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声劇×ボカロ_vol.36  『 夕立のりぼん 』

 

 

A seacret between just two people     (訳:二人だけの秘密)

 


【テーマ】

 

隠しごと

 

 


【登場人物】

 

 吾妻 隆之(17) -Takayuki Azuma-
無愛想だが優しい一面をもつ。
弥奈とはクラスメイト。

 


 結城 弥奈(17) -Mina Yuki-
おとなしく人見知りな高校生。
過去の恋愛から恋に臆病になっている。

 

 

 

【キーワード】

 

・夕立
・重なる距離
・内緒の気持ち
・“愛してる”“内緒だよ”

 


【展開】

 

・突然の夕立にあい、校舎裏で雨宿りをする弥奈。そこに同じように来る隆之。
・弥奈の過去。隆之の現在(いま)。
・気持ちを抑えていた隆之。“内緒だよ”と告げる。
・変わらぬ日常を過ごす二人。隠し事をまた増やして。

 

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

 

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。

 

 

 

    
【本編】

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 


弥奈 「あーっ、もう!なんで急に雨なんて…」

 

 

 

弥奈 N:今日は早く帰ろうと思っていたのに、突然の夕立。私は仕方なく、校舎裏の陰で雨宿りしていた。

 

 

 

弥奈 「うー、寒いー。えっと、確かこの近くに……。あった!」

 

 

 

弥奈 N:雨に濡れて肌寒くなった私は、今は使われていない部室の中へ。
      少しホコリっぽいけど、雨もしのげるし、何より暖かい。

 

     雨の様子をうかがいながら窓の外を見ていると、突然バタンッという音がする。
     私はびっくりして、おそるおそる振り返った。

 

 

 

隆之 「…ったく、勘弁してくれよな。なんで急に…。ん?」

 


弥奈 「え、あれ?…吾妻くん?」

 


隆之 「ん?あー、結城か」

 


弥奈 「どうしたの、こんなところで…って、同じみたいだね」

 


隆之 「同じ…?」

 

 

 

隆之 N:薄暗くてわからなかったが、彼女の制服も濡れている。
     そこで俺は、彼女も雨宿りしているのだとわかった。

 

     でも、なぜよりによってここなんだ?

 

 

 

隆之 「ここ使われてないって、よく知ってたな」

 


弥奈 「あー、うん。前にここの近くを通ったときに見つけて。それからは一人になりたい時とかは、たまに…」

 


隆之 「ふーん」

 


弥奈 「吾妻くんは?」

 


隆之 「…去年まで、ここ使ってたから」

 


弥奈 「あ、そうなんだ」

 

 

 

隆之 N:俺たちはクラスメイトだけど、普段からお互いそんなに目立つ存在でもなければ、

     交わす言葉も挨拶程度。
     いざこうして二人っきりになったところで、特に話が弾むわけでもない。

 

     でも…。

 

 

 

弥奈 「あー、早く止まないかなー」

 

 

 

隆之 N:俺たちには、他のみんなには内緒にしていることがあった。

 

 

 

弥奈 「あ、そうだ。はい、これ」

 


隆之 「……タオル?」

 


弥奈 「(苦笑いして)私が使った後のでいいなら。そのままだと風邪ひいちゃうよ?」

 


隆之 「あ、うん。サンキュ」

 

 

 

隆之 N:俺たちの秘密。隠し事にしていること。それは――。

 

 

 

弥奈 「でもホントびっくりだよね。こんなところで二人っきりになるなんて」

 


隆之 「そもそも、俺たちが付き合ってることじたい知られてないから、大丈夫だろ」

 


弥奈 「まぁねー」

 

 

 

隆之 N:俺はずっと彼女が好きだった。
     思い切って告白したら、最初は断られた。彼女は少し恋に臆病になっているらしい。

 

     それでも、と半ば強引に押し切った結果、今のような関係になった。

 

     さっきも話した通り、俺も彼女も、そんなに目立つ存在じゃない。
     だから特に、周りからどうこう聞かれたりもしない。

 

 

 

弥奈 「雨、止まないね」

 


隆之 「そうだなぁ」

 

 

 

隆之 N:そう適当に相槌を打つ俺。せっかくだから、いろいろ話したいのもある。
     でも、その思考を遮ってしまうもの。俺だって、思春期の男の子。

 

     あのさ…。

 

     透けてんだよ、ブラウス…。

 

 

 

隆之 「結城…」

 


弥奈 「ん、なに?…って、どうしたの?」

 


隆之 「いや、だってお前…。(言い渋って)な、なんでもない」

 


弥奈 「そう?」

 

 

 

隆之 N:そう言うと、また窓の外を眺める彼女。

 

     こいつ、わかってないな、今の状況…。

 

 

 

隆之 「…結城」

 


弥奈 「んー?…って、ホントどうしたの?ち、近いよ…」

 


隆之 「言ったろ?ずっと好きだったって…」

 

 

 

弥奈 N:彼は私の手をとり、その甲に軽く口を押し当てた。
     突然のことで、私は呆然としてしまった。
     でもすぐに我に返り、彼を押しのける。

 

 

 

隆之 「いってぇ」

 


弥奈 「あ、ご…ごめん」

 


隆之 「…やっぱりな。俺が無理いって付き合ってもらってるんだし」

 


弥奈 「そ、それは…」

 


隆之 「悪かったよ。もう、しない」

 


弥奈 「え、や…」

 

 

 

弥奈 N:だ、と言いかけて、私は口を手で覆った。
     自分でも咄嗟に出た言葉で驚いた。
     でもそれ以上に、彼が目を丸くしてこっちを見ていた。
     何かを言いたそうで、言えない。そんな顔。

 

 

 

隆之 「……今のって、どういう…」

 


弥奈 「ななな、なんでもないから!き、気にしないで!」

 


隆之 「……あ、ああ」

 

 

 

弥奈 N:気づかれないように、私はそっと彼を見る。
     形的には恋人同士。でも今までこうして二人っきりになったことはなくて、
     私は初めて、近くで彼を見た。ちゃんと視界に映った。

 

     そこにあった鏡に映った自分を見る。
     真っ赤になった耳。ほんのり火照った頬。

 

 

 

隆之 「……なぁ」

 


弥奈 「…はい」

 


隆之 「おい、緊張っていうか、なんか警戒しすぎだろ」

 


弥奈 「そ、そんなこと、ない…けど」

 


隆之 「けど?」

 


弥奈 「……わかんない、んだよ」

 


隆之 「何が?」

 


弥奈 「いや、う~ん。付き合うってなってから、すごく意識するようになった……のかな」

 

 

 

弥奈 N:自分でも最初、何を言ってるかわからなかった。
     ただ思ったことを口にして、でもすぐにその言ったことが恥ずかしいセリフだって気づいて。

 

 

 

隆之 「…それって」

 


弥奈 「(恥ずかしがって)え、ちょ…。私何言って…」

 


隆之 「…結城?」

 


弥奈 「今の嘘!なかったことにし…」

 


隆之 「できるわけないじゃん」

 

 

 

弥奈 N:彼はぎゅっと私を抱きしめる。
     なんだか心地いい。でも――。

 

     私は、とある記憶が蘇って彼を引き離した。

 

 

 

隆之 「やっぱり俺の勘違い?早とちり?」

 


弥奈 「……あのね、私あなたに話してなかったことがあるの」

 


隆之 「なに?」

 


弥奈 「私ね、恋することが怖いの」

 


隆之 「どういうこと?」

 


弥奈 「……昔ね、結構きついフラれ方して、それ以来、男の人が近くに来ると、ね」

 


隆之 「…そう、なんだ」

 


弥奈 「意外だった?幻滅した?」

 


隆之 「いや、別に?」

 


弥奈 「……そ、そっか」

 

 

 

隆之 N:彼女は俯き、でもどこか安心したような感じに見えた。
     だからこそ≪怖い≫とか≪臆病≫って言葉が信じられない。
     かといって、嘘をついているようにも見えない。

 

 

 

隆之 「あのさぁ…」

 


弥奈 「え?」

 


隆之 「好きだよ」

 


弥奈 「ちょっ!そんなこと今言わなくても…っ」

 


隆之 「好き」

 


弥奈 「だから…っ」

 


隆之 「好き」

 


弥奈 「そんな何度も…っ」

 

 

 

隆之 N:俺はさっきの反応の確認がしたくて、彼女にゆっくりと近づく。
     これでまた突き放されたら、それはそれでって。

 

 

 

弥奈 「吾妻く…」

 


隆之 「……嫌なら突き飛ばせばいい」

 


弥奈 「わかってる…けど、でも…っ」

 


隆之 「でも、何?」

 


弥奈 「………でも…っ」

 

 

 

隆之 N:彼女と目が合う。でも彼女は目を逸らさない。
     震えていた。怖いんだ。それでも彼女は、己のトラウマに立ち向かおうとしている。

 

     その真意は?

 

     そこまでして逃げない理由。
     バカな俺が辿り着くのは、一つしかない。

 

 

 

弥奈 「……うー」

 


隆之 「結城、好きだよ」

 

 

 

弥奈 N:やっぱり怖い。でもそれ以上に、そんな私を好きと言ってくれる彼の気持ちに応えたいって
     自分もいた。

 

     よくわからない。でも目を逸らせない。ううん、逸らしたくない。

 

     ねぇ、どうして?

 

 

 

隆之 N:彼女の顔がすぐ近くにあり、俺たちの口は触れる寸前のところまで来ていた。
     でも震えながらもじっとしている彼女。

 

     だから俺は――。

 

 

 

弥奈 N:彼との距離が一気に縮まる。
     私の口と彼の口が重なり、その距離はゼロになった。
     伝わる熱が、彼の想いが、私を溶かしていく。
     強張っていた身体も力が抜け、残ったのは耳を刺激した言葉。

 

 

 

隆之 「……内緒だよ」

 

 

 

弥奈 N:そして私たちは、また唇を重ねた。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


隆之 「あのさぁ」

 


弥奈 「な、なに!?」

 


隆之 「そんな警戒しなくても…。もう何もしないってば」

 


弥奈 「え?や…、って違う違う!今のなし!!」

 


隆之 「ぷっ…。くっくっく」

 


弥奈 「なんで笑うの!?」

 


隆之 「(笑いながら)またその件(くだり)すんの?」

 


弥奈 「あ…」

 

 

 

弥奈 N:気づいたこと。
     彼の気持ちに応えたいなんて嘘だった。
     ただ私がいつの間にか彼を好きになっていたということ。
     トラウマを言い訳にして、逃げていただけだということ。
     だからお互いの口の距離がゼロになった時、心の距離もゼロになった気がした。

 

 

 

隆之 「それでさ」

 


弥奈 「う、うん」

 


隆之 「返事」

 


弥奈 「へ?」

 


隆之 「へ・ん・じ」

 


弥奈 「えっと…」

 


隆之 「(ため息)はぁ…」

 

 

 

弥奈 N:もう何もしないと言っていた彼が、また近づいてくる。

 

     これ、さっきの…。

 

 

 

隆之 「好き」

 


弥奈 「あ…」

 


隆之 「好き」

 


弥奈 「え、えっと…」

 


隆之 「好き」

 


弥奈 「わ、私…は…」

 


隆之 「なに?」

 


弥奈 「吾妻くんがす…っ」

 

 

 

隆之 N:返事なんて聞かなくてもわかっていた。
     だからそれをすべて聞く前に、俺は彼女の口との距離をまたゼロにする。

 

 

 

弥奈 「ん…」

 

 

 

隆之 N:お互いの呼吸が重なる。荒くなった呼吸と降り続く雨にまぎれ、俺は言った。

 

 

 

隆之 「愛してる」

 

 

 

弥奈 N:“愛してる”なんて夢物語。私にとってはそういうレベルの言葉。
     でも好きだと気づいた人に、そう言われて私は嬉しかった。

 

 

 

隆之 「信じて?」

 


弥奈 「……うん」

 

 

 

隆之 N:偶然居合わせた場所での、隠し事。

 

 

 

弥奈 N:二人だけの秘密。

 

 

 

隆之 N:まだ止みそうにない雨の中、俺たちは傘をささずに帰った。
     でも俺たちの心は、今までで一番澄み切って――。

 

 

 


≪ タイトルコール ≫    ※英語・日本語から1つを選ぶ

 

【英語 ver.】


隆之 「 A seacret between just two people 」
    (ア シークレット ビットウィーン ジャスト トゥー ピーポー)

【日本語 ver.】

隆之 「 二人だけの隠し事 」

 + + + +

弥奈 「あの日、もし夕立がなかったら」


隆之 「あの日、もしあの場所へ行かなかったら」

 


弥奈 「私は――」

 


隆之 「俺は――」

 

 

弥奈 「二人の糸を繋いでくれた」

 


隆之 「リボンを作ってくれた」

 

 

弥奈 「お天道様に感謝です!」

 


隆之 「おわり!」

 

 

 


fin...

 


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