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声劇×ボカロ_vol.47  『 恋愛疾患 』

 


A deformed One Way        (※歪んだ一方通行)

 


【テーマ】

 

愛の矛先

 

 


【登場人物】

 

 成嶋 沙綾(25) -Saya Narushima-
淳平のことが好きで好きでたまらない。
クールな外見からは想像できないほど妄想好きで嫉妬深い。

 


 木立 淳平(23) -Junpei Kodachi-
無口で素っ気ない青年。
たまに見せる笑顔が可愛いと近所でも評判。

 


 葛西 愛梨(23) -Airi Kasai-
淳平の幼なじみで彼女。
少しボーイッシュな性格。

 

 

 

【キーワード】

 

・ある日のデート
・渦巻く胸中
・我慢の限界
・愛のピリオド

 


【展開】

 

・淳平との待ち合わせ。素っ気ない態度を取られながらも、昂る沙綾。
・待ち合わせ場所に愛梨と現れる淳平。胸中穏やかじゃない沙綾。
・何かが弾けた沙綾。邪魔者を消すことを決意。
・連絡の取れなくなった淳平に、想いの丈をぶつける。常人とは違う形で…。

 

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。

 

 

 


【本編】

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 


沙綾 N:時計を見る。待ち合わせは13時ちょうど。場所はいつものカフェ。
     今日はどこに連れていってくれるのか、私はワクワクしながら足早に家を出た。

 

 

 

淳平 「あぁ、やっと着いた」

 

 

 

沙綾 N:時間より少し遅れて貴方は到着。
     特に会話も必要のない私たち。私たちの関係は、それだけ親密。
     私は黙って貴方の後をついていく。

 

 

 

淳平 「この映画、見たかったんだよ」

 

 

 

沙綾 N:貴方がそう言う頃には、周りはすっかり人だかりができていた。
     映画の開始時間が迫っていたのかしら。
     とても混んでいたのに、隣同士で座れてホントによかったわ。

 

 

 

淳平 「さ、期待通りおもしろいといいんだけど」

 

 

 

沙綾 N:貴方のオススメだという映画。
     貴方には悪いかなって思ったけど、ストーリーなんてこれっぽっちも覚えていない。

 


     だって私、ずっと貴方の横顔ばかり見ていたんだもの。

 

     こんな私って、ダメかな?

 

 

 

淳平 「いや、ダメってわけじゃないけど」

 

 

 

沙綾 N:貴方ならきっとそう言ってくれると思ってた。

 

     映画を見る前はあんなに口数多かった貴方も、普段は無口で素っ気ない態度。
     でもそれすらも、ちょっと可愛いなって思ってしまうの。

 


     さぁ、そろそろ夕食の時間ね。
     いつものお店?うん、わかってた。

 

 

 

淳平 「たまには違うの食べるかなぁ」

 

 

 

沙綾 N:あら、私は全然構わないのに。
     いつも言ってるじゃない。貴方がいれば、どこでもいいんだって。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


愛梨 「いいじゃない、たまにはデートしたって。ダメなの?」

 


淳平 「いや、ダメってわけじゃないけど」

 


愛梨 「一人でいるのが好きなのはわかるけど、私のワガママも聞いてよ」

 

 

 


 + + + +

 

 

 


淳平 「さて、帰るか」

 

 

 

沙綾 N:そしてまた貴方の後をついていく私。
     帰り道は一緒だから、ホントにギリギリまで傍にいられる。嬉しい。

 

     ……なんて思ってたら、もう着いちゃった。

 

     貴方の家の少し手前。そこが私たち二人のお別れの場所。
     バイバイ、またね。

 


     家に着いた私は、ふと時計を見る。
     もうだいぶ遅い時間。そろそろ貴方も眠る時間かしら。

 

     そうして私は、愛しの人への想いを込めて――。

 

 

 

沙綾 「おやすみなさい」

 

 

 


* * * * *

 

 

 


沙綾 N:今日からまた一週間が始まる。
     月曜日はやっぱり憂鬱だけど、それはすぐに解消される。
     だって週末になれば、また貴方に会えるんだもの。

 

     キスをしたり、抱き合ったり。
     そんな恋愛なんて、私はいらない。
     大好きな貴方の近くにいられるだけでいい。

 

     本当にただ、それだけ――。

 

 

 


 + + + +

 

 

 

 

淳平 「わりぃ、待った?」

 


愛梨 「……おっそい。来ないんじゃないかと思った」

 


淳平 「悪かったって。ほら、行こうぜ」

 

 

 


 + + + +

 

 

 


沙綾 N:週末。いつもの場所、いつもの時間で待ち合わせ。
     だけど今日の貴方は一人じゃなかった。

 

     隣にいるその子は誰…?

 

 

 

愛梨 「私、コレ観たかったんだ!」

 


淳平 「……え。俺、先週コレ観たんだけど」

 


愛梨 「私も観たいって言ってたじゃん!なんで一人で行ってんのよ!」

 


淳平 「わかった、わかった。悪かったって」

 


愛梨 「ちょ、どこ行くの!?自分はもう観たからって、その辺で待ってるなんて言わせないからね!」

 


淳平 「あー、はいはい。行く行く。いいからもう喚くな。恥ずかしい」

 


愛梨 「誰のせいよ!」

 


淳平 「だから!うるせえよ!」

 

 

 

沙綾 N:初めて見た。私の知らない人。
     初めて見た。あんなに楽しそうに笑う貴方。

 

     笑う貴方を見て、私は唇を噛み締める。
     どう言葉にしたらいいかわからない感情と、何かが弾ける音。

 

 

 

愛梨 「はぁ~、楽しかったぁ」

 


淳平 「そうか?俺は期待してたほどじゃ…」

 


愛梨 「あんたみたいに年中映画観てる人と一緒にしないでよ」

 


淳平 「うわっ、ひっでぇ言い草」

 


愛梨 「あはははは!さ、ご飯行きましょ」

 

 

 

沙綾 N:ふふ、ふふふふふっ。
     何かしら、この気持ち…。もう、抑えきれない。

 

     あぁ……わかったわ。私、あの子に妬いているのね。

 

 

 

淳平 「いつものとこでいいか?」

 


愛梨 「もちろん」

 


淳平 「俺あそこ久しぶりだなぁ」

 


愛梨 「二人一緒じゃないと行かないんだから、私だってそうよ」

 

 

 

沙綾 N:な…によ、それ…。
     貴方の隣にいるのがその女ってだけでも憎たらしいのに…。

 

     そろそろ、我慢の限界よ。いい加減にしてよね!

 


     彼に触れて、彼の笑顔を独り占めしている彼女が、私はただただ許せなかった。
     彼に――私のあの人に、キスをしたり、抱き合ったり、そんなことは絶対にさせない。

 

 

 

     だから――。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


愛梨 「な、なによ、あんた!」

 


沙綾 「なんだっていいじゃない…。彼にあなたは相応しくない…」

 


愛梨 「なんの話!?いい加減にしないと警察呼ぶわよ!」

 


沙綾 「そう…。あなたはそうやって、自分が弱い生き物だってアピールするのね」

 


愛梨 「ちょ、なに出してんのよ!?やめて!!ひっ、やめ…っ」

 

 

 


 + + + +

 

 

 


沙綾 N:さぁ、これで貴方と私を遮るものは、もうどこにもないわ。
     ふふっ、やっと貴方を自由にできた。

 

 

 


 + + + +

 

 

 


淳平 「……どうして、こんなことに…っ」

 

 

 

淳平 N:昨日一緒に過ごした彼女が、遺体で見つかったという。
     その知らせを受け、俺は立ち尽くしていた。
     通り魔だとか、強盗だとかいろんな話が上がったが、どれにしたって彼女はもう戻らない。

 

     こんなことなら、もっと優しくしてあげればよかった。構ってあげればよかった。
     失って初めて気づく大切さ。どんなに後悔しても、彼女はもういない…。

 

 

 

愛梨 「淳平!」

 


淳平 「……くっそ。愛梨…」

 

 

 

淳平 N:カタン、と音がした。
     玄関のポストから何かが投函されたのだろうか。
     こんな時なのに、いや、こんな時だからこそ、現実逃避したい気持ちもあって、俺はそれを取りに
     行く。あったのは封筒。差出人の名前はないが、宛名は俺。

 

     封を開けて、俺は――。

 

 

 

沙綾 「ずっと貴方のことを見てました。ずっと貴方と一緒にいました。
    貴方には私が必要なんですよ。ホントは気づいてるんですよね?
    私は貴方の近くにいられればそれでいいんです。私と貴方以外は必要ありません。
    貴方も同じ気持ちですよね?大丈夫、ちゃんとわかってますよ。
    昨日は魔がさしただけですもんね。私は全部わかってますから。
    こっちを向いて名前を呼んでもらうことも、私の我儘だってわかってますけど――」

 

 

 

淳平 N:便箋の上から下まで、まるで“彼女”が嫉妬しているかのような文章が綴られていた。
     俺は瞬時に察した。こいつが愛梨を殺したのだと。
     でも憎しみ以上に、捻じ曲がった愛情が、いつか自分にも刃を突き立てるんじゃないかと、
     恐怖を感じた。

 

     そしてなんだか見られているような気がして、携帯を握りしめる。いつでも通報できるように。
     でも携帯の通知に気づいて、それを確認すると、そこには無数のメール。
     知らないアドレスからの途切れないメールに、俺は開くことを躊躇った。

 

     予想は、ついていた。

 

 

 

沙綾 「私はずっと貴方の傍にいますから。裏切ったりなんてしませんから」

 

 

 

淳平 N:適当な場所のメールを開くと、そう書かれてあった。

 

 

 

沙綾 「私以上に貴方を想える人なんて、この世に存在しませんよ」

 

 

 

淳平 N:恐怖を抱きながらも、好奇心という厄介な感情が、次へ次へとボタンを押す。

 

 

 

沙綾 「ずっとお話したかったんです。今度、電話もかけますね」

 

 

 

淳平 N:そんな内容のメールを見た直後、着信が鳴る。
     登録されていない番号。覚えもない。まさか…。

 

     俺は携帯を投げ捨てて、身を隠すように布団に潜り込んだ。
     着信が途切れた後、メールの通知音が何度も鳴る。

 


     もう、好奇心なんてものはなかった。

 

 


沙綾 「ねぇ、どうして出てくれないの?」

 

 

 


* * * * *

 

 

 


沙綾 N:手紙もメールもたくさん送った。電話だってした。
     それなのに、貴方はすべて無視。
     でもね、貴方が電話に出てくれるまで、私は何度だってコールするわ。
     きっと貴方も恥ずかしいだけなんでしょう?
     大丈夫。私だって毎回勇気出してかけてるんだから。

 

 

 

淳平 N:愛梨を亡くし、その直後に自分に降りかかった出来事に、俺は軽いノイローゼになっていた。
     このままでは自分も危ない。
     そう思って、まるで夜逃げでもするかのように、こっそりと夜中に引っ越す計画を立てた。
     仲のいい同僚や友人たちに事情を話し、計画実行まであと数時間という頃、インターホンが鳴った。

 

     用心していたつもりだった。
     でも覗き穴に誰も映っていなかったことが、逆に警戒を緩めてしまった。

 

 

 

沙綾 「何も言わずに消えようとするなんて、ホントに貴方ひどい人ね」

 

 

 

淳平 N:ドアの後ろから現れた女は、そう言って部屋にまで踏み込んできた。

 

     初めて見た。すべての元凶。
     日常を奪った、最悪な女。

 

 

 

沙綾 「こんなにも愛してるのに。どうしてわかってくれないのかしら」

 


淳平 「う、うるさい!出ていけ!」

 


沙綾 「そう…。わかったわ…」

 

 

 

淳平 N:その言葉を聞いて、俺は安堵した。やっと解放される、と。

 

 

 

沙綾 「それならいっそ、終わりにするわ。最後のピリオド、打ってあげる」

 


淳平 「はぁ!?」

 


沙綾 「楽にしてあげるから、もう動かないで」

 

 

 

淳平 N:キラリと光ったそれを認識してすぐ、とてつもない痛みが走った。
     倒れ、呻(うめ)いていると、また違う痛み。
     意識は、もう…。

 

 

 

沙綾 「さぁ、こっちを向いて。淳平くん」

 

 

 

 

 

≪ タイトルコール ≫

 


沙綾 「 A deformed One Way 」
   ( ア デフォームド ワン  ウェイ)

 

 

 

淳平 「……さ、や…」

 

 

 

淳平 N:もう助からないのはわかっていた。
     それでもまだ死にたくない気持ちが、朦朧とした意識の中、手紙にあった彼女の名前を口にする。

 

 

 

沙綾 「私の秘密、教えてあげるわ。実はね――」

 

 

 

沙綾 N:秘密の共有。
     そう、これで貴方の中に、永遠に私を刻み込むのよ。

 


     貴方は私のもの。誰にも渡さない。

 


     誰にも――。

 

 

 

 


fin...


 

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