

・幼なじみ
・一方通行
・出来心ときっかけ
・告白はさよなら

 


【展開】

 

・幼い頃から一緒に育ってきた亜美と修。友達と思ってる修と修が好きな亜美。
・修の好きな人を知った亜美。応援する素振りを見せるも、心は苦しい。
・好きな人へのプレゼントを買った修。寝ている所、思わずそれを隠してしまう亜美。
・告白を決意する修。こっそりとプレゼントを返し、祝福する亜美。

 

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。

 

 

 


【本編】

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 


亜美 N:彼とはずっと一緒だった。
     幼稚園も小学校も、中学も、そして高校も――。

 

     いつだって気にかけてくれる彼に、私が恋をするのは自然なことだった。

 

 

 

 修 「……あっ」

 


亜美 「ん?どうかした?」

 


 修 「(焦って)あっ、いや…」

 

 

 

亜美 N:彼の視線の先には、同じ高校の女子。見たことない子だったから、きっと一年生だと思う。
     私が隣にいるのに、その子を視線で追っかけて…。

 

     誰が見てもわかるよ…。あの子に、恋…しちゃったんでしょ?

 

 

 

亜美 「ねぇ、今日どこか寄ってこうよ!」

 


 修 「え。あ、あぁ」

 

 

 

亜美 N:気づかないフリをして、私は自然に彼の手をひく。
     これは幼なじみだからできる特権。
     でも“幼なじみだからこそ”の、私には物足りない一歩ひいた関係。

 

 

 

亜美 「……(聞こえないように)嫌い」

 


 修 「ん?なんか言った?」

 


亜美 「なんでもないよ!ほら、行こ!」

 

 

 

亜美 N:それから何度か彼女と相対(あいたい)した彼は、あの日と同じで少し縮こまった様子。
     一緒にいても、なんだか邪魔者のような気がして、自分の居場所を失ったような気さえした。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


 修 「おい、お前どうしたんだよ?」

 

 

 

亜美 N:幼なじみの私たち。家は隣同士。
     お互いの家には同じ位置に窓があって、修はよく窓を乗り越えて私に声をかけてくる。

 

 

 

 修 「なんかあったんか?」

 

 

 

亜美 N:人の気も知らないで…。
     って思ってても、言えるはずもなく、私は『なんでもない』と言うだけ。

 

     それでも納得いかないような顔の修は、何も言わず、ただそこにいてくれた。
     嬉しいけど、なんだか複雑。

 

 

 

 修 『もういいかーい?』

 

 

 

亜美 N:私の心を探しにきてくれた彼。
     幼なじみで一番近くで一緒に育ったから、家族のように心配してくれた彼。

 


     『まーだだよ』
     私の心は“好き”の気持ちを覗かれないように、見つからないように“かくれんぼ”。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


 修 「悪い、亜美!今日先に帰ってろ!」

 


亜美 「りょーかーい」

 


 修 「あ、あとお前!ちゃんと予習やっとけよ!」

 


亜美 「えー。……(ぼそっと)このくそマジメ」

 


 修 「あぁ!?」

 


亜美 「なんでもないでーす」

 

 

 

亜美 N:クラスメイトは私たちが幼なじみということは知っている。
     それでも思春期の男女の仲を、それ以上と考えてしまうのは、さすがコイバナ好きの女子。
     『やっぱり付き合ってるんでしょ!?』とか『ねぇ、教えてよ!』とつついてくる。

 

     そりゃ私だってそうなったらいいなって何度思ったことか…。
     でもそれは私がそう思ってるだけで、嘘を言うわけにはいかない。
     だからいつも適当に誤魔化してる。

 

 

 

 修 『ちゃんと予習やっとけよ!』

 


亜美 「あんなの、まるで私がやってないみたいじゃん。……まぁ、確かにしてないけど」

 

 

 

亜美 N:帰り道。いつもの道。二人でよく歩く道。
     彼の去り際の台詞を思い浮かべる。

 

     あの様子だと、夜に様子を見に来そうだ。
     それはそれとして――。

 


     別に一人でも帰れるけど、なんだかパッとしないのは、たぶん傍に彼がいないから。

 

 

 

亜美 「……はぁ」

 

 

 

亜美 N:私は小さくため息をついた。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


 修 「亜美、ちょっとそこで待ってて」

 

 

 

亜美 N:ふと通りかかった雑貨屋さんで、彼はある物を手にしていた。
     私は遠目でそれを確認する。
     それは彼の趣味とは違う、彼に似つかわしくない“くまのキーホルダー”。
     慣れない手つきでそれを掴み、しばらくじっと眺めていた。

 

 

 

 修 「……んー」

 


亜美 「あっ、ねぇ。(にやけながら)それってもしかしてあの子に?」

 


 修 「うおっ!?お前、待ってろって」

 


亜美 「あんたがこんなとこで止まるのがいけないんでしょー」

 


 修 「(焦って)いい、いいじゃねーか、別にっ」

 

 

 

亜美 N:まだ私にだってチャンスはある。
     そう思っても、彼の中にはまだまだあの子がいて、キーホルダーを見る真剣な眼差し、
     焦る口調、横顔。
     そのすべてに、胸が苦しくなる。

 

     茶化したのは、私の精一杯の強がり。

 


     家に帰ってからも、胸の苦しみはなかなか晴れない。

 

 

 

亜美 「…ったっ」

 

 

 

亜美 N:いつも会っているのに、いつだって会えるのに、会いたいなんて縋(すが)って、バカみたいに泣いて。
     そんな時、後ろからクシャクシャに丸められた紙が飛んできて頭に当たった。

 

     なんだろうと不思議に思い、落ちたそれを開くと『なんか悩みでもあんのか?』って。
     振り返る。紙を投げた主は、不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。

 

 

 

 修 「……おい」

 

 

 

亜美 N:何も言わないまま視線を逸らすと、『無視すんな』という言葉の圧力。
     無視なんかしていない。でもきっと彼にはわからない。
     私を心配している自分のことで悩んでるなんて…。

 

 

 

 修 「(ため息)…はぁ。また明日な」

 

 

 

亜美 N:彼がいなくなって、私の頭の中で、ぐるぐると彼の言葉が巡る。

 


     これまでの彼の、最近の彼の、すべてが――。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


 修 N:俺はあの子に片想い。

 

 

 

亜美 N:私は彼に片想い。

 

 

 

 修 N:届きそうで届かない。

 

 

 

亜美 N:最後の一歩が、とてつもなく遠い。

 

 

 

 修 N:想いを口にするのは…。

 

 

 

亜美 N:それだけ勇気のいること。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


 修 「(寝息)……すぅ、すぅ」

 

 

 

亜美 N:あの時のキーホルダーを、結局修は買っていた。
     買ったということは、次に会った時に渡すんだろうと、簡単に予想できる。
     何て言って渡すんだろう、なんて思いを巡らせるだけで、やっぱり辛い。

 

 

 

 修 「(寝息)……すぅ、すぅ」

 

 

 

亜美 N:放課後。机で眠っている彼。
     触れたら壊れてしまいそうで、なくなってしまいそうで、私はそんな彼の傍に
     ただいることしかできなかった。

 

     あの子なら、どうするかな?

 

     そう思ってふと目をやると、彼と一緒に机の上にあったのは、あのキーホルダー。
     手に持ったまま眠ったのかな?それだけ大事なんだよね…。
     彼の手から零れ落ちたであろうそれに、私はそっと触れ――。

 

 

 

 修 「…んっ、うぅん」

 

 

 

亜美 N:え、嘘!?起きた!?

 

     私は咄嗟(とっさ)に、キーホルダーを隠した。
     そんなことするつもりなかったのに…。

 

 

 

 修 「…(あくび)ふあ~あ。……やっべ、俺寝てた?」

 


亜美 「う、うん」

 


 修 「なんだよ、お前起こせよー。(あくび)ふあ~あ」

 


亜美 「ず、随分気持ちよさそうだったから…」

 


 修 「あぁ?……あー、うん。まぁ、そうだけど」

 

 

 

亜美 N:寝ぼけていたせいもあったのか、彼はキーホルダーがなくなっていることには気づかなかった。

 

     このまま気づかないでいてくれれば…。

 

     そんな儚い願いと、彼と結ばれない未来を、夕焼けに染まる街が連れ去ってくれたら
     どんなにいいか…。
     私の一方的な願いが叶うほど、この世界は都合のいいようにはできていない。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


 修 N:ひょっとしたら、って思った。
     会えるんじゃないか、って。

 

 

 

亜美 N:隠したことを正直に言えず、私は帰る彼の後をついていく。

 

 

 

 修 N:もし本当に会えたら、踏み出せなかった一歩を踏み出すんだ、って。

 

 

 

亜美 N:彼を引き止めて、正直に白状して、そのまま素直に…。

 


     ……言えるわけないなぁ。
     だって、本当に見つけちゃうんだもん…。

 

 

 

     あの子を――。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


 修 「君が好きです」

 

 

 

 修 N:あの子と会えて、舞い上がった心を必死に抑えつけて、俺は想いを口にした。
     言い方なんて他にも考えてはいたけど、いざ彼女を前にすると、そんなもの吹き飛んでしまった。

 

 

 

亜美 N:あの子を見つけた彼。私がいるにも関わらず、私の目の前で告白した。
     私がずっと彼に言えなかったその言葉を。

 

 

 

 修 「…あっ、えと…。あの…」

 

 

 

亜美 N:『もういいかーい?』

 

     声が聞こえる。
     気持ちに気づいて、言えなくて、一人で悩んでいた私を探しにきた声。

 


     『まーだだよー』

 

     また声がする。
     現実から目を背けて、逃げて、気持ちを隠し通そうとしている声。

 


     『もういいかーい?』

 

     もう一度呼びかける。
     でもその声は、もう私を探しにきた声ではない。

 

 

 

 修 「よかったら俺と、付き合ってください!」

 

 

 

亜美 N:彼の精一杯の気持ち、言葉。
     そして満更でもない彼女の表情。

 

     わかってた。いつかこんな日がくることなんて。

 

 

 

 修 「え、と…」

 


亜美 「よかったじゃーん、修!」

 


 修 「いって、お前なにすんだよ!?」

 

 

 

亜美 N:ばしっと彼の背中を叩いて、私は笑顔で祝福。
     背中を叩く前に、隠していたキーホルダーをそっと彼のポケットに忍び込ませて。

 

 

 

 修 「あ、こいつ俺の幼なじみ。え?知ってた?そっか、はは」

 

 

 

亜美 N:声が響く。

 

     『もういいよー』

 

     それは見つけてくれた“ありがとう”の言葉ではなく、自分の気持ちに“さよなら”を
     告げる言葉。

 


     ずっと抱(いだ)いていた想いを、希望を、描いていた未来を、今すべて君に返すよ――。

 

 

 

 

 

≪ タイトルコール ≫    ※英語・日本語から1つを選ぶ

 

【英語 ver.】


亜美 「 My Seacret Heart 」
   ( マイ シークレット ハート)

【日本語 ver.】

亜美 「 内緒の気持ち 」

​ + + + +

 修 「もういいかーい?」

 


亜美 「まーだだよー」

 


 修 「もういいかーい?」

 


亜美 「まーだだよー」

 


 修 「もういいかーい?」

 

 

 

亜美 N:夕焼けが染める街で、私はもう一度かくれんぼ。
     でもそれは、私の知らない彼とのかくれんぼ。

 

     昔交わした約束を、小さな小さな約束を、彼が思い出さない限り、永遠に見つからない…。

 

 

 

     かくれんぼ――。

 

 

 

 


fin...


 

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